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妃だけのお茶会
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翌朝、目覚めたらザイルの腕の中だった。
幸福な目覚めに、自然と頬が緩む。
身じろぎをしたら起きたようで、ザイルの声が降ってくる。
「おはよう、シェラヘザード」
「おはよう、ザイル」
おはようのキスをして、服を身に付ける。
僕はちょっとフラフラするが、歩くことが出来た。
「午前中は座っておいたほうがいいぞ。引っ越しは使用人に任せろ」
「うん……無理はしないよ。でも、午後からはお茶会に参加出来そうだね」
「いいんじゃないか。第二王子妃はお前と同じ男だから、親身になってくれると思うぞ。色々話して来いよ」
「うん、ありがとう」
僕は第一王子妃と、第二王子妃にお茶会の打診をすると、ザイルに手を引かれて食堂へ行った。
ベーコンエッグとクロワッサンを食べて、コーヒーを飲む。
いつもの食事を終えて、食堂を出ると、僕はザイルに手を引かれて、第三王子妃の私室に行った。
ソファに腰を落ち着けると、ダンティスとハロルドが、僕のお気に入りの本を運んできた。
黒狼少年の冒険の3巻もある。
「お部屋のお引っ越しは我らが行いますので、シェラヘザード様は読書でもどうぞ」
ダンティスにそう言われ、僕は黒狼少年の冒険の3巻を開いた。
「わかった。午前中は読書することにするよ。ザイルもついててくれてありがとう」
「どっか行きたくなったら声かけろよ。俺も自室にいるからな」
ザイルは自室に下がり、僕は読書を開始した。
蜘蛛のモンスターと戦い、傷付く黒狼少年。
糸でぐるぐる巻きにされ、いざ食われる! と思いきや、助けてくれたのは上位冒険者だった。
相変わらず黒狼少年の冒険は面白い。
食い入るように読んでいると、ダンティスが紅茶を入れてくれた。
ジャムの乗ったクッキーも添えられ、一つぱくりと口に放り込む。
優しい甘さが口一杯に広がり、僕は頬を緩めた。
お部屋の引っ越しは午前中で終わり、安静にしていたせいか、腰の調子も良い。
でも一応、ザイルに手を引かれて食堂へ行った。
「腰の調子はどうだ?」
「ずいぶん良いよ。この調子なら明日は探検に出掛けられるよ」
「行きたがってた町に連れて行ってやろうか。お忍びでな」
「うわあ、行きたい。連れて行って」
「良いぞ。じゃあ、明日な」
ザイルは侍従に合図すると、スープをすすった。
「僕、変装してもオッドアイが目立つから、すぐにバレちゃうんじゃない?」
「俺が側にいれば大丈夫だ。まあ、せっかくだからサングラスもかけよう。ダンティス、シェラヘザードの変装に足りないものはあるか?」
「特にございません。しっかり町娘風の変装をしてご覧に入れましょう」
「じゃあ、頼んだ。俺も冒険者の格好して行くから、デートしよう。明日は町の探検だな」
「うんっ! すっごく楽しみ。実家にいたときは、お買い物は家で選ぶものだったから、何か買ってみたい。ダンティス、お金はある?」
「勿論両替済みでございます。何でもお買い求めください」
頼もしいダンティスを見ながら、食事を進める。
次はメインのステーキ。
「明日はハロルドも一緒に町に出よう。ダンティスもデートすりゃあいい」
「それはありがとうございます」
えへへ。
ダンティスとハロルドは仲良しだから、嬉しい提案だね。
僕はステーキを口に運びながら、明日を夢見た。
昼食が終わり、ザイルに手を引かれて自室に戻る。
引っ越しは終わっているので、僕の私物がいっぱいだ。
僕はソファに座ると、黒狼少年の冒険を手に取った。
「それ、お気に入りなんだな」
「うん! 黒狼少年がどうやって強くなっていくのか、細かく書かれていて楽しいよ。まるで僕が冒険しているみたい!」
