知力99の美少女に転生したので、孔明しながらジャンヌ・ダルクをしてみた

巫叶月良成

文字の大きさ
131 / 627
第2章 南郡平定戦

第34話 南郡救援7日目・和議

しおりを挟む
「こ、殺さぬというのか!? それは決定なのか!?」

 ワーンス王が素っ頓狂な声を出す。
 ここはワーンス王都の玉座の間。そこで俺はワーンス王とその廷臣に囲まれ、頭を下げていた。

「いえ、私ごとき他国の臣下たる者が何故そのような決定権を持ちましょうか。殺さない方が良いのでは、と助言をするだけでございます」

「む……だ、だが、なぜだ? 奴は自らの父を追放し、民を苦しめ、トロンの王族を皆殺しにし、我らも殺そうとしたのだぞ!?」

「確かに危険でしょう。ですがそんな危険な男を許したと聞けば、人々はどう見るでしょうか。慈悲深くお優しい国王としてワーンス王を見るのは間違いありません。幸か不幸か今回の戦で南郡の兵力に差がなくなりました。すなわち武力による格付けがしづらくなったということです。そこで王の名声が上がれば、必然的にワーンスへと人が集まり、他の国もワーンスに従うことになりましょう。そうなればドスガがどれだけ不満を述べようとも、もはや抗うことはできません」

「わ、わしに従うのか。南郡の全てが」

 ワーンス王の目に光が宿る。
 それを見て、廷臣ていしんから異議があがる。

「ジャンヌ殿! 我が国を救ってくださったことは確かに感謝いたすべきこと。しかしながら、王をそのような佞言ねいげんで惑わさないでいただきたい!」

「その通りだ! そもそもドスガ王を許せば、殺された者は納得すまい! 特に王を殺されたトロン王国が黙ってはおらんぞ!」

 まぁ正論だな。
 でもこれも想定通り。

「果たしてそれでうまくまとまりますか?」

「なんだと……?」

 初老の廷臣が困惑しながらも俺を睨みつける。

「ドスガ王は圧政を行う暴君でしたが、長く続いた王朝の正統なる継承者と聞きます。国民に人気がないとはいえ、王室に対する敬意は残っているはず。それを無視して王を処刑すれば、ドスガ王国の反感を買うでしょう」

「だ、だがしかし……圧政を逃れた国民は豊かになるのなら文句は言わんだろう!」

「国民は理屈より感情で動くものですよ。なにより未来の三食より今日の一食が重要なのです。もし国民が納得したとして、軍はどうです? 四天王と言われた人物を2名ほど討ち取りましたが、残った3人はまだ健在です。王の仇を討つとして、攻めて来る可能性は大いにあるでしょう。我々オムカがいなくなった後、その復讐に燃えた軍を撃退できますか?」

「そ、それは……」

 この場にあの大柄の将軍がいなくて良かったと思う。
 断固として戦うと主張して、そして死ぬだろう。

 だがここにいるのは文官ばかり。
 この国は軍の規模が小さいこともあり、民政の方が立場が強いらしい。

 ともあれ、この脅し文句は効果てき面だった。
 しばらく王を含めて議論が続いたが、どれも消極的なものに収まった。

「うむ、分かった。で、ではドスガ王は処刑しないことにする。だがジャンヌ殿。ドスガから人質を取るくらいはしても良いと思うのだが……」

「ええ、それは当然でしょう。むしろ王自身をしばらくこのワーンスにとどめておくのが良いかと存じます。あくまで王族への敬意を忘れず、丁重に扱い、いずれ時期が来たら国へ返すと約束すれば下手な真似はしないでしょう」

「そ、そうか! そうだな! それがいい。うん、そうしよう!」

 うーん、この人。やっぱりなんか不安だ。
 部下にすべて任せるのと、何も考えないとでは全く意味が違う。前者は信頼、後者は責任放棄ということだ。
 この人は完全に責任と思考を放棄しているようにしか見えない。そもそも他国の俺の言葉をこうも鵜呑みにするのは危険だというのに。

