【完結】わたし、男子校に入学します!~ヒミツの寮生活はバレたら即退学!?~

古都まとい

文字の大きさ
19 / 23

第17話:協力

しおりを挟む
 バタバタと家に帰ってきたわたしをむかえたのは、わたし以上にあわてているお母さんだった。

「どうしよう、詩織……! 伊織の身になにかあったら……」
「お母さん、落ち着いて! どうしてお兄ちゃんは病院からいなくなったの?」

 わたしはお母さんをソファに座らせながらたずねた。お母さんは目にいっぱいなみだをためて、わたしの両手をきつくにぎっている。

誘拐ゆうかいだ」

 廊下を歩いてくる足音がしたと思ったら、お父さんが姿をあらわした。手には白い封筒ふうとうを持っている。

「誘拐? 誰に?」

 お父さんが封筒を差し出してくる。わたしはお母さんの両手をそっとはなすと、封筒を受け取った。中には便箋びんせん一枚いちまい、入っている。

『野宮伊織はあずかった。無事ぶじに返してほしければ、以下の条件じょうけんを受け入れること。野宮詩織が身分みぶんいつわり、帝ヶ宮学園に入学したことを公表こうひょうすること。公表したのち、野宮詩織は帝ヶ宮学園を退学すること。なお、警察けいさつとどた時点で野宮伊織の安全は保証ほしょうしないものとする。K』

 手紙には直筆じきひつで、たったそれだけのことが書かれていた。わたしはお父さんの顔を見上げる。

「わたしが女だって告白こくはくして、学園をめたら……お兄ちゃんは助かるってこと?」
「簡単に言えば、そういうことだろうな。犯人はんにんが誰なのか、そもそもの目的も、よくわからないが……」

 手紙の最後さいごに書かれたKの文字。これが犯人のイニシャルなのだろうか?
 すくなくともお兄ちゃんを誘拐した犯人は、お兄ちゃんが病院に入院していたことを知っていた。病室の場所も知っていて、さらにわたしがお兄ちゃんの代わりに学園へ入学したことも知っている。

「誰がこんな、馬鹿ばかげた真似まねを……」

 わたしは、ハッとした。犯人に心当たりがある。そして、わたし以上に犯人のことを知っている人がいる。

「お父さん! 一度、学園に戻ってもいいですか?」
「なにをする気だ?」
「犯人のことを知っている人を、れてきます」


◇ ◇ ◇


 文化祭ただなかの学園は、活気かっきにあふれていた。お店の呼び込みなんか聞いていられない。わたしは一直線いっちょくせんに、教室を目指す。

「藤原くん!」

 教室に入ってすぐ、目当ての背中を見つけてわたしは呼びかけた。藤原くんのクラスは午後から講堂こうどう演劇えんげきをやることになっている。今は教室で、衣装いしょうチェックや最後の練習をしているようだ。
 藤原くんは隣にいた生徒になにか声をかけると、わたしのほうへやってきた。

「なんの用だ? お前のクラスはメイドカフェをやるんじゃなかったのか?」
「それどころじゃない。大変なことが起きたんだ」
「俺には関係ない――」
「恭介お兄さんが、野宮伊織を誘拐した」

 低く、おさえた声に藤原くんが反応した。表情は変わらないが、ものすごいいきおいで、廊下に飛び出してくる。

「どういうことだ?」
「これを見てほしい」

 わたしは手に持っていた手紙を差し出した。手紙を受け取った藤原くんがさっと目を通す。みるみるうちに表情がくもっていく。

「この字……」

 藤原くんがつぶやく。わたしが手紙を学園まで持ってきた理由はこれだった。もしこの手紙を書いたのが、恭介お兄さんだとすれば、藤原くんに見せたら字を知っているのではないか、と。

