イクメンパパの異世界冒険譚〜異世界で育児は無理がある

或真

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第一章

異世界初給料日

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「ザ、ザクシュ草!?ザクシュ草なんて過去数十年採集されてませんよ!」

「え、そうなんですか?分布図に載ってたんですけどね……」

 俺たちは薬草採集の依頼の達成報告をしに、ギルドへ戻ってきていた。

「あの分布図は五十年前のものです!ザクシュ草は絶滅したと思われていたのに、まだ存在しているとは……」

 初耳だぞ……てか、なんで五十年前の分布図をギルドは渡してるんだよ!?つまり、ギルドはそもそもザクシュ草を取らせる気がなかったってことか。

 随分腹黒いぞ、ギルドよ。

「あ、あと、キマイラを倒しちゃったんですけど……」

「キマイラ!?」

 受付嬢は驚きのあまり、椅子から転げ落ちてしまった。そんなに驚くような事なのか。

「キマイラって、危険度Aの魔物ですよ!金冒険者が数パーティ集まって初めて倒せるような相手ですよ!」

「そ、そうなんですか?」

 どうやら俺たちはとんでもない奴を倒してしまったらしい。

「と、とりあえずザクシュ草の分の報酬をお渡ししますね。」

 そう言って受付嬢は金貨一枚を手渡してきた。

「あれ?これちょっと多いんじゃないですか?」

 金貨一枚って確か十万円くらいだったよな。俺が持ち込んだザクシュ草はたったの一株だし、こんなにもらえるはずはないんだが。

「いえいえ、これが相場です。」

「そ、そうなんですね、ありがとうございます……」

「あ、あとはキマイラの討伐についてなんですけど、何か討伐を証明できるものはありますか?」

「討伐を証明できるもの、ですか?」

「はい。物証などがないとキマイラの討伐を確認できないので。キマイラの目玉とかでもいいんですけど」

「うーん、あっ、キマイラの死骸でいいですか?」

「キマイラの死骸!?そんなのどうやって持って来たんですか!!」

「ああ、インベントリーに入れて持ってきました。」

「ええ、インベントリーをお持ちなんですか!!」

「まあ、一応?」

 インベントリーっていうのはやっぱり希少なスキルのようだ。異世界転生者にのみ与えられた特権ってところだ。

 そうなるとあんまりインベントリー持ちだと公表しない方がいいな。ほら、毎回こんなに驚かれると困るし。

「えーっと、じゃあここでキマイラを出す訳にはいかないですし、一度移動しますか」

***

「ここなら大丈夫でしょう」

 着いた場所はギルドの裏手にある訓練場のような場所だった。キマイラを一目見ようと大量の冒険者やギルド職員が俺たちの周りに集まっている。

 うっ、出しにくい……

「では、出してください」

「は、はい」

 インベントリーからキマイラの死体を取り出すと、大きな歓声が巻き起こった。

「すげぇ!なんだこのデカさ!」

「俺キマイラなんて初めて見た!」

「しかも鉄ランク冒険者が討伐なんて、期待のルーキーの登場か?」

 冒険者達は大興奮。その一方でギルド職員達は唖然としている。

「今日も残業かぁ……」

「解体するのに何時間かかるんだよ……」

 なんか、ごめんなさい。

「と、とりあえず査定をするので少しお待ちください。」

「わかりました。」

 俺は少し離れたところからキマイラの査定を見守ることにした。キマイラの牙やら尻尾やらをギルド職員がまじまじと見つめている。

「これは、中々の素材ですね……」

「え?キマイラの死骸って売れるんですか?」

「あ、はい。キマイラの牙は武器の素材になりますし、皮は高級鞄の素材になります。」

 意外だな。あんなに気持ち悪い見た目してるくせに高値で売れるとは。棚からぼたもちとはこのことだ。

「じゃあ、買取価格はどれくらいほどになるのでしょうか?」

「これほど大きなキマイラでしたら、金貨二枚はくだらないと思います。」

 このキマイラってデカい方だったんだ。ーってそうじゃなくて、金貨二枚ッ??つまりこのキマイラ一体で二十万円!!

「ほ、本当ですか?」

「査定の結果が出ないと分からないですけど、一目見ても金貨二枚は絶対いくでしょう。」

「絶対ですか……」

 そんな会話をしてるうちに、どうやら査定が終わったみたいだ。

「ユウマ様、査定が終了致しました。キマイラの牙で金貨一枚と銀貨六枚。キマイラの皮で金貨一枚の合計金貨二枚と銀貨六枚です。解体費はまけておきますね。」

「あぅー!」

 れいちゃんは査定結果に満足のようだな。もちろん俺も超満足している。ザクシュ草とキマイラで合計金貨三枚と銀貨六枚。日本円で三十六万円。

 日収三十六万円ってことは年収一億二千九百六十万円……宇多田ヒカルくらい稼いでるじゃねぇかよ。

「あぅーあぅー!」

 出た、れいちゃんの喜びの踊り。俺も思わぬ収入に心が踊る気持ちだ。

「では、こちら買取価格の金貨三枚と銀貨六枚です。」

 渡された金貨と銀貨の枚数を確認してポケットにしまう。確かにちょうどの金額だな。

「それでは、またのお越しをお待ちしております。」

「はい、ありがとうございました」

 受付嬢の笑顔に見送られながら、俺たちはギルドを後にした。

***

 一仕事終えた俺たちは、ギルドを出て宿屋に向かっていた。

「あーうー」

「おい、暴れるなって」

 受付嬢に安い宿屋を教えてもらったのだけど、安いだけあって治安はあまり良くないみたいだ。

 怪しい粉末の取引があらゆる場所で行われており、とても子供が泊まれる環境ではないらしい。まあれいちゃんは俺より強いし、大丈夫だろうけどな。

「ここか」

「あーうぅ!」

 教えてもらった宿は、薄汚れていていかにも安そうな外観をしていた。れいちゃんは汚いからか、ご機嫌斜めだ。

「すいませーん」

 ドアを開けるとギィという音が鳴り響く。

「はいよぉ!お泊まりかい!?」

「はい、一晩お願いしたいのですが……」

「一晩ねぇ!部屋は一つでいいかな?」

「一部屋で結構です。」

「おう。じゃあ一晩銅貨三枚ね。」

 おっと、こんなに治安が悪いんだからぼったくられるかと思いきや随分良心的な価格だな。

 って、よく見るとこの宿に泊まってるのは冒険者が多いな。

「うちの宿は冒険者ギルド直属なんで、冒険者の方には割引価格で提供してるんですよ。」

「え?でも俺ら冒険者だって一言も言ってないですよ?」

「ああ、お前ら今話題の冒険者だからな。子連れの冒険者がキマイラを倒したって噂がギルド中に広がってるぞ?」

「そ、そうなんですか」

「ああ、次のダイヤ冒険者候補だって期待のルーキーだぞ。頑張ってくれや、ハハッ!」

「あぅー」

 なんか照れ臭いな。いきなり期待のルーキーなんて、やる気が出ちゃったよ。よし、明日も依頼を受けることにしよう。

 でもまずは睡眠を取らないとな。れいちゃんも眠そうだし、俺も今日は色々ありすぎて眠い。俺達はお金を払って、二階の部屋に向かった。

「ふぅ、やっとゆっくりできるぜ」

「あうっ」

 ベッドに寝転ぶと、すぐに睡魔が襲ってきた。やっぱり疲れてるんだろう。

「おやすみ、れいちゃん」

「おぅ……」

 俺は眠りについた。
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