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2章(5)
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変な噂が流れている、と矢萩彩花は会って早々に切り出した。まだメニュー表も見ていなければ、コーヒーの注文すらしていない。
晴は普段より厚く塗ったファンデーションに居心地の悪さを感じながら、彩花の顔を見た。
「変な噂って?」
注文を聞きに来た店員にコーヒーを二杯注文して、彩花は晴に身を寄せ、声を潜める。
「八尋くんいるじゃん? 八尋静。あの子が、同級生たちに復讐するために日本に帰って来たって」
コートを脱ぎかけた晴の手が止まった。彩花も自分で言ったくせに、いまいち納得していないような、それでもなにかに怯えているような表情を見せている。
彩花は静へのいじめに加わらなかった数少ない人間だ。実家が農家で、繁忙期には畑仕事の手伝いでろくに学校へ来ていなかったことも関係しているだろう。学校での人間関係よりも、実家の仕事を重んじているところが、晴には彩花がとても大人に見えて、こうして大人になったいまでも仲良くしている。
それでも、彩花の言っていることはにわかには信じられなかった。
「なんでそんな噂が流れてるの?」
彩花が口を開きかけた時、店員がやってきてコーヒーを二杯、テーブルに置いていった。店員が去るのを待って、コーヒーで唇を湿らす。
「八尋くんをいじめてたグループがあるでしょ? 戸田とか、内川とかそこらへん」
「うん、同窓会にも来てたね」
晴の頭には、快活そうな彼らの笑顔が浮かぶ。同窓会で会った時は、静をいじめ、静を庇う晴に敵対心を持っていたことなど忘れたように呑気に話しかけてきたけれど。
「戸田も内川も、同窓会の後に亡くなったんだよ」
「えっ……?」
二人が、亡くなった? 同窓会の後に?
コーヒーカップを持つ手が、カタカタと震えた。鉄の塊を飲み込んでしまったかのように、胃の底がずっしりと重くなる。
「――なんで?」
「戸田は社用車で事故って、内川は仕事帰りに電車に撥ねられたって……ねぇ、おかしいと思わない? こんな短期間に二人も亡くなるなんて、さ――」
彩花の顔には、わずかに怯えの色が見えた。
ただ、不幸な事故が続いただけだ。晴は自分に言い聞かせる。ただの偶然。静が関係しているわけがない。戸田も内川も、過去に自分のしたことが巡り巡って自分に降りかかっただけだろう。二十七歳という若さで亡くなってしまったことは残念だけれど、不慮の事故は防ぎようがない。
晴は震える手でコーヒーカップを置くと、まっすぐに彩花を見つめた。
「たまたま、不幸が重なっちゃっただけじゃない? どうしてそれが、静の復讐なんて話に――」
「玲奈たちもやられたんだよ!?」
彩花が声を荒げて席を立ち上がる。店内の視線が、一斉にこちらを向いた。彩花をなだめて座らせようとした晴は、その顔を見てぎょっとした。彩花の目は、見えないものを見てしまったように怯えて、白目が赤く充血している。目の縁に溜まった涙がぶわっと盛り上がり、彩花の頬を伝った。
「落ち着いて……皆、見てるから」
彩花の肩に手を置くと、彼女は力を抜いて席にへたり込んだ。こんなに取り乱す彩花を、いままで見たことがない。どこか場所を移動したほうがいいような気もしたが、泣いている彩花を連れ回すことはできない。
周囲の人の視線がぱらぱらと散っていくのを確認しながら、晴も腰を下ろした。
「玲奈って、尾長玲奈さんのこと?」
彩花が頬を拭いながら、こくこくとうなずく。彩花とは、家が近かったはずだ。尾長玲奈もまた、戸田や内川と同じように静のいじめを主導していた主犯格グループの一人だが――。
