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第3章 帝都潜入作戦
第4話 2月某日
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「ジャンヌ隊長はチョコ……誰に贈るんですか」
イッガーの一言からそれは始まった。
王宮の廊下でばったり出会った時に、世間話からそう切り出してきたのだ。
いやチョコっていきなり何を……ってそうか。
「もうバレンタインか……って待て。お前も知ってるだろ。俺は男だぞ」
「ん……でも女性から男性に贈るってバレンタインは、古い……みたいですよ。自分は、あまり関係なかったですけど……。友チョコみたいな感じで、女の子の方から送る人も……いました」
そういうものなのか。
自分もあまり関係してこなかったからよく知らない。里奈とはそういう関係になる前にこっちに来ちゃったし。
「しっかしバレンタインか。思いを伝える大切な時、とか言って、ただのチョコ菓子を売りたい製菓会社の陰謀だろ。聖ヴァレンティヌスも浮かばれないぞ」
「あれ……ジャンヌ隊長は、反対ですか?」
「反対っつーか、縁がなかったってことだな」
「そうなんですか……」
「こういうことは東の国王様が色々やってそうだけどなぁ……」
てゆうか絶対何かやってる。
ちょっと宅配物とか警戒しておこうか。
「ま、そんなわけでこの国じゃそんな文化もないだろうし」
「一応チョコって概念はあるみたいです。カカオも見たことありますよ」
「チョコはあってもバレンタインはないだろ。だから基本スルーでいいんじゃないか?」
「はぁ……でも」
イッガーがちらちらと視線を動かす。
俺の……後ろか?
振り返る。誰もいない。
再びイッガーがちらちらと俺の背後に視線を泳がす。
振り返る。誰もいない。
……うん、まぁイッガーのいつもの落ち着かない感じだろう。
「そんなことより、4月に予定してる3か国会議だよ。オムカ、ビンゴ、シータ。俺たちが力を合わせてどう帝国と戦っていくかを決める大事な会議だからな。イッガーは引き続き北の情勢を探ってほしいんだ」
「あ、はい……今は問題なさそうっすが……」
「そうか、じゃあ引き続きたのむ。それじゃ」
その時はそれで切り上げてしまったが、俺はそのイッガーの視線の先をもっと気にするべきだった。
俺の背後で巨大な陰謀が進んでいることを……。
「ジャンヌ、ちょうどいいところに来たのじゃ」
3日後の夕方、マリアのところに行くと喜色を浮かべたマリアが待っていた。
侍従長もいるから、またお勉強の最中だったのだろう。
「ちょっとお願いがあってのぅ」
「お願い?」
「そうなのじゃ。余と共にお料理の修業をしてほしいのじゃ!」
「そりゃまた……何故?」
「ほら、あれがあるじゃろ。ビンゴ王国とシータ王国の代表を呼ぶ会議が。その時に余の料理を出してやろうと思っての! のぅ、おばば!」
「はい。これも王としての大切な責務でありますれば」
そういうものだったっけか? 王族が自ら料理するなんて。まぁこの世界では別なのかもしれない。
それに侍従長のおばばさんが言うわけだし。
うーん、じゃあいいのか。
「分かった。それで、何を作るんだ?」
「お菓子じゃ!」
「お、お菓子?」
「やっぱり最初から料理はハードルが高そうじゃからの! お菓子のチョコなら余にも作れるじゃろ!」
「はぁ……」
「会談の席は長くなることがございます。その際に女王様の作ったお菓子を披露すれば、評価も爆上がりでしょう。ええ、そうに違いありませんとも!」
「ば、爆上がり? 侍従長ってそういう話し方でしたっけ?」
「な、何を言ってるのかな、ジャンヌ……様は! あっぶな。こ、これでも最近の流行を取り入れてますのよ!?」
んん?
