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そうろかの章 チョコミント色の嘘③
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昼休みになった直後、逃がさんと言わんばかりに亜梨紗が隣のクラスから飛んできて晶と琴弧を捕まえる。立場的には有利なはずだが余程話し相手が必要のようだ。
多少の強引さがあった亜梨紗だが、デリケートな相談の手前、2人は機密情報が
漏れないように学校の最果てに案内した。
「こんな狭いところで活動してるの⁉でも2人きりになるにはちょうど良い場所だね。羨ましいよ。」
2人はニヤニヤしている亜梨紗を受け流した。
「はい、久慈さんご招待記念のカモミールティー。」
「えっこんなオシャレなの飲んでるの?」
「私の部員勧誘の時も淹れてくれてお気に入りになったんだよ。」
各コミュニティで昼食時間を過ごしているが、普段とは違う新鮮な空気が部室を包んでいた。
「久慈さん、ご飯少ないね。」
「うん、体型を維持しないとね。昨日のアイスはご褒美。」
「私は絶対に亜梨紗ちゃんのようにストイックになれない。」
談笑して場が和んだところで背筋を伸ばした亜梨紗が切り出した。
「でさ、相談なんだけど・・・実は好きな人がいまして・・・」
「えっ誰⁉ 超気になる!亜梨紗ちゃんが好きな人か~。いつから?同じクラス?」
仲の良い友人が同じ境遇だと知って、琴弧はまるで同志を得た気分なのだろう。身を乗り出して質問を重ねた。それを見た晶は『この姿が本当の琴弧ちゃんなんだな』と少し嬉しそうな笑みを浮かべた。
「誰かはまだ秘密にしておきたいんだけど、クラスは違う。真面目でカッコよくて、気も遣える人で、同じダンス部なんだ。入学してからずっと好き。」
「凄い!僕と違って全部揃ってる!しかも踊れる!」
「晶くんはチョコミントを1スクープにしてたら完璧だったよ。」
琴弧は昨日のことをまだ納得できていない様子だ。
「想いを伝えようか悩んでる。ただ、手強いライバルがいるんだ。見てると、なんか良い感じなんだよね。だから困ってる。」
「久慈さんはどうしてライバルだって気付いたの?」
「直接相談されたから。『好きな食べ物とか、興味があるものとか知ってる?』って。ライバルに塩を送るか迷ったけど教えてあげた。そしたら急に良い感じになっちゃってさ。私は自分の気持ちは内緒にしたままだから、あっちはライバルと思っていないと思う。」
「久慈さんは気持ちを伝えないの?」
亜梨紗の表情が曇る。
「うん。楽しそうな2人を見てるとなんだか、『きっとこの方が良いんだ』って納得できちゃうんだよね。」
当事者でありながら、どこか傍観者のようでもある亜梨紗を見て、晶と琴弧は不思議そうに顔を見合わせた。
「伝えるべきかやめるべきかずっと悩んでる。なぜか突然伝えられそうな力が込み上げてくる時もあるし、どうして好きになっちゃったんだろうって落ち込む時もある。好きにならなければずっと穏やかだったはずなのに。だから心も身体もすごく忙しい。授業聞いてダンスして、家に帰ったら好きな人のこと考えて・・・。」
亜梨紗は寂しそうに笑って俯いた。
晶の奥がどきっと鳴った。亜梨紗の潜香の甘酸っぱさが強いせいだ。『好きな人を思い浮かべると、自分の潜香も恥ずかしい程に甘酸っぱいのだろうか』と考えを巡らせながら琴弧を見る。すると琴弧としっかり目が合ってしまい、強く潤った瞳に耐えきれずに視線を逸らした。この狭い部屋では、2人の潜香にやられてどうにかなってしまいそうだ。
「これからどういう風にしていけば良いか相談しようと思ったけど、今日は2人に話せただけでも少しすっきりした。誰にも言えなかったことだから気が楽になったよ。聞いてくれてありがとう。良かったらまた話を聞いて。」
「ううん、久慈さんこそ、僕たちに大切な話しを聞かせてくれてありがとう。もし行動するって決めたら、僕たちにもできる限りの応援をさせてよ。」
少し緩んだ表情を隠すように声を振り絞る。
「私も亜梨紗ちゃんを応援するよ!」