 ……周りに有能な人がいないということなのかもしれないけど。

 とはいえ俺が口出しすることではない。
 俺たちオムカにとって有利な状況に持ってこれたのは、その王自身の性質のおかげともいえるからだ。
 あとは急がず焦らず、南郡の属国化という策を進めればいい。

 方針が決まったことに祝辞を述べ、俺は退室する。

 多分、俺は悪い顔をしてるだろう。
 親切を押し付けて、後々その代金を徴収する。
 やろうとしているのは詐欺師そのものだからだ。

 けどそれでも、やらないと俺たちの国が滅びる。
 そして俺たちが元の世界に帰れなくなる。

 だから心を鬼にしてでもやると決めた。数ある方法の中で、最も血が流れない策だというのが少しでも罪滅ぼしになればいいが。
 それもまた、自分の独りよがりな独善なのかもしれないけど。

 暗鬱あんうつとした心持ちのまま王宮を出る。
 そこにはジルが待っていた。

「お疲れさまでした」

 そう声をかけてきたジルに俺は一瞬、何を返すべきか迷った。

 まだちょっと顔を合わすのは少し恥ずかしい。
 いや、何を乙女みたいなことを言ってるんだ。
 問題ない。
 何も問題は、ない。

「うん」

 小さく頷いてジルの脇を抜ける。
 それに合わせてジルが歩調を合わせる。
 呼吸が合った気がして、ちょっと嬉しい気分になった。

「ブリーダは?」

 その嬉しさを隠すために、あえて違う男の名前を口にした。
 今回の戦の立役者となった者の名だ。

「すでに王都バーベルにちました」

「そうか。疲れているだろうに、申し訳ないことをしたな」

 今回の策の要(かなめ)となったのがブリーダだった。

 そもそも南郡に1万を連れて行けば王都はほぼ空となる。
 そこで万が一に備え、ブリーダは王都に残していった。

 対外的にはそういうことになった。

 オムカの強さを南郡に知らしめるため、圧勝が必要だったから戦力を出し惜しみしてられない。
 南郡への出発の日、ブリーダには数日遅れで王都を出て、可能な限り最速でワーンス王国へ向かうよう指示した。

 そして今日。
 ブリーダが到着を知らせる鉄砲の音が響き、俺もこれから始めると知らせるために鉄砲を断続させて撃った。増援が来たとしても、敵には丘が遮って見えなかっただろう。

 あとは結果の通り。
 ブリーダが背後に襲い掛かり敵を足止めしている間に、ジルとサカキがドスガ王を捕らえた。
 すべて機動力に特化したブリーダの遊撃隊がいてこその戦法で、それに十全に応えてくれたブリーダの功績は大きい。

 だからこそ、戦闘の後すぐに王都へ走ることになったブリーダには申し訳なく思う。王都を空にしておけないというのは事実だし、それをちゃんと分かってくれているブリーダには感謝してもしきれない。
 帰ったらマリアに十分に褒賞を出してもらおう。

「それで、ワーンス王はなんと?」

 ジルが話を変えた。
 ドスガ王のことだろうから端的に答える。

「殺さないことに決まった」

「そう、ですか」

「不満か?」

「はい。あのような男を生かしておいては後のためになりません。時を置けばきっとまた背くでしょう」

「ジルにそこまで言わせるとはなかなかの男だな」

「からかわないでいただきたい」

「冗談じゃないさ。でもあそこで殺したら、巡ってマリアの名が傷つく。オムカはワーンスの要請によって来ただけなのにドスガ王を殺した。そうしたら『あ、オムカは援軍に来たのではなく侵略しに来たんだな』と誰もが思うに違いない。そうなったら泥沼だ。ワーンスも牙をむく」