なんか変な感じだな。
「と、とにかく! ジャンヌも一緒にやってほしいのじゃ! それじゃあおばば、行ってくるからの!」
「はい、いってらっしゃいませ、女王様」
しっくりこなかったけど、俺は半ば強引に調理場へと連れていかれることになった。
とはいえ参ったな。
俺も料理なんてしたことないし。包丁もほとんど握ったことない。
クロエに料理を丸投げしているような男だ。
まぁマリアも初心者みたいだからな。
一緒に学べばなんとかなるだろう。
「えっと、なにこの豆? 食べるの? うわ、にがっ!」
「ジャ、ジャンヌ……本気で言っておるのか?」
いや、こんなわけわからん豆を渡されてもなぁ。
ちょっとビターな匂いがするけど。
「ジャンヌ! 何を入れようとしてるのじゃ!?」
「何って、砂糖だろ。甘くなかったらチョコじゃないじゃないか!」
「それは塩なのじゃ!」
「おいおい、俺がそんなテンプレの間違い方をするわけないだろ。とりあえずドバーっと入れておくか」
「ちょ、ジャンヌ……だからそれは……その量は……」
「なんだよ、甘い方がいいに決まってるだろ。あ、ミルクは必要だろ。好きだぞ、ミルクチョコレート。で、分量は……適量、適量と」
「適量と適当は違うのじゃー!」
「似たようなもんじゃないか。うーん、ちょっとこれだけじゃ普通だよな。ちょっと隠し味でも入れるか。確かコーヒーを入れると味に深みが増すんだっけか。いや、ここは甘さを際立たせるためちょっと辛いものでも入れてみるか……えっと、唐辛子ってあったよな」
「よくわからないけど、もうそれは違うものなのじゃ!」
「ふっ、お子様のマリアには分かるまい。ふぅ、これで完成だな!」
ちょっとごつごつして堅そうだけど、まぁ初めてにしては上出来じゃないか?
ちゃんとチョコの匂いするし。
「いやー、料理って意外と大変だな! けどたまには新しいことやってみるのもいいな。なんつーか達成感っていうか!」
その達成感のおかげか、なんだかテンションも高めだ。
「そ、そうじゃな……えっと……」
「ん、おお! 美味そうじゃないか、マリア。ちょっと食べていいか? 交換っこしよう」
「か、構わんのじゃが……良いのか、そのジャンヌの手作りの……」
「当然だろ。ほい、いただきますっと。ん……おお、美味しいぞ! やるなぁマリア。意外と才能あったりして」
「そ、そうか! 美味しいか! うん、うん」
嬉しそうにほころぶマリア。
よほど上手く作れたのが嬉しいんだろう。これなら九神とかビンゴの国王にも変なことは言われないだろうな。
「で、俺のはどうだ? 初めてだからあんまり美味しくないかもしれないけど」
「そうなのじゃが……じゃが……」
マリアが少し引きつった様子で笑みを浮かべている。
何かあったのだろうか。
「はろろーん! あたしだよー! お、女王様にジャンヌがチョコ作ってるー!」
扉が壊れそうなうるさい音と共に入って来たのはうるさい奴だった。
「うるさい、帰れニーア」
「ひ、ひどいし! お、これが女王様のね。美味しそう」
「そうか。じゃあこれをあげるのじゃ」
あれ、マリアが俺のチョコをニーアに渡してる。
もしかして間違えたか?
「ん、これ何かちょっと……ま、いっか! いっただっきまーす!」
ニーアは俺のチョコを口に放り込む。
次の瞬間、ゴリッとかバキッというチョコを食べたとは思えない音が聞こえてきた。
「…………」
「ニ、ニーア……どうじゃ?」
「…………」
ニーアは反応しない。
初めてのチョコだからか、ちょっとドキドキしてしまう。
一体どんな反応が返ってくるか。
「……………………」
「……………………?」
「…………………………………………ごふっ」
ニーアが女子らしかぬ声を発すると、そのまま後ろに倒れた。
「ニーア!? ニーア! 大丈夫じゃ!?」
「女王……様、ニーアはこれまでの……ようで……。まさか……チョコに、毒が……あるとは……しかし、女王様の……身代わりになれたと……思えば……」
「そんなこと言うでない、ニーア! これはジャンヌのチョコじゃ! ジャンヌの愛が詰まったチョコなのじゃ!」
愛とか言うなよ……。
てかなんでニーアはそんなに死にそうになってるんだよ。
「これが……ジャンヌの……愛……がふっ!」
「ニーア! ニーア!!」
えっと、なにこの愁嘆場?
