なぜか私だけ、前世の記憶がありません!

紺野想太

文字の大きさ
11 / 20

誰にも見えない妖精さん

しおりを挟む


クラウシー様、フロリアン様と別れ、私たちは家族で夕食をとった。


「……そういえば、リア。すっかり言うのを忘れてしまっていたが……。誕生日、おめでとう。」

「あ……」

そっか。私も忘れていたけど、昨日は私の誕生日だった。……誕生日おめでとう、なんて祝ってもらえたのは、記憶の中では初めてだ。

「おめでとうガリアナ。…そうか、庭の花が一斉に咲き始める時期だもんな。」

「お父様、お兄様…。あの、ありがとう…ございます…。」

「プレゼントは何がいい?パーティーはリアがちゃんとご飯を食べられるようになってからするつもりだったんだが、欲しいものがあるなら教えてくれ。」

「そんな、プレゼントにパーティーなんて…!今日買っていただいたドレスで十分です!」

「あのドレスは日用品だろう。プレゼントはもっと特別なものを選ぶといい。」

特別なもの、と言われても、私にとって特別が何なのかがわからない。
そもそも私には知識がないから、欲しいものと言われて思い浮かぶものがないのだわ。部屋の中のものしか知らないし…。絵本で見た豪華なお城や、かっこよくて優しい王子様なんていうのがおとぎ話だということは知ってしまっている。

「……あ…それでは、1度だけでいいので…お母様の部屋に入る許可をください。」

そうだ、私にもあった。特別なもの。
お母様の部屋では泣いてばかりだったけど、それでもやっぱり、大切な思い出は全てあの部屋に詰まっているから。

「…なんだ?この家にお前が入ってはならない場所なんてない。……乳母に言われたんだな?」

「え、えぇ……ある日突然、今日からお父様の許可無くお母様の部屋に入ってはいけないと…。」

「そうか…。とにかく、リア。あの部屋に出入りするのは自由だ。…そうだ、あの部屋の引き出しを開けたことはあるか?」

「いいえ…」

「……1番上の引き出しに、日記がある。そこに、きっとリアとの思い出が書かれている。読んでみるといい。お前がいかに愛されているのか、知ることができるはずだから。」

「分かりました。……その、私、簡単な文字と単語しか読めないので…たくさんお勉強します。」

「あぁ、それがいい。……では、プレゼントはゆっくり考えてくれ。時間はあるからな。」

「……はい。」



その後少しして、部屋に戻った。

デルマがお風呂の準備をしておいてくれていて、とてもいい香りのハーブを使って髪を整えてくれた。ラベンダーといって、リラックス効果があるから、ゆっくり眠れるはずだと教えてくれた。


「お嬢様。それではおやすみなさいませ。」

「うん…おやすみなさい、ありがとうデルマ。」

デルマが部屋の灯りを消して出ていく。
ひとりきりの部屋になると、これまでは安心していたはずの夜の静けさがなんだか恐ろしく感じた。

体はくたくたに疲れているのに、意識だけがはっきりしている変な感覚。
考えてみれば、お父様たちと一日中一緒にいて、失礼のないようにと気を張りすぎていたんだろう。

眠ろうと目を閉じても、色んなことを考えてしまって全然眠れそうにない。
お父様たちに未来の記憶があるとか、乳母のこととか……。私にとっては、たった一晩で全てが変わってしまったのだ。……未来の私は、どんな人だったんだろう。…嫌な人じゃ、ないといいな……。

なんだか不安になってきて、私はうつ伏せになり枕をぎゅっと抱きしめた。
すると…枕の後ろに、何か紙が置いてあった。

「……なに、これ…」

2つ折りになっている小さな紙。自分で置いた記憶はない。

開いてみると、文字が書かれているが、やはり自分の文字ではない。


『ねむれないときは
まくらをだきしめて。
そうしたら、私がきっと
すてきな夢をお見せしましょう』


誰からのものかわからないけど、私が眠れないことを知っているの…?

私は昔から、不安になったり寂しくなったりするとこうして枕を抱きしめて眠る癖があった。
でもそれを知る人はいないはずなのに…。

「……もしかして、妖精さん?どこかで私を見ているの?」

小さく呟いてみるけれど、返事はない。

それでも、この手紙の言う通りに枕を抱きしめて眠れば、いい夢が見られる気がした。


これが、私と不思議な妖精さんの、初めての出会いだった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

目覚めたら魔法の国で、令嬢の中の人でした

エス
恋愛
転生JK×イケメン公爵様の異世界スローラブ 女子高生・高野みつきは、ある日突然、異世界のお嬢様シャルロットになっていた。 過保護すぎる伯爵パパに泣かれ、無愛想なイケメン公爵レオンといきなりお見合いさせられ……あれよあれよとレオンの婚約者に。 公爵家のクセ強ファミリーに囲まれて、能天気王太子リオに振り回されながらも、みつきは少しずつ異世界での居場所を見つけていく。 けれど心の奥では、「本当にシャルロットとして生きていいのか」と悩む日々。そんな彼女の夢に現れた“本物のシャルロット”が、みつきに大切なメッセージを託す──。 これは、異世界でシャルロットとして生きることを託された1人の少女の、葛藤と成長の物語。 イケメン公爵様とのラブも……気づけばちゃんと育ってます(たぶん) ※他サイトに投稿していたものを、改稿しています。 ※他サイトにも投稿しています。

