人形と呼ばれた僕は、黒狼殿下に溺愛される

yahagi

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黒煙が上がる

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 僕とザイルの第一ダンスに、皆注目している。
 僕はザイルに腰を抱かれ、軽やかに踊り出した。
 美しいステップと、風に舞う純白のヴェール。
 僕はザイルのリードに合わせて、思いっきりダンスを楽しんだ。
 
 一曲終わると、貴族たちもダンスホールに出てくる。
 次の曲は激しいターンもある難しい曲だ。

「踊るぞ、シェラヘザード」

「うんっ」

 僕達は音楽に乗って踊り出した。
 激しいターンも、ザイルのリードなら、難なく踊れちゃう。
 僕は楽しくなって、踊りながら笑っていた。
 
 三曲目は、ゆったりとしたバラード。
 僕はザイルの胸に頭を預け、抱き締められるように、踊っていた。
 ザイルとこうしていると、安心すると同時にエッチな気持ちも湧いてきちゃう。
 僕は初夜の事を考えつつ、バラードを踊り終えた。

 その後は貴族に挨拶まわり。
 人族の僕を受け入れてくれる優しさが目に染みた。
 貴族は数百人いるので、全員と言葉を交わすことは出来ない。
 そんな中僕とザイルの前に立ったのは、ザイルと同じ年頃の青年だった。
 髪は焦げ茶色のくせっ毛で、目は青い。
 青い礼服が引き締まった身体を彩っている。

「シェラヘザード、こいつは俺の乳兄弟のウェイン。黒狼少年の冒険を書いた奴だ。ウェイン、こっちのオッドアイがシェラヘザード。俺の嫁だ。あっちが侍従のダンティス」

「僕はウェイン。ザイルの乳兄弟で、作家兼冒険者をしているよ。二人とも、結婚おめでとう。シェラヘザード、君も冒険が好きなんだって?」

「うん。黒狼少年の冒険はまさに僕がしてみたかった事が満載で、読んでいて楽しいよ。ザイルの乳兄弟なら、僕にも遠慮はいらないよ」

「そうかい。ザイルの愛を一身に受ける君なら、どんな苦難も乗り越えることだろう。ザイルのどんなところが好きだい?」

「頼りがいがあるところと、美しい顔と、優しいところ」

「顔はねえ、ザイルはナメられるから好きじゃないんだけど、お嫁さんに好かれたなら良かったじゃないか。子供の頃は女の子みたいに可憐だったんだよ」

 なんか、想像できる。
 じゃあ、黒狼少年は色々大変だったのだろうな。

「俺は兄上のような勇ましい顔立ちが良かった。フリルのレースが似合いすぎて、俺はずっとフリルのレースのシャツ着て冒険してたんだぜ。そりゃあ、破落戸だって狙いに来るよ」

「でも、美しい顔だもの。今もフリルのシャツが似合うだろうけど、強さはピカ一でしょっ?」

「ああ。強さだけは本物だけどよ、普通のシャツ着せてくれ。フリルのシャツはトラウマなんだ」

 ありゃまあ。
 思ってもないトラウマに、僕は笑みを零す。

「鏡の間の歌劇はねえ、来週には見せに来れるって劇団長が言っていたよ。国立歌劇場じゃなくて、王宮内の歌劇場で見れるから、ぜひ見てみて。諸悪の根源ルパート卿と対峙するシーン、うまく書けてると思うよ」

「あっ、うん。スケジュールが合えばぜひ見たいよ」

「挨拶できて良かったよ。シェラヘザード、ザイルを宜しく。結構君には弱いからさ、こき使うといいよ。じゃあ、またね」

 ウェインは風のように去っていき、次の貴族がやってくる。
 僕達は結婚を祝われて、とても幸せだ。

 貴族の挨拶をこなし、ほどほどで会場を出る。
 屋根のない馬車に乗り、今度はパレードだ。
 王宮を出て町に出ると、昨日よりも多い民で道はいっぱいだった。

「シェラヘザード様、万歳!」

「黒狼殿下、ご結婚おめでとうございます!」

「第三王子妃、シェラヘザード様に幸あれ!」

 民から届けられるお祝いの数々。
 それは僕を受け入れた証であった。
 
 昨日も通った理髪店のあたりで、ザイルが異変に気付いた。

「おい、何か焦げ臭えぞ! 人を集めて──」

 どんっと、前方で黒い煙が爆発した。
 赤い火が見えて、黒い煙がもうもうと上がる。
 離れている僕でさえ熱さを感じるのだから、側にいる民が悲鳴を上げるのは当然だった。

