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16.魔女と呼ばれて
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思いがけない質問に、アルマはしばし黙考する。
だれかに母親のことを聞かれる機会もそうなかったため、正直、自分が母親のことをどう捉えているか、いまいち自信がなかった。レスターの言葉を聞いて、アルマは改めて自分の頭の中を覗いてみる。
「わたしは……どこかで生きていたらいいなって、思います。十二年も帰ってこられない事情がなんなのかは、分かりませんけど……」
深く息を吐く。自分が母親に捨てられたとは、思いたくなかった。
しかし、母親がまだ生きているとしても、アルマの元へ帰ってこない理由は、そう多くない。すでに亡くなっているか、アルマのことなど忘れて、どこかで生きているか。現実的な選択肢はその辺りだろう。
「私が、君のお母さんを探すと言ったら、どうですか?」
「母を……?」
「他の領主にも連絡を取って、マーロイズ王国の中は探せるでしょう。国を出てしまっている場合は、なかなか難しいですが」
「お願いします! 母を探してください!」
そう言いながら、アルマは深々と頭を下げた。一切の音沙汰ない母親を探せるのかは、分からない。
でも、もしまだ生きているのなら。
もう一度、母親と慎ましく、けれど喜びにあふれた日々を送ることができるのなら。
「顔を上げてください」
優しい声に囁かれて、アルマは顔を上げる。レスターの顔は、カルナと対峙していたことなどはるか昔のことのよに、晴れやかで甘い笑みに彩られていた。
「君の美しい瞳が涙で濡れないよう、私も手を尽くしましょう」
「ありがとうございます……!」
アルマはもう一度、感謝を最大限に込めて頭を下げた。
アルマの手をやわらかく握ってから、レスターはコートの裾を翻す。
「なにか分かったら、また来ます。それと、越冬に必要なものがあれば、なんでも言ってください。君が快適に暮らせるように、手配しましょう」
早口で一方的にまくし立てた後、レスターはドルシーに跳ね橋を架けさせると、早足で砦を出ていった。
レスターの背中を見送った後、アルマも急に肌寒さを感じて、居住館に戻る。
ソファには、カルナが脚を投げ出して寝そべっている。顔は不機嫌を貼りつけた仏頂面で、紅い瞳の輝きは失われている。
アルマは言うべきか迷ったが、結局カルナに事の顛末をすべて話した。母親については少ししか話したことがないので、カルナにとっては興味を引かれる話題でもないだろう。
しかし、アルマの予想に反して、カルナは話を聞きながら眉間の皺をさらに濃くした。
「本当に、あの腹黒がそう言ったのか?」
「はい、国を出ていたら分からないけれど、王国の中なら探してくれると……」
「あの野郎、なにを考えてやがる?」
「なにか、不都合でも……?」
アルマがおずおずと問うと、カルナは呆れたように天を仰いだ。全身から言いようのない諦念が漂っている。
レスターがアルマの母親を探すと言ったのは、そんなにまずいことだったのだろうか。
アルマの雇用主はレスターのはずだが、カルナの意見も聞いておくべきだったのか?
けれど、レスターとカルナの間に横たわる溝は深く、自分が原因で二人の間に新たな火種を作ることは避けたかった。
しばらく目を閉じて、ぶつぶつと呟いていたカルナは、意を決したようにアルマを呼び寄せた。
カルナの紅く燃える瞳を見ると、まるで金縛りにでも遭ったように体が竦む。アルマの手首を掴んだカルナの手のひらは、驚くほどに熱かった。
「いいか、レスターのことは信用するな。あいつは、自分の得になることでしか動かない」
レスターの人のいい笑みが、脳裏に浮かぶ。レスターはいつだって、アルマに優しい。
もちろん、砦の生贄にアルマを選んだのはレスターだ。複雑な気持ちはある。しかし、薄暗い、虐げられるだけの生活から救い出してくれたこと、砦に来てからの生活を踏まえると、その気持ちは相殺できる。
では、カルナのことはどうだろう?
本当に信用に値する人物なのか?
カルナを信じて、レスターの心遣いを無下に扱えるのか?
