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そうろかの章 チョコミント色の嘘④
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今日も息の合った華やかな合奏が部室まで響いている。吹奏楽部が音を研ぎ澄ませる傍ら、晶と琴弧は部活動そっちのけで今日の出来事を整理していた。昼休みの喧騒と打って変わって亜梨紗がいない部室はしーんとしている。
「三崎くんは確かに格好良かったよね。僕と違って背が高いし、女の子にも間違われなさそうだし。」
「じゃあライバルは遥さんの可能性が高いってことだよね。昼休みに見かけた時も2人で歩いてたし。あっ、でも私より背が低くて女の子に間違われる晶くんも可愛いと思うよ。」
晶は自身のコンプレックスに打ち勝つことができないでいるが、琴弧に受け入れてもらえると嬉しいような恥ずかしいような、やはり嬉しさが勝つのであった。晶の安堵した表情を目にして少し微笑みながら琴弧は本題に入る。
「ねぇ、亜梨紗ちゃんは何を相談したかったんだと思う?」
「僕たちにしか言えないことじゃないかな。」
「それだけ信頼してくれてるんだよね。」
「うん。だからこそ力になりたい。そう言えばさ、アイスショップに行った日は、久慈さんに誘われたんだよね。どんなアクセサリーを見たかったんだろう。」
「やっぱり三崎くんが好きそうなアクセサリーじゃないかな。」
「だとすると、斉藤さんと一緒じゃダメだったのかな?」
「私の感性が必要だった・・・とか?」
「チョコミントが嫌いな人の感性のこと?」
「晶くんには一生わからない感性のこと。それより、亜梨紗ちゃんの潜香はどんな香りなの?」
「どんなって言われても・・・」
「三崎くんが好きってわかったんでしょ?」
「いや、潜香には好きな相手を限定できる程の正確性はないんだ。」
「じゃあなんで三崎くんが好きってわかったの?晶くんのことが好きかもしれないじゃん。」
「う~ん、久慈さんの潜香は三崎くんを見た時には反応したけど、僕と話している時は大きな反応がない。」
「それってさ、見方によっては悲しいよね。自分の好きな人の気持ちが直感的にわかるわけじゃん。」
「そうだね。自分の好きな人が、自分に対して好意がないとわかったら、僕なら立ち直れない。」
「立ち直れない、か・・・亜梨紗ちゃんは強引なところはあるけど、根は優しいから、もしかした自分から身を引いちゃうかも。」
「うん、しかも諦めを含んだ言い方をしている所が気になる。どうしても届かないと決めつけているようなさ。」
晶も琴弧も、亜梨紗の力になりたいという気持ちを持ち合わせている。しかし亜梨紗の傍観者視点の寂しい笑顔が2人の思考を絡め取り、背中を押すためのアイデアが浮かばない。
晶は諦めたようにしばらく机に突っ伏していたが、ゆっくり顔を上げると、机の上で交差させた手の甲の上に顎を乗せて、琴弧の方へ視線を向けた。
琴弧は椅子に浅く腰をかけ直し、背もたれに身体を預け、大きく反らせて気持ち良さそうに背伸びをした後、両手を頭の上に置いたまま晶の方へ目をやった。
見つめ合った2人の間に沈黙が流れる。琴弧から晶を刺激する潜香が自然と溢れ出て来る。
「ねぇ、なんか言ってよ・・・わかってるんでしょ・・・」
琴弧は観念したかのような表情をして声を漏らした。潜香を通じて自分の感情が漏れていると覚悟しているのだろう。
晶は自分の顔が真っ赤になる音をしっかりと聞いた。姿勢を立て直し椅子に深く腰かけた後も何も言わない。ただ琴弧の潜香を嗅覚では静かに、身体の深部では熱く感じている。
