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紅い月編
館の書庫
しおりを挟む目が覚めると、知ってる天井だった。
晃は貸して貰っている寝室のベッドで横たわっていた。
「…俺は何回気絶しては目が覚めるを繰り返すんだ」
異世界に来てからもう5回以上は睡眠以外で意識を失ってる。
…ミインの目の前で無様な姿を見せる羽目になるとはな…いや、今更だが。
晃はベッドから身体を出し、ベッド横に設置してあるチェストの上に置いてある、上着を羽織る。
部屋を出て人を探そうとすると、廊下からリアが歩いているのが見えた。
リアもこちらに気が付いた様で、こちらに近付いて、「お目覚めですか」と言って一礼する。
「あの、ミインって今どこに居るんですか?」
「ミイン様ですか?今は…多分、ゼロ様と一緒に書庫にいらっしゃるかと。先程まではアキラ様が起きるまでずっと待っていたようなのですが、ご主人様が気分転換にと。
…気絶させた当人なので、少しばかりミイン様の目が厳しかったですが」
リアは溜息を吐いてそう言って、書庫まで案内してくれた。
**********************************
「アキラ!」
書庫に入るとミインが直ぐに気が付いて、本を置いて席を立ち、抱きついて来る。
アキラは受け止めて、ミインの頭を軽く撫で、ポンポンと落ち着かせる様に頭に手を置く。
ミインは暫く抱きついて満足した様で、トコトコと歩いて席につき、机に置いてある本を広げた。
書庫は四方全体が本棚で埋められていて、真ん中に数セット椅子と机が置いてあり、本棚に入りきらない本は、床に積んである。本棚の無い壁には振り子時計がカチッカチッと一定のリズムで音を立てている。
そこそこに広く、本もかなりの量がある。しかし、気になったのはそこではなく、更に奥に続く扉がある事だった。
「やあ、目覚めたかい。もう夕方だよ?」
「…人のこと打ちのめしといてよく言うな。残念ながら、一矢報いる事敵わなかった」
「いやいや、身体能力もさながら、技術も一級品だったと思うよ。まだまだ改良の余地ありだけどね」
「お前が言っても嫌味だぞ、素手での高度な戦闘技術なんて、この世界だと珍しいんじゃないか?」
「私が少しばかし特殊なだけだよ」
「少しばかり…か」
晃とゼロの会話で、周囲の空気が冷えていく。
お互いの腹の探り合いで、視線が鋭くなる。
そうだ、こう言う時こそ読心術を使うべきだな。
城にいたときに練習したおかげで、そこそこ使いこなせる様にはなった。
晃は表情を変えない様、注意しながら“読心術”を使った。
なんでだ。
読み取れなかった。顔を見れば、心が読めると言っても良いこのスキルは、個人的にはあまり好きではない。
しかし、自分の事を全く明かさず、化け物みたいに強くて、無償で館を貸してくれる上、強くなる術を教えてくれる奴。
何かあると考えて当然だ。
しかし、俺の読心術はLV10だ。最高レベルの読心術を無効化出来るものなのか…?俺はこの世界について無知過ぎる。
まあ、情報やら常識についてはラプラスに聞くのが一番か。城では読んだ本の内容を訳させてたが、神々の知識なのだから、内容を解説させた方が早かった気がするな。
まあ、それはそれとして…読心術が通用しないならしょうがない。会話でもボロを出しそうにないし、今回は諦めるか…。
「…まあいい。ここにはどんな本があるんだ?」
「童話や英雄譚みたいな物語から、魔法や魔術についてを記した魔導書。薬学、医学、錬金術などの知識を書かれた専門書や、剣術、体術などの指南書等々…まあ、色々かな」
「なんでもあるな…」
よく考えたら、神々の知識は聞いたことしか答えてくれない。辞書みたいな物だ。
俺にある程度知識が無いと聞くことすら出来ないから、本で知識を蓄えておかないと宝の持ち腐れだな…。
「俺も読むか…」
「ああ、そうすると良いよ。私も近くで読んでいるから何か探したい本があれば、言ってくれ」
文字は読めないが、ラプラスに朗読して貰えば問題ない。
本を決めるために書庫を周っていくと、書庫の奥にある扉が目に入った。