「で、でも、わたしは、カルナさんの方が信用できません!」
「あ?」
「だって、人は食べないって言ったのに、レスター様のお母さまを」
「だからあれは魔女だって言ってんだろ!」
そのとき、アルマの中で、なにかが弾けた。
「魔女だったら食べてもいいんですか? 人間じゃなかったら、食べていいんですか!」
「おい、落ち着けって」
「魔女だって言われる人のほとんどは、ただの人間で、もちろん中には本物の魔女もいるかもしれないけど、目の色が違うとか、ずっと墓地にいるのに病気にならないとか、そんなくだらない理由で魔女に仕立て上げられた人間をカルナさんは食べるんですか? わたしもいつか食べるつもりなんですか? 魔女狩りに遭ったなら、食べていいと思ってるんですよね?」
レスターが涙で濡れないように、と言ってくれた緑の瞳は、たちまち塩辛い水をあふれさせる。
カルナに掴まれた手首が、熱を持ったように、じんじんと疼く。
激流に呑まれ、ただ押し流されるアルマには、もうなにも分からなかった。ただ黙って涙の流れるままに任せ、感情の荒らしが過ぎ去っていくまで、じっと耐える。
視界が滲んで、カルナの顔はよく分からないが、少なくとも怒ってはいないようだ。困惑が大半を占め、わずかにショックや焦りを感じさせるように、眉根がぎゅっと寄せられている。
どうしたらいいか分からない、そんな心の声が聞こえてきそうだ。
嗚咽を殺して泣き続けるアルマを、カルナは戸惑いながらも自分の隣へ座らせた。手を引かれるままにすとんと腰を下ろしたアルマを、混乱に揺れる紅い瞳が見つめる。
カルナは震えるアルマの肩に毛布をかけ、席を立った。
調理場でなにやらごとごと音がしていたかと思うと、木のコップを二つ持って戻ってくる。
中には、温められた山羊の乳が入っていた。もうもうと湯気を上げるコップのひとつが、アルマの前に置かれる。
「……三十二年前、アルフォンラインの領土を巡って、内戦があった」
カルナが静かに語り出す。
「俺は、砦に向かってくる兵士を一人で倒していった。四日間、一睡もしなかった。おかげで五日目には、侵攻が止んだと思った」
止んだかと思われた侵攻は、どうやら矛先を変えただけだったらしい。カルナの守る砦を落とせないとみた敵が、その侵攻先を他の砦とアルフォンラインの屋敷に集中させたという。
「俺が屋敷に着いたとき、アルフォンラインの人間は地下にこもって震えてたな。まだ五歳だったレスターを除いて、だれも自分で剣を持とうともしない」
一人、侵攻してきた兵士に立ち向かっていたという五歳のレスター。いまの彼からは、少し想像がつかない。
「両手で剣を引きずりながら、母親の前に立ってた。その勇気と気概だけは、褒められるな」
カルナが思い出すように、遠くを見やる。
三十二年前のカルナは、いまよりもっと若かったのだろうか?
それとも、いまと変わらず青年の姿で、これから先も老いることはないのだろうか?
アルマは少しぬるくなった山羊の乳を啜る。砂糖が入っているようで、じんわりと甘い。
「俺はレスターを庇って、死にかけた。人間なら、ひとたまりもなさそうなやつも、俺なら耐えられたからな。けど、死ぬのは時間の問題ってところまで来ちまった」
カルナが当時のことを思い出したのか、鈍くうめく。
「その時に、レスターの母親がなにを思ったのか突然『自分には魔女の血が流れているから、その血肉を喰えば竜は死なない』って言い出したんだ」
魔女の血肉から分け与えられる魔力が、竜の驚異的な回復力をさらに高める。そんな説明をされたが、アルマには現実のこととは思えず、理解が及ばなかった。
「それで、食べたんですか……?」
「それしか領土や家を守る方法がなかった……あの女はそれを分かっていて、自分で腹を裂いた。レスターが見ている目の前で、俺は、逃げられなかった……」
カルナのコップを持つ手が、かすかに震える。
理解してあげたいとは、思う。カルナも、カルナなりに苦しんでいることは分かる。けれど、どうしても食べられる側のアルマには、カルナへ慈悲深い言葉をかけられそうにもなかった。
「それでレスター様は、お母さまが家のために犠牲になった、と……」
「ああ。領土と、一人の命を天秤にかけた」