「きゃああああああ!」

「熱ィ、誰か、助けてくれ!」

「坊や、坊やはどこ?」

 駆け出して行ったのは、馬車と併走していた騎士だった。
 そして、黒い煙の向こうから、覆面をした賊が6名飛び出してきた。
 
「シェラヘザード、車から降りるなよ。ここにいろ。ダンティス、頼んだぞ」

「命に代えましてもお守り致します」

 襲いかかってきた賊を、一人、また一人と、切り捨てていくザイル。
 前方は黒い煙でよく見えない。
 阿鼻叫喚の中、背後から声がした。

「コイツがシェラヘザードだ」

 僕の純白のヴェールを引っ張ったかと思うと、ガキン!という音がして、僕は馬車の上に倒れ込んだ。
 ダンティスが殺気をたたえて睨み付ける先には、黒ずくめの男がいた。

「ザイル様! 手練れです。出来ればこちらへ!」

「今行く!」

 六人目を切り捨てたザイルは三歩で馬車に駆け上がり、黒ずくめの男と対峙した。
 
「げえっへっへっへ。もう少しでお前の女を切り刻んでやれたのによォ……」

 カキン! キンッ! キンッ!
 刃と刃が交錯し、迂闊に頭を上げれない。
 僕は馬車に付したまま、状況を見守った。

「何故シェラヘザードを狙った! 何が目的だ!」

「あんたをズタボロにできりゃあ、何だっていい奴がこの世にゃあいるんでさぁ。金を浴びるほど積まれちゃァ、俺達だってやるしかあるめえよ!」

 黒ずくめの男の背後から4人の覆面の男が出てくる。
 後方にいた騎士団員が気付いて切りかかるが、逆に手傷を負わされてしまう。
 相当な手練れなのだろう。
 そいつらが見ているのはザイルではなく、僕だった。

 僕はダンティスの足元に付していた。
 僕が捕まったら一番いけないことがわかっていたからだ。
 ダンティスも刃を構えて、動こうとしない。
 
「オラアアアアっ!」

 ザイルが吠える。
 ガキン!
 跳び去った黒ずくめの男は、5人で一斉に襲いかかってきた。
 それをいなし、斬り伏せるザイルは鬼神のように強かった。

 残り4人になったとき、黒ずくめの男は懐に手をやり、丸いボールを取り出した。

「ぐわああああっ」

 ザイルに斬られながらも、男が投げたボールは僕の上空で爆発した。
 黒い煙がもうもうと上がる。
 
「熱っ、ダンティス、大丈夫?!」

「俺なら大丈夫です、シェラヘザード様、もうしばらくの辛抱です!」

 初めに黒い煙が爆発した時、騎士が信号弾を空に打ち上げていた。
 複数の馬の足音が聞こえてきて、こっちから逃げ出した賊が切り捨てられる。
 そして味方の騎士団がザイルの元に到着した途端、後方で黒い煙が爆発した。

「ザイル、また会おうぜ~。次はそのオッドアイの嫁さんも一緒になぁ!」

「待て、この野郎っ」

 生き残っていた4名は散り散りに逃げていき、騎士団も追っていく。

「ザイル殿下、ご無事ですか!」

「ああ。俺の嫁が狙われた。相当な手練れだ。金目当てのようだが、気を付けろ」

「はっ」

 ザイルは僕を助け起こした。

「ちょっと火傷したか? 純白のヴェールがすすで真っ黒だ。俺の嫁になった途端、災難だったな」

「これくらい、なんともないよ。僕はザイルの嫁だもの。ちょっと怖かったけど、へっちゃらさ」

「じゃあ、馬車を動かすぞ。胸張って帰ろうぜ」

 馬車が動くと、民衆は騒ぎを抑え、僕を応援してくれた。

「へこたれねえで下さいよ、シェラヘザード様!」

「頑張って、シェラヘザード様!」

「黒狼殿下を頼みますよ!」

 僕は、笑顔で手を振った。
 純白のヴェールは黒くすすけてしまったし、せっかくの花嫁衣装も汚れてしまった。
 でも、ザイルと共にいるだけで勇気が湧いてくる。
 これからも、こんな事があるのだろう。
 でも、臆したりしない。
 僕はザイルの嫁だから、負けない。

