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初めてのお出かけ ④
しおりを挟む「あ…とてもいい香り」
8つめのビンを嗅いでみると、甘く優しい花の香りがした。
私がつぶやいた言葉につられて、クラウシー様とフロリアン様がそばに来てくれた。
「それ、気に入った?」
「は、はい!」
「えーと…あぁ、オスマンサスか。確かにいい香りだね。この季節に残っているのは珍しいな。」
身長的に棚上の説明文が読めない私のために、クラウシー様が説明してくれたけれど…初めて聞く名前だわ。
「オスマンサス……?」
「うん。秋の月にほんの少しの期間だけ咲く花だよ。近くにあれば、花を見つけるより先に香りで気が付くくらい甘い香りがするんだ。」
「そうなんですね。さっぱりしているはちみつみたいで、とても好きな香りです…!」
「ふふ。かわいいね、リア。結婚したら庭園中にオスマンサスの木を植えようか。」
フロリアン様に頭を撫でられる。慣れていないことばかりするフロリアン様には戸惑ってしまうけど、とても優しいのは伝わってくるから嫌じゃない。
「おじょーさま、おれから侯爵さまに頼むから明日にでも木を植えてもらおう。そしたら長いこと待つ必要もないでしょ?」
「また余計な事を……。騎士はあまり自分の意見を主人に述べないほうがいいんじゃないかな?」
「おれは騎士であり侯爵さま直々に命じられた教育係なんで。それに、おじょーさまが万が一にも間違った道に進まないよう助言は必要じゃないですか。あぁ、フロリアン卿との結婚を言っているわけではないですから邪推しないでくださいね?だってそんな話はまだ両家に出てもいないんですから。」
また始まってしまった。
お二人の言い合いは来る途中の馬車の中でも何度もあったし、ここでも目が笑っていないのに笑っているお二人が話している。
せっかく三人で出掛けられたのに、私は蚊帳の外みたいで少しだけ悲しいわ。
「あ、あの、難しいことは分かりませんが、喧嘩はやめてください…。その、悲しく、なるので…」
「え!?!?喧嘩なんてそんなことしてないよおじょーさま!ね?フロリアン卿!おれたち仲良しだもんね!?」
「そ、そうだよリア!これはこういう……あの…遊び、そう遊びなんだ。ほら、見て!僕たち手を繋いで肩を組むくらい仲良いんだよ!ごめんね、リアには伝わりにくかったよね。男同士の遊びってこういう感じなんだ。次から気を付けるからね。」
フロリアン様とクラウシー様は、まるでダンスを踊るかのような格好で笑っている。
私の勘違いだったなら遊びを止めてしまって申し訳ないわ……。それに、あんなに怖いくらい言い合いした後にこんなに密着するのが男性同士の遊びだなんて。女性と比べて外に出て集団で働く機会が多いからかしら?不思議ね。
「……そうだったんですか。遊びを止めてしまってごめんなさい…。」
「い、いや、もうやめておこうかな、3人で来たんだしおじょーさまが楽しいことだけしよう!…おい離せよもういいだろ!」
「そ、そうだねリアのために出掛けてるんだからね。……君は敬語すら使えなくなったのか!?そっちが先に離せよ!」
にこにこと話した後に小声でなにか必死に言い合っているお二人の様子は、さっきよりもずっと仲が良さそう。
……それにしても、全然離さないわね、手。むしろ見てわかるくらい強くぎゅっと握っている。本当に仲が良かったんだわ。私が世間を知らないせいで勘違いしてしまっていたのね。
その後、私たちはビンを3つ選び、婦人に香油をつめてもらってお店を出た。
お支払いは護衛でついてきてくれた騎士の方がしてくれたけど、はじめてお店でお買い物ができてとても楽しかったわ。
「リア。次はどうする?ほかの店を見て回ってもいいし、お茶もいいね。それともここから移動して公園に行こうか。」
「まだ時間も早いし、おじょーさまは食事の管理が必要だから他の場所に行こう。お腹が空いたら言ってね、軽食は預かってきているから。」
「そうか。それなら、リアはどこに行きたい?」
「あ…私、は…。どこか、ゆっくり座ってお話し出来るようなところに行きたいです。」
「うん、じゃあいい場所があるよ。……ほんとは僕とリアだけの場所だったんだけど…まぁいいか。新しく見つければいいもんね。」
フロリアン様はまた私の頭に手を置くと、護衛騎士の方たちに行き先を告げた。
再び乗り込んだ馬車は、ゆっくり進みだす。
私は揺れ動く窓の外を眺めながら、穏やかな日差しに微笑んだ。
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