人形と呼ばれた僕は、黒狼殿下に溺愛される

yahagi

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鏡の部屋の危機

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 翌日、朝食を済ませた僕達は、鏡の部屋を探し出すべく、冒険を開始した。
 人形がいっぱい置いてある部屋や、からくりが置いてあるからくり部屋は、見ているだけでも楽しく、見応えがある。
 
 さて、次はどっちに行こう。
 ダンティスとうろうろしていると、ポンと肩を叩かれた。
 キツネの耳に柔和な笑顔のその男性は、明らかに上流貴族とわかる格好をしていた。
 俺の腰まである長い髪の上に耳がないのを見て、男性はにっこりと笑った。

「噂の第三王子妃かな。迷子ですか? 私はアルフレッド。ルパート家の末席に名を連ねるものです」

「ルパート卿。実は冒険をしていまして……」

「おやまあ、そうでしたか。では一つ助言を。あちらに行ってみると良いかもしれませんな」

 ルパート卿は左を指差した。
 僕達は左に行ってみることにした。

 やがて見つけたのは、ハンカチの部屋だった。
 ハンカチが綺麗に壁に並べられていて、素晴らしい刺繍が施されている。
 蝶や花、大きな狼や獅子など、どれも素晴らしい。
 僕とダンティスは、壁に貼られたハンカチにしばらく見とれた。

「いやあ、綺麗だったね」

「ええ。素晴らしい刺繍でした」

 僕達は右に曲がり、ようやく鏡部屋を発見した。
 4面に貼られた鏡以外は、古ぼけた本棚が一つあるだけ。
 明らかに怪しい本棚を見ると、埃を被っていない本がある。
 その一冊の本を手に取ると、床が一部沈み、道となっていく。
 ダンティスと降りていくと、そこはワインセラーになっていた。

「簡単にわかる所には、秘密の通路はないんだろうね」

「物凄い埃です。本棚から離れて鏡を調べましょう」

 鏡は一部外れるようになっており、裏は隠し部屋になっていた。
 美しい装飾品の数々が、所狭しと並べられている。
 僕は自分と同じ紫と橙色の宝玉を見つけて、口角を上げた。

「……ぉおーい」

「……ダンティス?」

「どうしましたか?」

「今、何か聞こえたよ」

「ぉぉーーーい! 聞こえたら返事してくれ!」

 僕とダンティスは顔を見合わせて、声が聞こえた壁に声をかけた。

「聞こえてますよーっ!」

「ああ、良かった。怪我人がいるんだ、どうか扉を開けてくれないか?」

「扉の開け方はわかりますか?」

「わからない。俺達は人質として閉じ込められているんだ。皆衰弱している。俺はガルハード。近衛騎士アリグレットの兄だ」

「わかった。急いでザイルを呼んでくる。もう少し待っていて」

 そこまで話して鏡部屋に戻ると、ダンティスが赤いハンカチを手に巻き付けたところだった。
 僕も手に巻いて貰う。
 緊急事態に行うやり方で、皆道をあけてくれたり、話しかけないようにしてくれる。
 エイザー国の本に載っていたやり方だ。
 僕達は気合いを入れて鏡の部屋を出ると、次の曲がり角を曲がった所で、覆面を被った男三名に襲われた。
 すかさずダンティスが前に出る!
 賊は刃物をギラリと光らせ、ダンティスに切りかかった。
 ダンティスは護身用のナイフで身を守り、相手の急所を切りつける。
 剣の交差する音が廊下に響き、やってきたメイドが逃げていく。
 後どれくらい、時間稼ぎすればいい?

 僕とダンティスの赤いハンカチを見たならば、ザイルに連絡が行くはず。
 ダンティスは一人を昏倒させ、二人を相手取る。

「ほう、随分頑張るものだ。さすが第三王子妃の護衛といったところか」

 それは、感心するような響きが込められていた。
 そこにいたのは、柔和な笑顔のルパート卿である。
 今は殺し合いの真っ最中。
 およそこの場に相応しくない姿に眉が寄る。