「恭介兄さんの字だ。見間違みまちがえるはずがない」

 藤原くんが手紙をわたしに返しながら、うしで教室のドアをめる。廊下にも生徒が何人もいたけれど、誰もわたしたちのことは気にしていない。

「野宮家の人間はどこまで知っている?」
「なにも知らないにひとしいよ。たぶん、この手紙を書いたのが恭介お兄さん……清水さんってことにも気づいていない」

 藤原くんはにがい顔をした。野宮家が無能むのうだとバカにされたってかまわない。一刻いっこくも早く、お兄ちゃんを取り戻すのが先だ。

「藤原くん……君の協力が必要なんだ。僕はこれから、藤原家の人に連絡を取ろうと思う。清水さんのことを一番知っているのは、藤原家の人だろうから」
「……連絡なら俺が取る。父親に話をつけてから、お前の家に行く。それでいいか?」
「わかった。僕は先に家に戻っている」

 わたしたちは静かに会話を終えると、さっと離れた。わたしはまた学園を飛び出し、家に向かう。藤原くんも、お父さんと連絡を取るためにわたしとは反対方向に歩いていった。
 清水さんの目的はなんなのか。わたしがお兄ちゃんの代わりに学園に通っていることを公表することで、彼にとってどんなメリットがあるというのだろう?
 家に向かっている最中さいちゅうも、考えることをやめられなかった。それにお兄ちゃんは、今どこにいるのだろう? 病院から出たりして、体調は大丈夫なのだろうか?
 心配ごとは次から次にき上がってくる。こんな時、一人ではなにもできない自分の無力むりょくさがくやしかった。藤原くんに協力を求めるのがいやというわけではない。むしろ、彼がいてくれたほうが事態じたいはずっと早く解決かいけつするはずなのだ。

 もし、わたしが学園に入学することを拒否きょひしていたら。お兄ちゃんの身代わりになんかならないと、あの時お父さんに言っていたら、お兄ちゃんは誘拐なんてされずにんだかもしれない。
 でも、わたしが代わりにならなければお兄ちゃんの未来は閉ざされてしまった。帝ヶ宮学園に入学できなかった長男は、家族としてはみなされない。
 清水さんは……お兄ちゃんの将来を奪うためにこんなことをしているのだろうか?
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

隠れ御曹司は、最強女子を溺愛したい

藤永ゆいか
児童書・童話
過去のある出来事から、空手や合気道を習うようになった私。 そして、いつしか最強女子と言われるようになり、 男子が寄りつかなくなってしまった。 中学では恋がしたいと思い、自分を偽って 学校生活を送ることにしたのだけど。 ある日、ひったくり犯を撃退するところを クラスメイトの男子に見られてしまい……。 「お願い。このことは黙ってて」 「だったら、羽生さん。 俺のボディーガード兼カノジョになってよ」 「はい!?」 私に無茶な要求をしてきた、冴えないクラスメイトの 正体はなんと、大財閥のイケメン御曹司だった!? * * * 「ボディーガードなんて無理です!」 普通の学校生活を送りたい女子中学生 羽生 菜乃花 × 「君に拒否権なんてないと思うけど?」 訳あって自身を偽る隠れ御曹司 三池 彗 * * * 彗くんのボディーガード兼カノジョになった 私は、学校ではいつも彼と一緒。 彗くんは、私が彼のボディーガードだからそばにいるだけ。 そう思っていたのに。 「可愛いな」 「菜乃花は、俺だけを見てて」 彗くんは、時に甘くて。 「それ以上余計なこと言ったら、口塞ぐよ?」 私にだけ、少し意地悪で。 「俺の彼女を傷つける人は、 たとえ誰であろうと許さないから」 私を守ってくれようとする。 そんな彗くんと過ごすうちに私は、 彼とずっと一緒にいたいと思うようになっていた──。 「私、何があっても彗くんのことは絶対に守るから」 最強女子と隠れ御曹司の、秘密の初恋ストーリー。

