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第一章 カラス色の聖女
司祭との面会2
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案内役の男性に従い、部屋の外へと歩みを進める。今回リサは部屋でお留守番らしい。
扉の外はシンプルだが木のあたたかみを感じるような作りであった。小鳥は昨夜もここを通ったのだが、疲れていた上に小さな灯りだけで道を照らされていたため、辺りは暗くあまり周りを観察する事が出来なかったのだ。
階段を降り、幾つか角を曲がりながら進んで行く。恐らく昨夜は通らなかった場所だ。扉を開けると花々が美しい庭に面した外回廊に出た。こちらの季節も春なのだろうか。降り注ぐ日差しは暖かだが、空気が少し冷んやりとしている。
(他の子たちはもう先に集まってるのかしら?よそ者同士仲良くできればいいな)
そんな事を考えているうちに目的の場所に着いたらしい。案内役の男性は、立派な両開きの扉の前で足を止めた。小鳥に少し待つように言うと、その扉を叩いた。
「司祭様、失礼致します。聖女様をお連れ致しました」
「ああ、入ってください」
案内役の男性が扉を開くと、昨夜も見たローブを着た男性が立っていた。優しそうな雰囲気を纏った中年の男性だ。
出迎えてくれたその男性の後ろには、召喚された他の二人ももう集まっており、どこか緊張した面持ちで椅子に腰掛けている。どうやら小鳥が最後の到着だったらしい。
小鳥は案内に従い、こげ茶の長い髪を持つ美人の隣の椅子に腰を下ろした。
「君はもういいですよ、ご苦労様でした。下がってください」
司祭と呼ばれたローブの男性がそう声を掛けると、扉は閉められた。部屋の中には昨夜召喚され、どこかから呼び出され三人と、司祭と呼ばれた彼の四人だけになった。
「聖女様方、御足労いただき感謝致します。昨夜はゆっくりとお休みになれましたでしょうか?まずは私の自己紹介からさせていただきましょう」
胸の前で手を交差し、恭しく頭を下げる。司祭と呼ばれた彼が身につけている、神父の服のデザインに似た濃紺の服が揺れる。
「私の名前はバレンドと申します。ここ、ライシェント神殿において様々な儀式を執り行っております。司祭として四十年以上神殿にお仕えし、神々のためにこの身を捧げております」
そう言い終えると小鳥たちの向かい側に腰を下ろす。
「まず、こちらの事情についてお話しさせていただます。我々の世界は今、穢れに満ちているのです。――」
そう言ったバレンド司祭から説明された事情はこうだ。
この世界には穢れによる瘴気が発生しており、それを浄化する必要がある。瘴気だけを払う事は神殿の人間でも出来るそうだが、穢れを根本的に解決するには強い力を持つ聖女が必要とらしい。
この世界にも聖女と呼ばれる存在はしているが、数百年の間にそういった力を持つ者が激減し力も弱くなった。そのため、より強い力を持つ聖女を召喚が必要となったのだが、なぜかここ数十年召喚が成功しなかったらしい。
(キラキラ魔法ファンタジーの予感が……!!)
元の世界にあまり未練のない小鳥の心はにわかに沸き立った。せっかくこんな非現実的なことになったのならば、漫画に見るような魔法溢れる世界であって欲しかったのだ。
「それで呼ばれたと?そちらの事情は分かったが、呼び出されたこちらは何一つ利点がない」
隣に座るこげ茶の髪の美人は、鋭い眼光をバレンド司祭に向ける。静かな怒りがその身からじわじわと溢れる。
「私たちは元いた場所に帰れるのですか?きっとお父様やお母様が心配していますわ。それに魔法は使えますが、浄化などと言うものは聞いたこともないですし、やり方も存じ上げません」
小鳥よりも年下に見える赤毛の子は胸の前で手を重ね、長いまつ毛を震わせながら訴える。
「お怒りや戸惑いはありますでしょう。ですが、どうかご協力ください。問題が解決した暁にはきちんと元の場所へお送り致します。その際には、こちらから相応のお礼の品をご用意いたしましょう」
「私はこちらでの生活を保証してもらえるのなら問題ありません。それにもし嫌だと断ったとしても、きっと素直に元の場所へ返してくれないでしょう?」
小鳥の言葉にバレンド司祭は困ったように眉尻を下げる。彼は召喚までしたのだ。小鳥たちから何と言われようとも、さっさと元の世界へ返すようなは事はしないだろう。
「そうですね………。そのかわり、当然こちらでの生活は神殿が責任を持って保証致します。お申し付けいただければ必要な物を迅速にご用意致しましょう」
小鳥がチラリと横に目を向ければ、二人には諦めの色が浮かんでいた。どんなに訴えても無駄だと悟ったのだろう。
「聖女様方。申し訳ないのですが、どうぞこの世界のためよろしくお願い致します。今後、皆様は共に活動をする事が増えるでしょう。お名前を今のうちにお伺いできればと思います。……その前に。お茶が冷えてしまいましたね。新しいものを用意致しましょう」
ふわりと微笑むとバレンド司祭は懐からベルを取り出した。チリンと小さくベルを鳴らせば、先程案内をしてくれた男性が扉から静かに現れる。
新しいカップとお茶を用意されている間に、部屋の中の張り詰めた空気が少し緩んだ。お茶の入れ替えが終わると、男性はワゴンと共に退出して行く。室内にはまた四人だけになった。
