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誰にも見えない妖精さん
しおりを挟むクラウシー様、フロリアン様と別れ、私たちは家族で夕食をとった。
「……そういえば、リア。すっかり言うのを忘れてしまっていたが……。誕生日、おめでとう。」
「あ……」
そっか。私も忘れていたけど、昨日は私の誕生日だった。……誕生日おめでとう、なんて祝ってもらえたのは、記憶の中では初めてだ。
「おめでとうガリアナ。…そうか、庭の花が一斉に咲き始める時期だもんな。」
「お父様、お兄様…。あの、ありがとう…ございます…。」
「プレゼントは何がいい?パーティーはリアがちゃんとご飯を食べられるようになってからするつもりだったんだが、欲しいものがあるなら教えてくれ。」
「そんな、プレゼントにパーティーなんて…!今日買っていただいたドレスで十分です!」
「あのドレスは日用品だろう。プレゼントはもっと特別なものを選ぶといい。」
特別なもの、と言われても、私にとって特別が何なのかがわからない。
そもそも私には知識がないから、欲しいものと言われて思い浮かぶものがないのだわ。部屋の中のものしか知らないし…。絵本で見た豪華なお城や、かっこよくて優しい王子様なんていうのがおとぎ話だということは知ってしまっている。
「……あ…それでは、1度だけでいいので…お母様の部屋に入る許可をください。」
そうだ、私にもあった。特別なもの。
お母様の部屋では泣いてばかりだったけど、それでもやっぱり、大切な思い出は全てあの部屋に詰まっているから。
「…なんだ?この家にお前が入ってはならない場所なんてない。……乳母に言われたんだな?」
「え、えぇ……ある日突然、今日からお父様の許可無くお母様の部屋に入ってはいけないと…。」
「そうか…。とにかく、リア。あの部屋に出入りするのは自由だ。…そうだ、あの部屋の引き出しを開けたことはあるか?」
「いいえ…」
「……1番上の引き出しに、日記がある。そこに、きっとリアとの思い出が書かれている。読んでみるといい。お前がいかに愛されているのか、知ることができるはずだから。」
「分かりました。……その、私、簡単な文字と単語しか読めないので…たくさんお勉強します。」
「あぁ、それがいい。……では、プレゼントはゆっくり考えてくれ。時間はあるからな。」
「……はい。」
その後少しして、部屋に戻った。
デルマがお風呂の準備をしておいてくれていて、とてもいい香りのハーブを使って髪を整えてくれた。ラベンダーといって、リラックス効果があるから、ゆっくり眠れるはずだと教えてくれた。
「お嬢様。それではおやすみなさいませ。」
「うん…おやすみなさい、ありがとうデルマ。」
デルマが部屋の灯りを消して出ていく。
ひとりきりの部屋になると、これまでは安心していたはずの夜の静けさがなんだか恐ろしく感じた。
体はくたくたに疲れているのに、意識だけがはっきりしている変な感覚。
考えてみれば、お父様たちと一日中一緒にいて、失礼のないようにと気を張りすぎていたんだろう。
眠ろうと目を閉じても、色んなことを考えてしまって全然眠れそうにない。
お父様たちに未来の記憶があるとか、乳母のこととか……。私にとっては、たった一晩で全てが変わってしまったのだ。……未来の私は、どんな人だったんだろう。…嫌な人じゃ、ないといいな……。
なんだか不安になってきて、私はうつ伏せになり枕をぎゅっと抱きしめた。
すると…枕の後ろに、何か紙が置いてあった。
「……なに、これ…」
2つ折りになっている小さな紙。自分で置いた記憶はない。
開いてみると、文字が書かれているが、やはり自分の文字ではない。
『ねむれないときは
まくらをだきしめて。
そうしたら、私がきっと
すてきな夢をお見せしましょう』
誰からのものかわからないけど、私が眠れないことを知っているの…?
私は昔から、不安になったり寂しくなったりするとこうして枕を抱きしめて眠る癖があった。
でもそれを知る人はいないはずなのに…。
「……もしかして、妖精さん?どこかで私を見ているの?」
小さく呟いてみるけれど、返事はない。
それでも、この手紙の言う通りに枕を抱きしめて眠れば、いい夢が見られる気がした。
これが、私と不思議な妖精さんの、初めての出会いだった。
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