悪魔さまの言うとおり~わたし、執事になります⁉︎~

橘花やよい
児童書・童話
女子中学生・リリイが、入学することになったのは、お嬢さま学校。でもそこは「悪魔」の学校で、「執事として入学してちょうだい」……って、どういうことなの⁉待ち構えるのは、きれいでいじわるな悪魔たち! 友情と魔法と、胸キュンもありの学園ファンタジー。 第2回きずな児童書大賞参加作です。

クールな幼なじみの許嫁になったら、甘い溺愛がはじまりました

藤永ゆいか
児童書・童話
中学2年生になったある日、澄野星奈に許嫁がいることが判明する。 相手は、頭が良くて運動神経抜群のイケメン御曹司で、訳あって現在絶交中の幼なじみ・一之瀬陽向。 さらに、週末限定で星奈は陽向とふたり暮らしをすることになって!? 「俺と許嫁だってこと、絶対誰にも言うなよ」 星奈には、いつも冷たくてそっけない陽向だったが……。 「星奈ちゃんって、ほんと可愛いよね」 「僕、せーちゃんの彼氏に立候補しても良い?」 ある時から星奈は、バスケ部エースの水上虹輝や 帰国子女の秋川想良に甘く迫られるようになり、徐々に陽向にも変化が……? 「星奈は可愛いんだから、もっと自覚しろよ」 「お前のこと、誰にも渡したくない」 クールな幼なじみとの、逆ハーラブストーリー。

未来スコープ  ―キスした相手がわからないって、どういうこと!?―

米田悠由
児童書・童話
「あのね、すごいもの見つけちゃったの!」 平凡な女子高生・月島彩奈が偶然手にした謎の道具「未来スコープ」。 それは、未来を“見る”だけでなく、“課題を通して導く”装置だった。 恋の予感、見知らぬ男子とのキス、そして次々に提示される不可解な課題── 彩奈は、未来スコープを通して、自分の運命に深く関わる人物と出会っていく。 未来スコープが映し出すのは、甘いだけではない未来。 誰かを想う気持ち、誰かに選ばれない痛み、そしてそれでも誰かを支えたいという願い。 夢と現実が交錯する中で、彩奈は「自分の気持ちを信じること」の意味を知っていく。 この物語は、恋と選択、そしてすれ違う想いの中で、自分の軸を見つけていく少女たちの記録です。 感情の揺らぎと、未来への確信が交錯するSFラブストーリー、シリーズ第2作。 読後、きっと「誰かを想うとはどういうことか」を考えたくなる一冊です。

レイルーク公爵令息は誰の手を取るのか

宮崎世絆
児童書・童話
うたた寝していただけなのに異世界転生してしまった。 公爵家の長男レイルーク・アームストロングとして。 あまりにも美しい容姿に高い魔力。テンプレな好条件に「僕って何かの主人公なのかな?」と困惑するレイルーク。 溺愛してくる両親や義姉に見守られ、心身ともに成長していくレイルーク。 アームストロング公爵の他に三つの公爵家があり、それぞれ才色兼備なご令嬢三人も素直で温厚篤実なレイルークに心奪われ、三人共々婚約を申し出る始末。 十五歳になり、高い魔力を持つ者のみが通える魔術学園に入学する事になったレイルーク。 しかし、その学園はかなり特殊な学園だった。 全員見た目を変えて通わなければならず、性格まで変わって入学する生徒もいるというのだ。 「みんな全然見た目が違うし、性格まで変えてるからもう誰が誰だか分からないな。……でも、学園生活にそんなの関係ないよね? せっかく転生してここまで頑張って来たんだし。正体がバレないように気をつけつつ、学園生活を思いっきり楽しむぞ!!」 果たしてレイルークは正体がバレる事なく無事卒業出来るのだろうか?  そしてレイルークは誰かと恋に落ちることが、果たしてあるのか? レイルークは誰の手(恋)をとるのか。 これはレイルークの半生を描いた成長物語。兼、恋愛物語である(多分) ⚠︎ この物語は『レティシア公爵令嬢は誰の手を取るのか』の主人公の性別を逆転した作品です。 物語進行は同じなのに、主人公が違うとどれ程内容が変わるのか? を検証したくて執筆しました。 『アラサーと高校生』の年齢差や性別による『性格のギャップ』を楽しんで頂けたらと思っております。 ただし、この作品は中高生向けに執筆しており、高学年向け児童書扱いです。なのでレティシアと違いまともな主人公です。 一部の登場人物も性別が逆転していますので、全く同じに物語が進行するか正直分かりません。 もしかしたら学園編からは全く違う内容になる……のか、ならない?(そもそも学園編まで書ける?!)のか……。 かなり見切り発車ですが、宜しくお願いします。