そんな俺のチョコを食ったくらいで。美味しさのあまり気絶したってことか?
「まさかマズすぎて気絶とか、そんなテンプレみたいなこと――」
自分の作ったチョコを一つまみ。
そのまま口に持っていく。
「あ、ジャンヌそれは――」
マリアの声。
口に放り込まれるチョコ。
噛んだ。
噛めなかった。
歯がいかれると思った。
そして次の瞬間。
「ごはっ!」
脳天を何かで殴られたような衝撃。
目の奥がツンとするような痛み。
体が震える。寒い。力が抜ける。立っていられない。
視界がぶれた。
倒れたのだ。
受け身も取れない。けど痛みは感じない。
痛いという概念すらもない。
「ジャンヌ! ジャンヌー! なんでこんなことにー!」
マリアの悲鳴を聞きながら、俺の意識は途絶えた……。
……。
…………。
………………………………。
………………………………………………………………。
「はっ!」
目が覚めた。
ベッドの上だった。
「……あれ、何してたんだっけ?」
辺りを見回す。
見る感じ、王宮の一室。
あまり広くない部屋にベッドがいくつか並んでいる。
「ここは王宮の医務室です」
「あ、侍従長」
声に振り返ると、部屋の隅で椅子に座りながら文庫大の本を読んでいる侍従長がいた。
侍従長は本を閉じて立ち上がると、俺の方へと近づくと手を伸ばして俺の顔回りをペタペタと触り始めた。
「顔色、瞳孔に問題はなさそうですね。一体何が起きたのですか?」
「はぁ……えっと……」
なんだっけ?
何が起きたんだっけ?
全く思い出せない。
いや、そうだ。
お菓子作りだ。
それをしようとしたところまでは覚えているんだけど……。
「女王様と? お菓子作り?」
「はい、侍従長がそれを許可してくれたので」
「はて? わたしはそんなことを許した覚えはありませんが」
「え?」
「王族が料理をするなどもってのほかです。それよりもっと学ぶべきことがあるのですが。いけませんね、こうなったら事の次第を問い詰めましょう。ジャンヌさん、女王様は今いずこへ?」
「え、あ……いや、その……えっと、ちょっと勘違いだったかな? あはははー」
ヤバい、この人を怒らせるのは。
絶対俺まで飛び火する。
てかこれは何だ?
どうして侍従長が何も知らないでいるんだ。
あの場に確かにこの人はいたのに、まるで別人でも……。
「あっ!」
「いかがされましたか? 何か心当たりでも?」
「いえ、勘違いだった原因が分かったんで、ちょっととっちめてきます! 侍従長さんが心配するようなことは起きてませんので! では!」
というわけでベッドから跳ね起きると、挨拶だけして逃げた。
ミストだ。
あいつのスキルで侍従長に成りすまして俺を引きずり込んだんだ。どうせニーア辺りの入れ知恵だろう。
でも今はニーアも倒れてるからお仕置きはまた今度にするか。
あれ? なんでニーアが倒れてるんだっけ? そしてそのことをなんで俺は知ってるんだっけ?