潜香を感じられる晶だからこそ亜梨紗の諦める決断が困難だとわかる。琴弧の潜香を感じて、恋の嬉しさと苦しさを知ることができた晶だからこそ、このまま終わって欲しくないとも思う。
「そう言えばさ、香文学部っていつも何してんの?」
琴弧が説明に困って晶の顔を見たが部長は堂々としていた。
「世の中には料理用でもなく、飲料用でもなく、観賞用でもない、特殊な力を秘めた香草があって、それを使った人と香りの物語を綴る活動って言ったら信じる?」
「お香とかじゃなくて香草なんだ⁉しかも特殊な力って急に現実味がなくて怖い。」
うんうん。と琴弧が頷く。
「でも竹達くんは噓ついてるわけじゃなさそう。ねぇ、その特殊な力でさ、ダンスが急に上手くなったり、気になる人とくっついたりできる⁉」
「ごめんね、どっちも無理なんだ。」
「え~じゃあ何ができるの⁉」
「それは秘密。」
「へっ⁉ここまで話しておいて秘密なの⁉」
「うん、久慈さんの好きな人をまだ聞いてないからね。」
「・・・」
意表を突かれて言葉を失った亜梨紗の隣で琴弧が感心した。
「取引が上手いね・・・!」
「それで・・・その特別な香草を広めようとしてるの?」
「ううん、ただ自分が活動してきた記録として残していくだけ。少しずつ進めて完成させることに意味があるんだ。琴弧ちゃんはその助手。」
「香草の話をしてる時の竹達くんは、なんだかいつもとは違う雰囲気だね。竹達くんにも琴ちゃんにも信念があるんだなぁ。」
うんうん。とまたも琴弧が頷いた時に昼休みの終了を告げるチャイムが鳴った。
部室から教室に戻る途中、3人は体育館の方向から歩いてくる『ダンス部の遥』と面識のない男子生徒を目にした。
「亜梨紗ちゃん、あの子が『ダンス部の遥ちゃん』だよね。」
「そうそう。アイスショップに一緒に行った斉藤遥。そして隣が三崎奏真。」
晶は何も言わなかった。なぜなら全てを理解したからだ。教室前で亜梨紗と別れると、得意気な笑みを浮かべて切り出す。
「琴弧ちゃん、僕わかっちゃった。久慈さんは三崎くんのことが好きなんだよ。」
「えっそうなの⁉もしかして潜香で⁉」
晶は何も言わずに頷く。そして自分の胸の辺りで親指を立て、したり顔でグッドサインを送った。
多少の強引さがあった亜梨紗だが、デリケートな相談の手前、2人は機密情報が
漏れないように学校の最果てに案内した。
「こんな狭いところで活動してるの⁉でも2人きりになるにはちょうど良い場所だね。羨ましいよ。」
2人はニヤニヤしている亜梨紗を受け流した。
「はい、久慈さんご招待記念のカモミールティー。」
「えっこんなオシャレなの飲んでるの?」
「私の部員勧誘の時も淹れてくれてお気に入りになったんだよ。」
各コミュニティで昼食時間を過ごしているが、普段とは違う新鮮な空気が部室を包んでいた。
「久慈さん、ご飯少ないね。」
「うん、体型を維持しないとね。昨日のアイスはご褒美。」
「私は絶対に亜梨紗ちゃんのようにストイックになれない。」
談笑して場が和んだところで背筋を伸ばした亜梨紗が切り出した。
「でさ、相談なんだけど・・・実は好きな人がいまして・・・」
「えっ誰⁉ 超気になる!亜梨紗ちゃんが好きな人か~。いつから?同じクラス?」
仲の良い友人が同じ境遇だと知って、琴弧はまるで同志を得た気分なのだろう。身を乗り出して質問を重ねた。それを見た晶は『この姿が本当の琴弧ちゃんなんだな』と少し嬉しそうな笑みを浮かべた。
「誰かはまだ秘密にしておきたいんだけど、クラスは違う。真面目でカッコよくて、気も遣える人で、同じダンス部なんだ。入学してからずっと好き。」
「凄い!僕と違って全部揃ってる!しかも踊れる!」
「晶くんはチョコミントを1スクープにしてたら完璧だったよ。」
琴弧は昨日のことをまだ納得できていない様子だ。
「想いを伝えようか悩んでる。ただ、手強いライバルがいるんだ。見てると、なんか良い感じなんだよね。だから困ってる。」
「久慈さんはどうしてライバルだって気付いたの?」