「…」
特に何も考えず、ドアノブに手を掛けて回す。しかし、ドアを引いても鍵が掛かっているようで、扉は開かなかった。
開けるのは諦め、晃は積んである本から適当に2冊本を手に取ってタイトルを見る。
しかし、知らない文字で書かれていたので読むことが出来なかった。文字はまだまだ勉強中だ。
ひとまず本を持ってミインの隣に座る。
ラプラスに聞きつつ、先ずは厚みの少ない本を開く。
内容としては鍛治の専門書だったので、直ぐに読むのはやめたが、気になる内容があった。
出来た武器や防具には、ランクがある。
鑑定によってそのランクを測り、出来を判断するのだ。
素材によって変動するが、目指すのはその使う金属での限界のランクである。
ランクは全てで6種類あると言われている。
粗悪級
普通級
希少級
固有級
伝説級
神話級
粗悪級を造るような奴は鍛治師を辞めた方がいい!普通級はまあ、いっぱしってところだろう。
希少級は一流と言ってもいい!普通の鍛治師が出せる限界と言っていいだろう。固有級何で出した日にゃ、その日には名が国に知れ渡るだろうさ、まあ造れるのは魔剣鍛治師やら精霊鍛治師やらの特別な才能を持った奴だけだがな。伝説級?造れる人間なんて世界中に名を轟かす数名だ!名の通り、伝説に残る英雄が使ったと言われる武器の一部が当て嵌まるそうだ。神話級?そんなもん、実在するかも怪しいね。鍛治の神様が造る武器だそうだ。
まあ、武器の出来もランク付けされるとはな。高校男児の興味をそそる話だ。
そして、もう読む事も無いので机に放置し、厚みのある方を手に取った。
ラプラス、これはなんて読むんだ?
『【知られざる英雄譚 序章の書。~鮮血の吸血鬼~】です』
何となくラノベ臭がするな…それに知られざる英雄譚って名前なのに、本になってたら訳ねえな。
それに、これ一冊でもかなり分厚いのに、序章ってことはあと数冊あるってことになるな。
…読み切るのに苦労しそうだ。
晃はその本を開き、ラプラスに脳内で音読してもらいつつページを進める。
ミインの方をチラッと見ると、黙々と本を読みながら、紙に何かを書き上げていた。
数式の様な、それでいて文章の様な複雑な文字や数字の羅列が、どんどん書き上げられていく。
「…ゼロ、あれ何やってるんだ?」
晃はそれを見てゼロに小声でミインの書いてる物について聞く。
「うん?ああ、あれは魔導書を読んで魔術の術式を文字に起こしているんだよ」
「文字?魔法は脳内で覚えた術式を構築すればいいけど、魔術は違うのか?」
「普通の魔法だったら魔法陣を少し覚えれば簡単なものなら出来るんだけど、複雑な魔術となると術式を暗記したり理解したりしないといけないんだ」
「へぇ…じゃあ、ノート取って覚えてるのか」
「うん、それもあるけど…ミインは凄いよ?既存の魔法を一月で覚えて、魔術にも手を付けてオリジナルのものを創り出したんだ。ミインは今、オリジナルの術式を組み立てて魔術を創っているんだ、それには物凄く複雑な術式を兼ね合わせて…」
「ちょっと待て、一月って言ったか?それはおかしいだろ」
俺があの島に飛ばされて経過した時間は精々十数日。時間が合わない。
もしも、あの島での時間の流れがこっちと違うとしたら、俺はかなりの時間を向こうで過ごしたことになる。
十数日程度はまだいいが、一月となると無視出来ない時間経過になる。こっちとしては早めに美咲達と合流したい。
が、それまでに元の世界に戻る目処や、ある程度生活の基盤を立てないといけないのだ。
「んん…ああ、ちょっと特殊な魔道具を使ったんだ。だから実際に経った時間はそっち側が正しいよ」
「…時間経過を約二分の一にする魔道具か」
「そうだよ、一部の空間の時間をゆっくりにするんだ。それを使ってミインは勉強していたんだ」
「へえ…俺は魔道具のことはよく知らないが、そんな便利な物があるんだな…まあ、教えてくれてありがとよ」
晃はゼロとの会話を終わらせると机に戻り、本を手に取って続きを読み始めた。
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