【完結】九龍街区の売人は偽りの少年と極彩色の夢を見ない【R18】

古都まとい

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3章(1)

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 三年後。
 藍豪ランハオは三十代の壁がくっきりと見え、レイは十五歳になった。

 藍豪と類は、あいかわらず九龍街区のアパートの狭苦しい部屋で共同生活を続けている。
 三年も経てば指が三本しかない左手の扱いにも慣れ、類も三年前のあの日以来、藍豪の左手についてなにも聞かなかった。
 類は今まさに成長期の真っ最中で、ぐんぐん背が伸びている。出会った頃は藍豪の胸にぎりぎり届くかどうかだった類の頭が、今では肩に並ぶほどだ。このペースで伸び続ければ、いずれ藍豪の身長を追い越しそうな勢いである。
 声変わりも終えたが、類の声にはまだ少年らしさが残っている。静月ジンユエのように女らしい高い声のままでなくてよかったと、藍豪はほっと胸を撫で下ろした。

 類が娼館の下働きに慣れ、新しい下働きの子どもの教育係も務めるようになった頃。
 藍豪はウー星宇シンユーの頼みで、阿片の販売ルート拡大に乗り出していた。三千龍団サンチェンロンのボス、シェンを殺す期限は四年後に迫ってきている。四年後までになるべく三千龍団が抱える阿片の販売ルートを乗っ取り、力を削ぐというのが吴星宇の目的だった。
 阿片の販売は殺しよりも容易い。今や藍豪は九龍街区の部屋以外にも阿片を販売する場を持ち、毎日慌ただしく過ごしている。九龍街区の部屋には三、四日に一度しか帰らない。たいてい藍豪が帰る頃には類はすでに娼館に出勤しているため、何日も類と顔を合わせることがない日が続くこともある。
 類は藍豪が部屋に帰っているのを見つけると、まるで幼い子どもに戻ったかのようなあどけない笑みを浮かべて、藍豪を屋台の食事へと誘うのだった。


◇ ◇ ◇


 ある日。藍豪が珍しく二日続けて部屋へ帰った時――。
 部屋の扉を開けて視界に飛び込んできたものに、藍豪は目を疑った。
 敷きっぱなしの布団の上に、類が少女と一緒に座り込んでいるのである。といっても二人に親密な様子はまるでなく、少女のほうは藍豪の顔を見ると途端に引きつった表情を見せた。

「邪魔したな」

 藍豪はかろうじてそれだけ言って、扉を閉める。廊下に突っ立って、先ほど見た光景を巻き戻す。
 なにもおかしいことはない。類はもう十五歳である。恋人のひとりくらいできたって、不思議ではない歳なのだ。
 藍豪は類をいつまでも手のかかる幼い子どものように思っていたが、娼館の下働きの中では一番の年長であるし、今は藍豪の送迎なしに仕事へ行っている。一人で屋台まで夕食を買いに行くし、隣人の静月ともなにやら交流があるようだ。
 類はもはや、藍豪の手をすっかり離れた大人なのだ。時折、出会った頃と同じような子どもらしい一面を見せることもあるが、心身は着実に成長している。類の成長から目を逸らしていたのは、藍豪自身だった。
 類が大人になること。それはすなわち、この部屋での共同生活の終わりを意味する。類は大人になっても藍豪と一緒にいるなどと言っているが、そのうち恋人と結婚して新しい家族を作って、九龍街区を出て行くだろう。類は藍豪のことなど忘れて、幸せになるべき人間なのだ。

 藍豪が廊下で悶々と考え込む中、部屋から少女が一人飛び出してきた。見たところ、類と同じくらいの歳か、すこし年上のようである。九龍街区に住む子どもだろうか。類に限ってそんなことはないと思いたいが、娼館の女に手を出した可能性もある。あのぎこちなさを見る限り、つき合いたてといったところで、一度も夜を共にしたことはなさそうではあるが。
 少女が出て行ってからしばらくして、扉が細く開き、類が顔を出した。丸かった頬は身長が伸びるうちにしゅっと整ってきて、星宇にも劣らない美形に育ちつつある。
 類は藍豪の顔を見るなり、ぎゅっと眉根を寄せてつらそうな表情をした。少女との逢瀬を邪魔されたのが、それほど心にこたえる経験だったのだろうか。藍豪もなんとなく申し訳ない気持ちになりつつ、部屋へ入る。
 ふんわりと香ってきた甘い花の香りが、つい先ほどまで布団に座り込んでいた少女の存在をひしひしと感じさせた。

「誰なんだ、あの子」

 会話の糸口を探すように、藍豪はおそるおそる尋ねる。
 類は困ったような曖昧な笑みが浮かべて、藍豪を見た。

美雨メイユイという娼館に住んでいる子です。ずっと下働きの仕事を教えてくれていて、今は下働きを卒業して娼婦になりました」
「手、出してないよな……?」
「もちろん。娼婦に手を出したりなんかしたら、珠蘭シュランに九龍街区から叩き出されます」

 藍豪の思った通り、類は分別のある子だった。手を出していないのならなぜ、二人で部屋にいたのだろう? いくら相手が類とはいえ、それを聞くのは野暮だろう。
 藍豪は湧き上がる疑問を飲み下すと、日に日に大人びていく類の整った顔を見た。昨日顔を合わせたばかりで今日も会うのは、妙に気恥ずかしい。藍豪が部屋へ戻るたびに、類は一歩ずつ大人に近づき、藍豪の元から離れていっているような気がしてならない。
 藍豪の戸惑いがそのまま伝播したように、類がそっと顔を伏せた。

「藍豪、ひとつ聞いていいですか」

 ためらいがちに類が口を開く。
 藍豪が先を促すと、類は何度も迷いながら、言葉を選ぶようにそっと囁いた。

「十五歳にもなって、一度も女の人を好きになったことがないのは、おかしなことなんでしょうか」
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