「そりゃあ良かった。書いてるウェインも満足だろうぜ。俺もシェラヘザードがそんなに喜んでいて嬉しい」
ザイルは朗らかな笑顔で言った。
「そのうち、黒狼夫妻の冒険って本が出るぜ。ウェインはエロありの冒険活劇にするって言ってる。鏡の間の事件と、結婚式がメインだな」
「それは光栄な話だね。とっても嬉しいよ」
「俺はウェインに会ってくる。シェラヘザードはゆっくり本でも読んで、お茶会楽しんできてくれ」
「わかった」
ザイルは僕にチュッとキスをして、部屋を出て行った。
僕は黒狼少年の冒険をぱらぱらとめくり、読み始めた。
狐のモンスターと戦った黒狼少年は、見事勝利する。
しかし、次に狼と戦った時は遠吠え一つで群れが集結し、たちまちピンチに陥ってしまう。
助けも期待できず、黒狼少年は剣を握り締めた。
「ごくり。この後、どうなるんだろう。大怪我して神官に治療して貰うとか?」
黒狼少年は、なんと力業で狼の群れをやっつけた。
襲ってくる狼を、次から次へと斬り捨てる黒狼少年。
流石に無傷とはいかなかったが、24匹の狼を倒し、自信を持った黒狼少年。
町で静養した後、また冒険に出掛けていく。
「はぁ、さすが黒狼少年。流石強い!」
次はストーンゴーレムに挑む黒狼少年。
ストーンゴーレムは物理じゃ無理だと言われている。
しかし黒狼少年は、剣一本で立ち向かった。
いつまでも読んでいたいが、そろそろ時間だ。
僕は立ち上がって、部屋を出た。
3の刻、お茶会の時間。
僕は第一王子妃の私室にお邪魔した。
「お招きいただき、ありがとうございます。初めまして、シェラヘザードです」
「丁寧にありがとう。私は第一王子妃、ミレトリアよ。うちの旦那様、顔が怖いでしょう。シェラヘザードは大丈夫だった?」
「俺は第二王子妃ファーゼスだ。うちの夫は軽い所もあるが、思いやりのある良い奴だ。シェラヘザードとは、まだあまり交流を持てていないと嘆いていた」
「この国に来て、皆さんの優しさにとても感謝しています。第一王子殿下は勇ましいお顔立ちですが、僕を心配してくださった。第二王子殿下は僕に妃だけのお茶会を勧めてくださった。お二人とも、お優しい方ですね」
「シェラヘザードの印象が悪くないなら良かったよ。今日は色々ケーキも用意したし、楽しんでいって」
「ザイルは君にほとんど一目惚れだろう? 無駄に体力も有り余っているから、初夜も大変だったろう。腰が立たなかったと聞いたけれど、大丈夫かい?」
お優しい妃達が僕を心配してくれる。
僕はふわりと微笑んで、言葉を続けた。
「どれも美味しそうなケーキですね。僕はレモンタルトをお願いします。腰はもう大丈夫です。ザイルにたくさん愛されて、幸せでした」
僕の前にレモンタルトが配膳され、紅茶が入れられる。
「まずはケーキを頂きましょうか。どうぞ召し上がれ」
「俺はモンブランが好きなんだ。この季節だけしか食べられないのが、とても残念でならないよ」
「あら、あなたの為に旦那様が大量に栗を買い付けているそうよ? 流石愛されているわね」
「ミレトリア様だって、今も熱々らしいじゃないですか。子供がお二人いらっしゃるのに、閨は毎日だと聞き及んでますよ」
「あなたの所だって閨は毎日でしょう。獣人の愛の深さは言葉では語り尽くせないわ。愛して愛して、それでも足りなくて身体を求めるの」
「俺は惚れられて妃にされた男なんだけど、初めは断ってたんだよ? でもどうしても俺がいいって言うからさぁ、絆されて結婚して、初夜で愛し尽くされて、ぐっちゃぐちゃにされてさぁ。寝てないし腰は立たないしお腹は減ったしで、初夜があけるまでは大変だったな」
僕はレモンタルトを食べながら、ありがたいお話を聞いていた。
「獣人の愛は深いものだと案内の冊子にも書いてありました。その分、閨も激しくなりがちだとか。僕は獣人の初夜が一週間続くことを忘れていて、一日中抱き潰されて思い出しました」