「彼氏の家から帰ってる時に、襲われたって……」
こらえきれなかった嗚咽が、彩花の喉元からもれる。ほとんど口の付けられていないコーヒーを見ながら、晴は必死にかけるべき言葉を探した。しかしなにを言っても、彼女をなぐさめることはできなさそうだった。
それに彩花は「玲奈たち」と言った。ということは、まだ他にも同じような目に遭った同級生がいるということだ。背筋を冷や汗が伝う。暑いのか寒いのか、自分でもよくわからない。
「犯人は――」
「捕まったよ。中国人の男が、三人」
晴の喉がひゅっと音を立てる。
「どう考えてもおかしいじゃん……! 同窓会があった後から、立て続けに八尋くんをいじめてた人たちが死んだり、襲われたり……皆、次は自分かもしれないってビビってるんだよ!?」
なにも、言い返せなかった。一幸を殺せばいいと言った時の、静の残酷でいて美しい瞳を見てしまっていたから。もしかすると彼ならばやるかもしれないという、悪い想像が頭に焼き付いて離れない。
静はなぜ、日本に帰って来たのだろう? 母親が亡くなり、中国に留まる理由がなくなったから? それとも本人が言っていたように、晴に会うため? そんなものは建前で、本当は自分をいじめた同級生をずっと恨んでいて……。
どうすればいいの、という低い呟きに晴ははっと顔を上げた。
「晴なら、八尋くんと話せるんでしょう? ねぇ、なんとかしてよ……晴は皆が死んでもいいっていうの?」
「そんなことは思ってないよ……」
彩花はこの一連の出来事がすべて静の手によるものだと信じ切っている。正直、晴も偶然にしては出来すぎているとは思っているが、静のやったことだと決めつけるわけではない。
静に聞いてみて、望むような答えは得られるだろうか? 彩花の言う通り、同級生の中で静を一番よく知っているのは自分だという自負がある。
晴はすっかり冷めてしまったコーヒーを飲み干すと、伝票を手に立ち上がった。
「私が静に話してみるからさ……彩花はあの、あんまり一人で外出歩いたりしないほうがいいよ」
「わかってる、皆にもそう言ってる」
それから、と彩花は言いにくそうに切り出した。
「皆、晴のことも怖がってるんだ。八尋くんと繋がってるから」
一瞬、なんのことを言われているのかわからなかった。けれど、彩花の涙で濡れた気まずそうな顔を見ているうちに思い至る。
晴は、スマホを取り出すとメッセージアプリを開いた。
「同級生のグループチャットから、抜けたほうがいいってことだよね?」
「うん、ごめん……」
「彩花が謝ることじゃないって」
たった三回のタップで、晴は同級生たちの輪からはじき出される。特別仲のいい人といえば彩花と他の数人くらいしかいなかったが、それでも退室のマークをタップする時は心が痛んだ。
ぐずぐずと鼻を鳴らしながら、彩花も立ち上がる。
晴の心を占めるのは、どんよりと重い、不安の影だった。
◇ ◇ ◇
彩花の言っていることが本当なのか、たしかめようもないまま月日は流れた。あの日以来、静はパート先のカフェにも姿を見せない。メッセージを送っても、何日経っても既読がつかない。
家とパート先を行き来するだけの、変化のない日々が晴を蝕む。
そして静との連絡が取れない以上に、晴は一幸との関係に頭を悩ませていた。
「実家、って……」
夕食の最中。一幸が切り出してきたのは、一幸の実家で義両親と一緒に暮らそうという提案だった。提案なんて、生易しいものではない。晴の意見など、一幸には必要ないからだ。一幸はすでに決定事項であるかのように、味噌汁の椀に箸を入れたまま言った。
「子どもが産まれた時に、同居のほうが楽だろう? 子どもにとっても、祖父母が近くにいるほうがいいに決まってる」