【完結】悪役令嬢だったみたいなので婚約から回避してみた

22時完結
恋愛
春風に彩られた王国で、名門貴族ロゼリア家の娘ナタリアは、ある日見た悪夢によって人生が一変する。夢の中、彼女は「悪役令嬢」として婚約を破棄され、王国から追放される未来を目撃する。それを避けるため、彼女は最愛の王太子アレクサンダーから距離を置き、自らを守ろうとするが、彼の深い愛と執着が彼女の運命を変えていく。

好きすぎます!※殿下ではなく、殿下の騎獣が

和島逆
恋愛
「ずっと……お慕い申し上げておりました」 エヴェリーナは伯爵令嬢でありながら、飛空騎士団の騎獣世話係を目指す。たとえ思いが叶わずとも、大好きな相手の側にいるために。 けれど騎士団長であり王弟でもあるジェラルドは、自他ともに認める女嫌い。エヴェリーナの告白を冷たく切り捨てる。 「エヴェリーナ嬢。あいにくだが」 「心よりお慕いしております。大好きなのです。殿下の騎獣──……ライオネル様のことが!」 ──エヴェリーナのお目当ては、ジェラルドではなく獅子の騎獣ライオネルだったのだ。

死に戻ったら、私だけ幼児化していた件について

えくれあ
恋愛
セラフィーナは6歳の時に王太子となるアルバートとの婚約が決まって以降、ずっと王家のために身を粉にして努力を続けてきたつもりだった。 しかしながら、いつしか悪女と呼ばれるようになり、18歳の時にアルバートから婚約解消を告げられてしまう。 その後、死を迎えたはずのセラフィーナは、目を覚ますと2年前に戻っていた。だが、周囲の人間はセラフィーナが死ぬ2年前の姿と相違ないのに、セラフィーナだけは同じ年齢だったはずのアルバートより10歳も幼い6歳の姿だった。 死を迎える前と同じこともあれば、年齢が異なるが故に違うこともある。 戸惑いを覚えながらも、死んでしまったためにできなかったことを今度こそ、とセラフィーナは心に誓うのだった。

悪役令嬢の役割は終えました(別視点)

月椿
恋愛
この作品は「悪役令嬢の役割は終えました」のヴォルフ視点のお話になります。 本編を読んでない方にはネタバレになりますので、ご注意下さい。 母親が亡くなった日、ヴォルフは一人の騎士に保護された。 そこから、ヴォルフの日常は変わっていく。 これは保護してくれた人の背に憧れて騎士となったヴォルフと、悪役令嬢の役割を終えた彼女とのお話。

黒騎士団の娼婦

イシュタル
恋愛
夫を亡くし、義弟に家から追い出された元男爵夫人・ヨシノ。 異邦から迷い込んだ彼女に残されたのは、幼い息子への想いと、泥にまみれた誇りだけだった。 頼るあてもなく辿り着いたのは──「気味が悪い」と忌まれる黒騎士団の屯所。 煤けた鎧、無骨な団長、そして人との距離を忘れた男たち。 誰も寄りつかぬ彼らに、ヨシノは微笑み、こう言った。 「部屋が汚すぎて眠れませんでした。私を雇ってください」 ※本作はAIとの共同制作作品です。 ※史実・実在団体・宗教などとは一切関係ありません。戦闘シーンがあります。

身代わり令嬢、恋した公爵に真実を伝えて去ろうとしたら、絡めとられる(ごめんなさぁぁぁぁい!あなたの本当の婚約者は、私の姉です)

柳葉うら
恋愛
(ごめんなさぁぁぁぁい!) 辺境伯令嬢のウィルマは心の中で土下座した。 結婚が嫌で家出した姉の身代わりをして、誰もが羨むような素敵な公爵様の婚約者として会ったのだが、公爵あまりにも良い人すぎて、申し訳なくて仕方がないのだ。 正直者で面食いな身代わり令嬢と、そんな令嬢のことが実は昔から好きだった策士なヒーローがドタバタとするお話です。 さくっと読んでいただけるかと思います。

悪役令嬢の心変わり

ナナスケ
恋愛
不慮の事故によって20代で命を落としてしまった雨月 夕は乙女ゲーム[聖女の涙]の悪役令嬢に転生してしまっていた。 7歳の誕生日10日前に前世の記憶を取り戻した夕は悪役令嬢、ダリア・クロウリーとして最悪の結末 処刑エンドを回避すべく手始めに婚約者の第2王子との婚約を破棄。 そして、処刑エンドに繋がりそうなルートを回避すべく奮闘する勘違いラブロマンス! カッコイイ系主人公が男社会と自分に仇なす者たちを斬るっ!

処理中です...