知力99の美少女に転生したので、孔明しながらジャンヌ・ダルクをしてみた

巫叶月良成

文字の大きさ
293 / 627
第4章 ジャンヌの西進

第10話 政治力43の脅迫術

しおりを挟む
「いかなる意味でしょう?」

 うろたえまくってる主《あるじ》と違って、ユーステンは冷静に対応してくる。
 けどその瞳の奥にある敵意の炎は、あからさまにこちらを敵として認識しているに違いない。

「どうでもいいんですよ。裏切りの誘いとか、何が本当で何が嘘か、なんて」

「…………」

 沈黙。
 ブソンは何がなんだかわかっていない様子。
 ユーステンは何かをはかるように、俺をじっと見つめてくる。

 だから俺は小さく口だけで笑ってやる。

「事の真偽なんてどうでもいいんですよ。こういった書状が手に入った。そして――女王様が信じ、我々が派遣された。それ以上の意味がありますか?」

「ど、どういうことだ!? ゆ、ユーステン?」

「…………」

 もうブソンは無視。
 俺から目を離さず、じっと考え込んでいる様子のユーステンに神経を注ぐ。

 その意を汲んだのか、ユーステンは小さく笑みを浮かべ、

「望みを、聞きましょうか」

「申し開きはしないのですか?」

「無駄でしょう。それとも語らせますか?」

「いや、いいです。どうせひがみ、嫉妬、特権喪失の恐怖、無能の遠吠え、温室育ちのお坊ちゃんの我がままあたりでしょう」

「大当たりです」

「ん? なんだ? 何がどうなった?」

 ブソンが悲しいくらいに置いてきぼりだった。
 お前のことだけど、何にも分かってないのな。

「この目の前にいる彼女こそが、根本の原因ではないか、ということです卿」

「ん……? ………………………………………………おお、そうだ! わしらのような高貴な者を差し置いて、若輩者どもが国政を壟断ろうだんしようなどと言語道断。このような税率では我が暮らしは困窮こんきゅうの一途と辿るばかり! 今こそ政道せいどうを正し、我ら由緒正しき身分による正しき政治を行うのだ! かのカルキュール宰相の目指した政治を今ここに!」

 おーい、今まさに謀反の理由をべらべら喋ってるわけだが……。
 てかカルキュール、こういうのに慕われてたのか。しかも変な誤解で。可哀そうに。

 それに――

「あんたも大変だな」

「いえ、貴女ほどではありません」

 あぁ、そうかい。そうかよ。そうだよ。
 ったく、こんな奴相手にどうしろってんだ。

 しょうがない。
 もう相手は認めたって前提で、とりあえず1つずつ潰していくしかないか。

「理由はそれだけ?」

 もうこんな奴に敬語を使うのが馬鹿らしくなり、ぶっきらぼうに聞く。

「む、まだあるぞ。何よりこれが一番大きかろう。ビンゴ王国が破れた。もはや戦力はくつがえせんほどになっている。ゆえに我らは立つのだ」

「戦力差か。ならそれがなかったことになればその必要はないな?」

「無理だろう。これまでならまだしも、ましてや帝国はビンゴ王国の領土を手に入れた。戦力差は圧倒的だ」

「じゃあそのビンゴ王国の領土を手に入れれば問題ないということだ」

「む、それは……」

「何故だ? 今言ったよな。これまでならまだしも、と。だったらこれまでの状況に戻せば、ビンゴ王国が滅びる前に戻せば、まだ勝ち目はあるってことじゃないか? もちろんオムカが直接支配するのは難しいから、新たな王朝なのか共和国なのかができるだろうが、オムカが後援になるのは間違いない」

「む、むむむ……いや」

「それにオムカがビンゴ王国の領土を手に入れれば、更に戦力差は縮まるんじゃないか? その時はもう、エイン帝国に負けるなんて理由で謀反は起こせないぞ?」

「そ、そんなことが……」

「それが成立すれば貴方たちにも得になる」

「なんだと?」

「今のオムカ王国に人は足りない。それがビンゴ王国領を手に入れればそれは加速する。なんてったって元は大陸の約3分の1を支配していたビンゴ王国だからな。政治を切り盛りする人間が足りなくなるのは目に見えている。そういう時に、貴方がたのような知識も豊富で血筋も確かな人が必要になってくるんじゃないかと、女王様あたりは考えておられると自分は考えている」