「しかし、もし向こうから従属の申し出が来たらどうするのです?」

「あっちから来る分にはいいんだよ。選択権は向こうにあるからな。ま、今の段階じゃそんなことないとは思うけど」

「……そこまでの深謀、恐れ見ました」

「ま、きっとあいつはまた背く。その時は遠慮なく滅ぼすしかないってわけだ」

 というかそれを望んでいるのだから、我ながら嫌気がする。
 最初に圧倒してオムカの力を見せつける。ただ火種を残したまま俺らが帰国すれば、きっとまた南軍はドスガ王を中心に荒れることになる。
 そこまで見越しての派兵、そして処刑の反対意見だった。

 一度は許した。けど裏切ったから討伐した。
 そんな南郡制圧の大義名分を得る。そのためのこの出兵だったのだ。

「あ、そこでですね。フィルフ国王から重要なお話がしたいから来ていただきたいと」

「フィルフ? あの中央国のか?」

「はい」

 さて、なんの用だろうか。
 ワーンス王を飛び越して、面識もなにもない俺と話がしたいなど。

 だがここで悩んでいてもしょうがない。
 しかも相手は一国の王だ。俺に断る権利はない。

 ワーンスの王宮の一角にある客間。
 そこにワーンス以外の南郡の王が住まわされていた。なんて言えば聞こえがいいが、要は交渉が終わるまで人質として軟禁されているのだ。
 フィルフ王がいたのはそんな一室だ。

 俺はワーンス王国の警備兵に来訪を告げると、はきはきした様子で中に通された。

 そこは広さ5メートル四方ほどの部屋。一人で生活する分には申し分ない広さだが、王族から見れば犬小屋も同然の広さだろう。
 だがその中央の椅子に座る初老の男は、そんな不平を一片も見せずに静かに座っていた。

 それこそが、南群の中央に位置するフィルフ王国国王の姿だった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

異世界亜人熟女ハーレム製作者

†真・筋坊主 しんなるきんちゃん†
ファンタジー
異世界転生して亜人の熟女ハーレムを作る話です 【注意】この作品は全てフィクションであり実在、歴史上の人物、場所、概念とは異なります。

無限に進化を続けて最強に至る

お寿司食べたい
ファンタジー
突然、居眠り運転をしているトラックに轢かれて異世界に転生した春風 宝。そこで女神からもらった特典は「倒したモンスターの力を奪って無限に強くなる」だった。 ※よくある転生ものです。良ければ読んでください。 不定期更新 初作 小説家になろうでも投稿してます。 文章力がないので悪しからず。優しくアドバイスしてください。 改稿したので、しばらくしたら消します

レベルアップは異世界がおすすめ!

まったりー
ファンタジー
レベルの上がらない世界にダンジョンが出現し、誰もが装備や技術を鍛えて攻略していました。 そんな中、異世界ではレベルが上がることを記憶で知っていた主人公は、手芸スキルと言う生産スキルで異世界に行ける手段を作り、自分たちだけレベルを上げてダンジョンに挑むお話です。

異世界転生したらたくさんスキルもらったけど今まで選ばれなかったものだった~魔王討伐は無理な気がする~

宝者来価
ファンタジー
俺は異世界転生者カドマツ。 転生理由は幼い少女を交通事故からかばったこと。 良いとこなしの日々を送っていたが女神様から異世界に転生すると説明された時にはアニメやゲームのような展開を期待したりもした。 例えばモンスターを倒して国を救いヒロインと結ばれるなど。 けれど与えられた【今まで選ばれなかったスキルが使える】 戦闘はおろか日常の役にも立つ気がしない余りものばかり。 同じ転生者でイケメン王子のレイニーに出迎えられ歓迎される。 彼は【スキル:水】を使う最強で理想的な異世界転生者に思えたのだが―――!? ※小説家になろう様にも掲載しています。

