異世界転移したけど王様がクズなので旅をします。〜邪神に選ばれし男は神へと至る〜

悪鬼さん

文字の大きさ
52 / 53
紅い月編

タイトルが思いつかなかった話

しおりを挟む

この本は、とある主人公が古い時代において英雄と言われるまでの話だった。

とは言え、この本はこれ一冊で序章なので、まだまだ続くようだ。
最初、主人公が生まれた時代は全ての種族が敵対し、戦争を繰り返していた。  

本で最初に世界の情勢について触れた時に、こう書いてあった。

曰く、和解はあり得ない。

曰く、平和は存在しない。

曰く、弱者に生などない。

森林人エルフ族が森に誘い込み、毒をばら撒き、矢で撃ち抜き、風で切り裂いて、殺す。

土精人ドワーフ族が武器を創り出し、大剣で叩き斬り、戦鎚で潰し、槍で突き刺して、殺す。

魔人エビルヒューマン族が魔法を使い、炎で焼き尽くし、闇で消し去り、氷で貫いて、殺す。

妖精フェアリー族が理を操り、出口のない水中に沈め、肉体を滅し、魂を壊し、身体を破裂させ、殺す。

ヒューマン族が技を使い、剣で斬り、魔法の炎で燃やし、非道な罠をに嵌めて、殺す。

魔物モンスター達が怒り狂い、牙で喰らい付き、爪で肉を切り裂き、肉を丸呑みして、殺す。

吸血鬼ヴァンパイア族が、血を吸い尽くし、眷属にし操り、元同胞と戦わせ、殺す。

悪魔デーモン族が、嘘で騙し、魂を喰い、四肢を切り落とし、頭を割って、殺す。

ドラゴン種が、火を吐き、雷を吐き、噛み付き、押し潰して、殺す。

獣人ワービースト族が、獣と化し、噛み付き、蹴り飛ばし、殴り付け、心臓を握り潰して、殺す。

天使エンジェル族が、聖なる光で滅し、聖なる雷で焼き払い、聖獣共に喰らわせて、殺す。

全ての種族が、分け隔てなく殺し合う。

悪夢であった。地獄であった。
全ての種族が、強さを求め、知識を求め、勝利を求めた。
意味無く死ぬことは許されない。


…確かに地獄だな。

世界中が戦争とか、地獄で無ければなんだと言うんだ。
俺も、マフィアの抗争に付き合ってたが、あれは不毛だ。
縄張りと利益の為に争って、死人が出る。
勝てるかも分からないし、負けたら受けた傷も死んだ仲間も意味が無くなる。勝ったとしても、利益があるのは一部の人間だけ。

さて…本では、人族である主人公が、子供ながら戦士になる為に剣を取り、訓練を経て大人になっていく。
何度も住んでいる集落を襲われ、昨日話した友達が。お世話になった恩人が。戦い方を教えてくれた師が、いつの間にか犠牲になっている。
そんな環境で生き延びた主人公が、多くの仲間を殺した吸血鬼の住処を見つけ、仲間と共にそこに向かおうとする。

そんな展開だ。

晃は続きを読もうと頁を捲るっていく。

「アキラ様、紅茶です」

そうすると、いつの間にか書庫に入って来ていたリアが、晃とミインの居る机に紅茶の入ったティーカップを置いた。

「ああ、ありがと」
晃は特に考えずにティーカップに手を伸ばす。
本を置き、カップに入ったスプーンを取り出して紅茶を啜る。

「熱っ!」
しかし思いの外熱く、舌を火傷した上に、手が滑って本に紅茶をぶち撒けてしまった。
「やっべっ!本が!」
晃は急いで本を持ち上げて、染み込まないように紅茶を払う。

それに気が付いたリアが本を取り上げて、タオルで拭いていく。
「悪い、本が…」
「ああ、大丈夫ですよぉ?この本は…」
リアは拭き終わった本をこちらに手渡してくる。
晃はその本を受け取ると驚いた。濡れていないのだ、それどころか湿ってすらいない。まるで紅茶なんて掛かっていないのだと言わんばかりに、変化が全く無い。

