知力99の美少女に転生したので、孔明しながらジャンヌ・ダルクをしてみた

巫叶月良成

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第4章 ジャンヌの西進

第1話 私を海に連れてって(前)

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 それはビンゴ王国滅亡の少し前の話。

 さんさんと輝く太陽に照らされ、うだるような暑さの8月。夏の盛り。
 ハワードの爺さんの葬儀も終わり、里奈が目を覚まさないのが不安だけど、とりあえず緊急の課題もなく少しほっとしたころ。

「ジャンヌ、海に行くのじゃ!」

 頭の痛い議題が噴出した。

 いや、そう思うのも仕方ない。
 去年に過ごしたシータ王国ほどではないにせよ、夏はやはり暑いのだ。体感30度前後はあるだろう。
 それなのにクーラーも扇風機もないのだから、正直、俺もこの暑さには辟易へきえきとしている。
 だから海に行くというのは――泳ぐ泳がないは別として――人情として当然とも言える言動で、それを拒否する精神力を俺は持っていなかった。

 けどまず大前提として、俺は反論しなくちゃいけない。

「海って、どこにあるのか知ってるのか?」

「もちろんじゃ! シータ王国とかにあるのじゃ!」

「つまりオムカにはないってことだろ。まず女王のお前が国外に出ることがありえない。次に今、シータも大変だからそんな余裕はない。そしてマリアを警護するのに人数が必要だがそんな金はない。以上、よって海なんていけない。分かったか?」

「ぶー、ジャンヌのケチんぼ!」

「そーだそーだ! あたしたちを海に連れていけー!」

 ニーアまでもが同調して抗議してくる。あぁ、うっとおしい。
 ギャーギャ―と騒いでいたところに、マツナガが来てこう提案した。

「それではこんな案はどうでしょう。ここオムカから10キロほど南東に行ったところにある河原は、あまり人もおらず、自然豊かな雰囲気となっているようです。そこならば近場で避暑も可能でしょう」

「おお、さすが宰相なのじゃ! 名案なのじゃ! では今週の末に、皆で川遊びじゃ!」

 という鶴の一声で、俺たちの行楽が決まってしまった。
 その後押しをしたマツナガに俺は非難の視線を向ける。

「お前、なんで……」

「正直うっとおしいのですよ、貴女たちのやり取りは。だから黙らせつつ、恩を売り、さらに自分も休むことができる手を打ったまでのこと」

「結局私情かよ。やっぱ……最低だな」

「ええ、ありがとうございます」

 まぁ、でも俺たちの留守や事後処理、それから爺さんの葬儀などで一番働いたのは間違いなくこいつだ。
 少しくらいいい目を見せてもいいだろう。

 そんなこんなで急遽決まった川遊び。
 意外と大人数での開催となったわけで。

「おりゃ! 空中回転3捻り跳び!」

 若い兵が岩の上から飛び降りながら回転して着水、水しぶきが上がる。
 それを周囲の者がはやし立てる。

「うぉぉぉぉぉ! 泳ぎなら負けねぇっす!」

「ふはははは! 怪我人は大人しくしてろブリーダ! バーベルの登り龍と呼ばれたこの俺に勝てるかぁ!」

 その上流では川に逆らって全力で泳ぐ馬鹿2人。

「サカキ。お前も怪我人だろ……」

「馬鹿を相方に持つと気苦労が絶えませんね、ジーン総司令官殿。あの幼女趣味ロリコンが……おっと、来ました」

「あ、自分もヒットです」

「む、やりますねアイザにイッガー。うぅむ、やはり餌が違うのでしょうか」

 不思議な組み合わせの川釣り3人。

「マール、鹿取れたよー」

「ん、じゃあこっちの調理班に回して。それから第3隊は火を起こす! ルックはあと第2隊が山菜取りから戻るはずだからそれを手伝って」

 マールとルックを筆頭に、俺の部隊はほぼ全員が調理班に回っているらしい。
 ちなみに手伝おうと言ったら、遠回しに拒否された。ちょっと悲しい。

「……てか、なんでこうなった」

 見れば見るほどカオスな状況。
 200人ほどがこの広くもない河原で思い思いの休日を過ごしているが、自由すぎて収拾がつかない。

 ちなみに俺は木陰に座って、皆の様子を見ながらミストお手製の団扇で暑さをしのいでいる。
 ノースリーブのシャツに、ハーフパンツとサンダルという超軽装だが、それでもかなり暑い。

 別に泳げないとかそういうわけじゃなく、なんとなくそんな気分になれないだけ。本当だよ?

