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古の島編

魔法の練習

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「ふぅ…」
どうにか魔力を感じる所までは出来たが少し疲れた、集中も切れてきたし今日はもう休むか。
洞窟の外を見ると日は沈んで、すっかり辺りも暗くなっていた。風は吹いていないが夜は冷えて洞窟の中の気温はだいぶ下がっていた。

「流石に寒いな、狼の毛皮を毛布に…いや、流石に死体とセットで身体にかけたくは無いな…」
剥ぎ取られればいいんだが…そして出来ればもう寝たいが肌寒い上に腹も減ったが焚き火をしようにもにも炎魔法はまだ使えない…そうでなくても明日は水魔法を使える様にならないと不味いな。

[…呪文と術式を教えますので、魔力を通すイメージで魔法を使ってみてください]
いや、急にやってみろと言われてもな…そもそも教えると言われても、俺はその辺の知識を全然知らないから言われて分からねえぞ…おう?

あー…教えるってもうそう言う…頭の中に情報を流すとかそんなレベルなんだな、でも魔力を感じるのと呪文と術式の知識だけで魔法は出来るのか?
[可能ではあります]
なんか引っかかる言い方するな…まあやるが。それにしてもファンタジーな世界の呪文を口にするって、結構恥ずかしいな。

俺は日が暮れる前に拾っておいた木の枝で焚き火台をつくり、頭の中で術式を構築?想像?しながら手を構えた。
教えられた術式がゆっくりと頭の中で構築されて行った、そして俺は呪文を詠唱した。
「我が魔力よ炎となれ、ファイア
詠唱が終わって術式が完全に構築された。手の平に小さな青い魔法陣が展開されてその魔法陣からは膨大な熱が生み出され、爆発しそうな程魔力が魔法陣に注がれたのが感じられた。

[術式への魔力の注入量を減らして下さい、暴発の危険があります]
…え!ちょっまっ!どうすればいいんだよ!?
[魔力が管から流れるイメージで、流れる量を減らして下さい]
こうか!これで良いのか!?
ラプラスの言った通りのイメージで魔力を抑えると、赤くなっていた魔法陣がゆっくりと青く染まっていった。
[はい、魔力を込め過ぎれば暴発して火を起こすだけでは済まなくなります]
そういう事は先に言え!…てかこの魔法陣どうすればいいんだ?術式は出来たんだよな?
[はい、後はその術式を通して魔力を流せば炎魔法のファイアーが発動します、魔力を流す量には注意してください]

OK、さっきの事故で魔力の調整の仕方はなんとなく分かったし、これならちゃんと魔法が使える。
晃は手の平を焚き火台に向けて術式に極少量の魔力をながし、魔法を発動した。
「おおっ!」
これが魔法か、焚き火をおこす事ぐらいしか出来ないショボい魔法だがなんか嬉しいな。 

…暖けぇ、少し眠くなってきたな…暖もとれたし、魔法も使えたからもう寝るか…。
[お休みなさいませ]
「おう…お休み」

*********************************

〈バルンテス大迷宮〉

石レンガで出来た広々とした空間に、8匹の貧相な防具にボロボロの剣を持った小さく醜い小鬼の様な化け物、ゴブリンと大柄な体格をして棍棒を持った化け物、ホブゴブリンは一匹が7名の人間達に威嚇をしていた。
「グギャギャァ!」
「後衛!魔法の用意をしてくれ!」
豪華な見た目をした鎧を着込んで長剣を構える男、白霧蓮斗が背後にいる三人の仲間に指示を出す。
指示を聞いた黒髪ショートのコートの少女、橋本美咲と黒髪ロングのローブの少女、黒川檣華が杖などを構えて呪文を詠唱し始める、それに続いて隣にいた茶髪のツインテールの少女が慌てて詠唱を始めた。それとほぼ同時に蓮斗と他三人がゴブリン共に走り出して戦い始めた。

ゴブリンが跳躍して斬りかかるが蓮斗が剣を振り下ろすと剣に当たり、ゴブリンは真っ二つに切り捨てられた。それを見た他のゴブリンが若干怯むが、ホブゴブリンが一喝するように叫ぶとまたグギャグギャと鳴きながら攻撃し始めた。