 口先三寸舌八丁。
 よいしょよいしょも策の内。

 絶対に登用するとは言ってない。
 それにマリアが考えているんじゃないか、と俺が考えているだけであって何ら言質げんちは与えていないのだ。

「お、おお……」

「主《あるじ》――」

「おっと、まだあるぞ」

 ユーステンが耐え兼ねてブソンに何か言おうとしたが、それを遮ってさらに提示する。メリットを。

「ビンゴ王国の領土を獲得すれば、それだけ領土が広がる。そうなった時に、それを収める領主が必要だ。その時、貴方たちのような人がいればそれは安心なんだがなぁ……。このような最前線で猫の額のような狭い土地ではなく、山河に囲まれて肥沃な大地の方が、安全で収穫も良いだろうなぁ」

「おお、おお!」

 もうこいつ、目を輝かせて「おお」としか言ってないぞ。
 どれだけ単純なんだよ。

「し、しかしビンゴ王国の領土を取るなどと、気の遠くなるような話ではないか」

「半年。あと半年でけりをつける。だからそれまで待ってほしい。そうすれば来年の今頃、貴方は安全地帯の領主だろう。まぁ、それが無理だったら貴方は帝国に降るなりなんなりすればいい。どっちに転んでも損はないと思うけど?」

「おおおおおお!」

 あの女神じゃないけどブソン、ちょっろー。
 伊達に知力99はしてねーぜ。

 ユーステンに目を向ける。
 このカード以上の反論があるか、と目で聞いたが、降参と言わんばかりに両手を肩のあたりまで上げていた。

 あ、ただ1つ。
 これだけは言っておかないと。

「ただし――」

 大領主になる夢でも見ていたブソンを、一気に現実に引き戻す。

「結果が出るまではおとなしくしてもらう。帝国から蜂起の命令が来てものらりくらり時間を稼いでもらう。それでも、蜂起するなら……一族郎党すべて滅ぼす。それでオムカが滅びることになったとしても、まずお前らを真っ先に討ってから滅びる」

「ぬ……ぬぬぅ……」

「城に籠っていれば援軍が来るとか思うなよ。こないだの帝国の砦の結果は知っているな。俺なら2日で落とせるってことだ。それをよーく考えてくれよな」

 とどめの言葉はそれなりに効いたらしい。完ぺきな飴と鞭。
 青ざめた顔のブソンはもう一言も発することなく、俺はユーステンに案内されて館を出た。

 陽はすでに傾いていた。
 けどここに泊まっていくわけにはいかない。まだここは敵地なのだ。
 今日は野営になると思うけど、いつ殺されるか分からない場所で寝るよりはマシだろう。

 とにかくこれでミッションコンプリートなわけだから、後は帰るだけ。
 マリアの会見もなしにできたのもデカい。

「いやー、すごかったですね、さすが隊長殿」

「でもあんなに脅して大丈夫でしょうか。それに女王様に許可を得ていない勝手な加増の約束など」

「いいんだよ。釘を刺すところは刺さないと、ああいう風見鶏かざみどりは簡単に寝返るからな。それに、俺は何も約束してないぞ? ただそうだったらいいよなぁ、って希望的観測を述べただけだ。それを相手が勝手に勘違いしたんだろ。ま、それが発覚しても俺が恨まれるのは俺だけだ。マリアは関係ない」

「うわー、やっぱ悪徳です隊長殿」

「なるほど、これが隊長の人でなし外交……」

「うるせ。いいんだよ。それに脅しておくことは後になって活きる」

「?」

 今はまだ言わないけど。
 きっとブソンはどこかで謀反を起こす。

 ああいうのはそういうことを平気でする。
 その時に勝つのはたやすい。

 問題がその後。
 そう脅した以上、俺にとって不本意でも処罰しないわけにはいかない。

 けどきっとマリアは許す。
 そうなれば、殺すはずの者を許した仁者じんしゃだとマリアの評価は爆上がりだろう。甘いと言われるところは、俺とマツナガがしっかり締めればいい。

