知力99の美少女に転生したので、孔明しながらジャンヌ・ダルクをしてみた

巫叶月良成

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第4章 ジャンヌの西進

第2話 私を海に連れてって(後)

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「先生、お願いします!」

 そのミストの叫びと共に、彼女の後ろの草むらから2つの影が飛び出した。

「呼ばれて飛び出てあたしだよ! ニーア参上!」

「うむ! 呼ばれては仕方ないのじゃ! さぁ、ジャンヌ! 脱ぐのじゃ!」

 どこにいたのか、マリアとニーアが満面の笑みで現れた。
 もちろん2人ともすでに水着だ。
 マリアはピンクのフリルつき。まだ発展途上だが、それを補って余りある愛らしさがある。
 対してニーアはこれまたきわどいビキニタイプ。体に自信をもったこいつならではだろう。

「お、お前ら……」

 泳いでるのかと思ったら、どこにスタンバってたし。

「1年……この時を待ったのじゃ。ニーアから聞いたジャンヌの水着姿に妄想を重ねること幾星霜いくせいそう。余は来た! 余は見た! 余は勝った! 今こそ積年せきねんの思いをジャンヌで晴らすとき!」

「女王様……大きくなられました。私は嬉しく思います」

「お前ら全員、シータまで川に流されてしまえ!」

 とにかく逃げる。
 ニーアがいるが、マリアが近くにいる以上無理はできないだろう。ならばまだ勝機はある!

「まぁまぁ、隊長殿。ここは女王様の命令ですから」

 と、クロエに背後からがっしりとホールドされた。

「そうです、この場で水着でないのは隊長のみ。諦めましょう」

 いつもは味方のウィットまでも俺の脱出ルートを阻止するポジションで手を広げている。

 お前らこういう時だけ仲いいな!

「さぁ、ジャンヌ。観念するのじゃぁ」

 マリアが両手をわきわきさせながら近づいてくる。
 なんかもう、手つきも目も顔もはぁはぁ言ってるのも色々アウトだった。

「さって、アッキーの水着写真、いくらで売れるかなー。とりあえあず九神の旦那に回して、その分値引きしてもらうさ」

「ミストぉぉぉぉ!」

「安心するさ、アッキー。こないだのサンタ衣装の時にちゃんと体のサイズは測ってるから!」

「そういう問題じゃねぇぇぇぇぇぇ!」

 それから。
 即席のテントで何着もの水着を着比べすることになった。
 元の世界でもこんなことしたことないのに。

 ちなみにクロエは早々に倒れて木陰に移されていた。なにがしたかったんだ、こいつ。

 というわけで今年の俺の水着が決定した。

「うん、これで完成さ! フリルのついた黒のタンクトップ型で、大人を目指す活発な少女感をアピール! 下も単純なビキニタイプにするんじゃなくシースルーのスカートにすることで、女の子という今しかないこの瞬間を凝縮させたこの一品! 完璧さ!」

 ミストが興奮して解説してるけどもうわけが分からん。
 とりあえず俺は布面積が大きくてホッとしているところだ。

 いや、嘘だよ!
 めっちゃ恥ずかしいよ!

「うむ! さすがミスト、素晴らしいチョイスじゃ! 良いぞ、ジャンヌ! その恥じらいの感じも素晴らしいのじゃ!」

「いやー、去年の素朴なのもいいけど、これもまたグッ! 女王様、いいお仕事をなさいました……」

 うん……なんかもういいや。勝手に感動しててくれ。

「はっ、た、隊長殿……ううーん」

 クロエは復活したと思ったらまた倒れた。
 もうこいつには何も期待しないでおこう。

「…………」

 ウィット! なんか言え! 逆に恥ずかしいわ!

「アッキー、もうちょっとポーズ取るさ。ほら、九神の旦那にも言われたさ? 見られることの快感ってやつさ」

 こいつはまたうるせーし……写真撮るし。

 観念した俺は、水着のままというのもなんなので、川辺で足を水に浸す。
 太陽の光は強いけど、足を濡らす川の水にせせらぎの音は少し涼しさを感じさせる。

 ……まぁ、他の連中に水着を冷やかされたのは置いておこう。

 それからマールたちが作った鹿肉と川魚と山菜のフルコースを堪能し、午後の騒々しいひと時を終えると、すでに陽は傾いていた。

 さすがに遊び疲れたのかマリアは寝てしまい、それをニーアは介護している。
 他の連中は撤収準備をしているが、それほどやることが多いわけではない。

 だから俺は片付けからも外されて、暇を持て余していたので、川辺をぶらぶらする。
 そこである人物の影が目に入った。

 今日1日、色々大変だったけど、彼女は進んで仕事に当たっていた。
 まるで、何かを忘れようとするために。
 それがとても気になっていた。

 だから彼女に近づいて声をかけた。

「マール、大丈夫か?」

「え、あ、隊長?」

 川原で洗い物をしているマールが、驚いた様子でこちらに振り返った。
 ただその顔はいつになく沈んでいる。

「楽しくなかったか?」

「……いえ、楽しめました」

「俺には、何かに打ち込んで忘れようとしていると思えたけど」

「やっぱり、分かってましたか……」

 意地悪な聞き方だ。
 分かってる。ザインのことを引きずってるんだろうことは。

「こんなんじゃ、いけないと思ってるんですけどね。てか、なんであいつのことなんか……」

「マール……」

「ごめんなさい。その、ここまで来て、皆楽しんでるのに、独りだけ……」

「マール」

「はい?」

「泣いていいんだぞ」

「え?」

「俺もハワードの爺さんに言われたんだ。ブリーダを危険な目に遭わせた時。戦場の死に心を動かすな。そうは言うけど、それ以外のところでは泣いてもいいんだって」

「総司令官殿が……」

「まぁ、“前”だけどな」

 今の総司令官はジルだ。
 という冗談はさておき。

「だから、泣いていいんだ。悲しかったら、辛かったら。それで、きっとまた歩き出せると思うから」

「でも……」

「それに、しっかり泣いてやらないと、あいつの方も辛いだろ。いつまでも引きずられて、マールが悲しそうにしてるなんて知ったら、さ」

「……そう、かもしれませんね」

 マールが顔をあげ、空を見た。
 泣いている。そう思った。

 けど違った。
 再び視線を落としてこちらを向いた彼女の目には、笑みはあれど涙はなかった。

 強い、な。

「隊長」

「ん?」

「その水着、似合ってますね」

「……ありがとう」

 なんだろう。これでいいんだよ。
 普通の反応が一番ぐっとくる。って、同性だけどさ。

「それでは、ありがとうございました」

「ん」

 対して役に立てたとは思えなかったけど、そう思ってくれるならそれでいい。

「マール」

「は、はい!」

「これからもよろしくな」

 マールは少し驚いたような顔をして、そして二ッと笑って答えた。

「はい!」

 陽も落ちてきて、若干過ごしやすくなってきた夕暮れに響く、快活な声。

 そして、夏が終わり、ビンゴ王国が滅亡することで、俺の物語は更に加速していく。

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引き続きのおふざけ?息抜き回の後編となります。

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