…………。
……………………。
うん、あまりこの件は思い出さない方がよさそうだ。
そうしよう。そうしておこう。
//////////////////////////////////////
読んでいただきありがとうございます。
まだまだ序盤はこのようなお遊び回を交えつつ、対帝国の話が進んでいきますので、今しばしお付き合いください。
また、いいねやお気に入りをいただけると励みになります。軽い気持ちでもいただけると嬉しく思いますので、どうぞよろしくお願いします。
イッガーの一言からそれは始まった。
王宮の廊下でばったり出会った時に、世間話からそう切り出してきたのだ。
いやチョコっていきなり何を……ってそうか。
「もうバレンタインか……って待て。お前も知ってるだろ。俺は男だぞ」
「ん……でも女性から男性に贈るってバレンタインは、古い……みたいですよ。自分は、あまり関係なかったですけど……。友チョコみたいな感じで、女の子の方から送る人も……いました」
そういうものなのか。
自分もあまり関係してこなかったからよく知らない。里奈とはそういう関係になる前にこっちに来ちゃったし。
「しっかしバレンタインか。思いを伝える大切な時、とか言って、ただのチョコ菓子を売りたい製菓会社の陰謀だろ。聖ヴァレンティヌスも浮かばれないぞ」
「あれ……ジャンヌ隊長は、反対ですか?」
「反対っつーか、縁がなかったってことだな」
「そうなんですか……」
「こういうことは東の国王様が色々やってそうだけどなぁ……」
てゆうか絶対何かやってる。
ちょっと宅配物とか警戒しておこうか。
「ま、そんなわけでこの国じゃそんな文化もないだろうし」
「一応チョコって概念はあるみたいです。カカオも見たことありますよ」
「チョコはあってもバレンタインはないだろ。だから基本スルーでいいんじゃないか?」
「はぁ……でも」
イッガーがちらちらと視線を動かす。
俺の……後ろか?
振り返る。誰もいない。
再びイッガーがちらちらと俺の背後に視線を泳がす。
振り返る。誰もいない。
……うん、まぁイッガーのいつもの落ち着かない感じだろう。
「そんなことより、4月に予定してる3か国会議だよ。オムカ、ビンゴ、シータ。俺たちが力を合わせてどう帝国と戦っていくかを決める大事な会議だからな。イッガーは引き続き北の情勢を探ってほしいんだ」
「あ、はい……今は問題なさそうっすが……」
「そうか、じゃあ引き続きたのむ。それじゃ」
その時はそれで切り上げてしまったが、俺はそのイッガーの視線の先をもっと気にするべきだった。
俺の背後で巨大な陰謀が進んでいることを……。
「ジャンヌ、ちょうどいいところに来たのじゃ」
3日後の夕方、マリアのところに行くと喜色を浮かべたマリアが待っていた。
侍従長もいるから、またお勉強の最中だったのだろう。
「ちょっとお願いがあってのぅ」
「お願い?」
「そうなのじゃ。余と共にお料理の修業をしてほしいのじゃ!」
「そりゃまた……何故?」
「ほら、あれがあるじゃろ。ビンゴ王国とシータ王国の代表を呼ぶ会議が。その時に余の料理を出してやろうと思っての! のぅ、おばば!」
「はい。これも王としての大切な責務でありますれば」
そういうものだったっけか? 王族が自ら料理するなんて。まぁこの世界では別なのかもしれない。
それに侍従長のおばばさんが言うわけだし。
うーん、じゃあいいのか。
「分かった。それで、何を作るんだ?」
「お菓子じゃ!」
「お、お菓子?」
「やっぱり最初から料理はハードルが高そうじゃからの! お菓子のチョコなら余にも作れるじゃろ!」
「はぁ……」
「会談の席は長くなることがございます。その際に女王様の作ったお菓子を披露すれば、評価も爆上がりでしょう。ええ、そうに違いありませんとも!」
「ば、爆上がり? 侍従長ってそういう話し方でしたっけ?」
「な、何を言ってるのかな、ジャンヌ……様は! あっぶな。こ、これでも最近の流行を取り入れてますのよ!?」
んん?
