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リハーサルと結婚式
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翌日の朝食後は、結婚式のリハーサルとのことで、大聖堂に移動した。
馬車に乗って移動したんだけど、大聖堂ってすんごく広い!
明日は貴族でいっぱいになるっていうけれど、さすが王族の結婚式って思ったよ。
僕がおそるおそる大聖堂を歩いていると、美しいピアノが聞こえてきた。
ピアノの音は大聖堂いっぱいに響いて、ものすごく感動的だ。
大聖堂の奥から出て来たのは、ザイルとお年を召した神官様だった。
「シェラヘザード。この方は大神官様だ。明日の式の指揮を執り行って下さる」
「ようこそお越し下さいました、シェラヘザード様。明日は素晴らしい式になることでしょう」
「はい。どうぞ宜しくお願いします」
「では早速ですが、入場からリハーサルを致しましょう。ピアノの伴奏が一緒に流れます」
それからは、リハーサルに集中した。
大神官様の前に着いたら、まず礼をする。
それから三歩前に出て、聖水を振りかけられる。
大神官様のありがたいお話を聞いて、僕とザイルが夫婦になったと宣言されたら、キスをする。
これで終わりなんだけれど、頭の向きとか角度とか、決まりがあるらしく、何度もやり直した。
お昼になんとかリハーサルは終わり、ザイルも馬車で一緒に戻っている。
「午後はパレードのリハーサルがあるから、エッチな事は出来ねえな。明日の初夜までお預けだ」
「うん、わかった。明日が楽しみだね。パレードって、町を回るの?」
「そうだ。王都の大通りをぐるっと回る。警備は行き届いている筈だが、何かあってもお前は車を降りるなよ。守られるのも俺の嫁の仕事だ」
僕は頷いて、外の景色を眺めた。
明日はとうとう結婚式。
民も明日はお祭り騒ぎだって教えて貰った。
至る所で炊き出しもあるそうで、キッチンは戦場みたいな忙しさだとか。
王宮に戻った僕達は、食堂で昼食を食べた。
さて、次はパレードの練習である。
屋根のない馬車にザイルと一緒に乗る。
ダンティスと、ザイルの侍従も乗る。
王宮の庭を抜けて大通りへ出ると、左右に雑多な町が佇んでいる。
通行人がこちらに手を振る。
「ほら、シェラヘザード。笑って手を振ってやれ」
ザイルが手を振りながら笑っている。
僕も笑顔を作りながら、手を振った。
「第三王子妃、シェラヘザード様! ようこそ、この国へ!」
「シェラヘザード様、万歳!」
僕には耳も尻尾もない。
しかしこうして受け入れてくれる人達がいる。
僕は胸が熱くなり、感極まってポロリと泣いた。
笑顔は絶やさず、手を振り続ける。
「なっ? お前はもう俺の嫁だって認められてるんだ。これからは胸張って歩けよ」
「うん……! 僕、受け入れて貰えてすっごく嬉しいよ。僕はちゃんと笑えてる?」
「ああ。可愛い微笑みだ。お前は人形なんかじゃねえよ、シェラヘザード。俺達にはちゃんと伝わる。だから泣くな、シェラヘザード……」
人形だと言われ続けた18年だった。
こんなに愛おしい人と出会えて、国に迎え入れて貰えて、僕はとても幸せだ。
僕は後から後から涙が溢れてきて、しばらく泣いた。
背中を撫でるザイルの手があたたかい。
涙はザイルの服に染み込んでいった。
折り返し、王都の大通りを馬車で歩く。
「あれはなあに?」
「あれは散髪屋だ。髪を切ってくれる」
「あれは?」
「あれは投げ輪屋だ。投げ輪を知らないか?」
「うん、輪を投げるの?」
「そうだ。国の競技にもなっているぞ。目当てのポールに輪を投げ入れるんだが、結構難しい」
町を見ているだけでもかなり楽しい。
ザイルは次々に解説してくれて、その楽しげな声を聞いているだけで胸が躍るようだった。
「っと、到着。今日はここまでだな。お忍びで町に行くときに、もっと詳しく説明してやるよ」
気付けば王宮の庭に到着していた。
正面玄関まで乗せて貰い、ザイルと3階へ歩く。
3の刻の鐘が鳴ったので、お茶の時間だ。
僕達は食堂に入り、美味しいおやつを堪能した。