「お母さまは本当に、魔女だったのですか?」
カルナの目線がわずかに揺れる。もし本当に魔女なら、レスターにも魔女の血が流れていることになるが。
「あの女は間違いなく魔女だ」
呟くカルナの横顔は、うっすらと寂しさを漂わせている。
「あれは、レスターの母親である前に、俺の――」
アルマはその続きを待ったが、いくら待ってもカルナが口を開くことはなかった。
だれかに母親のことを聞かれる機会もそうなかったため、正直、自分が母親のことをどう捉えているか、いまいち自信がなかった。レスターの言葉を聞いて、アルマは改めて自分の頭の中を覗いてみる。
「わたしは……どこかで生きていたらいいなって、思います。十二年も帰ってこられない事情がなんなのかは、分かりませんけど……」
深く息を吐く。自分が母親に捨てられたとは、思いたくなかった。
しかし、母親がまだ生きているとしても、アルマの元へ帰ってこない理由は、そう多くない。すでに亡くなっているか、アルマのことなど忘れて、どこかで生きているか。現実的な選択肢はその辺りだろう。
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「お願いします! 母を探してください!」
そう言いながら、アルマは深々と頭を下げた。一切の音沙汰ない母親を探せるのかは、分からない。
でも、もしまだ生きているのなら。
もう一度、母親と慎ましく、けれど喜びにあふれた日々を送ることができるのなら。
「顔を上げてください」
優しい声に囁かれて、アルマは顔を上げる。レスターの顔は、カルナと対峙していたことなどはるか昔のことのよに、晴れやかで甘い笑みに彩られていた。
「君の美しい瞳が涙で濡れないよう、私も手を尽くしましょう」
「ありがとうございます……!」
アルマはもう一度、感謝を最大限に込めて頭を下げた。
アルマの手をやわらかく握ってから、レスターはコートの裾を翻す。
「なにか分かったら、また来ます。それと、越冬に必要なものがあれば、なんでも言ってください。君が快適に暮らせるように、手配しましょう」
早口で一方的にまくし立てた後、レスターはドルシーに跳ね橋を架けさせると、早足で砦を出ていった。
レスターの背中を見送った後、アルマも急に肌寒さを感じて、居住館に戻る。
ソファには、カルナが脚を投げ出して寝そべっている。顔は不機嫌を貼りつけた仏頂面で、紅い瞳の輝きは失われている。
アルマは言うべきか迷ったが、結局カルナに事の顛末をすべて話した。母親については少ししか話したことがないので、カルナにとっては興味を引かれる話題でもないだろう。
しかし、アルマの予想に反して、カルナは話を聞きながら眉間の皺をさらに濃くした。
「本当に、あの腹黒がそう言ったのか?」
「はい、国を出ていたら分からないけれど、王国の中なら探してくれると……」
「あの野郎、なにを考えてやがる?」
「なにか、不都合でも……?」
アルマがおずおずと問うと、カルナは呆れたように天を仰いだ。全身から言いようのない諦念が漂っている。
レスターがアルマの母親を探すと言ったのは、そんなにまずいことだったのだろうか。
アルマの雇用主はレスターのはずだが、カルナの意見も聞いておくべきだったのか?
けれど、レスターとカルナの間に横たわる溝は深く、自分が原因で二人の間に新たな火種を作ることは避けたかった。
しばらく目を閉じて、ぶつぶつと呟いていたカルナは、意を決したようにアルマを呼び寄せた。
カルナの紅く燃える瞳を見ると、まるで金縛りにでも遭ったように体が竦む。アルマの手首を掴んだカルナの手のひらは、驚くほどに熱かった。
「いいか、レスターのことは信用するな。あいつは、自分の得になることでしか動かない」
レスターの人のいい笑みが、脳裏に浮かぶ。レスターはいつだって、アルマに優しい。
もちろん、砦の生贄にアルマを選んだのはレスターだ。複雑な気持ちはある。しかし、薄暗い、虐げられるだけの生活から救い出してくれたこと、砦に来てからの生活を踏まえると、その気持ちは相殺できる。
では、カルナのことはどうだろう?
本当に信用に値する人物なのか?
カルナを信じて、レスターの心遣いを無下に扱えるのか?
