知力99の美少女に転生したので、孔明しながらジャンヌ・ダルクをしてみた

巫叶月良成

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第4章 ジャンヌの西進

閑話13 立花里奈(オムカ王国軍師相談役)

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 明彦くんがまた出て行って、私はまた残された。
 これをどう受け取ればいいんだろう。

 表立って受け止めれば、心配されているのだと思う。
 私の身はもちろん、スキルのことを隠し通そうとしてくれているのが分かる。
 けど裏を返せば、私の力は必要ないのでは、と思ってしまう。
 私はもう不要ということ?

 分からない。
 どうも最近、情緒が不安定な気分になる。

 明彦くんがいれば安心できる。
 彼と話したりちょっかいだしたり、なんだかホッとできる。

 でもこうやって置いてけぼりにされると駄目だ。
 色んなことを考えているからだろう。どんどんネガティブなことを考えてしまい、もう自分でもよく分からない。

 いや、きっとこうやって考えてしまうのがいけないのだろう。

 私は手にしたすきを地面に立てて空を見上げる。
 雲1つない空。秋晴れとでもいうのだろうか。よく晴れた青空が心にしみわたる。
 数日前は雨が降っていたから、こうやって晴れるのは気分がいい。

「リナさん、ごめんなさいね。こんなこと手伝わせて」

「先生もいっしょにはたらくー」

 声をかけてくれたのは、この村に住む年配のご婦人とその孫娘だった。
 男手は明彦くんについていくか、ここに残った喜志田さんというプレイヤーの指示で周囲の警戒に出ているためほぼいない。

 だから種まきの準備をするため、村人総出で畑を耕しているのだ。この村に来てしばらく経つ中、子供たちの世話をするだけでは心苦しいと、こうやって農作業を手伝っているわけだけど。
 どこか明彦くんがいなくなった心のよりどころを求めているような気分さえする。

 それでも正直、畑仕事をしながら汗をかくのは心地よいと思う。
 昔はこんなアウトドアな感じではなかったはずなのに。この世界に来てから、何かが変わったのだろうか。

 あるいは……自分の本当のスキル『収穫』。それが適応する場所だからこそ、張り切れるのかもしれない。

 ちなみに他の人はどうしているかというと、

「うぉぉぉぉ! 畑を耕せと正義ジャスティスの心が騒ぎます!」

 竜胆さんはあんな感じ。
 マールさんは明彦くんと一緒に出て行っちゃった。
 景斗くんは何やら兵の人たちに近づいて色々話しかけているし、愛良さんは村を手持ち無沙汰に歩き回ってるだけで何を考えているのかよくわからない。

 何を考えているのか分からないといえば、もう1人。
 お婆さんと孫娘に挨拶して畑から離れ、桶に汲んである水を一口飲んで休憩していると、その人物が話しかけてきた。

「やぁ、里奈さん。今日も精が出るね」

 明彦くんを通して、一応の紹介は済んでいた。
 喜志田志木きしだしきというこの男は、同じプレイヤーで明彦くんと同じ軍師の立場でありながらビンゴ軍の将軍でもあるらしい。そこらへんも良く分からない。

 というのも、そんな立場の人が攻めきたかと思えば、今は昼に起きて散歩がてらにぷらぷらして、後は彼専用の小屋に引きこもってばかりだ。今も寝間着にも見える褐色の上下にサンダルといった超軽装で、眠そうな目をしてぼさぼさのグレーの髪をぼりぼりと掻いている。
 聞けば明彦くんにすべてをやらせて自分は居残りを決めこんでいるのだから、自然と言い方が厳しくなる。

「何か用?」

「おっと、なんだか嫌われてる? そんな邪険にしなくてもいいじゃんかー」

 悪びれもしないこの態度。
 どこかあの男に似ている。軽薄で人を人と思ってなくておちゃらけて遠慮なく心にずかずかと入り込む無神経男。あいつ、今どこにいるんだろう。
 だからか、はっきりと彼のことが嫌いになった。

「別に。明彦くんに全部丸投げしてニートしてる貴方には言うことはない、それだけ」

「あぁ、それか。ごめんごめん。そういえば里奈さんはアッキーの恋人なんだっけ?」

「え……」

 恋人。
 あるいは、そしていずれはと思った言葉。

 ただそれをはっきりと真正面から言われたことも考えたこともないので、思わず言葉が詰まる。
 その様子を見て、喜志田ははっきりと笑みを浮かべた。

「あぁ、やっぱり。あの噂は本当だったのか。アッキーが、本当は男だってこと」

「どこでそれを……」

 明彦くんはそれを口外しないでほしいと言ってきた。
 彼の立場ではそれを知られることが弱点にもなるらしく、それを知る人はシータ王国にいるプレイヤーのみだということだけど。

「あの口調、あの思考回路に行動力、ただの子供にしては少し違和感があったんだけど。ま、色々疑うようになったのは、シータ王国の水鏡ってプレイヤーと会った時なんだけどね。冷静というか冷血って言葉がぴったりな彼女だけど、アッキーに対する反応がちょっと変でね。アッキーって呼び方も女友達じゃなく、どこか異性を意識した発音に思えて気になってはいたのさ」

「ふーーーーーーーーーん」

 そうなんだ。
 明彦くんそんなことを。そんな人と。そんな感じに。いいんだけどね。私は全然構わない。だってまだ別に恋人とかそういうわけでもなんでもないわけだし。それにアッキーだなんて。別にそんな呼び方憧れとかあるわけないし。全然気にしないし。うん、だから別にいい。

