なぜか私だけ、前世の記憶がありません!

紺野想太

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初めてのお出掛け

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気がつけば眠ってしまっていたみたいで、すっかり朝になっていた。

昨日見つけた妖精さんの手紙のおかげかもしれないわ。夢は覚えてないけど、いつもよりすっきり目覚めた気がするもの。

私は手紙を枕の裏に隠して、ベッドから降りた。
ちょうどそのとき、デルマが扉をノックした。

「お嬢様。朝のお支度の準備が整いました。」

「ありがとう、入っていいですよ。」

「失礼致します。…お嬢様はとても早起きなのですね。」

「うん。毎日勝手に目が覚めちゃうの。」

「まぁ、とても立派です!では今後は毎日このくらいの時間にお伺いいたしますね。さぁ、こちらのお湯をお使いください。」

いつも通り起きただけなのに、デルマから褒められて嬉しくなった。
まだ笑顔に違和感があるせいで、きっと変な顔になってしまったけど、私にとっては満面の笑顔になっていたと思う。

顔を洗い終わり、着替えにはいる。

「…そういえば、お嬢様。昨晩はよくお眠りになられましたか?」

「えぇ。あのね…」

妖精さんが、と言いかけて思いとどまった。
もしかして、妖精さんがこの話を聞いていて、二度と現れなくなってしまったらどうしよう。
そもそも、妖精さんを信じてもらえなくておかしな子だと呆れられるかもしれない。

「…お嬢様?」

「あ…あのね!きっとデルマが夜につけてくれた香油のおかげだわ。とってもいい香りがして…気が付いたら眠っていて、一度も起きなかったの。」

「あら、それは良かったです!色んな香油がありますから、それだけでもお嬢様はこれからもっとたくさんの好きなものを見つけられますね。」

「……ふふ、そうだよね。ありがとう!」

「私こそ、お嬢様のお役に立てて光栄ですわ。」


デルマに身支度を整えてもらって、私は食堂に向かった。
お父様とお兄様に挨拶をして、一緒にあたたかいご飯を食べる。私はまだスープのものが多いけれど、いろんな種類を作ってくれるから特別みたいで嬉しくなる。

「……奴が…」

ふと、お父様が口を開いた。

「やつ?」

「あぁ、いや…。ウェブスター卿が、今日はお前と2人で出掛けたいと言っていた。だが……ここ数日慌ただしかったし、お前もゆっくりするのが必要だろう?断るか?」

そういえば、目が覚めて混乱している私に優しく状況を説明してくれたのはフロリアン様だった。ドレス選びもずっとずっと褒めてくれていたけれど、2人でちゃんとお話ししたことはないのよね。

「いえ、お父様にお許しいただけるならお出掛けしてみたい……です……!」

きっとお父様は許してくれると分かっていた。でも、自分からお願いするのは初めてで緊張してしまって、手を強く強く握りしめていた。

「…………まぁ……お前がそうしたいなら、するといい。あまり遅くならないように。それと、クラウスも連れて行け。護衛騎士も5…いや10人付けよう。」

少しの沈黙の後、肯定してくれたお父様の言葉で手の力が抜ける。

「そ、そんなにですか…?あまり遠くではないでしょうし、5人でも十分だと思いますが…。」

「父上、確かに護衛騎士が多すぎると注目を集めてしまいます。それでもし求婚の手紙なんぞが増えたら…。」

「む…そうだな。では護衛騎士5人、影5人にしよう。それならいいだろう?」

「影……?」

「お前を影から守ってくれる存在だ。安心していいぞ。」

「は、はい。ありがとうございますお父様。」


この時、私は知らなかった。
『影』と呼ばれる人は、1人で護衛騎士10人に匹敵するくらい凄い人だということを。…侯爵家にも、たった8人しかいない『影』の5人を私の僅かなお出掛けにつけるなんて、ありえないことなのだと。




「おじょーさま!今日は俺も着いてくからね。絶対離れないでね。」

デルマにお出掛け用の服に着替えさせてもらってから玄関に行くと、既にクラウシー様が待ってくれていた。

「お待たせしてしまいごめんなさい。次からは絶対お待たせしないように気をつけますので…!あの、今日はよろしくお願いいたします!」

「んふ、素敵なレディーを待つ最高に楽しい時間をおれから奪わないでよ、おじょーさま。さぁ行こう。手でも繋ごうか?エスコートさせて?」

「え、えっと……」

「その必要はないですよ、クラウス卿。本日は僕がリアをエスコートしますので、のんびり着いてきてくださいね。」

私が戸惑っていると、フロリアン様が私の手を取った。

「おま…んんっ、フロリアン卿。どうしてこちらに?」

「お迎えにあがったんですよ。こちらの執事がここまで案内してくださったので。…それで、クラウス卿は何をしていたんですか?私の婚約者に。」

「へぇ、それはご丁寧に。おれがついてるので迎えは要らなかったんですけどね。伝えるのを失念していたせいで御足労をおかけして申し訳ない。…あと、おじょーさまはまだ誰の婚約者でもないことはもう話し合い済みですよね?」

「え、えぇと…とりあえず、行きませんか?私、お出掛け楽しみにしてたんです!」


すぐ言い争いになってしまうおふたりの背中を押して、玄関から出た。

このおふたりと一緒で大丈夫かしら…?
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