「で、でも、わたしは、カルナさんの方が信用できません!」
「あ?」
「だって、人は食べないって言ったのに、レスター様のお母さまを」
「だからあれは魔女だって言ってんだろ!」
そのとき、アルマの中で、なにかが弾けた。
「魔女だったら食べてもいいんですか? 人間じゃなかったら、食べていいんですか!」
「おい、落ち着けって」
「魔女だって言われる人のほとんどは、ただの人間で、もちろん中には本物の魔女もいるかもしれないけど、目の色が違うとか、ずっと墓地にいるのに病気にならないとか、そんなくだらない理由で魔女に仕立て上げられた人間をカルナさんは食べるんですか? わたしもいつか食べるつもりなんですか? 魔女狩りに遭ったなら、食べていいと思ってるんですよね?」
レスターが涙で濡れないように、と言ってくれた緑の瞳は、たちまち塩辛い水をあふれさせる。
カルナに掴まれた手首が、熱を持ったように、じんじんと疼く。
激流に呑まれ、ただ押し流されるアルマには、もうなにも分からなかった。ただ黙って涙の流れるままに任せ、感情の荒らしが過ぎ去っていくまで、じっと耐える。
視界が滲んで、カルナの顔はよく分からないが、少なくとも怒ってはいないようだ。困惑が大半を占め、わずかにショックや焦りを感じさせるように、眉根がぎゅっと寄せられている。
どうしたらいいか分からない、そんな心の声が聞こえてきそうだ。
嗚咽を殺して泣き続けるアルマを、カルナは戸惑いながらも自分の隣へ座らせた。手を引かれるままにすとんと腰を下ろしたアルマを、混乱に揺れる紅い瞳が見つめる。
カルナは震えるアルマの肩に毛布をかけ、席を立った。
調理場でなにやらごとごと音がしていたかと思うと、木のコップを二つ持って戻ってくる。
中には、温められた山羊の乳が入っていた。もうもうと湯気を上げるコップのひとつが、アルマの前に置かれる。
「……三十二年前、アルフォンラインの領土を巡って、内戦があった」
カルナが静かに語り出す。
「俺は、砦に向かってくる兵士を一人で倒していった。四日間、一睡もしなかった。おかげで五日目には、侵攻が止んだと思った」
止んだかと思われた侵攻は、どうやら矛先を変えただけだったらしい。カルナの守る砦を落とせないとみた敵が、その侵攻先を他の砦とアルフォンラインの屋敷に集中させたという。
「俺が屋敷に着いたとき、アルフォンラインの人間は地下にこもって震えてたな。まだ五歳だったレスターを除いて、だれも自分で剣を持とうともしない」
一人、侵攻してきた兵士に立ち向かっていたという五歳のレスター。いまの彼からは、少し想像がつかない。
「両手で剣を引きずりながら、母親の前に立ってた。その勇気と気概だけは、褒められるな」
カルナが思い出すように、遠くを見やる。
三十二年前のカルナは、いまよりもっと若かったのだろうか?
それとも、いまと変わらず青年の姿で、これから先も老いることはないのだろうか?
アルマは少しぬるくなった山羊の乳を啜る。砂糖が入っているようで、じんわりと甘い。
「俺はレスターを庇って、死にかけた。人間なら、ひとたまりもなさそうなやつも、俺なら耐えられたからな。けど、死ぬのは時間の問題ってところまで来ちまった」
カルナが当時のことを思い出したのか、鈍くうめく。
「その時に、レスターの母親がなにを思ったのか突然『自分には魔女の血が流れているから、その血肉を喰えば竜は死なない』って言い出したんだ」
魔女の血肉から分け与えられる魔力が、竜の驚異的な回復力をさらに高める。そんな説明をされたが、アルマには現実のこととは思えず、理解が及ばなかった。
「それで、食べたんですか……?」
「それしか領土や家を守る方法がなかった……あの女はそれを分かっていて、自分で腹を裂いた。レスターが見ている目の前で、俺は、逃げられなかった……」
カルナのコップを持つ手が、かすかに震える。
理解してあげたいとは、思う。カルナも、カルナなりに苦しんでいることは分かる。けれど、どうしても食べられる側のアルマには、カルナへ慈悲深い言葉をかけられそうにもなかった。
「それでレスター様は、お母さまが家のために犠牲になった、と……」
「ああ。領土と、一人の命を天秤にかけた」
「お母さまは本当に、魔女だったのですか?」
カルナの目線がわずかに揺れる。もし本当に魔女なら、レスターにも魔女の血が流れていることになるが。
「あの女は間違いなく魔女だ」
呟くカルナの横顔は、うっすらと寂しさを漂わせている。
「あれは、レスターの母親である前に、俺の――」
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