なんか変な感じだな。
「と、とにかく! ジャンヌも一緒にやってほしいのじゃ! それじゃあおばば、行ってくるからの!」
「はい、いってらっしゃいませ、女王様」
しっくりこなかったけど、俺は半ば強引に調理場へと連れていかれることになった。
とはいえ参ったな。
俺も料理なんてしたことないし。包丁もほとんど握ったことない。
クロエに料理を丸投げしているような男だ。
まぁマリアも初心者みたいだからな。
一緒に学べばなんとかなるだろう。
「えっと、なにこの豆? 食べるの? うわ、にがっ!」
「ジャ、ジャンヌ……本気で言っておるのか?」
いや、こんなわけわからん豆を渡されてもなぁ。
ちょっとビターな匂いがするけど。
「ジャンヌ! 何を入れようとしてるのじゃ!?」
「何って、砂糖だろ。甘くなかったらチョコじゃないじゃないか!」
「それは塩なのじゃ!」
「おいおい、俺がそんなテンプレの間違い方をするわけないだろ。とりあえずドバーっと入れておくか」
「ちょ、ジャンヌ……だからそれは……その量は……」
「なんだよ、甘い方がいいに決まってるだろ。あ、ミルクは必要だろ。好きだぞ、ミルクチョコレート。で、分量は……適量、適量と」
「適量と適当は違うのじゃー!」
「似たようなもんじゃないか。うーん、ちょっとこれだけじゃ普通だよな。ちょっと隠し味でも入れるか。確かコーヒーを入れると味に深みが増すんだっけか。いや、ここは甘さを際立たせるためちょっと辛いものでも入れてみるか……えっと、唐辛子ってあったよな」
「よくわからないけど、もうそれは違うものなのじゃ!」
「ふっ、お子様のマリアには分かるまい。ふぅ、これで完成だな!」
ちょっとごつごつして堅そうだけど、まぁ初めてにしては上出来じゃないか?
ちゃんとチョコの匂いするし。
「いやー、料理って意外と大変だな! けどたまには新しいことやってみるのもいいな。なんつーか達成感っていうか!」
その達成感のおかげか、なんだかテンションも高めだ。
「そ、そうじゃな……えっと……」
「ん、おお! 美味そうじゃないか、マリア。ちょっと食べていいか? 交換っこしよう」
「か、構わんのじゃが……良いのか、そのジャンヌの手作りの……」
「当然だろ。ほい、いただきますっと。ん……おお、美味しいぞ! やるなぁマリア。意外と才能あったりして」
「そ、そうか! 美味しいか! うん、うん」
嬉しそうにほころぶマリア。
よほど上手く作れたのが嬉しいんだろう。これなら九神とかビンゴの国王にも変なことは言われないだろうな。
「で、俺のはどうだ? 初めてだからあんまり美味しくないかもしれないけど」
「そうなのじゃが……じゃが……」
マリアが少し引きつった様子で笑みを浮かべている。
何かあったのだろうか。
「はろろーん! あたしだよー! お、女王様にジャンヌがチョコ作ってるー!」
扉が壊れそうなうるさい音と共に入って来たのはうるさい奴だった。
「うるさい、帰れニーア」
「ひ、ひどいし! お、これが女王様のね。美味しそう」
「そうか。じゃあこれをあげるのじゃ」
あれ、マリアが俺のチョコをニーアに渡してる。
もしかして間違えたか?
「ん、これ何かちょっと……ま、いっか! いっただっきまーす!」
ニーアは俺のチョコを口に放り込む。
次の瞬間、ゴリッとかバキッというチョコを食べたとは思えない音が聞こえてきた。
「…………」
「ニ、ニーア……どうじゃ?」
「…………」
ニーアは反応しない。
初めてのチョコだからか、ちょっとドキドキしてしまう。
一体どんな反応が返ってくるか。
「……………………」
「……………………?」
「…………………………………………ごふっ」
ニーアが女子らしかぬ声を発すると、そのまま後ろに倒れた。
「ニーア!? ニーア! 大丈夫じゃ!?」
「女王……様、ニーアはこれまでの……ようで……。まさか……チョコに、毒が……あるとは……しかし、女王様の……身代わりになれたと……思えば……」
「そんなこと言うでない、ニーア! これはジャンヌのチョコじゃ! ジャンヌの愛が詰まったチョコなのじゃ!」
愛とか言うなよ……。
てかなんでニーアはそんなに死にそうになってるんだよ。
「これが……ジャンヌの……愛……がふっ!」
「ニーア! ニーア!!」
えっと、なにこの愁嘆場?
