OCEAN LINE 〜あの空を我が手に〜

ハーミット

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オーストラリア奪還計画

第二話「静皇帝。動皇帝」

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 講堂を後にした神崎定進には東京校を卒業した三歳歳上で、異能を持った最初の世代今年二十歳になる半田冬はんだとうと会食する事になっていた。

 半田冬は元々日本海洋希望の会が生み出した異能力者の中で最も優れているとされた男。そして、神崎定進を奮起させて日本海洋希望の会のランキング一位に登りつめる手助けをした存在。

 彼には才能タレントと言うコードがある。その能力は数多くあり、今もずっと増え続けている。しかし、それらの強さは群を抜かないが、その数と汎用性でランキング一位に選ばれていた。
それは、神崎定進達を含める次世代異能力者が活躍し始めるまでで、今となってはランキングの順位も落ちている。

 「いやぁ、それにしても久しぶりだね定進くん。今月は色々な所に回っていたから全然会えなくて寂しかったかな」

 「俺の方は一つ変わった事がありますよ。」

 津田穂月と言う存在はやはり神崎定進の生活を大きく変えていた。

「そうか、定進くんも段々と成長してるんだと思うと嬉しいよ」

 神崎定進は高校生となる前は今の様に異能力を、自分を主張する事はなかった。その異能力は三歳の時に発現し、その頃は物心もつく前で異能力を使い多くの人に迷惑をかけてしまっていた。

 少し大きくなった神崎少年はその異能力の使用を控え、どうしても必要な時にだけ使う事として、過去の過ちを償おうと思っていた。

 そして、小学高学年から中学の期間に関してはのびのびと異能力を使い生活をしている他生徒に対し、神崎定進は一人その能力を秘めて過ごしている。その為クラスでは時に目立つ事も無くただ、普通に生活をしていたのだが、神崎定進の能力についてその真価を知る者がいた。

 かつて能力が発言した彼に幻想のコードネームをつけた清水翔という老人だけはそれを覚えており、日本の希望と言われていた半田冬が次に皆を引っ張って行く存在を捜していると聞きつけて、幻想の神崎定進と言う有能な子供がいる事を伝えていた。

 それを聞いた半田冬は神崎定進を次世代のリーダーにすべく当時中学三年生だった彼と接触した。

 「君が神崎定進くんだね?」
 半田冬は神崎定進の帰り際を待ってその校門から出てくる所を見計らい声をかけた。話しかけて来た人物が半田冬だと言うことには中学生だった神崎定進でもすぐに分かった。

 細いタレ目で、基本的にニコニコしている男。見覚えのある黒い制服のブレザーは日本海洋希望の会の学校の生徒である証。

 そんな人物は一人だけしか思いつかなかった。噂に聞く半田冬とはこの男なのだと、即座に思えた。

 「あの、東京の高校の生徒会長さんが俺に何の用なんですか?」

 年上を前に神崎定進は小さな声でそうつぶやく様に返事を返した。半田冬の当時の噂は、ニコニコしながら相手を言い負かして従わせる男。怖さに優しさが加わり、より恐怖を感じる様な人物と聞いていた。

 「君は確か来年高校に入ってくるんだよね?そこで頼みたい事があるんだ」

 こんな何も凄い噂もない自分に何を頼もうと言うのか、不思議でたまらなかった。

 「え?俺にですか?多分他にもっと相応しい人がいますよ?そんな人を紹介して欲しいって言うのなら出来るかもしれないですが…」

 「いや、僕は君に次のリーダーになってもらう為に来たんだ。他の人から君は他人想いで優しい奴だとよく聞く。そして、君はどうやらひた隠しにしているようだけど、その異能力は僕からしても羨ましいくらいにとても強い力だ。そんな君にだからこそ頼みたいんだ」

 しかし、神崎定進には過去があった。その異能力を使いその評判を最低にまで落としていた過去がある。その様に人に迷惑をかけた能力をひけらかす事は出来ない。

 「俺はこの能力を使う気にはなれません」

 暗くそう返事を返す。

 「それは、小さい時に周りの人に多くの迷惑をかけたからだね?僕はそれも聞いているよ。今その能力を使っても君は人に迷惑をかけるような使い方をするのかな?」

 半田冬のその笑顔はまるで自分に攻め込んで来ているかの様なプレッシャーを放っていた。

 「いや、今ならそんな使い方は絶対にしない…」

 相変わらずニコニコとしている半田冬の笑顔の奥の表情は少し緩み、そしてまた彼は話しだす。

 「正直、今まで迷惑をかけて来た分より君はその能力を使ってみんなを助けられるんじゃあないかな?そうすれば小さい時に迷惑をかけた人々も、小さかった頃の事を小さい子供だったんだから仕方ないと許してくれるよね?けど、今のままだとただ人に迷惑をかけない人であって、小さかった頃の借りは返せてないんじゃないかな?」

 能力を使えば人々を助けられることは知っていた。しかし、あの時能力を無駄に使ったりしないと心に誓った事を、真面目な神崎定進は破りたくなかった。でも、この出会いは、この人はそれを終わらせても良いと言っている。きっと人々を助ける事ができる自信はある。

 それならば能力を使うべきだろう。

 「わかりました。俺はみんなの為に何をすれば良いですか?」

 半田冬の笑顔から溢れ出すプレッシャーは消え、初めに話しかけてきた時の緩やかな笑顔に戻っていった。

 「僕はランキング一位になったんだけどね、その能力は平凡を寄せ集めた様な能力で、みんなを引っ張って行けるほど大きな力じゃないんだ。だから君にはその能力を使ってみんなを導く先導者になってもらいたい。そしてその為に孤独になる覚悟も持ってもらうよ?」

 半田冬は最後にした確認が要らない事を知っていた。神崎定進には元々話すような友達もいなかった。一人でクラスの為に働く空気、それが当たり前になっていた。そこまで調べて半田冬は神崎定進に接触した為に、孤独を強いるのは用意な事くらい理解していた。

 「俺は、元から孤独です…」

 そう言われるのは分かっていたが、悲しそうなその様子から半田冬の胸が少しえぐられる。

 「でも、定進くんが頑張ればきっとそれに着いてきてくれる人が現れる筈だから、人を思いやる気持ちを忘れないでいればこの孤独はいつか晴れるはずだよ。じゃあまたね定進くん。僕はこれから東京に戻って君が来年東京校に入ってこれるように手配して来るよ」

 そんな出会いから神崎定進は高校に入った時から幻想の持つ真の力を発揮して、この地位を確立した。

 そして、神崎定進と半田冬は裏でそれぞれ動皇帝、静皇帝と対比されている。しかし、動皇帝である神崎定進の内側は誰よりも皆の事を考えている。静皇帝と言われる半田冬の内側は多少を押し殺しても目的を進める強い意志を持っている。

 対立するからそこ、調和が取れることもある。
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