「え?どうなってんだ…これ」
「ええと、この本は劣化防止の魔術が掛けられているんですよぉ。経年劣化もしなければ、水で濡れることもないし、炎で焦げることも無いんです」
「…へぇ、凄えな。この館にある物は不思議な物ばっかりだな」
「そうですかねぇ?あ、紅茶淹れなおしますね?熱いならスプーンでかき混ぜて下さい」
「…すいません」
「いえいえ~あ、蜂蜜と角砂糖も置いておきますね~」

晃はリアが書庫から出るのを見送りながら。閉じてしまった本の続きの頁を探す。そこで、隣の席のミインに紅茶が飛んでしまっていないか、もしくは醜態を見られていないか気になり、ミインの方に急いで目を向ける。

「3.5…いや、ラムリアの定理と二重魔術デュアルマジックの公式を合わせると…18?いや、大き過ぎる…理論上では…」
何十枚の紙に数式の様なものを書き込み、他の紙や本と照らし合わせては離し、新しい紙にまた魔術式を書く。
全力で集中しており、こちらの状況が耳に入っていた様子は無かった。

「…邪魔しちゃ悪いな」
そう考えた晃は、ミインの方に紅茶が掛かってはいない事を確認すると、席に着いて本を再度読み始めた。


*********************************

晃は本の最後の頁を読み終え、そのまま机に置く。
本は厚みの分内容も厚く、かなり集中して読んでいて、その分あれから読み切るのにかなりの時間を掛けてしまった。

ミインは一段落着いたのか、今は魔術式を書くのをやめて、何かの本を読みながら蜂蜜を紅茶に入れて飲んでいる。

先程までずっと魔術式を書いていたので、当然紅茶は冷めている。

美味しかったのだが、勿体ないな。と思いつつ、晃はティーカップに残った少量の紅茶を口に運ぶ。

冷めてても美味かった。これはこれでイケると言うか…冷めてても美味しく飲める様になってると言うか、むしろ冷めてた方が味が深くなっている様にも感じる。

「え~皆様、お食事が出来上がりました~
リアの呼び声で食堂に全員が向かう。

食事は前回の様なスープなどは無く、赤いシチューがメインで、付け合わせに白パン。サラダには酸味の強いドレッシングがかかっていた。


食事を終え、寝室に戻る。

「アキラ?寝ないの?」
「…ああ、前回の事があるからな」
「…確かに…でも、ゼロも流石にもうしないと思うよ?」
「俺もそう思うけどさ…?一応な。あんまりミインに寂しい想いさせたくねえしな」
「…ん、んんぅ…」
ミインは晃の言葉を聞くと枕に顔をうずめて俯せに寝てしまった。

「おいおい、どうした?」
「なんでも、ない…」
「そうか?」
ミインはその体制のまま暫く唸っていた。
 
…なあ、照れた感じかこれ?



……

…………

………………可愛いなオイ!


結果、理解してしまった晃はミインと同じように枕に顔をうずめて唸った。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

勇者召喚に巻き込まれ、異世界転移・貰えたスキルも鑑定だけ・・・・だけど、何かあるはず!