ザイルは仕事に戻り、僕は自室に下がる。
僕は明日の流れが書いてある書面を何度も読み返した。
明日は結婚式本番だ。
僕は期待を胸に、時を過ごした。
夜、張り型を入れる時間。
張り型でイった僕は、荒い息をつきながらベッドに転がった。
「上手にイけましたね。明日は初夜本番です。ザイル殿下の様子を見る限り、眠る暇はないと思っておいたほうが良いでしょう」
「えっ。初エッチがそんなに激しいの?」
「そのための張り型です。獣人の方々は愛が重く、閨も激しくなりがちだと、案内の冊子にも書いてありましたね」
「僕、頑張るよ。ザイルに愛して貰いたい」
「ええ。明日からたっぷり愛して貰ってください。俺もハロルドも、食料を持ってスタンバイしていますからね」
明日、ではなくて明日からずっと、ザイルに愛して貰える。
それは素敵な夢のような現実だった。
人形と呼ばれた僕が、こんなに毎日、にこにこと笑って暮らせている。
何より、こんな僕を愛してくれたザイル。
ザイルが大好きだ。
こんなに人を愛おしいと思ったことはない。
ザイルを想うと、胸がドキドキと高鳴る。
僕は恋を知り、これから、愛を知っていく。
僕は明日を思いながら、すうっと眠りに落ちていった。
翌日、朝食に王族も勢揃いだった。
王様と王妃様、第一王子と第二王子、そして第三王子のザイル。
「今日はきっと良き日になることだろう。シェラヘザード、ザイルはお主に首ったけだ。ザイルを一生、宜しく頼むぞ」
「はい。僕もザイルを一生愛すると誓います。こんな僕を受け入れてくれて、感謝しています」
「あなたがこの国に来てから、城の中もぱっと華やいだわ。王子妃教育は三ヶ月後から。それまではお城の探検もご自由にどうぞ」
王様と王妃様のありがたいお言葉を貰って、僕はますますこの国が好きになる。
「ありがとうございます。立派な第三王子妃になれるように、励みます」
僕は、心から微笑んだ。
「ザイルもシェラヘザードも今日は幸せな一日になることだろう。だが、ザイルに恨みを抱いている奴等が事を起こす可能性も高い。騎士団は動員しているが、特にパレード時は民が多すぎて手が回らない。ザイルとシェラヘザードは特に気を付けて貰いたい」
第一王子の重苦しい声に、僕もザイルも頷いた。
朝食後は、早速花嫁衣装に着替え、大聖堂に移動である。
美しいヴェールはダンティスが持ってくれた。
ザイルは純白の衣装に、紫と橙色の装飾品を身にまとっている。
文句なく格好良くて、しばし見とれてしまった。
大聖堂の周りにはたくさんの民が集まってきていて、馬車を通すのにも一苦労だ。
厳かな大聖堂の中は貴族でギッシリ。
僕は純白のヴェールを被って、一歩一歩、ゆっくり歩く。
隣を歩くザイルはいつも通り胸を張り、僕を気遣いながら歩いてくれる。
大神官様の前に着き、まずは一礼する。
それから三歩前に出て、聖水を振りかけられる。
大神官様のありがたいお話が始まった。
これが結構長いが、下を向いてじっとしていなければならない。
「……長き戦争を無敗で終えたザイル殿下に、この度人族の男性が添うことになりました。名はシェラヘザード。18歳の青年です。ザイル殿下は22歳。よき縁でございましたな。ザイル殿下とシェラヘザードは、本日夫婦となりました。大聖堂は二人の愛を祝福致します。では、誓いの口付けを!」
ザイルと向かい合い、目を閉じると、ふわりとヴェールが持ち上げられて、チュッとキスされた。
途端に、洪水のような拍手に見舞われる。
僕達は拍手の中、二人で大聖堂を歩いた。
僕達はこれで夫婦になったのだ。
僕は嬉しくてたまらなくて、馬車に乗った後、ザイルの胸で泣いてしまった。
「俺達はこれで夫婦だ。一生離さねえぞ」
「僕だって離れないよ。一生、ずーっと愛してる」
「……本当か?」
「これから証明してみせるよ。人族だって、一人の人を一生愛するんだって事をね」
「そうか。楽しみにしてる」
にっこりと笑ったザイルが幸せそうに笑ったので、僕もふわりと微笑んだ。
ヴェール越しの視界が揺れている。
僕は涙を拭うと、到着したパーティ会場に歩を進めた。
