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家族と朝食
しおりを挟む扉が開いて、お父様たちが再び部屋に入ってくる。
何て思われるのか怖くて、恥ずかしくて、せっかくお化粧もしてもらったのに俯いてしまう。
「…よく似合ってるぞ。」
近くまで来たお父様は、そう言って私を抱き上げた。
「では…食事にしよう。久しぶりに、家族で。」
「……はい…!」
たったひと言だけれど、私にはそれで十分だった。嬉しくて、もし抱えられていなかったらきっと飛び跳ねていたかもしれない。
…すると、お父様の肩越しにお兄様と目が合った。
「…いいんじゃないか。き、昨日のほうが似合ってたと思うが…!」
褒めてくれるのにそっけないお兄様。でも自然と笑顔になってしまった。
「…本日のドレスは旦那様がお選びになったものですから、あまりにお似合いで嫉妬しているのですよ。」
執事さんが小声で教えてくれる。
ふ、と勝ち誇ったように鼻で短く息をこぼしたお父様は、私の背中をぽんぽんと優しく叩いた。
「着いたぞ。」
私の脚では遠く感じた食堂でも、お父様の脚では一瞬で着いてしまった。
椅子に座らせてもらうと、既に目の前にはたくさんの料理が並んでいる。
コーンのスープとジャムのパンも並んでいて、それ以外にもトマトのスープにパンは5種類くらい。あとはサラダと……お肉かしら。なんのお肉かはわからないけど、いい香りがする。
「リアはこのスープとパンが好きだと聞いた。でもそれだけだと栄養が偏るから、他のものも食べてくれ。少しずつでいいから。」
お父様に促され、あれもこれもと食べてしまう。
料理長のおじいさんが私の後ろに立って、味付けはどうか、好きな物はなにかと聞いてくれるけど、私はにとっては全部美味しいから選びきれないわ。
私のご飯はできるだけ消化にいいようにと工夫してもらったから、お父様たちが食べるものとは少し違うけど、それでも数年ぶりに家族でご飯を食べることができて幸せだと思った。
ここにお母様もいてくれたら……と思ってしまう。それはきっとお父様もお兄様も考えていることだろう。元々口数の少ないお父様やお兄様を補うように、お母様はとても明るくたくさんのお話を聞かせてくれた。それに比べると3人の食事は静かなものだった。…でも、嫌な静けさじゃない。あたたかい空気が流れている。
「リア。この後の予定だが、服を仕立てようと思っていたが…食べてすぐは採寸も苦しいだろうから、先にお前の教育係を紹介する。」
「教育係……?」
「あぁ。一般的な教養や社交界のマナー、それにお前が知りたいことはなんでも聞くといい。」
「…ど、どんな先生なのですか…?」
「クラウス・スピラという。歳は…今は17か。我が騎士団長の次男だ。護衛も兼ねている。」
「クラウス先生…。わかりました。先生やお父様たちに失礼のないように、精一杯頑張って学びます。」
「ガリアナ。クラウスに何かされたらすぐ俺に言うんだぞ。」
お兄様がお皿の上のお肉にナイフを突き立てながら言う。そんなに怖い先生なのかしら…?
「失礼しまーす!おじょーさまはここですね!?」
バン!と大きな音を立てて扉が開いた。驚きすぎて心臓が飛び出るかと思ったわ…!
音の方を見ると、真っ赤に輝く髪が印象的な男の人の姿があった。
「いた!はじめまして、でいいのかな?おれはクラウス・スピラ。おじょーさまの教育係兼護衛係として今日からずっと一緒だよ!よろしくね!」
私と目が合うなりすごい速さで駆け付けてきたクラウス先生は、私の手をとってぶんぶんと上下に振り回した。
急な出来事で何も言えない私に、お父様は頭を抱えてため息をつき、お兄様の肩は震えている。
「ク……クラウス・スピラ!ガリアナが怯えてるだろう、その手を離せ!」
「そう?驚かせてごめんね、そんなつもりはなかったんだけど…。へへ、待ちきれなくて会いに来ちゃった!」
大きな声で諌めるお兄様に怯える様子もなく、平然としている。すごいわ。私だったらしばらく立てなくなってしまうかもしれないのに。
「……クラウス・スピラ。リアの手を握るんじゃない。それと、後でお前の父にも報告するからな。」
お父様に言われてようやく手が離れた。
でも全く悪びれる様子はない。
「とーさまならこの感じ、分かってくれると思うんだけどなぁ…。なんか、おれの主人!ってかんじで待てなくて。あ、でも今は挨拶の挨拶に来ただけだから戻るね!またあとでね、リアおじょーさま!」
ニコニコ笑ったまま、私に手を振ってクラウス先生は戻って行った。なんだか先生…という雰囲気ではなかったけど…。
「おいクラウス!お前がリアと呼ぶのは許さないからな!!」
……でも、なんだかんだでお兄様とは仲が良さそうだわ。
クラウス先生がいなくなり、食堂は再び静かになる。
「はぁ……なんであんな奴が王立学院の首席なんだ……。」
「騎士団長は真面目だが好奇心も旺盛だからな…。息子のうち長男は真面目な男だが、その分次男は好奇心ばかりだ。……だが、そのおかげで奴の知識量は膨大だ。きっとリアの役に立つだろう。…まぁ…私の知る限り1番の適任が奴だというのは少々……はぁ…。」
な、なんだかわからないけどお父様も手を焼くすごい方ということは分かったわ。それにお兄様がさらっと流していたけれど、王立学院の首席……ってとってもすごいことよね?
私は心配よりもずっと大きなわくわくを抱えながら、美味しいスープを飲み干した。
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