「ひとつ、約束してくれれば兵を引かせよう。鏡の部屋で見たものは忘れるんだ」

「僕は、あなたが何を言っているかわからない。僕は僕のすべき事を為す!」

「黒狼王子殿下のためだと言っても?」

「そんな言葉に惑わされない! もう戦争は終わったんだ!」

「チッ、仕方ない。やれ!」

 ルパート卿の合図で一人が僕に襲いかかる。
 ギュッと目をつぶった瞬間、暖かいものに包まれた。

「ザイル……!」

「緊急信号を使ったのは偉かったな。おかげで間に合った。ルパート卿、俺の嫁を襲うなど、何が理由でも許さんぞ」

 ザイルはあっという間に一人の賊を倒し、ダンティスの相手も昏倒させた。
 騎士団の面々が廊下をふさぎ、ルパート卿の逃げ道をなくす。

「ザイル、鏡の部屋に人質に取られていた人達がいるんだ。声を聞いたのは、ガルハードっていう男性でね。近衛騎士アリグレットの兄だと言っていたよ」

「何だと! 捜索願が出されている重要人物じゃないか。よし、俺が鏡の部屋の扉を開けよう。騎士団員も6名ついてこい。残りはルパート卿の捕縛につけ」

 ルパート卿は大人しくお縄についたように見えた。
 そしてケタケタと笑い出す。

「あれだけ戦争で人を殺したお前が人族と結婚など、出来るものか! 儂の孫娘は帰って来なかったというのに、お前ばかり幸せにさせるものかぁっ」

「あの戦争で勝ったからこそ、うちの国は残ってる! どんなに恨まれても、国がなくなるよりはマシだ。孫娘は……残念だったな」

「うわあああああああああああ!!」

 ルパート卿は捕らえられ、連行されていく。
 ザイルは僕とダンティスを連れて、鏡の部屋に入った。
 しんと静かな鏡の部屋で、ザイルは腕を組んだ。

「んで、どの部屋にいた?」

「僕が見つけたのは、鏡の細工で開く裏の部屋だ。そこに、隣から声が聞こえてきたんだ」

「じゃあ、これかな」

 ザイルは三冊の本を入れ替え、更に下の段の本を1冊抜いて、現れたスイッチを押した。

 ガラガラガラ……。
 鏡が左右に動き、一つの部屋が現れる。
 そこにはぐったりした女性が3名と、男性が2名いた。
 男性のうち1名は、肩を真っ赤に染めている。
 ザイルは騎士団員に合図し、保護させた。

「大変な騒ぎになっちまったが、もう大丈夫だ。シェラヘザード、俺が嫌になったか?」

 僕はザイルに抱き締められていた。
 頼りがいのある厚い胸板。
 たくましい両腕に、僕は昨夜のいやらしい妄想を思い出してしまったのである。

 僕の頬にすりつくザイルに、僕は真っ赤になって後退した。

「あの……あのっ、嫌になるなんて事、あるわけない……」

「そぉか、そぉか。俺のこと意識するようになったわけだな。なあ、キスして良い?」

「えっと、そのぅ……」

「駄目か?」

 眉を下げて悲しそうに聞いてくるザイルに、僕は白旗を上げた。

「い、いいよ。僕の部屋だったら……」

「やりぃ。これから昼食だから、その後部屋に行くな。エロいキスするから、覚悟しとけ」

「う、うん」

 僕の頬は高揚し、オッドアイの瞳は潤んでいる。
 ザイルはにっこり笑うと、もう一度抱き締めた。

「お前が無事で良かった。ダンティスも、お手柄だな」

「うん。ダンティス、本当にありがとう」

「あるじをお守りするのは当然の事です」

 ダンティスは冷静だが、誇らしげだ。
 僕も胸を張って歩いた。
 僕は第三王子妃として生きていくんだ。
 これしきで、へこたれるわけにはいかない。

 昼食には、王様と王妃様も姿を見せた。
 僕達が助けた人質はだいぶ重要な人材だったようで、感謝された。
 怪我人も治療され、衰弱していた人達も助かった。
 僕はほっと胸をなで下ろした。

「肝心のルパート卿なんだがな、取り調べを拒絶して何も喋らない。ただ、三人の賊を招き入れたのはルパート卿であると裏がとれた。王宮に賊を招き入れ、人質を取り、やがては国家転覆を狙ったものだと見られておる。彼には重い罰が下されるだろう」

「孫娘を亡くした復讐だったみてえだからな。他国とつるんでいた可能性もある。騎士団が家宅捜索に踏み切ったが、証拠が見つかるかもわからない。身分剥奪の上、国外追放が関の山だろう」

「他国と繋がっていた場合、それではまずいんではないですか?」

「証拠が何か見つかればいいんだが……」

「そうですね、鏡の部屋で見たものを忘れろって、言っていました。僕は人質のことだと思ったけれど、他にも何か隠してあるかも……?」

「よし、調べさせよう。冒険はしばらく違う部屋でやってくれよ。俺は二階のランドリー部屋がオススメだ」

 ザイルが合図すると、侍従が退室していく。
 鏡部屋を調べに行ったんだろう。
 僕達は雑談をしながら昼食を楽しんだ。

 昼食後、ザイルと一緒に自分の部屋に帰る。
 さっき、自分の部屋ならキスをしていいと言ったためだ。
 ザイルは鼻歌混じりでついてくる。
 僕は胸がドキドキしてたまらなかった。
 頭の中に浮かぶのは、僕を力強く抱くザイルの裸身だ。
 いやらしい妄想に胸がキュウッとなる。
 僕は自室のドアを開けて、ザイルを招き入れた。
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