「わかった・・・!」
閃いた―――
電流が走ったかのように背筋をピンと一直線にさせて声を上げた晶が目を見開いたまま固まる。気を張っていない方向から攻撃されたかのように驚愕した琴弧は『わっ』と声を上げて身体をのけぞらせたまま硬直した。
彫刻のようにピクリとも動かない二人の間にほんの少しだけ時間が流れる。普段は見せることのない敏捷性を発揮した晶を訝しんだ琴弧が、腹を大空に向けて地面に倒れているセミの生死を確認するように恐る恐る声をかける。
「ほんとにわかったの?」
「わかったよ。僕が思い違いをしていたんだってことを。」
「・・・噓でしょ・・・?思い違いなの・・・?」
「噓じゃないよ・・・僕にしかできない、とんだ思い違いだった。」
「うん、晶くんだけだよ?だって初めてだもん・・・。お願い、信じて。」
「信じた僕がバカだった。」
「ねぇ、そんなこと言わないで・・・。ちゃんと話そう・・・!」
「その必要はないよ。何も変わらない。気づくのが遅くてごめんね・・・」
「酷い・・・!ずっと想ってたのに・・・ずっと・・・家でも一人でずっと・・・誰にも相談できずに・・・。」
「凄く辛かったと思う。だけど、実は始まってすらいなかったんだ。」
「当たり前じゃん・・・だってこれから始まるんでしょ?」
「始まらない。久慈さんと三崎くんが始まることはないよ。」
「えっ⁉」
琴弧がピタリと停止した。
琴弧の頬がみるみるうちに紅潮していく。口を手で押さえ、嬉しさと恥ずかしさが交錯したような表情を浮かべたまま、戸惑うように瞬きを繰り返している。
晶の目が丸く見開かれぽかんと口を開けたまま止まっている。ゆっくりと首を傾げる仕草には琴弧が赤らむ理由に一切気づかない無邪気さすら漂っていた。
「ほんとわかってない!」
「あっ、えっ、ちょっと、琴弧ちゃん!」
琴弧は慌てて自分のリュックサックを手に取り部室を出て行ってしまった。引き留めようと晶が声をかけたがもう届かない。
「・・・わかってないって・・・何が・・・?」
一人取り残された晶はそう呟いたが誰にも届かない。ただ静まり返った部室に溶けていった。
「三崎くんは確かに格好良かったよね。僕と違って背が高いし、女の子にも間違われなさそうだし。」
「じゃあライバルは遥さんの可能性が高いってことだよね。昼休みに見かけた時も2人で歩いてたし。あっ、でも私より背が低くて女の子に間違われる晶くんも可愛いと思うよ。」
晶は自身のコンプレックスに打ち勝つことができないでいるが、琴弧に受け入れてもらえると嬉しいような恥ずかしいような、やはり嬉しさが勝つのであった。晶の安堵した表情を目にして少し微笑みながら琴弧は本題に入る。
「ねぇ、亜梨紗ちゃんは何を相談したかったんだと思う?」
「僕たちにしか言えないことじゃないかな。」
「それだけ信頼してくれてるんだよね。」
「うん。だからこそ力になりたい。そう言えばさ、アイスショップに行った日は、久慈さんに誘われたんだよね。どんなアクセサリーを見たかったんだろう。」
「やっぱり三崎くんが好きそうなアクセサリーじゃないかな。」
「だとすると、斉藤さんと一緒じゃダメだったのかな?」
「私の感性が必要だった・・・とか?」
「チョコミントが嫌いな人の感性のこと?」
「晶くんには一生わからない感性のこと。それより、亜梨紗ちゃんの潜香はどんな香りなの?」
「どんなって言われても・・・」
「三崎くんが好きってわかったんでしょ?」
「いや、潜香には好きな相手を限定できる程の正確性はないんだ。」
「じゃあなんで三崎くんが好きってわかったの?晶くんのことが好きかもしれないじゃん。」