「でも、まだ子どもなんて」
一幸のひんやりとした視線が、突き刺さった。その目が言っている。また、妊娠できなかったのか、と。
ごめんなさい、と晴は呟いて味のしない米を口に運んだ。
「俺だって、いつまでも若くないんだぞ。お袋や親父も、すぐに年寄りになる。お前のせいで、どれだけの人間が損をするかわかってんのか?」
一幸の言葉が、ぐるぐると頭の中を回る。役立たずの子宮。妻としての働きもできない女。嫁として失格。お前なんて、いないほうがいい。
晴は自分でも気づかないうちに立ち上がっていた。ダイニングテーブルの椅子が、音を立てて倒れる。
晴はふらふらと一幸の足元に跪くと、フローリングの床に額をこすりつけた。
「離婚、してください」
ガチャン、と食器が乱暴に置かれる音がする。一幸が立ち上がる気配がして、晴は手を伸ばし、彼の脚にすがりついた。
「お願いします、離婚してください!」
晴を突き動かすのは、解放されたいという一心だった。恥も外聞もなく、晴は物乞いのように一幸の脚にまとわりつく。
「やめろよ! 気持ち悪い」
一幸が脚を振る。爪先が心臓の辺りに鋭く食い込み、晴は手を離して身体を二つに折った。痛みで喘ぐ間もなく、強い力で髪が引っ張られる。晴の髪を掴んで顔を上げさせた一幸は、奇妙なほどに冷静な顔をして諭した。
「お前に離婚を切り出せる権利なんてないだろうが」
一幸の整った顔は、赤くも青くもない。妻に離婚を切り出されたというのに、至って普通に、夕食を食べている途中のままの顔をしている。その目には、怒りも悲しみも浮かんでいない。不思議なほどに凪いだ目をしていた。
「もう一回、離婚したいなんて言ってみろ」
頭皮ごと引きちぎられるのではないかと思うほど、きつく髪を掴まれて晴は痛みに涙を滲ませる。
「子どもを産むまで一生、家から出してやらないからな」
一幸は晴の髪から手を離すと、彼女のワンピースに手をかけた。腰の辺りまで一気に捲くられ、脚を包んでいた薄いストッキングが引き裂かれる。力ずくで下着を剥ぎ取られ、晴はフローリングの冷たさを全身で感じながら目を閉じた。
こんなの、狂ってる。
でも、化け物と結婚してしまったのは――紛れもなくこの自分自身だ。
晴は普段より厚く塗ったファンデーションに居心地の悪さを感じながら、彩花の顔を見た。
「変な噂って?」
注文を聞きに来た店員にコーヒーを二杯注文して、彩花は晴に身を寄せ、声を潜める。
「八尋くんいるじゃん? 八尋静。あの子が、同級生たちに復讐するために日本に帰って来たって」
コートを脱ぎかけた晴の手が止まった。彩花も自分で言ったくせに、いまいち納得していないような、それでもなにかに怯えているような表情を見せている。
彩花は静へのいじめに加わらなかった数少ない人間だ。実家が農家で、繁忙期には畑仕事の手伝いでろくに学校へ来ていなかったことも関係しているだろう。学校での人間関係よりも、実家の仕事を重んじているところが、晴には彩花がとても大人に見えて、こうして大人になったいまでも仲良くしている。
それでも、彩花の言っていることはにわかには信じられなかった。
「なんでそんな噂が流れてるの?」
彩花が口を開きかけた時、店員がやってきてコーヒーを二杯、テーブルに置いていった。店員が去るのを待って、コーヒーで唇を湿らす。
「八尋くんをいじめてたグループがあるでしょ? 戸田とか、内川とかそこらへん」
「うん、同窓会にも来てたね」
晴の頭には、快活そうな彼らの笑顔が浮かぶ。同窓会で会った時は、静をいじめ、静を庇う晴に敵対心を持っていたことなど忘れたように呑気に話しかけてきたけれど。
「戸田も内川も、同窓会の後に亡くなったんだよ」
「えっ……?」
二人が、亡くなった? 同窓会の後に?