「それより今日の殊勲しゅくんはマールだな。あの弁論は良かったぞ」

「え……はぁ、無我夢中で」

「ええ、あのブソンって人。顔色がコロコロ変わって面白かったです!」

「そういうこと。お前のその優しい性格が、話し合いの場にはちょうどよかったんだ。だからもう、あまり自信ないとか言うなよ。お前はできるんだから」

「……っ! はい! ありがとうございます!」

 元気よく答えるマール。
 これで彼女ももう大丈夫だろう。

 とにかく、謀反の芽は潰せたと思う。
 本来はどこかで一度爆発させておきたいところだけど、そんな時間と体力はこの国にはないのだ。

 そんなことを思っていたが、それ以上の脅威が間近にあったことを、俺は思い知ることになる。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

無限に進化を続けて最強に至る

お寿司食べたい
ファンタジー
突然、居眠り運転をしているトラックに轢かれて異世界に転生した春風 宝。そこで女神からもらった特典は「倒したモンスターの力を奪って無限に強くなる」だった。 ※よくある転生ものです。良ければ読んでください。 不定期更新 初作 小説家になろうでも投稿してます。 文章力がないので悪しからず。優しくアドバイスしてください。 改稿したので、しばらくしたら消します

レベルアップは異世界がおすすめ!

まったりー
ファンタジー
レベルの上がらない世界にダンジョンが出現し、誰もが装備や技術を鍛えて攻略していました。 そんな中、異世界ではレベルが上がることを記憶で知っていた主人公は、手芸スキルと言う生産スキルで異世界に行ける手段を作り、自分たちだけレベルを上げてダンジョンに挑むお話です。

【完結】487222760年間女神様に仕えてきた俺は、そろそろ普通の異世界転生をしてもいいと思う

こすもすさんど(元:ムメイザクラ)
ファンタジー
 異世界転生の女神様に四億年近くも仕えてきた、名も無きオリ主。  億千の異世界転生を繰り返してきた彼は、女神様に"休暇"と称して『普通の異世界転生がしたい』とお願いする。  彼の願いを聞き入れた女神様は、彼を無難な異世界へと送り出す。  四億年の経験知識と共に異世界へ降り立ったオリ主――『アヤト』は、自由気ままな転生者生活を満喫しようとするのだが、そんなぶっ壊れチートを持ったなろう系オリ主が平穏無事な"普通の異世界転生"など出来るはずもなく……?  道行く美少女ヒロイン達をスパルタ特訓で徹底的に鍛え上げ、邪魔する奴はただのパンチで滅殺抹殺一撃必殺、それも全ては"普通の異世界転生"をするために!  気が付けばヒロインが増え、気が付けば厄介事に巻き込まれる、テメーの頭はハッピーセットな、なろう系最強チーレム無双オリ主の明日はどっちだ!?    ※小説家になろう、エブリスタ、ノベルアップ+にも掲載しております。

神様、ちょっとチートがすぎませんか?

ななくさ ゆう
ファンタジー
【大きすぎるチートは呪いと紙一重だよっ!】 未熟な神さまの手違いで『常人の“200倍”』の力と魔力を持って産まれてしまった少年パド。 本当は『常人の“2倍”』くらいの力と魔力をもらって転生したはずなのにっ!!  おかげで、産まれたその日に家を壊しかけるわ、謎の『闇』が襲いかかってくるわ、教会に命を狙われるわ、王女様に勇者候補としてスカウトされるわ、もう大変!!  僕は『家族と楽しく平和に暮らせる普通の幸せ』を望んだだけなのに、どうしてこうなるの!?  ◇◆◇◆◇◆◇◆◇  ――前世で大人になれなかった少年は、新たな世界で幸せを求める。  しかし、『幸せになりたい』という夢をかなえるの難しさを、彼はまだ知らない。  自分自身の幸せを追い求める少年は、やがて世界に幸せをもたらす『勇者』となる――  ◇◆◇◆◇◆◇◆◇ 本文中&表紙のイラストはへるにゃー様よりご提供戴いたものです(掲載許可済)。 へるにゃー様のHP:http://syakewokuwaeta.bake-neko.net/ --------------- ※カクヨムとなろうにも投稿しています

異世界転生したらたくさんスキルもらったけど今まで選ばれなかったものだった~魔王討伐は無理な気がする~

宝者来価
ファンタジー
俺は異世界転生者カドマツ。 転生理由は幼い少女を交通事故からかばったこと。 良いとこなしの日々を送っていたが女神様から異世界に転生すると説明された時にはアニメやゲームのような展開を期待したりもした。 例えばモンスターを倒して国を救いヒロインと結ばれるなど。 けれど与えられた【今まで選ばれなかったスキルが使える】 戦闘はおろか日常の役にも立つ気がしない余りものばかり。 同じ転生者でイケメン王子のレイニーに出迎えられ歓迎される。 彼は【スキル:水】を使う最強で理想的な異世界転生者に思えたのだが―――!? ※小説家になろう様にも掲載しています。