「あぁ、これは地雷を踏んじゃったかな。けどね、核心に至ったのは君の所為せいだよ」

「え?」

「彼と話す時、明彦くんって言ってたからね。気をつけないと」

「あ……」

 あれほど明彦くんは言ってきたのに、ついに聞かれてしまった。

 でも明彦くんは明彦くんなわけで、ジャンヌって呼び方にはやっぱまだ抵抗がある。
 それにアッキーというのも違う。そこはなんか一線を引いてしまう感じで、何より他の皆も使ってるから特別感もない。
 何より――

「そう、姉としてそういうのとは違うの!」

「あ、姉……? 君も随分と風変わりな人だね」

「え、いや。違う。そうじゃなくて……」

 じゃあ私は明彦くんの何だろう?
 恋人でもないし、婚約者でもないし、姉……でもあるわけない。

 いや、分かってる。

 友達。
 ただの、友達。
 私と明彦くんの関係を表す一般的な言葉。
 それが普通――なのに、なんでこんなに寂しいんだろう。

「ま、いいけど。別に世間話をしにきたわけじゃないし。あ、自己紹介はもういいよね。めんどうだから」

「あ……はぁ」

 そういえばこの人は何しに来たんだろう。
 私とは直接面識もないはずなのに。

 最初に抱いた嫌悪感もどこへやら、この人をどう思えばいいのかはっきり分からなくなった。

 対する彼は周囲を一応見回して、人気ひとけがないことを確かめたらしく、小さく何度か頷くと、

「んー……でもこれも面倒だなぁ。でもやっとかなきゃいけないし……はぁ、アッキーも人使いが荒い」

 仕事を丸投げした人間が何を言うか。
 と言おうと思ったけど、ここまで躊躇いながら何を言うか気になったから黙っていた。

「聞いたよ、アッキーから。君、帝国のプレイヤーなんだろう?」

「っ!」

「あぁ、その反応だけでいい。となると……やっぱりアレは君かな? 去年の9月。ビンゴとオムカの連合軍と帝国軍の戦い。アッキーの陣を焼き払った策に追われて逃げる帝国軍を、単独で救ったあの暴虐の化身は」

 去年の9月。
 その戦いなら確かに出た。
 出て、明彦くんを始めて見て、そして炎に恐怖した。
 その後、がむしゃらに逃げたわけだけど、あぁそうか。あの時の相手はビンゴ軍だった。ということはこの人と戦ったんだ。

「本当に嘘がつけないね。その表情。もう少しポーカーフェイスを心掛けたほうがいいよ」

「私に、復讐するつもり?」

「まさか! そんな面倒なことしないよ。もう終わったことだし」

 本当だろうか。
 こう見えても彼は将軍の立場にいた。部下たちを殺した私を許すなんてことがあるだろうか。

「いや、しかし本当に君だったのか。女性。黒髪。帝国。プレイヤー。それが当てはまったから、かまかけさせてもらったけど。うん、あの後、色々調べさせたんだけどね。帝国のプレイヤーで女性で20前後で髪が長くて、あぁ今は切っちゃったんだね。すぐに分かったよ。『千人殺し』『死の暴風デス・ストーム』『帝国の殺戮兵器』。すごい戦果だね。そんな君についてアッキーは何も言わない。それが逆に不自然だってこと気づいてないみたいだね」

「そのこと、明彦くんには」

「もちろん、言ってないよ。だから俺を殺そうとしないでね」

「まさか、そんなことしない」

 嘘だった。
 彼が言ったと答えれば、飛びかかって首をねじ切ろうと思った。
 言ってないと答えても、明彦くんが戻る前にケリをつけるつもりだったけど。

「怖いね、その眼。まるで人を物としか見ていない目だ」

「喧嘩、売ってるの?」

「まさか。俺は基本買う専門だよ。なぜか皆がバーゲンセールよろしく売ってくるからさ。買うことに慣れちゃったというか」

「喧嘩と同じく、恨みも買ってるんでしょ」

「お、うまいね。なるほど。そういうことだったのか」

 この男の本性が分からない。
 本当に何をしにきたの?
 やっぱりこの男、嫌いだ。

「用がないならもういいでしょ。私の気が変わらないうちに失せて。二度と顔を見せないで」

「まぁまぁ。そう邪険にしないで。これでも俺は君のためを思って来たんだから」

 また調子のいいことを。
 君のため、君を思って、そんな詐欺の定番文句。引っかかる方も大概だ。

「本当だよ。これはアッキーから請け負った仕事なんだけどね。君が手伝って来れば早いし、何よりアッキーも喜ぶだろう」

 うさんくさい。また仕事を押し付ける気か。
 そう思ったけど、明彦くんが喜ぶという言葉が私の琴線に触れた。

「何の話?」

「うん、聞いてくれそうでよかった。いや、正直自分だけじゃどうしようもなくってさ。猫の手も借りたい感じなんだよ。ほら、君って猫に似てるだろ? 言われない?」

「言われない。いい加減にして。これ以上、わけのわかんないこと言うなら……『収穫』する」

「だから怖いって、その眼。てかその『収穫』って、絶対普通の『収穫』じゃないよね!? あぁ、分かったよ。これは本当にアッキーから請け負った仕事。で、かなり面倒な仕事。それもかなり機密性が高くて、まぁ信頼できる人じゃないと打ち明けられない話」

 そして、喜志田は自信たっぷりにめんどくささたっぷりにその言葉を吐いた。

「内通者の調査なんだけど、興味ある?」
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