なぜか私だけ、前世の記憶がありません!

紺野想太

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朝の身支度

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「リア、おはよう。」


頭を撫でられて目を覚ますと、お父様が横にいた。

「おっ…おはよう、ございます……お父様…」

いつからいたのか分からないけど、慌てて口元を布団で隠しながら飛び起きた。

「……おはよう、ガリアナ。」

「おはようございますお兄様…。」

お父様の後ろに立っていたのはお兄様。
兄妹だというのに挨拶すらぎこちない。だけど、そんなのきっとすぐに変わるわ。だから何となくむずがゆくて、少し嬉しい。

「起きてすぐで悪いが、準備できるか?」

「は、はい!できます!」

「そしたら着替えは…」

「父上。持ってきました。あの乳母が、辞めたメイドの部屋に隠していたみたいです。まだ宝石が盗られていないドレスが何着かあったので。」

「…ガリアナ、どれがいい?」

お兄様の更に後ろにいた執事さんが、箱を何個も重ねて持ってきてくれた。
ひとつずつ開封されてドレスが出てくる。キラキラしていてふわふわしていて、お姫様みたい。

「うーん…どれも素敵で迷います…。」

…それに、未だに私がこんな綺麗なものに触れていいのかどうか分からなくて、選ぶのが怖い。

「それなら……これはどうだ?お前の髪ともよく合う。」

お父様が差し出してくれたのは落ち着いた黄色のドレス。
宝石のような装飾は少ない分、濃いオレンジ色の細かい刺繍がいっぱい施されていて、私でも高そうなドレスだと分かる。

「きれいです…!あ、でも……」

せっかく選んでもらったものを断るのも失礼だし、でも似合わなかったら余計な気を使わせてしまうかもしれない…。

「…余計なことは考えなくていい。このドレスは気に入らないか?」

「い、いいえ!素敵です!ただ素敵すぎて、私には似合わないんじゃないかと……」

「そんなことはない。…気に入ったのなら着て見せてくれ。」

そう言われるともうこれ以上断る理由もなくなってしまう。
こんなに良いものを身につけたら、贅沢だと乳母に怒られてしまう……いいえ、もうそんなことを言う乳母はいないのね。…こうやって、少しずつ慣れていくのかしら。

ドレスに手を伸ばす。
すると父上は執事さんと並んでいたメイドさんを呼び出した。

「新しいメイドだ。着替えを手伝ってくれる。」

「本日よりお手伝いさせていただきます。メイドのデルマと申します。ガリアナお嬢様、よろしくお願いいたします。」

「あ…えっと、お願いします。メイドさん。」

「ふふ、私のことはぜひデルマとお呼びください。それにお嬢様にそのような口調で話されますと恐縮してしまいますわ。楽にお話し下さいませ。」

「じゃ…じゃあ、よろしくね、デルマ。」

「はい。では早速お着替え致しましょうか。」



お父様たちが部屋を出て、私とデルマだけになる。
優しそうな微笑みの、まだ若いお姉さんというかんじの人だから怖くはない。…けど、やっぱり緊張はしてしまう。

「お嬢様?まずはお顔を。こちらのお水をどうぞ。」

そうして差し出された水は、乳母が持ってきていたものとは違ってあまり冷たくない。水というよりぬるま湯だ。

「……あたたかい。」

「あら、お嬢様は冷たいほうがお好きでしょうか…?」

「ううん、こっちのほうが手が痛くならないのね。ありがとう。」

「いいえ!これが私の仕事ですから!さぁお次はお着替えですよ!」

テキパキと身なりが整えられていく。
ドレスは昨日お兄様がくださったようなファスナーのものではなくて、後ろの紐で締め上げるものだったから一人ではきっと着れなかったわ。

「…よし…。お綺麗ですよお嬢様!」

髪もいつもの簡単にまとめたものではなくて、なんだか手の込んだハーフアップ。
青白い肌に粉をたたいて、唇には淡いピンクの口紅をつけてもらったら、鏡に映っていたのは自分ではないみたいだった。

「いかがですか?」

「……すごい…すごいわデルマ。私じゃないみたい…」

「何を仰いますか。お嬢様は元々とってもお綺麗ですから、今日のメイクはそれを引き立てるためのものです。」

「…あ、ありがとう…。」

「とんでもございません。……旦那様方にお披露目しましょうか。」

「うん…。気に入ってくださるかしら…?」

「まぁ!気に入るだなんて…そんな心配なさらないでください。絶対、ぜーったい!大丈夫です!」

デルマに励ましてもらって、私はお父様たちを呼んだ。
本来は私からお部屋に向かうべきなのだけど、お父様たちは私の部屋の外で待ってくれていたから。

何て言われるのかしら。何も言われないかもしれない。少し震える手を強く握って、扉がゆっくりと開くのを眺めていた。
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