痩せる為に不人気のゴブリン狩りを始めたら人生が変わりすぎた件~痩せたらお金もハーレムも色々手に入りました~

ぐうのすけ
ファンタジー
主人公(太田太志)は高校デビューと同時に体重130キロに到達した。 食事制限とハザマ(ダンジョン)ダイエットを勧めれるが、太志は食事制限を後回しにし、ハザマダイエットを開始する。 最初は甘えていた大志だったが、人とのかかわりによって徐々に考えや行動を変えていく。 それによりスキルや人間関係が変化していき、ヒロインとの関係も変わっていくのだった。 ※最初は成長メインで描かれますが、徐々にヒロインの展開が多めになっていく……予定です。 カクヨムで先行投稿中!

異世界転移からふざけた事情により転生へ。日本の常識は意外と非常識。

久遠 れんり
ファンタジー
普段の、何気ない日常。 事故は、予想外に起こる。 そして、異世界転移? 転生も。 気がつけば、見たことのない森。 「おーい」 と呼べば、「グギャ」とゴブリンが答える。 その時どう行動するのか。 また、その先は……。 初期は、サバイバル。 その後人里発見と、自身の立ち位置。生活基盤を確保。 有名になって、王都へ。 日本人の常識で突き進む。 そんな感じで、進みます。 ただ主人公は、ちょっと凝り性で、行きすぎる感じの日本人。そんな傾向が少しある。 異世界側では、少し非常識かもしれない。 面白がってつけた能力、超振動が意外と無敵だったりする。

ガチャと異世界転生  システムの欠陥を偶然発見し成り上がる!

よっしぃ
ファンタジー
偶然神のガチャシステムに欠陥がある事を発見したノーマルアイテムハンター(最底辺の冒険者)ランナル・エクヴァル・元日本人の転生者。 獲得したノーマルアイテムの売却時に、偶然発見したシステムの欠陥でとんでもない事になり、神に報告をするも再現できず否定され、しかも神が公認でそんな事が本当にあれば不正扱いしないからドンドンしていいと言われ、不正もとい欠陥を利用し最高ランクの装備を取得し成り上がり、無双するお話。 俺は西塔 徳仁(さいとう のりひと)、もうすぐ50過ぎのおっさんだ。 単身赴任で家族と離れ遠くで暮らしている。遠すぎて年に数回しか帰省できない。 ぶっちゃけ時間があるからと、ブラウザゲームをやっていたりする。 大抵ガチャがあるんだよな。 幾つかのゲームをしていたら、そのうちの一つのゲームで何やらハズレガチャを上位のアイテムにアップグレードしてくれるイベントがあって、それぞれ1から5までのランクがあり、それを15本投入すれば一度だけ例えばSRだったらSSRのアイテムに変えてくれるという有り難いイベントがあったっけ。 だが俺は運がなかった。 ゲームの話ではないぞ? 現実で、だ。 疲れて帰ってきた俺は体調が悪く、何とか自身が住んでいる社宅に到着したのだが・・・・俺は倒れたらしい。 そのまま救急搬送されたが、恐らく脳梗塞。 そのまま帰らぬ人となったようだ。 で、気が付けば俺は全く知らない場所にいた。 どうやら異世界だ。 魔物が闊歩する世界。魔法がある世界らしく、15歳になれば男は皆武器を手に魔物と祟罠くてはならないらしい。 しかも戦うにあたり、武器や防具は何故かガチャで手に入れるようだ。なんじゃそりゃ。 10歳の頃から生まれ育った村で魔物と戦う術や解体方法を身に着けたが、15になると村を出て、大きな街に向かった。 そこでダンジョンを知り、同じような境遇の面々とチームを組んでダンジョンで活動する。 5年、底辺から抜け出せないまま過ごしてしまった。 残念ながら日本の知識は持ち合わせていたが役に立たなかった。 そんなある日、変化がやってきた。 疲れていた俺は普段しない事をしてしまったのだ。 その結果、俺は信じられない出来事に遭遇、その後神との恐ろしい交渉を行い、最底辺の生活から脱出し、成り上がってく。

処理中です...