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35話

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 ――なんだ、この感覚は! 幻術にでも掛けられているのか?

 様々な所を襲う一瞬の強い振動と、そこから湧き上がる得体のしれない感覚。
 痛みでもかゆみでも痺れでもない、エルザは初めて感じる感覚に戸惑っていた。
 それが『性感』というものであるとも知らずに。

 身体のあちこちに振動が走るたびにビクッ、ビクッと反応してしまう。
 エルザは幼いころから厳しい訓練に耐えてきた。
 痛みに対しても強く、例え拷問されようと簡単に音を上げない自信がある。
 その自分が、意志で抑え込もうとしても反応を止められない。

 強い刺激の中に隠れる微かな甘い感覚。
 まだ直接胸や股間を刺激されている訳ではなく、だからこそエルザはその正体に気付いていない。
 身体が次第に汗ばみ、息が上がってくるのは何故なのか。
 それが性的快感によるものだという事が、未経験のエルザには分からない。
 その未知の感覚がエルザの警戒心と恐れを強めた。

「アハンッ」

 ――この男は危険だ。

 エルザは直感的にそう感じた。
 剣を振るって斬りかかろうとしても、その瞬間に脇に振動が来て勢いが鈍る。
 相手の剣を弾き返そうとした瞬間、首筋が刺激されて押し込まれる。
 しかもその振動がどういう方法で送られているのかさえ分からないのだ。

 ――だが、それでも負ける訳にはいかない。喉笛を食い破ってでもこの男を倒さなければ。

 エルザの黒い瞳に炎が燃え上がった。
 
 


 ――ムフフ、効いてる効いてる。

 ユウスケはすっかり調子に乗っていた。
 相手が斬りかかって来るたび、こっちが斬りかかるたびにピンポイントの振動で撃ち抜く。
 するとその瞬間聞こえる「ハウンッ」とか「ウッ」というエロい吐息。
 もちろん大きな声ではなく、観客には到底聞こえないだろう微かな物だ。
 しかもその度に身体はビクッと反応する。
 そのモジモジした感じが何とも艶めかしい。
 相手がまだ年端もいかない美少女だときたらなおさらだ。
 
 ――まだまだこれはお遊び。序の口だよ。

 あれだけ強かった力も刺激のせいで発揮できないようだ。
 顔が思わずニヤけてしまいそうになるのを必死に押さえる。
 
 ――そろそろお兄ちゃん、本気だしちゃおうかな。そうなったらどうなっちゃうのかなあ?





「いったいどうしたのだ! エルザ、手を抜いている場合ではないぞ!」

 黒狼将軍ドリスが立ち上がり、急に動きの悪くなったエルザを大声で叱咤する。
 当初一方的に押しているかに見えたエルザだが、ユウスケが受け流しに成功したところから流れが変わった。
 動きが鈍り、攻めあぐねている様子が観客席からも手に取るようにわかる。
 そのあまりの変わりように観客席からも疑念の声が上がった。

 ――奥の手を使ったな。アレに耐えられる者はいまい。

 白龍将軍パリスにはエルザの動揺が手に取るようにわかった。
 もちろんタリアとミネバにとっては尚更だ。

「かわいそうに、アイツもうダメですね」

「ああ、こうなったらユウスケに勝つことは出来ないな」

 二人はユウスケのバイブレーションの威力を思い出して無意識のうちに内腿をすり合わせた。





 ――これ以上手をこまねいている訳にはいかない。

 エルザは一発逆転の決意を固めた。
 大剣を居合のように腰に構え、低い姿勢を取る。
 弾む息を整え、神経を集中する。
 
 ――動き出せばきっとまたアレが来るだろう。だが、それを無視して決めてみせる。

 エルザが狙うのは闇の技『影縫い』だ。
 低い体勢のまま地を這うように走り、一刀の下に相手の脛を斬る。
 一般的に足を狙うのは卑怯だとされ、また切先を下に向けるのは避けるべきだとも言われる。
 だが闇の術には卑怯も何もない。
 相手が予測していないところだからこそ有効なのだ。




 ――仕掛けてくる気だな。

 ユウスケはエルザの気迫を感じ取っていた。
 タリアから『絶頂複写』の性魔法で写させて貰った『薙ぎ払い』のスキルを用意する。
 同時に振動バイブの呪文を2発セット。
 その照準はエルザの身体の中で最も輝く二つの点――乳首と女芯クリトリスだ。
 百発百中の電マスナイパー、この距離で外すことはない。




 ――いくぞ!

 エルザは更に姿勢を低くし、そのまま駆けた。
 予期し、覚悟していた刺激はやってこない。
 その代わりにユウスケが剣を横に振って『薙ぎ払い』のスキルを発動するのが見えた。

 ――その程度か!

 扇状に広がりながら飛んでくる『薙ぎ払い』の衝撃波。
 だがそれはエルザにとって良く知る物であり、脅威ではない。
 全力で駆けたまま大きく弧を描いて波動を避け、そのままユウスケの斜め背後に出る。
 ここからの攻撃なら完全に死角だ。

 ――もらったっ!!
 
 間合いまで接近し、まさに剣を振ろうとしたその瞬間。
 とてつもなく鋭い衝撃に撃ち抜かれた。

 ザザアッ!

 全身を硬直させたエルザはその勢いのまま地面を転がった。
 抜こうとしていた大剣もすでにその手から離れ落ちている。
 
「あ゛あ゛あ゛……」

 エルザは訳も分からず、地面の上で身体を繭のように丸めていた。
 全身に力を込めて耐えながら、意味のない声を上げながらただ振動に翻弄されるだけ。
 次第にその振動は胸と股間から起こっていることが分かる。
 だがそこから生まれる鋭い刺激はエルザの全身を縛っていた。




「な、なんだ。いま何が起きたのだっ」

 ドリス将軍をはじめ、レズリス国王やベルモア達も騒然となった。
 攻撃を仕掛けたエルザが突如地に転がり身動きできなくなったのだ。

「何をしている、エルザ立てっ! 立って剣を取るのだ!」

 ドリスの声が虚しく響く。

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