そんな俺のチョコを食ったくらいで。美味しさのあまり気絶したってことか?
「まさかマズすぎて気絶とか、そんなテンプレみたいなこと――」
自分の作ったチョコを一つまみ。
そのまま口に持っていく。
「あ、ジャンヌそれは――」
マリアの声。
口に放り込まれるチョコ。
噛んだ。
噛めなかった。
歯がいかれると思った。
そして次の瞬間。
「ごはっ!」
脳天を何かで殴られたような衝撃。
目の奥がツンとするような痛み。
体が震える。寒い。力が抜ける。立っていられない。
視界がぶれた。
倒れたのだ。
受け身も取れない。けど痛みは感じない。
痛いという概念すらもない。
「ジャンヌ! ジャンヌー! なんでこんなことにー!」
マリアの悲鳴を聞きながら、俺の意識は途絶えた……。
……。
…………。
………………………………。
………………………………………………………………。
「はっ!」
目が覚めた。
ベッドの上だった。
「……あれ、何してたんだっけ?」
辺りを見回す。
見る感じ、王宮の一室。
あまり広くない部屋にベッドがいくつか並んでいる。
「ここは王宮の医務室です」
「あ、侍従長」
声に振り返ると、部屋の隅で椅子に座りながら文庫大の本を読んでいる侍従長がいた。
侍従長は本を閉じて立ち上がると、俺の方へと近づくと手を伸ばして俺の顔回りをペタペタと触り始めた。
「顔色、瞳孔に問題はなさそうですね。一体何が起きたのですか?」
「はぁ……えっと……」
なんだっけ?
何が起きたんだっけ?
全く思い出せない。
いや、そうだ。
お菓子作りだ。
それをしようとしたところまでは覚えているんだけど……。
「女王様と? お菓子作り?」
「はい、侍従長がそれを許可してくれたので」
「はて? わたしはそんなことを許した覚えはありませんが」
「え?」
「王族が料理をするなどもってのほかです。それよりもっと学ぶべきことがあるのですが。いけませんね、こうなったら事の次第を問い詰めましょう。ジャンヌさん、女王様は今いずこへ?」
「え、あ……いや、その……えっと、ちょっと勘違いだったかな? あはははー」
ヤバい、この人を怒らせるのは。
絶対俺まで飛び火する。
てかこれは何だ?
どうして侍従長が何も知らないでいるんだ。
あの場に確かにこの人はいたのに、まるで別人でも……。
「あっ!」
「いかがされましたか? 何か心当たりでも?」
「いえ、勘違いだった原因が分かったんで、ちょっととっちめてきます! 侍従長さんが心配するようなことは起きてませんので! では!」
というわけでベッドから跳ね起きると、挨拶だけして逃げた。
ミストだ。
あいつのスキルで侍従長に成りすまして俺を引きずり込んだんだ。どうせニーア辺りの入れ知恵だろう。
でも今はニーアも倒れてるからお仕置きはまた今度にするか。
あれ? なんでニーアが倒れてるんだっけ? そしてそのことをなんで俺は知ってるんだっけ?
…………。
……………………。
うん、あまりこの件は思い出さない方がよさそうだ。
そうしよう。そうしておこう。
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読んでいただきありがとうございます。
まだまだ序盤はこのようなお遊び回を交えつつ、対帝国の話が進んでいきますので、今しばしお付き合いください。
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