最強無敗の少年は影を従え全てを制す

ユースケ
ファンタジー
不慮の事故により死んでしまった大学生のカズトは、異世界に転生した。 産まれ落ちた家は田舎に位置する辺境伯。 カズトもといリュートはその家系の長男として、日々貴族としての教養と常識を身に付けていく。 しかし彼の力は生まれながらにして最強。 そんな彼が巻き起こす騒動は、常識を越えたものばかりで……。

スキルで最強神を召喚して、無双してしまうんだが〜パーティーを追放された勇者は、召喚した神達と共に無双する。神達が強すぎて困ってます〜

東雲ハヤブサ
ファンタジー
勇者に選ばれたライ・サーベルズは、他にも選ばれた五人の勇者とパーティーを組んでいた。 ところが、勇者達の実略は凄まじく、ライでは到底敵う相手ではなかった。 「おい雑魚、これを持っていけ」 ライがそう言われるのは日常茶飯事であり、荷物持ちや雑用などをさせられる始末だ。 ある日、洞窟に六人でいると、ライがきっかけで他の勇者の怒りを買ってしまう。  怒りが頂点に達した他の勇者は、胸ぐらを掴まれた後壁に投げつけた。 いつものことだと、流して終わりにしようと思っていた。  だがなんと、邪魔なライを始末してしまおうと話が進んでしまい、次々に攻撃を仕掛けられることとなった。 ハーシュはライを守ろうとするが、他の勇者に気絶させられてしまう。 勇者達は、ただ痛ぶるように攻撃を加えていき、瀕死の状態で洞窟に置いていってしまった。 自分の弱さを呪い、本当に死を覚悟した瞬間、視界に突如文字が現れてスキル《神族召喚》と書かれていた。 今頃そんなスキル手を入れてどうするんだと、心の中でつぶやくライ。 だが、死ぬ記念に使ってやろうじゃないかと考え、スキルを発動した。 その時だった。 目の前が眩く光り出し、気付けば一人の女が立っていた。 その女は、瀕死状態のライを最も簡単に回復させ、ライの命を救って。 ライはそのあと、その女が神達を統一する三大神の一人であることを知った。 そして、このスキルを発動すれば神を自由に召喚出来るらしく、他の三大神も召喚するがうまく進むわけもなく......。 これは、雑魚と呼ばれ続けた勇者が、強き勇者へとなる物語である。 ※小説家になろうにて掲載中

最低のEランクと追放されたけど、実はEXランクの無限増殖で最強でした。

みこみこP
ファンタジー
高校2年の夏。 高木華音【男】は夏休みに入る前日のホームルーム中にクラスメイトと共に異世界にある帝国【ゼロムス】に魔王討伐の為に集団転移させれた。 地球人が異世界転移すると必ずDランクからAランクの固有スキルという世界に1人しか持てないレアスキルを授かるのだが、華音だけはEランク・【ムゲン】という存在しない最低ランクの固有スキルを授かったと、帝国により死の森へ捨てられる。 しかし、華音の授かった固有スキルはEXランクの無限増殖という最強のスキルだったが、本人は弱いと思い込み、死の森を生き抜く為に無双する。

異世界転移からふざけた事情により転生へ。日本の常識は意外と非常識。

久遠 れんり
ファンタジー
普段の、何気ない日常。 事故は、予想外に起こる。 そして、異世界転移? 転生も。 気がつけば、見たことのない森。 「おーい」 と呼べば、「グギャ」とゴブリンが答える。 その時どう行動するのか。 また、その先は……。 初期は、サバイバル。 その後人里発見と、自身の立ち位置。生活基盤を確保。 有名になって、王都へ。 日本人の常識で突き進む。 そんな感じで、進みます。 ただ主人公は、ちょっと凝り性で、行きすぎる感じの日本人。そんな傾向が少しある。 異世界側では、少し非常識かもしれない。 面白がってつけた能力、超振動が意外と無敵だったりする。

処理中です...