お嬢様!それは禁忌魔法です!

紺野想太

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わたしのまほう

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わたしはエヴェリーナ・フレヤ・ハマーフェルド。
ハマーフェルド公爵家の長女。
12歳で、家族と魔法が大好きなのよ!
魔法が大好き、なのだけど……



わたしには、わたしの魔法がない。



自分の魔法は、例えば物心つく前から使用していて分かったり、ある程度魔法を覚えてから魔力を使わずに済む魔法があると分かったりするというのだけれど…。

わたしは、どれだけ魔法を学んでも、使えるようになっても、見つからないのです。

お兄様たちは、わたしが新しい魔法を使うと体調を心配してくださるのだけど、わたしは元々の魔力量が人より少し多いみたいだから、調子が悪くなることはない。けれどやっぱり魔力を消費した感覚はちゃんとあって、その分お腹もすく。

……どの文献を探しても、自分の魔法がない人間がいたなんて記述はない。
だからわたしだって、きっととっても複雑な魔法というだけ。まだ知らない魔法なだけ。
そう思って、たくさんたくさんお勉強している。

魔法のお勉強には、この王国の初代国王の弟君が書き記した書物を使っているの。
魔法の解読が得意だったなんて、すごいわ!ほんとうにすごいわ!
弟君がこうして様々な魔法を文字に起こしてくださったから、今のわたしたちは魔法を学ぶことができる。
学ばなければ自分の魔法しか使えないんだもの、昔はとても不便だったに違いないわ。


「……ブレンダ、この文字はなんて読むのかしら?」

「この文字は……」

この子はわたしのメイドのブレンダ。
わたしの勉強を手伝ってくれて、魔法にも詳しくて頼りになるの。
歳は……正確にはわからないけれど、たぶんお兄様たちと同じくらいだわ。17歳か18歳か…まだお酒は飲めないと言っていたものね。
それなのにこんなに知識があって、優しくって、ほんとうに素敵なメイドなのよ!

それにね、ブレンダは特殊魔法が使えるの!
特殊魔法っていうのは、生活魔法とは違うもので、使える人はとっても少ないの。
それに特殊魔法が使える人の大半は元の魔力量が多い貴族だから、ブレンダみたいに平民で特殊魔法が使える人はきっと両手で数えられるくらいしかいないわ。

ブレンダは『人の魔法と魔力量がわかる』のが魔法らしいの。
生活に使えるかと言われたら確かに使えないかもしれないわね。
それでも弱点になりうる魔法と魔力量が分かるなんて、ここで戦をしていたら絶対に重宝される魔法だわ!
ブレンダの魔法みたいな特殊魔法のほとんどはどの書物にも書かれていなくて、再現できないから、ほんとうの意味でなのよね。うらやましいわ!
もしかして、もしかして、わたしのまほうも特殊魔法だったりなんて…!


「ブレンダ!やっぱりわたしのまほうは何か分からないの?」

本を読む手を止めて、ブレンダを見る。
ブレンダはわたしの目をみてくれる。

「……申し訳ございません。本日もお嬢様の魔法は分かりません…。」

もうわたしも、言われることはわかっているのだけれど、ブレンダはいつもいつも悲しそうな顔をする。
大好きなブレンダを困らせたくはないけれど……でもやっぱりわたしはわたしのまほうが知りたいの。


そして、胸を張って、わたしはハマーフェルド公爵家の娘ですって言いたいの。
大好きなお父様とお母様と、ロルフお兄様とマティアスお兄様と、ブレンダたちから、立派だと認めて貰えるような人間になりたいのよ。

きっとわたしがこんなでも疎まれないで幸せに生きていられるのは、周りの人々に恵まれているからだわ。
だって書物でたくさん見てきたもの。異端は排斥されるものだと、それが歴史だと知っているんだもの。
それなら幸運なわたしはせめて、周りからの優しさを受けるに値する人にならなければいけない。
勉強もマナーも、優秀じゃないと。
そして自分の魔法も使えるようになってはじめて、きっとわたしはわたしに優しくしてあげられるわ。


一度止めた手を再び本に置いて、ページを捲る。
紙のすれる音が、わたしを安心させる。
そして意識を一気に文字に戻す。


今日はどの魔法を学ぼうかしら?

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