「直接相談されたから。『好きな食べ物とか、興味があるものとか知ってる?』って。ライバルに塩を送るか迷ったけど教えてあげた。そしたら急に良い感じになっちゃってさ。私は自分の気持ちは内緒にしたままだから、あっちはライバルと思っていないと思う。」
「久慈さんは気持ちを伝えないの?」
亜梨紗の表情が曇る。
「うん。楽しそうな2人を見てるとなんだか、『きっとこの方が良いんだ』って納得できちゃうんだよね。」
当事者でありながら、どこか傍観者のようでもある亜梨紗を見て、晶と琴弧は不思議そうに顔を見合わせた。
「伝えるべきかやめるべきかずっと悩んでる。なぜか突然伝えられそうな力が込み上げてくる時もあるし、どうして好きになっちゃったんだろうって落ち込む時もある。好きにならなければずっと穏やかだったはずなのに。だから心も身体もすごく忙しい。授業聞いてダンスして、家に帰ったら好きな人のこと考えて・・・。」
亜梨紗は寂しそうに笑って俯いた。
晶の奥がどきっと鳴った。亜梨紗の潜香の甘酸っぱさが強いせいだ。『好きな人を思い浮かべると、自分の潜香も恥ずかしい程に甘酸っぱいのだろうか』と考えを巡らせながら琴弧を見る。すると琴弧としっかり目が合ってしまい、強く潤った瞳に耐えきれずに視線を逸らした。この狭い部屋では、2人の潜香にやられてどうにかなってしまいそうだ。
「これからどういう風にしていけば良いか相談しようと思ったけど、今日は2人に話せただけでも少しすっきりした。誰にも言えなかったことだから気が楽になったよ。聞いてくれてありがとう。良かったらまた話を聞いて。」
「ううん、久慈さんこそ、僕たちに大切な話しを聞かせてくれてありがとう。もし行動するって決めたら、僕たちにもできる限りの応援をさせてよ。」
少し緩んだ表情を隠すように声を振り絞る。
「私も亜梨紗ちゃんを応援するよ!」
潜香を感じられる晶だからこそ亜梨紗の諦める決断が困難だとわかる。琴弧の潜香を感じて、恋の嬉しさと苦しさを知ることができた晶だからこそ、このまま終わって欲しくないとも思う。
「そう言えばさ、香文学部っていつも何してんの?」
琴弧が説明に困って晶の顔を見たが部長は堂々としていた。
「世の中には料理用でもなく、飲料用でもなく、観賞用でもない、特殊な力を秘めた香草があって、それを使った人と香りの物語を綴る活動って言ったら信じる?」
「お香とかじゃなくて香草なんだ⁉しかも特殊な力って急に現実味がなくて怖い。」
うんうん。と琴弧が頷く。
「でも竹達くんは噓ついてるわけじゃなさそう。ねぇ、その特殊な力でさ、ダンスが急に上手くなったり、気になる人とくっついたりできる⁉」
「ごめんね、どっちも無理なんだ。」
「え~じゃあ何ができるの⁉」
「それは秘密。」
「へっ⁉ここまで話しておいて秘密なの⁉」
「うん、久慈さんの好きな人をまだ聞いてないからね。」
「・・・」
意表を突かれて言葉を失った亜梨紗の隣で琴弧が感心した。
「取引が上手いね・・・!」
「それで・・・その特別な香草を広めようとしてるの?」
「ううん、ただ自分が活動してきた記録として残していくだけ。少しずつ進めて完成させることに意味があるんだ。琴弧ちゃんはその助手。」
「香草の話をしてる時の竹達くんは、なんだかいつもとは違う雰囲気だね。竹達くんにも琴ちゃんにも信念があるんだなぁ。」
うんうん。とまたも琴弧が頷いた時に昼休みの終了を告げるチャイムが鳴った。
部室から教室に戻る途中、3人は体育館の方向から歩いてくる『ダンス部の遥』と面識のない男子生徒を目にした。
「亜梨紗ちゃん、あの子が『ダンス部の遥ちゃん』だよね。」
「そうそう。アイスショップに一緒に行った斉藤遥。そして隣が三崎奏真。」
晶は何も言わなかった。なぜなら全てを理解したからだ。教室前で亜梨紗と別れると、得意気な笑みを浮かべて切り出す。
「琴弧ちゃん、僕わかっちゃった。久慈さんは三崎くんのことが好きなんだよ。」
「えっそうなの⁉もしかして潜香で⁉」
晶は何も言わずに頷く。そして自分の胸の辺りで親指を立て、したり顔でグッドサインを送った。
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