「では私から名乗らせてもらおうかな」
白磁のカップからコクリと一口お茶を飲むと、こげ茶色の長い髪の美人が最初に口を開いた。
扉の外はシンプルだが木のあたたかみを感じるような作りであった。小鳥は昨夜もここを通ったのだが、疲れていた上に小さな灯りだけで道を照らされていたため、辺りは暗くあまり周りを観察する事が出来なかったのだ。
階段を降り、幾つか角を曲がりながら進んで行く。恐らく昨夜は通らなかった場所だ。扉を開けると花々が美しい庭に面した外回廊に出た。こちらの季節も春なのだろうか。降り注ぐ日差しは暖かだが、空気が少し冷んやりとしている。
(他の子たちはもう先に集まってるのかしら?よそ者同士仲良くできればいいな)
そんな事を考えているうちに目的の場所に着いたらしい。案内役の男性は、立派な両開きの扉の前で足を止めた。小鳥に少し待つように言うと、その扉を叩いた。
「司祭様、失礼致します。聖女様をお連れ致しました」
「ああ、入ってください」
案内役の男性が扉を開くと、昨夜も見たローブを着た男性が立っていた。優しそうな雰囲気を纏った中年の男性だ。
出迎えてくれたその男性の後ろには、召喚された他の二人ももう集まっており、どこか緊張した面持ちで椅子に腰掛けている。どうやら小鳥が最後の到着だったらしい。
小鳥は案内に従い、こげ茶の長い髪を持つ美人の隣の椅子に腰を下ろした。
「君はもういいですよ、ご苦労様でした。下がってください」
司祭と呼ばれたローブの男性がそう声を掛けると、扉は閉められた。部屋の中には昨夜召喚され、どこかから呼び出され三人と、司祭と呼ばれた彼の四人だけになった。
「聖女様方、御足労いただき感謝致します。昨夜はゆっくりとお休みになれましたでしょうか?まずは私の自己紹介からさせていただきましょう」
胸の前で手を交差し、恭しく頭を下げる。司祭と呼ばれた彼が身につけている、神父の服のデザインに似た濃紺の服が揺れる。
「私の名前はバレンドと申します。ここ、ライシェント神殿において様々な儀式を執り行っております。司祭として四十年以上神殿にお仕えし、神々のためにこの身を捧げております」
そう言い終えると小鳥たちの向かい側に腰を下ろす。
「まず、こちらの事情についてお話しさせていただます。我々の世界は今、穢れに満ちているのです。――」
そう言ったバレンド司祭から説明された事情はこうだ。
この世界には穢れによる瘴気が発生しており、それを浄化する必要がある。瘴気だけを払う事は神殿の人間でも出来るそうだが、穢れを根本的に解決するには強い力を持つ聖女が必要とらしい。
この世界にも聖女と呼ばれる存在はしているが、数百年の間にそういった力を持つ者が激減し力も弱くなった。そのため、より強い力を持つ聖女を召喚が必要となったのだが、なぜかここ数十年召喚が成功しなかったらしい。
(キラキラ魔法ファンタジーの予感が……!!)
元の世界にあまり未練のない小鳥の心はにわかに沸き立った。せっかくこんな非現実的なことになったのならば、漫画に見るような魔法溢れる世界であって欲しかったのだ。
「それで呼ばれたと?そちらの事情は分かったが、呼び出されたこちらは何一つ利点がない」
隣に座るこげ茶の髪の美人は、鋭い眼光をバレンド司祭に向ける。静かな怒りがその身からじわじわと溢れる。
「私たちは元いた場所に帰れるのですか?きっとお父様やお母様が心配していますわ。それに魔法は使えますが、浄化などと言うものは聞いたこともないですし、やり方も存じ上げません」
小鳥よりも年下に見える赤毛の子は胸の前で手を重ね、長いまつ毛を震わせながら訴える。
「お怒りや戸惑いはありますでしょう。ですが、どうかご協力ください。問題が解決した暁にはきちんと元の場所へお送り致します。その際には、こちらから相応のお礼の品をご用意いたしましょう」
「私はこちらでの生活を保証してもらえるのなら問題ありません。それにもし嫌だと断ったとしても、きっと素直に元の場所へ返してくれないでしょう?」
小鳥の言葉にバレンド司祭は困ったように眉尻を下げる。彼は召喚までしたのだ。小鳥たちから何と言われようとも、さっさと元の世界へ返すようなは事はしないだろう。
「そうですね………。そのかわり、当然こちらでの生活は神殿が責任を持って保証致します。お申し付けいただければ必要な物を迅速にご用意致しましょう」
小鳥がチラリと横に目を向ければ、二人には諦めの色が浮かんでいた。どんなに訴えても無駄だと悟ったのだろう。
「聖女様方。申し訳ないのですが、どうぞこの世界のためよろしくお願い致します。今後、皆様は共に活動をする事が増えるでしょう。お名前を今のうちにお伺いできればと思います。……その前に。お茶が冷えてしまいましたね。新しいものを用意致しましょう」
ふわりと微笑むとバレンド司祭は懐からベルを取り出した。チリンと小さくベルを鳴らせば、先程案内をしてくれた男性が扉から静かに現れる。
新しいカップとお茶を用意されている間に、部屋の中の張り詰めた空気が少し緩んだ。お茶の入れ替えが終わると、男性はワゴンと共に退出して行く。室内にはまた四人だけになった。
「では私から名乗らせてもらおうかな」
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