王宮内のダンスホール会場は飾り付けられ、披露宴会場となっていた。
しずしずと最前列中央まで歩くと、まず司会が拡声器を持って声を張り上げた。
「それでは、ザイル殿下とシェラヘザード様のご結婚披露宴を開催致します! まずはわが国随一の歌声を持つリリアーナの歌声をお聞きください!」
リリアーナという歌姫の歌声は高く美しく響き、楽団の演奏に乗せて3曲披露された。
拍手と共に次の催しに移る。
「食事の準備が整いましたので、からくり師ロロッコのからくり5号を鑑賞しながら、昼食をご堪能下さい!」
「うわあ、あのからくり、人みたいだよ」
僕はつい声を出してしまった。
からくりとからくり師がこっちを向いて一礼する。
からくりは滑らかに動いて歩いていく。
僕はスープを飲みながら、ザイルを見た。
「からくりに耳も尻尾もついてねえ。人族のお前を歓迎してるんだ。良かったな」
「うんっ」
食事は穏やかに進み、食後のお茶を飲んだタイミングで、新たな催し物が始まった。
「では、投げ輪の国一番の選手、アグリーに登場して貰いましょう。ポールは2本、用意してあります!」
勇壮な音楽と共にアグリー登場。
ザイルも興味深そうに目を輝かせている。
「まずは第一投、投げました! 見事一個目のポールに投げ入れました。流石アグリーです!」
「まず小手調べってところだな。アグリーはもっと飛ばすぜ」
ザイルの解説を聞きながら、アグリー2投目。
投げた!
「二投目もなんなくポールに投げ入れました! おっと次はずんと離れて4メートル! この距離をどうやって投げるのでしょうかーっ!」
ポールが物凄く離された。
僕だったら到底届かない。
アグリーは肩をぐるんぐるん回して、助走をつけて輪を投げた。
「肩を回し、助走をつけて投げました! 輪は見事ポールに投げ入れられました! 流石国一番の投げ輪選手、アグリーです! 皆様、盛大な拍手でお送りください!」
アグリーが去った後、楽しげな曲が演奏される。
「では、ダンスタイムです! まず第一ダンスはザイル殿下とシェラヘザード様にお願いしましょう。では、どうぞーっ」
僕とザイルは手を取り合い、ダンスホールへ躍り出た。
馬車に乗って移動したんだけど、大聖堂ってすんごく広い!
明日は貴族でいっぱいになるっていうけれど、さすが王族の結婚式って思ったよ。
僕がおそるおそる大聖堂を歩いていると、美しいピアノが聞こえてきた。
ピアノの音は大聖堂いっぱいに響いて、ものすごく感動的だ。
大聖堂の奥から出て来たのは、ザイルとお年を召した神官様だった。
「シェラヘザード。この方は大神官様だ。明日の式の指揮を執り行って下さる」
「ようこそお越し下さいました、シェラヘザード様。明日は素晴らしい式になることでしょう」
「はい。どうぞ宜しくお願いします」
「では早速ですが、入場からリハーサルを致しましょう。ピアノの伴奏が一緒に流れます」
それからは、リハーサルに集中した。
大神官様の前に着いたら、まず礼をする。
それから三歩前に出て、聖水を振りかけられる。
大神官様のありがたいお話を聞いて、僕とザイルが夫婦になったと宣言されたら、キスをする。
これで終わりなんだけれど、頭の向きとか角度とか、決まりがあるらしく、何度もやり直した。
お昼になんとかリハーサルは終わり、ザイルも馬車で一緒に戻っている。
「午後はパレードのリハーサルがあるから、エッチな事は出来ねえな。明日の初夜までお預けだ」
「うん、わかった。明日が楽しみだね。パレードって、町を回るの?」
「そうだ。王都の大通りをぐるっと回る。警備は行き届いている筈だが、何かあってもお前は車を降りるなよ。守られるのも俺の嫁の仕事だ」
僕は頷いて、外の景色を眺めた。
明日はとうとう結婚式。
民も明日はお祭り騒ぎだって教えて貰った。
至る所で炊き出しもあるそうで、キッチンは戦場みたいな忙しさだとか。
王宮に戻った僕達は、食堂で昼食を食べた。
さて、次はパレードの練習である。
屋根のない馬車にザイルと一緒に乗る。
ダンティスと、ザイルの侍従も乗る。
王宮の庭を抜けて大通りへ出ると、左右に雑多な町が佇んでいる。