コーヒーカップを持つ手が、カタカタと震えた。鉄の塊を飲み込んでしまったかのように、胃の底がずっしりと重くなる。
「――なんで?」
「戸田は社用車で事故って、内川は仕事帰りに電車に撥ねられたって……ねぇ、おかしいと思わない? こんな短期間に二人も亡くなるなんて、さ――」
彩花の顔には、わずかに怯えの色が見えた。
ただ、不幸な事故が続いただけだ。晴は自分に言い聞かせる。ただの偶然。静が関係しているわけがない。戸田も内川も、過去に自分のしたことが巡り巡って自分に降りかかっただけだろう。二十七歳という若さで亡くなってしまったことは残念だけれど、不慮の事故は防ぎようがない。
晴は震える手でコーヒーカップを置くと、まっすぐに彩花を見つめた。
「たまたま、不幸が重なっちゃっただけじゃない? どうしてそれが、静の復讐なんて話に――」
「玲奈たちもやられたんだよ!?」
彩花が声を荒げて席を立ち上がる。店内の視線が、一斉にこちらを向いた。彩花をなだめて座らせようとした晴は、その顔を見てぎょっとした。彩花の目は、見えないものを見てしまったように怯えて、白目が赤く充血している。目の縁に溜まった涙がぶわっと盛り上がり、彩花の頬を伝った。
「落ち着いて……皆、見てるから」
彩花の肩に手を置くと、彼女は力を抜いて席にへたり込んだ。こんなに取り乱す彩花を、いままで見たことがない。どこか場所を移動したほうがいいような気もしたが、泣いている彩花を連れ回すことはできない。
周囲の人の視線がぱらぱらと散っていくのを確認しながら、晴も腰を下ろした。
「玲奈って、尾長玲奈さんのこと?」
彩花が頬を拭いながら、こくこくとうなずく。彩花とは、家が近かったはずだ。尾長玲奈もまた、戸田や内川と同じように静のいじめを主導していた主犯格グループの一人だが――。
「彼氏の家から帰ってる時に、襲われたって……」
こらえきれなかった嗚咽が、彩花の喉元からもれる。ほとんど口の付けられていないコーヒーを見ながら、晴は必死にかけるべき言葉を探した。しかしなにを言っても、彼女をなぐさめることはできなさそうだった。
それに彩花は「玲奈たち」と言った。ということは、まだ他にも同じような目に遭った同級生がいるということだ。背筋を冷や汗が伝う。暑いのか寒いのか、自分でもよくわからない。
「犯人は――」
「捕まったよ。中国人の男が、三人」
晴の喉がひゅっと音を立てる。
「どう考えてもおかしいじゃん……! 同窓会があった後から、立て続けに八尋くんをいじめてた人たちが死んだり、襲われたり……皆、次は自分かもしれないってビビってるんだよ!?」
なにも、言い返せなかった。一幸を殺せばいいと言った時の、静の残酷でいて美しい瞳を見てしまっていたから。もしかすると彼ならばやるかもしれないという、悪い想像が頭に焼き付いて離れない。
静はなぜ、日本に帰って来たのだろう? 母親が亡くなり、中国に留まる理由がなくなったから? それとも本人が言っていたように、晴に会うため? そんなものは建前で、本当は自分をいじめた同級生をずっと恨んでいて……。
どうすればいいの、という低い呟きに晴ははっと顔を上げた。
「晴なら、八尋くんと話せるんでしょう? ねぇ、なんとかしてよ……晴は皆が死んでもいいっていうの?」
「そんなことは思ってないよ……」
彩花はこの一連の出来事がすべて静の手によるものだと信じ切っている。正直、晴も偶然にしては出来すぎているとは思っているが、静のやったことだと決めつけるわけではない。
静に聞いてみて、望むような答えは得られるだろうか? 彩花の言う通り、同級生の中で静を一番よく知っているのは自分だという自負がある。
晴はすっかり冷めてしまったコーヒーを飲み干すと、伝票を手に立ち上がった。
「私が静に話してみるからさ……彩花はあの、あんまり一人で外出歩いたりしないほうがいいよ」
「わかってる、皆にもそう言ってる」