よっしぃ
ファンタジー
9月11日、12日、ファンタジー部門2位達成中です! 僕はもうすぐ25歳になる常山 順平 24歳。 つねやま  じゅんぺいと読む。 何処にでもいる普通のサラリーマン。 仕事帰りの電車で、吊革に捕まりうつらうつらしていると・・・・ 突然気分が悪くなり、倒れそうになる。 周りを見ると、周りの人々もどんどん倒れている。明らかな異常事態。 何が起こったか分からないまま、気を失う。 気が付けば電車ではなく、どこかの建物。 周りにも人が倒れている。 僕と同じようなリーマンから、数人の女子高生や男子学生、仕事帰りの若い女性や、定年近いおっさんとか。 気が付けば誰かがしゃべってる。 どうやらよくある勇者召喚とやらが行われ、たまたま僕は異世界転移に巻き込まれたようだ。 そして・・・・帰るには、魔王を倒してもらう必要がある・・・・と。 想定外の人数がやって来たらしく、渡すギフト・・・・スキルらしいけど、それも数が限られていて、勇者として召喚した人以外、つまり巻き込まれて転移したその他大勢は、1人1つのギフト?スキルを。あとは支度金と装備一式を渡されるらしい。 どうしても無理な人は、戻ってきたら面倒を見ると。 一方的だが、日本に戻るには、勇者が魔王を倒すしかなく、それを待つのもよし、自ら勇者に協力するもよし・・・・ ですが、ここで問題が。 スキルやギフトにはそれぞれランク、格、強さがバラバラで・・・・ より良いスキルは早い者勝ち。 我も我もと群がる人々。 そんな中突き飛ばされて倒れる1人の女性が。 僕はその女性を助け・・・同じように突き飛ばされ、またもや気を失う。 気が付けば2人だけになっていて・・・・ スキルも2つしか残っていない。 一つは鑑定。 もう一つは家事全般。 両方とも微妙だ・・・・ 彼女の名は才村 友郁 さいむら ゆか。 23歳。 今年社会人になりたて。 取り残された2人が、すったもんだで生き残り、最終的には成り上がるお話。

転生したら『塔』の主になった。ポイントでガチャ回してフロア増やしたら、いつの間にか世界最強のダンジョンになってた

季未
ファンタジー
【書き溜めがなくなるまで高頻度更新!♡٩( 'ω' )و】 気がつくとダンジョンコア(石)になっていた。 手持ちの資源はわずか。迫りくる野生の魔物やコアを狙う冒険者たち。 頼れるのは怪しげな「魔物ガチャ」だけ!? 傷ついた少女・リナを保護したことをきっかけにダンジョンは急速に進化を始める。 罠を張り巡らせた塔を建築し、資源を集め、強力な魔物をガチャで召喚! 人間と魔族、どこの勢力にも属さない独立した「最強のダンジョン」が今、産声を上げる!

クラス転移したら種族が変化してたけどとりあえず生きる

あっとさん
ファンタジー
16歳になったばかりの高校2年の主人公。 でも、主人公は昔から体が弱くなかなか学校に通えなかった。 でも学校には、行っても俺に声をかけてくれる親友はいた。 その日も体の調子が良くなり、親友と久しぶりの学校に行きHRが終わり先生が出ていったとき、クラスが眩しい光に包まれた。 そして僕は一人、違う場所に飛ばされいた。

ハズレスキル【地図化(マッピング)】で追放された俺、実は未踏破ダンジョンの隠し通路やギミックを全て見通せる世界で唯一の『攻略神』でした

夏見ナイ
ファンタジー
勇者パーティの荷物持ちだったユキナガは、戦闘に役立たない【地図化】スキルを理由に「無能」と罵られ、追放された。 しかし、孤独の中で己のスキルと向き合った彼は、その真価に覚醒する。彼の脳内に広がるのは、モンスター、トラップ、隠し通路に至るまで、ダンジョンの全てを完璧に映し出す三次元マップだった。これは最強の『攻略神』の眼だ――。 彼はその圧倒的な情報力を武器に、同じく不遇なスキルを持つ仲間たちの才能を見出し、不可能と言われたダンジョンを次々と制覇していく。知略と分析で全てを先読みし、完璧な指示で仲間を導く『指揮官』の成り上がり譚。 一方、彼を失った勇者パーティは迷走を始める……。爽快なダンジョン攻略とカタルシス溢れる英雄譚が、今、始まる!

俺たちYOEEEEEEE?のに異世界転移したっぽい?