しかし前衛に足止めされていた事によって後衛の魔法が完成し、それが放たれた。
「…我が魔力よ風となり切り裂け、斬風ウィンドカッター
「我が魔力よ炎となり球となれ、火球ファイアボール
「我が魔力よ土塊となり弾けろ、土弾アースショット
白い風の刃、赤い炎の球体、茶色い土の塊が飛び、それぞれの魔法がゴブリンに命中し、魔法が当たったゴブリンは切られ、焼かれ、吹き飛び、倒れた。

「ゼアッ!」
四匹も仲間を倒され動揺しているゴブリンに、赤い皮のコートを着て胸などの局部に軽い装甲を着け刀を持った男、天上明人が固まっていた二匹のゴブリンに走り、すれ違うと同時に一閃、胴体を二つに斬り分けた。そしてそのままホブゴブリンのところに向かって走った。

「ゴギャアァ!」
それに気が付いたホブゴブリンが狙いを定めて棍棒を叩きつけるが当たらず、石の床を叩いた音と砂埃の散る音だけが鳴った。明人は叩きつけられる前に止まり、後ろに跳んでいて石床を叩いた衝撃を受けて止まっているホブゴブリンの棍棒を踏み台に軽く跳び、
「黒凪風」
そう呟きながら刀を横に振るった、刀は水平線の様に真っ直ぐ横に、そして風が吹く様に一瞬でホブゴブリンを斬りその首を落とした。

「ゴガッ…」
ホブゴブリンは声になっていない様な叫びで絶命し、首と胴が離れた身体はドサリと仰向けに倒れた。他のゴブリンも他の前衛によって倒され、ゴブリン共の死体は黒い灰となって消えた。

「やったー!」
ゴブリンが全滅して、ツインテールの少女、高梨都子が喜びの声を上げてぴょんぴょんと飛び跳ねる。
「ふーん、当然デース!イェーイ!」
そこに栗色のモヒカンの様な髪型をした男、イヴァン・ソコロフが近づいてハイタッチをする。
「…これで今日は終わりか?」
「そうだな、これ以上は今日は進まないで戻ろう」
刀を鞘に仕舞って明人は蓮斗に話しかけた。そこに檣華が近づき「お疲れ様です」と労りの言葉を掛ける。少しすると全員が集まって蓮斗が持っていた袋に石の様なものを入れ、自分達の背後にある階段に向かい歩き始めた。

「それにしても、どうなってるんだろうなコレ」
赤い鎧を着けた黒髪の男、山田賢治が先程皆が袋に入れていた石を摘みじっと見つめていた。
「賢治…後で入れておけよ?」
蓮斗が注意し、賢治は笑いながら頷いて話の続きを始めた。
「この迷宮の中で魔物を殺…倒したら、灰になってこの魔石とか毛皮とかの素材を残すんだぜ?」
その発言に対して全員が確かに…と少し考える、だが明人が賢治から石を取り上げたかと思うと。
「俺の友達が読んでたファンタジーな本とかだと、迷宮そのものが生き物で死骸を吸収してるとか、迷宮内の魔物は魔法で出来ているから死ぬと消えるとか、色々あるな」
明人が石を弄りながらそう言うと賢治は「何それ怖!俺らでっけえ生き物の腹の中に居んの!?」と声を上げ「あまり大きな声を出さないでください、響きます」と檣華に注意された。

「友達、か…それにしても魔人族は許せないな、罠に掛けて俺達を襲うなんて…きっとみんな…明人、君の友達の晃って奴も…」
「死んでねえ」
「え?」
蓮斗のその発言を急に明人が遮り、動揺の声が上がる。
「死んでねえよ、アイツは」
「いや…でも」
蓮斗はそこまで強く否定されるとは思わなかったのか、どうすれば良いか分からない状態になった。

周りの空気も少し重くなり、気を遣った檣華が
「蓮斗さん不謹慎ですよ…みんなきっと生きてます」
と言い。
「…ああ、そうだな」
きっと生きていると思いたいんだろう、そう感じたのか蓮斗は一瞬渋い顔をして頷いた。


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