 王宮に帰り着き、まずお風呂に入った。
 結構真っ黒だった為、ハロルドとダンティス二人がかりで洗ってくれた。
 しっかり浣腸もして、お尻も綺麗に洗う。
 僕は先程のカッコ良いダンティスを、ハロルドにアピールしておいた。

「頑張ったんだね、ダンティス」

 その眼差しには愛が込められてるに違いない。
 ハロルドの言葉に、ダンティスも頬を緩めていた。

 湯船にしっかり浸かり、急遽用意された純白の衣装を着る。
 不測の事態に備えた一着とのことで、大急ぎで細部を縫ったりせわしない。
 純白のヴェールは役目を終えて、水に浸けられている。

「シェラヘザード様、お衣装はこれで宜しいでしょう。後は赤くなっているところに、火傷用の軟膏を塗りましょうか」

「はい。お願いします」

 医師の先生が丁寧に軟膏を塗り、包帯を巻いてくれる。
 ちょっと仰々しいけれど、仕方がない。

 夕餉の時間になったので、食堂へ行くと、王族の皆さんも勢揃いしていた。
 王様と王妃様、第一王子と第二王子、そして第三王子のザイル。

「賊に襲われたと聞いた。爆発物を投げつけられたそうだな。大事ないか」

 王様が心配そうに聞いてくれる。

「はい。少々赤くなった程度です。ご心配をおかけして申し訳ありません」

「私達は家族よ。何かあれば、言って頂戴ね」

 王妃様の言葉が嬉しい。
 僕は心から笑うことが出来た。

「僕は一生ザイルの嫁として生きていきます。この気持ちは変わりません」

「良かった。騎士団が捜索しているが、賊の4名は見つかっていない。生き残った賊を問い詰めても知らないの一点張り。不幸中の幸いは、今回の騒ぎで民に死者が出なかった事だ」

 第一王子は、しっかり僕を見て、言った。

「目的は供述している。第三王子妃、シェラヘザードの誘拐だ。この事件は尾を引くと俺は見ているよ。シェラヘザード、騎士団もザイルも君を守る。どうかこれからもザイルを宜しく頼むよ」

「はい。守っていただけて嬉しいです。どうぞ末永く宜しくお願いします」

「シェラヘザード、兄貴は脅してるんじゃなくて、心配しているだけだから。顔が怖いのは生まれつきなんだ」

 第二王子殿下の軽い物言いで、僕は笑ってしまった。
 確かに第一王子は、勇ましい顔立ちでいらっしゃる。

「兄上のお顔は俺の憧れだ。格好良いだろう?」

 と、ザイルが言うので、頷いておいた。

「こほん。確かに心配している。俺の妃も城の冒険のついでで良いので、会いたいと申していた。そなたはしばらく忙しかろうが、覚えておいてやってくれ」

「はい。お心遣いに感謝致します」

「長々とすまなかったな。夕餉を始めよう」

 第一王子の合図で、スープが運ばれてくる。
 
「俺の妃も、会いたいって言ってたよ。初夜が落ち着いたらさぁ、妃だけでお茶会でもどぉ?」

 第二王子のお誘いに、僕は喜んで頷いた。

「ぜひ、お願いします。僕もご挨拶させて頂きたいです」

「まだ日程は未定な。初夜はこれからなんだよ」

 ザイルがそう言うので、日程は未定。
 でも、妃だけのお茶会なんて素敵だ。
 僕は楽しみが増えて、とても嬉しい。

 スープを飲み終わり、次のオムレツの皿が運ばれてくる。
 オムレツもとっても美味しくて、僕はぱくぱく食べた。
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