それから、と彩花は言いにくそうに切り出した。
「皆、晴のことも怖がってるんだ。八尋くんと繋がってるから」
一瞬、なんのことを言われているのかわからなかった。けれど、彩花の涙で濡れた気まずそうな顔を見ているうちに思い至る。
晴は、スマホを取り出すとメッセージアプリを開いた。
「同級生のグループチャットから、抜けたほうがいいってことだよね?」
「うん、ごめん……」
「彩花が謝ることじゃないって」
たった三回のタップで、晴は同級生たちの輪からはじき出される。特別仲のいい人といえば彩花と他の数人くらいしかいなかったが、それでも退室のマークをタップする時は心が痛んだ。
ぐずぐずと鼻を鳴らしながら、彩花も立ち上がる。
晴の心を占めるのは、どんよりと重い、不安の影だった。
◇ ◇ ◇
彩花の言っていることが本当なのか、たしかめようもないまま月日は流れた。あの日以来、静はパート先のカフェにも姿を見せない。メッセージを送っても、何日経っても既読がつかない。
家とパート先を行き来するだけの、変化のない日々が晴を蝕む。
そして静との連絡が取れない以上に、晴は一幸との関係に頭を悩ませていた。
「実家、って……」
夕食の最中。一幸が切り出してきたのは、一幸の実家で義両親と一緒に暮らそうという提案だった。提案なんて、生易しいものではない。晴の意見など、一幸には必要ないからだ。一幸はすでに決定事項であるかのように、味噌汁の椀に箸を入れたまま言った。
「子どもが産まれた時に、同居のほうが楽だろう? 子どもにとっても、祖父母が近くにいるほうがいいに決まってる」
「でも、まだ子どもなんて」
一幸のひんやりとした視線が、突き刺さった。その目が言っている。また、妊娠できなかったのか、と。
ごめんなさい、と晴は呟いて味のしない米を口に運んだ。
「俺だって、いつまでも若くないんだぞ。お袋や親父も、すぐに年寄りになる。お前のせいで、どれだけの人間が損をするかわかってんのか?」
一幸の言葉が、ぐるぐると頭の中を回る。役立たずの子宮。妻としての働きもできない女。嫁として失格。お前なんて、いないほうがいい。
晴は自分でも気づかないうちに立ち上がっていた。ダイニングテーブルの椅子が、音を立てて倒れる。
晴はふらふらと一幸の足元に跪くと、フローリングの床に額をこすりつけた。
「離婚、してください」
ガチャン、と食器が乱暴に置かれる音がする。一幸が立ち上がる気配がして、晴は手を伸ばし、彼の脚にすがりついた。
「お願いします、離婚してください!」
晴を突き動かすのは、解放されたいという一心だった。恥も外聞もなく、晴は物乞いのように一幸の脚にまとわりつく。
「やめろよ! 気持ち悪い」
一幸が脚を振る。爪先が心臓の辺りに鋭く食い込み、晴は手を離して身体を二つに折った。痛みで喘ぐ間もなく、強い力で髪が引っ張られる。晴の髪を掴んで顔を上げさせた一幸は、奇妙なほどに冷静な顔をして諭した。
「お前に離婚を切り出せる権利なんてないだろうが」
一幸の整った顔は、赤くも青くもない。妻に離婚を切り出されたというのに、至って普通に、夕食を食べている途中のままの顔をしている。その目には、怒りも悲しみも浮かんでいない。不思議なほどに凪いだ目をしていた。
「もう一回、離婚したいなんて言ってみろ」
頭皮ごと引きちぎられるのではないかと思うほど、きつく髪を掴まれて晴は痛みに涙を滲ませる。
「子どもを産むまで一生、家から出してやらないからな」
一幸は晴の髪から手を離すと、彼女のワンピースに手をかけた。腰の辺りまで一気に捲くられ、脚を包んでいた薄いストッキングが引き裂かれる。力ずくで下着を剥ぎ取られ、晴はフローリングの冷たさを全身で感じながら目を閉じた。
こんなの、狂ってる。
でも、化け物と結婚してしまったのは――紛れもなくこの自分自身だ。
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