イクメンパパの異世界冒険譚〜異世界で育児は無理がある

或真

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第一章

誤解

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「んー、美味かった美味かった!お前飯も作れるんだなぁ!」

 皿を平らげたアグラは腹を撫でながらそう言い放った。

「てか俺の名前は『お前』じゃなくてユウマな。ユ、ウ、マ!」

「ユウマ?」

「ああそうだ、俺がユウマでこっちがれいちゃんだ。」

 アグラは少し考える素振りを見せると、重々しく口を開く。

「ユウマ。」

「何?」

「お前一体何者だ?」

「え?」

「そのスキル?を見て確信した。お前は普通の人間じゃない。一体お前は何者なんだ!」

 どうやらアグラは俺の正体に少し懐疑的な印象を持っているようだ。確かに変なスキルを使ったり、消滅言語であるクルシュ語を話したり、怪しまれる点は大量にあったな。そもそも奴隷市に子供を連れていく時点で只者ではないよな……

 勇者だということは出来るだけ伏せておきたいんだけど、ここで変にはぐらかしてボロが出るのは困るしな。今後もアグラと旅するんだから、別に話してもいいかもしれない。

「あぅあぅ!」

 れいちゃんもどうやら俺の考えに賛成のようだ。という訳で自分の正体について素直に話すことにした。

「俺は勇者なんだよ。」

「はぁ!?」

 アグラは絵に描いたような驚き方をする。

「いや待てよ、それなら納得できるな……」

「え?納得?」

「ああ。勇者なら妙なスキルの一つや二つを使えてもおかしくないな。」

「そ、そうなのか?」

「まぁ、勇者が人間離れした魔法やスキルを持っていることは俺も知っているからな。」

 アグラは言葉を続ける。

 アグラの祖国では勇者に纏わる伝説があるらしい。

最大の災厄がこの国を襲う時、その災厄に対抗すべく召喚された勇者が現れる。勇者は我らを導き、光輝の魔法を用いて邪悪な魔王を打ち滅ぼすーと。

「この伝説の勇者がお前とはな……ずっとこの伝説はフィクションだと思ってたぜ。」

「まあ、魔王を打ち倒す必要はもうないけどな」

「え?」

「え?」

 あれ?何か話が噛み合ってないような気がするんだが……

「もしかして……魔王が倒された事を知らないのか……?」

「魔王が倒された!?」

「あぅあぅ。」

***

 その後、一時間近くアグラが投獄されていた間に起きた様々な出来事について話した。まずは魔王が倒されたこと、武闘大会が大荒れだったことなど、細かく話してやった。

 まあ俺もこの世界に来てから一ヶ月も経ってないし、教えてやれることは少ないけどな……

「ユウマ。」

「今度は何だよ?」

 次から次へと質問の嵐を浴びせられた俺はそろそろ体力の限界だった。れいちゃんも話し始めの方は興味津々の様子で話を聞いていたが、飽きたのか今はぐっすり眠っている。

 そろそろ俺も眠らせて欲しいんだけどな。

 さて、どんなことを聞いてくるのかな、と憂憂してたら意外な言葉がアグラの口から放たれた。

「ありがとう。」

「え?」

 その言葉はあまりにも意外な言葉だった。さっきまであれほどぶっきらぼうだったのに、いきなり涼しげに『ありがとう。』なんて意味が分からない。

 困惑していた俺を他所に、アグラは言葉を続ける。

「私、疲れてたんだと思う。」

「そりゃあ数週間も投獄されてりゃあね。」

「そういう意味じゃなくてさ。子供が目の前で殺されて、訳が分からないまま奴隷として売られて一人ぼっちになってさ。」

 アグラは下を向きながら話す。俺はただ黙って、静かに彼女の話に耳を傾ける。

「毎日毎日その瞬間を思い出して、私のせいだと全部抱え込んで……それでいつの間にか自分が分からなくなった。」

 アグラは俺の方に向き直り、真っ直ぐな目で見つめてくる。

「でもユウマに話せてちょっとスッキリしたわ。」

 アグラは俺の手を取ると、ぐっと力を込める。俺の手を包む彼女の手は温かくて優しい手だった。俺は少し照れ臭くて目を逸らしてしまうが、アグラは構わず話を続ける。

「だから、本当にありがとね」

「わ、分かるよ。俺も大事な人と二度と会えないかもしれないから。」

「え?」

 俺はれいちゃんを指差して、「この子のお母さん」と返事した。

「お母さんどうしたの?」

「ちょっと遠いところに居てね……」

「そっか……」

 俺は少しアグラのことを分かっていなかったのかもしれない。彼女は確かにぶっきらぼうだし、自分勝手なところもあるし、口も悪いけど、それ以前に彼女は立派な母親なんだ。

 ちょっと彼女への評価を改めないといけないかもな。

「お互い頑張ろうね。」

「うん。」

「あとそろそろ手を離してくれないかな?」

「え?あ!ごめん!!」

 アグラは慌てて手を離す。そんな様子を見て、俺は笑ってしまった。彼女もまた釣られるように笑い出した。お互いに目を見つめながら笑っていた。
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