「う~ん、久慈さんの潜香は三崎くんを見た時には反応したけど、僕と話している時は大きな反応がない。」
「それってさ、見方によっては悲しいよね。自分の好きな人の気持ちが直感的にわかるわけじゃん。」
「そうだね。自分の好きな人が、自分に対して好意がないとわかったら、僕なら立ち直れない。」
「立ち直れない、か・・・亜梨紗ちゃんは強引なところはあるけど、根は優しいから、もしかした自分から身を引いちゃうかも。」
「うん、しかも諦めを含んだ言い方をしている所が気になる。どうしても届かないと決めつけているようなさ。」
晶も琴弧も、亜梨紗の力になりたいという気持ちを持ち合わせている。しかし亜梨紗の傍観者視点の寂しい笑顔が2人の思考を絡め取り、背中を押すためのアイデアが浮かばない。
晶は諦めたようにしばらく机に突っ伏していたが、ゆっくり顔を上げると、机の上で交差させた手の甲の上に顎を乗せて、琴弧の方へ視線を向けた。
琴弧は椅子に浅く腰をかけ直し、背もたれに身体を預け、大きく反らせて気持ち良さそうに背伸びをした後、両手を頭の上に置いたまま晶の方へ目をやった。
見つめ合った2人の間に沈黙が流れる。琴弧から晶を刺激する潜香が自然と溢れ出て来る。
「ねぇ、なんか言ってよ・・・わかってるんでしょ・・・」
琴弧は観念したかのような表情をして声を漏らした。潜香を通じて自分の感情が漏れていると覚悟しているのだろう。
晶は自分の顔が真っ赤になる音をしっかりと聞いた。姿勢を立て直し椅子に深く腰かけた後も何も言わない。ただ琴弧の潜香を嗅覚では静かに、身体の深部では熱く感じている。
「わかった・・・!」
閃いた―――
電流が走ったかのように背筋をピンと一直線にさせて声を上げた晶が目を見開いたまま固まる。気を張っていない方向から攻撃されたかのように驚愕した琴弧は『わっ』と声を上げて身体をのけぞらせたまま硬直した。
彫刻のようにピクリとも動かない二人の間にほんの少しだけ時間が流れる。普段は見せることのない敏捷性を発揮した晶を訝しんだ琴弧が、腹を大空に向けて地面に倒れているセミの生死を確認するように恐る恐る声をかける。
「ほんとにわかったの?」
「わかったよ。僕が思い違いをしていたんだってことを。」
「・・・噓でしょ・・・?思い違いなの・・・?」
「噓じゃないよ・・・僕にしかできない、とんだ思い違いだった。」
「うん、晶くんだけだよ?だって初めてだもん・・・。お願い、信じて。」
「信じた僕がバカだった。」
「ねぇ、そんなこと言わないで・・・。ちゃんと話そう・・・!」
「その必要はないよ。何も変わらない。気づくのが遅くてごめんね・・・」
「酷い・・・!ずっと想ってたのに・・・ずっと・・・家でも一人でずっと・・・誰にも相談できずに・・・。」
「凄く辛かったと思う。だけど、実は始まってすらいなかったんだ。」
「当たり前じゃん・・・だってこれから始まるんでしょ?」
「始まらない。久慈さんと三崎くんが始まることはないよ。」
「えっ⁉」
琴弧がピタリと停止した。
琴弧の頬がみるみるうちに紅潮していく。口を手で押さえ、嬉しさと恥ずかしさが交錯したような表情を浮かべたまま、戸惑うように瞬きを繰り返している。
晶の目が丸く見開かれぽかんと口を開けたまま止まっている。ゆっくりと首を傾げる仕草には琴弧が赤らむ理由に一切気づかない無邪気さすら漂っていた。
「ほんとわかってない!」
「あっ、えっ、ちょっと、琴弧ちゃん!」
琴弧は慌てて自分のリュックサックを手に取り部室を出て行ってしまった。引き留めようと晶が声をかけたがもう届かない。
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