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初めてのお出掛け ②
しおりを挟むフロリアン様とクラウシー様の背中を押した勢いで外に出てから、私は外の明るさに驚いて空を見上げた。
芝の感触なんていつぶりだろうか。もうほぼ忘れかけていた草と土の香りが一気に私を包んだ。
「わぁ…」
「リア。行こうか。」
フロリアン様に手を取られて、私は歩き出した。
手を引いてくれているのに強引さは全くなくて、とても優しい。手を繋ぐのが初めてではないみたいに安心してしまった。……そういえば私、誰かと手を繋ぐなんて初めてだわ……!
「ふ…フロリアン様、て、手が、あの…!」
「あ…嫌だった?ごめんね、つい癖で……」
パッと手が離れる。フロリアン様は少し悲しそうな顔をしながら、屈んで私に目線をあわせてくれた
「嫌とかじゃなくて、ただ…」
「ただ?」
「あの、フロリアン様は、は、はずかしく……ないのですか?」
俯きがちにそう言うと、フロリアン様は小さく笑って私の手を握った。
「恥ずかしくないよ。こんなに可愛い子と手を繋げるなんて幸せだな~とは思うけどなぁ。リアは僕と手を繋いでるのを人に見られるの、恥ずかしい?」
「えぁ、そんな!フロリアン様がどうとかじゃなくて、私が!慣れてないので…!」
「ふふ。そっか。じゃあゆっくり慣れてってほしいな。」
「はいはい。そこまでで~す。おじょーさまもこう言ってることだし、今日は手なんか繋がなくてもいいでしょう?」
クラウシー様が私とフロリアン様の間に入った。
こうして目の前に来ると、クラウシー様の背中はフロリアン様やお兄様よりずっと大きくて逞しい。お友達のような先生だと思っていたけれど、やっぱり騎士様なのだわ。
そんなクラウシー様を全く気にしてないように、肩を軽く押し退けたフロリアン様と再び目が合う。
「リア?今日はクラウス卿もいるしリアに気を使わせちゃうからリアの言う通りにするよ。僕は君のペースに合わせるから心配しないでね。」
「ふん。なら最初からやめとけばいいのにな。」
「あぁそうか、クラウス卿は知らないかもしれないけど…僕はリアと手を繋いで歩くのが普通だったから、つい。今後は気を付けますよ。」
なんだかお二人の言い合いはお兄様とクラウシー様の言い合いとは違う雰囲気がするわ。お二人とも笑っているのに笑っていないような…?
フロリアン様が用意してくださった馬車に乗って少しすると、大通りから少し外れた閑静な道に入り、止まった。
「着いたよ。あ、降りるのに手を貸すのは大丈夫?」
「は、はい。ありがとうございます。」
フロリアン様の手を借りて馬車から降りる。
私は家から出たことがないから、目の前に並ぶ小さな建物がお店なんだと気付くと胸がドキドキしはじめた。
「ここはね、大通りよりも古くからある店の通りで腕のいい職人が多いんだ。その分値も張るから庶民はあまり来なくて静かなんだけど、ゆっくり見ることができるよ。ショッピングの雰囲気には物足りないかもしれないけど……。」
フロリアン様から説明されて外観を改めて見ると、確かに看板は年季が入ったものがほとんどだ。文字が掠れてしまっているものも少なくないけれど、きっとそれでも腕の良さを知る人は買いにくるから関係ないのね。
「リアはどの店に入りたい?アクセサリー、ドレス、香油、刺繍糸の店なんかもあるよ。」
私に委ねられた選択肢はどれもキラキラしたものだった。たった数日前まで、私の選択肢といえば何を手に取っても同じようなドレスだけだったから。
「えっと、そうしたら…香油のお店に行ってみたいです…!」
ドレスもアクセサリーも昨日たくさん買っていただいたから、香油をみてみよう。
ラベンダーのほかにはどんな香りがあるのかしら。
「うん。じゃあこっちだよ。」
一本道とはいえ、たくさんのお店が並ぶ中から迷わずに香油のお店に行けるなんてすごいわ。
そう思って歩き出すのが少し遅れてしまったら、フロリアン様が不安そうな顔で振り返った。
「…あ、まって誤解しないでね?この通りはその、未来?過去?の君と何度も来たから自然と覚えたんだ。他のレディーと来たとか、そういうことは絶対ないからね?」
「え?は、はい。」
そっか、考えていなかったけどそうだったんだ…。私はどんなものが好きだったのかな。どんな風に楽しんでいたんだろう。ちゃんと楽しめていたのかな。
「……ふふ。リアはね、きっと香油の店を気に入るよ。君が1番好きな香りを当てようか?」
「それ、知ってるなら反則なんじゃないですか?」
「クラウス卿は護衛だろう?着いてきてくれればいいよ。」
「……なぁリアおじょーさま、おれがおじょーさまに似合いそうなやつ選んだげる。入ろっか!」
「あ、ちょっと…!」
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