くまの香
ファンタジー
 いつもの朝、だったはずが突然地球を襲う謎の現象。27歳引きニートと27歳サラリーマンが貰ったスキル。これ、チートじゃないよね?頑張りたくないニートとどうでもいいサラリーマンが流されながら生きていく話。現実って厳しいね。

掘鑿王(くっさくおう)~ボクしか知らない隠しダンジョンでSSRアイテムばかり掘り出し大金持ち~

テツみン
ファンタジー
『掘削士』エリオットは、ダンジョンの鉱脈から鉱石を掘り出すのが仕事。 しかし、非戦闘職の彼は冒険者仲間から不遇な扱いを受けていた。 ある日、ダンジョンに入ると天災級モンスター、イフリートに遭遇。エリオットは仲間が逃げ出すための囮(おとり)にされてしまう。 「生きて帰るんだ――妹が待つ家へ!」 彼は岩の割れ目につるはしを打ち込み、崩落を誘発させ―― 目が覚めると未知の洞窟にいた。 貴重な鉱脈ばかりに興奮するエリオットだったが、特に不思議な形をしたクリスタルが気になり、それを掘り出す。 その中から現れたモノは…… 「えっ? 女の子???」 これは、不遇な扱いを受けていた少年が大陸一の大富豪へと成り上がっていく――そんな物語である。

45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる

よっしぃ
ファンタジー
2巻決定しました! 【書籍版 大ヒット御礼!オリコン18位&続刊決定!】 皆様の熱狂的な応援のおかげで、書籍版『45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる』が、オリコン週間ライトノベルランキング18位、そしてアルファポリス様の書店売上ランキングでトップ10入りを記録しました! 本当に、本当にありがとうございます! 皆様の応援が、最高の形で「続刊(2巻)」へと繋がりました。 市丸きすけ先生による、素晴らしい書影も必見です! 【作品紹介】 欲望に取りつかれた権力者が企んだ「スキル強奪」のための勇者召喚。 だが、その儀式に巻き込まれたのは、どこにでもいる普通のサラリーマン――白河小次郎、45歳。 彼に与えられたのは、派手な攻撃魔法ではない。 【鑑定】【いんたーねっと?】【異世界売買】【テイマー】…etc. その一つ一つが、世界の理すら書き換えかねない、規格外の「便利スキル」だった。 欲望者から逃げ切るか、それとも、サラリーマンとして培った「知識」と、チート級のスキルを武器に、反撃の狼煙を上げるか。 気のいいおっさんの、優しくて、ずる賢い、まったり異世界サバイバルが、今、始まる! 【書誌情報】 タイトル: 『45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる』 著者: よっしぃ イラスト: 市丸きすけ 先生 出版社: アルファポリス ご購入はこちらから: Amazon: https://www.amazon.co.jp/dp/4434364235/ 楽天ブックス: https://books.rakuten.co.jp/rb/18361791/ 【作者より、感謝を込めて】 この日を迎えられたのは、長年にわたり、Webで私の拙い物語を応援し続けてくださった、読者の皆様のおかげです。 そして、この物語を見つけ出し、最高の形で世に送り出してくださる、担当編集者様、イラストレーターの市丸きすけ先生、全ての関係者の皆様に、心からの感謝を。 本当に、ありがとうございます。 【これまでの主な実績】 アルファポリス ファンタジー部門 1位獲得 小説家になろう 異世界転移/転移ジャンル(日間) 5位獲得 アルファポリス 第16回ファンタジー小説大賞 奨励賞受賞 第6回カクヨムWeb小説コンテスト 中間選考通過 復活の大カクヨムチャレンジカップ 9位入賞 ファミ通文庫大賞 一次選考通過

大和型戦艦、異世界に転移する。

焼飯学生
ファンタジー
第二次世界大戦が起きなかった世界。大日本帝国は仮想敵国を定め、軍事力を中心に強化を行っていた。ある日、大日本帝国海軍は、大和型戦艦四隻による大規模な演習と言う名目で、太平洋沖合にて、演習を行うことに決定。大和、武蔵、信濃、紀伊の四隻は、横須賀海軍基地で補給したのち出港。しかし、移動の途中で濃霧が発生し、レーダーやソナーが使えなくなり、更に信濃と紀伊とは通信が途絶してしまう。孤立した大和と武蔵は濃霧を突き進み、太平洋にはないはずの、未知の島に辿り着いた。 ※ この作品は私が書きたいと思い、書き進めている作品です。文章がおかしかったり、不明瞭な点、あるいは不快な思いをさせてしまう可能性がございます。できる限りそのような事態が起こらないよう気をつけていますが、何卒ご了承賜りますよう、お願い申し上げます。

処理中です...