通行人がこちらに手を振る。
「ほら、シェラヘザード。笑って手を振ってやれ」
ザイルが手を振りながら笑っている。
僕も笑顔を作りながら、手を振った。
「第三王子妃、シェラヘザード様! ようこそ、この国へ!」
「シェラヘザード様、万歳!」
僕には耳も尻尾もない。
しかしこうして受け入れてくれる人達がいる。
僕は胸が熱くなり、感極まってポロリと泣いた。
笑顔は絶やさず、手を振り続ける。
「なっ? お前はもう俺の嫁だって認められてるんだ。これからは胸張って歩けよ」
「うん……! 僕、受け入れて貰えてすっごく嬉しいよ。僕はちゃんと笑えてる?」
「ああ。可愛い微笑みだ。お前は人形なんかじゃねえよ、シェラヘザード。俺達にはちゃんと伝わる。だから泣くな、シェラヘザード……」
人形だと言われ続けた18年だった。
こんなに愛おしい人と出会えて、国に迎え入れて貰えて、僕はとても幸せだ。
僕は後から後から涙が溢れてきて、しばらく泣いた。
背中を撫でるザイルの手があたたかい。
涙はザイルの服に染み込んでいった。
折り返し、王都の大通りを馬車で歩く。
「あれはなあに?」
「あれは散髪屋だ。髪を切ってくれる」
「あれは?」
「あれは投げ輪屋だ。投げ輪を知らないか?」
「うん、輪を投げるの?」
「そうだ。国の競技にもなっているぞ。目当てのポールに輪を投げ入れるんだが、結構難しい」
町を見ているだけでもかなり楽しい。
ザイルは次々に解説してくれて、その楽しげな声を聞いているだけで胸が躍るようだった。
「っと、到着。今日はここまでだな。お忍びで町に行くときに、もっと詳しく説明してやるよ」
気付けば王宮の庭に到着していた。
正面玄関まで乗せて貰い、ザイルと3階へ歩く。
3の刻の鐘が鳴ったので、お茶の時間だ。
僕達は食堂に入り、美味しいおやつを堪能した。
ザイルは仕事に戻り、僕は自室に下がる。
僕は明日の流れが書いてある書面を何度も読み返した。
明日は結婚式本番だ。
僕は期待を胸に、時を過ごした。
夜、張り型を入れる時間。
張り型でイった僕は、荒い息をつきながらベッドに転がった。
「上手にイけましたね。明日は初夜本番です。ザイル殿下の様子を見る限り、眠る暇はないと思っておいたほうが良いでしょう」
「えっ。初エッチがそんなに激しいの?」
「そのための張り型です。獣人の方々は愛が重く、閨も激しくなりがちだと、案内の冊子にも書いてありましたね」
「僕、頑張るよ。ザイルに愛して貰いたい」
「ええ。明日からたっぷり愛して貰ってください。俺もハロルドも、食料を持ってスタンバイしていますからね」
明日、ではなくて明日からずっと、ザイルに愛して貰える。
それは素敵な夢のような現実だった。
人形と呼ばれた僕が、こんなに毎日、にこにこと笑って暮らせている。
何より、こんな僕を愛してくれたザイル。
ザイルが大好きだ。
こんなに人を愛おしいと思ったことはない。
ザイルを想うと、胸がドキドキと高鳴る。
僕は恋を知り、これから、愛を知っていく。
僕は明日を思いながら、すうっと眠りに落ちていった。
翌日、朝食に王族も勢揃いだった。
王様と王妃様、第一王子と第二王子、そして第三王子のザイル。
「今日はきっと良き日になることだろう。シェラヘザード、ザイルはお主に首ったけだ。ザイルを一生、宜しく頼むぞ」
「はい。僕もザイルを一生愛すると誓います。こんな僕を受け入れてくれて、感謝しています」
「あなたがこの国に来てから、城の中もぱっと華やいだわ。王子妃教育は三ヶ月後から。それまではお城の探検もご自由にどうぞ」
王様と王妃様のありがたいお言葉を貰って、僕はますますこの国が好きになる。
「ありがとうございます。立派な第三王子妃になれるように、励みます」
僕は、心から微笑んだ。
「ザイルもシェラヘザードも今日は幸せな一日になることだろう。だが、ザイルに恨みを抱いている奴等が事を起こす可能性も高い。騎士団は動員しているが、特にパレード時は民が多すぎて手が回らない。ザイルとシェラヘザードは特に気を付けて貰いたい」
第一王子の重苦しい声に、僕もザイルも頷いた。
