なぜか私だけ、前世の記憶がありません!

紺野想太

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教育係兼護衛係、兼、

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「あ!や~っと来た!さっきぶりだねリアおじょーさま!」

「く、クラウス先生…!」


食事後、お父様とお兄様に連れられて客間に向かうと、クラウス先生が白いお菓子を食べながら私に手を振った。

「あは!クラウス先生って呼び方いいねぇ!でもさ、おれ一応護衛係も兼ねてるし?ついでに友達も兼ねるってことでクラウスおにーさまって呼ぶのはどう?」

「許すわけないだろ!?」

私より先にお兄様が声をあげる。

「なんだよヘルベルト。おれはおじょーさまの意見を聞いてるの!ね、どう?」

じっと見つめられて息が止まる。
優しく笑っているのに、満天の星空のような瞳には全て見透かされているみたいだ。

「え……と…ク、クラウス…おに…」

「ガリアナ…!」

「あ、でも待った!やっぱナシ!」

「……え?」

突然止められて呆気にとられる私をよそに、クラウス…様?は話し出した。

「だっておにーさまって呼ぶのに慣れちゃったらさ、リアおじょーさまはおれのこと男として見れなくなっちゃうかもでしょ?…もちろんそういう意味で、ね?」

人差し指を唇にあてて、パチンとウインクする姿はとても様になっている。
でも……私には刺激が強い。顔が熱くなってしまうわ。

「クラウス貴様!俺は認めないからな!たとえ万が一、ガリアナが血迷って貴様を選んだとしても俺は絶対に!認めないからな!!」

「えぇ…おまえそんなキャラだったっけ?ま、決めるのはリアおじょーさまだからね。」

「えっと…結局、なんとお呼びすれば…?」

「おじょーさまはなんて呼びたい?おれのこと。」

「クラウス…様……?」

「う~ん、かたいなぁ!……そうだ、クラウシーでいいよ。特別ね?」

「クラウシー…?」

「そ。親しい人しか呼ばないけど…すぐそうなるでしょ?おれたち。だから問題ないね!」

「わ、分かりました。クラウシー様、これからご指導よろしくお願いいたします……!」

「ん!様は後々とるとして、素直で可愛いおじょーさまにはこれをあげちゃおう。おれの賢さの秘訣!口開けて?」

ちょいちょいと手招きされて近寄ると、さっきクラウシー様が食べていたものと同じ白い塊を私の唇に寄せた。無意識のうちに口を開けてしまう。

「……!あっっま……!?」

「んふ、美味し?」

美味しいというか、もはやお菓子ではない。砂糖の塊だ。角砂糖そのものだ。

「クラウス、お前のその狂った味覚に適合するものを勝手に正常な人間に与えるな。」

「え?でも口を開けて食べたのはおじょーさまだよ。……ね、おれがあげるものは全て安心していいけど、社交界では気を付けてね?初対面、まして年上の男なのにそんなに簡単に口を開けちゃって、毒や媚薬でも入ってたらどうする?おじょーさまに悪意を抱く人間は、おれが言ったように飲み込んだといくらでも言えちゃうんだから。」

私の頭をぽんと撫でながら、笑顔のままのクラウシー様が言う。……危機感が足りない、このままでは誰でも簡単にお前を殺せるぞ、ということだと思うと、途端に背筋が凍った。

でも、いつまでも引きこもってばかりじゃいられない。
だから私は学ばなきゃいけないんだ。一人でも、ハルトマン侯爵家として恥ずかしくない振る舞いをするために。


「わ…私、頑張ります。なので…!」

「怖がらせすぎちゃったかな?ごめんね。でも一番大切なのはきみの命だから、一歩でも屋敷の外に出たら口にするものは全て警戒してね。ま、先におれが毒味するからあんまり気負わなくていいけどさ!……おれ、普段はちゃんと優しいから嫌いにならないでね?」

「なりません!私のために教えてくださるのに嫌いになんて……!」

「よかった!ヘルベルト、おまえの妹ちゃんは素直でいいなぁ。おまえと違って!」

「……ガリアナ、くれぐれもこいつに気を許しすぎるなよ。こいつのことは飢えた狼だと思うんだ。」

「きゃーそんな目でおれを見てたの?心外だなぁ。おれって一途なタイプなんだけど?あ……そっか、そうだったんだ…ふ~ん…今までおまえの気持ちに気付けなくてごめんね?」

「…ふふ、仲がよろしいのですね?」

「ち、ちがっ……!ガリアナ誤解だ!」

必死に私に否定するお兄様だけれど、どこか楽しそう。…というより、年相応?
お兄様は私の5歳上だから、クラウシー様より2つ歳下なはずだけど、そんな歳の差を感じないくらい息の合った会話のテンポが可笑しくて思わず笑ってしまった。

「うんうん!笑うともっと可愛いね!おじょーさま、笑顔は武器になるからね。たくさん笑って、たくさん幸せになろうね!」

「…はい…!」



クラウシー様も、私に起こった出来事を知っているはず。それなのに、無理に同情しようとはせず、ちゃんと今の私を見てくれる。
私にはない記憶のことなんてわからない。私は10歳の、なにも知らないガリアナ・ハルトマンだ。…だから、クラウシー様のよそよそしくない話し方がとても嬉しい。


「挨拶は済んだな。リア、採寸に行こう。それと好きな服を選んでくれ。靴もな。」

部屋の奥で何も言わずに見守っていたお父様が、私を抱える。
まだ慣れないし恥ずかしいけど…でも、靴ができるまでだもの。いまのうちにこの温かさをおぼえておかないと。

「侯爵さま、おれもついてっていいですよね?なんたって侯爵さま直々に指名された護衛ですから!」

「…大人しくしているんだぞ。」


よし!と喜ぶクラウシー様に、お兄様が小言を言っている。
これからたくさん見ることになりそうね。

そうして私たちは、採寸のための部屋に向かった。
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