 そんな昼のひと時を過ごしていると、うるさい奴がやって来た。

「隊長どーの!」

 あぁ、こいつもいるよな。そりゃ。
 振り返る。そして、少し驚いた。

「どうですかー、隊長殿? クロエの魅力に悩殺ですかー?」

 いつもより肌色成分が多めのクロエがいた。
 飾りのない普通の白の水着。それが逆にクロエの細いながらも引き締まった健康的な体にはよく似合っている。

 適度な身長に細い体。
 鍛えてはいるから病的な感じはまったくない。

 こいつ、実はスタイルはいいよな……。
 けど……。

「そんなわけないだろ、この断崖絶壁が」

 ウィットが来た。
 泳いでいたらしい、全身が水で濡れているが、何より問題が――

「な――! 隊長殿、これはもう仕方ありませんよね。私にそれを言うってことは、もはや死をもって償う以外許すわけにはいきませんからね? てかウィット! なんでそんな変なの履いてるんですか!?」

「ふん、これだから脳筋は。これは海外に伝わる、フンドシなる水着! ミストさんから勧められたのだ。不思議とこう……心が引き締まる!」

 ウィット、お前ってそういうキャラだっけ。
 てか赤フンって、どんだけ攻めてるんだよ……。

「そんな変な水着あるわけないでしょ! やっぱりこのシンプルなものこそベスト! ちょっと下着っぽくて恥ずかしいですが……ええ! 隊長殿の前に恥ずかしいとかはないのですよ! ウィットも着ればいいです!」

「ふん、やってやろう! ならば貴様もこっちを履いてみるがいい! これぞ男の水着と俺は確信している!」

 おい、お前らちょっと待て。それ以上は絵面的にヤバい。

「こらこらこらこら、争っちゃだめさー」

 そこへミストが現れた。
 彼女も今日は水着。オレンジのパレオ姿で、どこか大人びた感じだ。

「これはそれぞれ男女用に作られたものさ。だからお互い着るとかじゃないのさ。大丈夫、どっちもよく似合ってるさ。そうだろう、アッキー……いや、ジャンヌ?」

「本当ですか、隊長殿!?」

「やっぱり隊長には男の魂が分かってるってことですね!」

 ええい、うっとおしい。こっちに振るな、こっちに! てかウィット、俺は今女だ!

「てかミスト、お前何やってんの」

「えー、だってしょうがないじゃんさ。泳ぐって話になって、じゃあ水着は? ってなったけど、この世界の水着は全然エロ――美しくないさ」

「今エロいって言おうとしたろ」

 そういえば昔の水着って、現代とは全然違って普通の服みたいな感じだったっていうよな。
 うん、だからどうしたって話なんだけど。

「そうなったらもう、商売人の魂がうずくってものさ。新着の水着を発注して、皆に提供することにしたさ」

「これ、九神もかかわってるだろ?」

「当然さ。すべてシータ王国からの輸入品。一級品ばかりさ! あ、ちなみに全部代金はアッキーにつけてるから安心するさ」

「……はぁ」

 こいつら……全員、川に突き落としてやろうか?
 もう帰りたくなってきた。

「それでアッキーはいつまでそうしてるのさ?」

「何が? いや、俺もともとインドアだし」

「そうじゃなくて、いつまでその格好をしているのさ?」

「は?」

「そうです! 隊長殿の水着を見に来たんですよ、私は!」

「貴様、それを目の前で言うか……いや、自分は別に違いますよ。ただ隊長はどうしているかな、と見に来ただけで」

 こいつら……毎度毎度。
 ふん、だが俺もいつまでもやられっぱなしじゃないんだよ。

「いや、残念だな。俺はそもそも水着を持ってない」

「もちろんわたしが用意したさ」

「げほんっ、あー、実は昨日から少し熱気味でね。熱中症の類かもしれないと医者に見せたところ、しばらく無茶な運動は控えるようにって。ほら、これが診断書だ」

「水に入るだけなら問題ないでしょう、隊長」

「……じ、実は俺はあまり泳ぎが上手じゃなくてな」

「別にそれと着替えないのは関係ないですよね、隊長殿?」

 こいつら……どれだけ俺に水着を着せたいんだ。
 てか俺の反論、ことごとく打ち破られてるんだけど。
 もしかして俺……あんま頭良くない?

 くそ。なんとかしてこの場を切り抜けないと。

 だがそんな展開を予測していたのか、ミストがしびれを切らしたように叫ぶ。

「ええい、グダグダとうるさいさ! こうなったら先生! お願いします!」

 おい待て、その流れ。前にも聞いた気が……。

 そう。馬鹿の登場だ。

 後編へ続く。

//////////////////////////////////////
4章開始となります。
序盤は毎度のことながら少しおふざけ?息抜き回が続きます。
これからのジャンヌは東へ西へと大忙しですので、それまでの充電期間と思っていただけると幸いです。

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