朝食後は、早速花嫁衣装に着替え、大聖堂に移動である。
美しいヴェールはダンティスが持ってくれた。
ザイルは純白の衣装に、紫と橙色の装飾品を身にまとっている。
文句なく格好良くて、しばし見とれてしまった。
大聖堂の周りにはたくさんの民が集まってきていて、馬車を通すのにも一苦労だ。
厳かな大聖堂の中は貴族でギッシリ。
僕は純白のヴェールを被って、一歩一歩、ゆっくり歩く。
隣を歩くザイルはいつも通り胸を張り、僕を気遣いながら歩いてくれる。
大神官様の前に着き、まずは一礼する。
それから三歩前に出て、聖水を振りかけられる。
大神官様のありがたいお話が始まった。
これが結構長いが、下を向いてじっとしていなければならない。
「……長き戦争を無敗で終えたザイル殿下に、この度人族の男性が添うことになりました。名はシェラヘザード。18歳の青年です。ザイル殿下は22歳。よき縁でございましたな。ザイル殿下とシェラヘザードは、本日夫婦となりました。大聖堂は二人の愛を祝福致します。では、誓いの口付けを!」
ザイルと向かい合い、目を閉じると、ふわりとヴェールが持ち上げられて、チュッとキスされた。
途端に、洪水のような拍手に見舞われる。
僕達は拍手の中、二人で大聖堂を歩いた。
僕達はこれで夫婦になったのだ。
僕は嬉しくてたまらなくて、馬車に乗った後、ザイルの胸で泣いてしまった。
「俺達はこれで夫婦だ。一生離さねえぞ」
「僕だって離れないよ。一生、ずーっと愛してる」
「……本当か?」
「これから証明してみせるよ。人族だって、一人の人を一生愛するんだって事をね」
「そうか。楽しみにしてる」
にっこりと笑ったザイルが幸せそうに笑ったので、僕もふわりと微笑んだ。
ヴェール越しの視界が揺れている。
僕は涙を拭うと、到着したパーティ会場に歩を進めた。
王宮内のダンスホール会場は飾り付けられ、披露宴会場となっていた。
しずしずと最前列中央まで歩くと、まず司会が拡声器を持って声を張り上げた。
「それでは、ザイル殿下とシェラヘザード様のご結婚披露宴を開催致します! まずはわが国随一の歌声を持つリリアーナの歌声をお聞きください!」
リリアーナという歌姫の歌声は高く美しく響き、楽団の演奏に乗せて3曲披露された。
拍手と共に次の催しに移る。
「食事の準備が整いましたので、からくり師ロロッコのからくり5号を鑑賞しながら、昼食をご堪能下さい!」
「うわあ、あのからくり、人みたいだよ」
僕はつい声を出してしまった。
からくりとからくり師がこっちを向いて一礼する。
からくりは滑らかに動いて歩いていく。
僕はスープを飲みながら、ザイルを見た。
「からくりに耳も尻尾もついてねえ。人族のお前を歓迎してるんだ。良かったな」
「うんっ」
食事は穏やかに進み、食後のお茶を飲んだタイミングで、新たな催し物が始まった。
「では、投げ輪の国一番の選手、アグリーに登場して貰いましょう。ポールは2本、用意してあります!」
勇壮な音楽と共にアグリー登場。
ザイルも興味深そうに目を輝かせている。
「まずは第一投、投げました! 見事一個目のポールに投げ入れました。流石アグリーです!」
「まず小手調べってところだな。アグリーはもっと飛ばすぜ」
ザイルの解説を聞きながら、アグリー2投目。
投げた!
「二投目もなんなくポールに投げ入れました! おっと次はずんと離れて4メートル! この距離をどうやって投げるのでしょうかーっ!」
ポールが物凄く離された。
僕だったら到底届かない。
アグリーは肩をぐるんぐるん回して、助走をつけて輪を投げた。
「肩を回し、助走をつけて投げました! 輪は見事ポールに投げ入れられました! 流石国一番の投げ輪選手、アグリーです! 皆様、盛大な拍手でお送りください!」
アグリーが去った後、楽しげな曲が演奏される。
「では、ダンスタイムです! まず第一ダンスはザイル殿下とシェラヘザード様にお願いしましょう。では、どうぞーっ」
僕とザイルは手を取り合い、ダンスホールへ躍り出た。
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