独占欲強めの最強な不良さん、溺愛は盲目なほど。

猫菜こん
児童書・童話
 小さな頃から、巻き込まれで絡まれ体質の私。  中学生になって、もう巻き込まれないようにひっそり暮らそう!  そう意気込んでいたのに……。 「可愛すぎる。もっと抱きしめさせてくれ。」  私、最強の不良さんに見初められちゃったみたいです。  巻き込まれ体質の不憫な中学生  ふわふわしているけど、しっかりした芯の持ち主  咲城和凜(さきしろかりん)  ×  圧倒的な力とセンスを持つ、負け知らずの最強不良  和凜以外に容赦がない  天狼絆那(てんろうきずな)  些細な事だったのに、どうしてか私にくっつくイケメンさん。  彼曰く、私に一目惚れしたらしく……? 「おい、俺の和凜に何しやがる。」 「お前が無事なら、もうそれでいい……っ。」 「この世に存在している言葉だけじゃ表せないくらい、愛している。」  王道で溺愛、甘すぎる恋物語。  最強不良さんの溺愛は、独占的で盲目的。

未来スコープ  ―この学園、裏ありすぎなんですけど!? ―

米田悠由
児童書・童話
「やばっ!これ、やっぱ未来見れるんだ!」 平凡な女子高生・白石藍が偶然手にした謎の道具「未来スコープ」。 それは、未来を“見る”だけでなく、“触れたものの行く末を映す”装置だった。 好奇心旺盛な藍は、未来スコープを通して、学園に潜む都市伝説や不可解な出来事の真相に迫っていく。 旧校舎の謎、転校生・蓮の正体、そして学園の奥深くに潜む秘密。 見えた未来が、藍たちの運命を大きく揺るがしていく。 未来スコープが映し出すのは、甘く切ないだけではない未来。 誰かを信じる気持ち、誰かを疑う勇気、そして真実を暴く覚悟。 藍は「信じるとはどういうことか」を問われていく。 この物語は、好奇心と正義感、友情と疑念の狭間で揺れながら、自分の軸を見つけていく少女の記録です。 感情の揺らぎと、未来への探究心が交錯するSFラブストーリー、シリーズ第3作。 読後、きっと「誰かを信じるとはどういうことか」を考えたくなる一冊です。

極甘独占欲持ち王子様は、優しくて甘すぎて。

猫菜こん
児童書・童話
 私は人より目立たずに、ひっそりと生きていたい。  だから大きな伊達眼鏡で、毎日を静かに過ごしていたのに――……。 「それじゃあこの子は、俺がもらうよ。」  優しく引き寄せられ、“王子様”の腕の中に閉じ込められ。  ……これは一体どういう状況なんですか!?  静かな場所が好きで大人しめな地味子ちゃん  できるだけ目立たないように過ごしたい  湖宮結衣(こみやゆい)  ×  文武両道な学園の王子様  実は、好きな子を誰よりも独り占めしたがり……?  氷堂秦斗(ひょうどうかなと)  最初は【仮】のはずだった。 「結衣さん……って呼んでもいい?  だから、俺のことも名前で呼んでほしいな。」 「さっきので嫉妬したから、ちょっとだけ抱きしめられてて。」 「俺は前から結衣さんのことが好きだったし、  今もどうしようもないくらい好きなんだ。」  ……でもいつの間にか、どうしようもないくらい溺れていた。

処理中です...