「ザイルはあなたに首ったけよ。いつでもあなたを見ているわ。冒険にばかり熱を上げていたと思ったら、戦争が始まって、敵国の兵士を殺しに行ったわ。優しい子なのに、辛い役目を負わせてしまったわね」
ミレトリア様は一度言葉を切って、僕を見つめた。
「ザイルのおかげで、エイザー国は存続していられるの。ザイルにみんな感謝しているのよ。和平が結ばれて、半年。でもね、ザイルの婚約者は決まらなかったの。あまりにも強すぎて、自国の雌ですら怯えてしまったの」
「男も候補に上がったけれど、ザイルと添おうって気概のある男はいなくて、結局他国に婚約者を求めることになった。それでやってきたのが君さ。前評判は人形みたいで薄気味悪いとか、笑わないから暗いとか、悪い印象ばかり。本当に大事なザイルと添わせて良いか、俺達も悩んだよ」
ファーゼス様は紅茶を一口飲んで、言葉を続けた。
「結局ザイルが惚れて、シェラヘザードを第三王子妃にしたんだけどね。ザイルが幸せなら、それがエイザー国の幸せさ。それぐらい、ザイルが大事なんだよ。シェラヘザードはただ愛されてればいいんだけどさ、こういう話もしといた方がいいかなと思ってさ」
「僕は戦争の英雄であるザイルの嫁が男の僕でいいのか、子供は作らないのか、疑問に思っていたんです。まさか自国でそんな事になっていたなんて、思いもしませんでした」
「一部の権力に群がる雌達は論外だからね。ザイルには知的で物静かな美人が合うと思ってたんだよ。まんまシェラヘザードだね。おまけに好奇心旺盛ときている」
「ザイルも冒険好きだし、ぴったりね。シェラヘザードは柔らかく微笑んでいるのがわかるし、ちっとも人形みたいとか、思わないわ。あなたがいると、ぱっと王宮が明るくなるの」
僕はレモンタルトを食べきり、フォークを置いて紅茶を飲んだ。
「僕は自国で出来なかった冒険が出来て、心から喜んでるんです。人形のように暗い僕を、こんなにワクワクさせてくれるエイザー国が大好きです。そして、ザイルを愛しています。僕はもう、ザイルなしでは生きていけません。人族でも一生一人を愛し続けるってことを、これから証明していきます」
「ザイルも、きっと同じ気持ちね。ザイルを愛してくれて、ありがとう。ケーキは2個目をいかが?」
「じゃあ、モンブランをお願いします」
僕の前にモンブランが配膳され、紅茶が入れ直される。
僕はモンブランを食べながら、ありがたいお話を聞いていた。
ミレトリア様はお見合い結婚で、あの勇ましいお顔に一目惚れなさったそうだ。
「顔は怖いけど、優しいのよ。子供が大きくなっても愛情の熱烈さは変わらないわね」
「ミレトリア様の所は7歳と3歳でしたよね。男の子と女の子」
「ええ。上の子はもう王子教育が始まっているわ。ザイルの黒狼少年の冒険が大好きで、ある程度実力をつけたら、冒険者になるって言い張っているわ」
「うちの王族の場合、実力があれば許可が出るんだよ。エメラルドダンジョン位までは、行けるんじゃないかな」
聞いてみると、弱いのはアメジストダンジョン。
次に強いのがエメラルドダンジョンだそうだ。
強さもそこそこで宝も良いものを落とすから、冒険者に人気らしい。
その他にも、一階の玄関に飾ってある花は、ミレトリア様が切ったブーケであるとか、ファーゼス様は日中に盛る第二王子殿下にやや困惑中であるとか、様々な話をした。
僕はザイルと明日町を見に行く話をした。
ミレトリア様もファーゼス様も、僕をあたたかく受け入れてくださって、お優しい。
話は尽きないが、夕食の時間になった為、お開きとなった。
またお茶会を定期的に開きましょうとお約束してくださり、僕はとても嬉しかった。
幸福な目覚めに、自然と頬が緩む。
身じろぎをしたら起きたようで、ザイルの声が降ってくる。
「おはよう、シェラヘザード」
「おはよう、ザイル」
おはようのキスをして、服を身に付ける。
僕はちょっとフラフラするが、歩くことが出来た。
「午前中は座っておいたほうがいいぞ。引っ越しは使用人に任せろ」
「うん……無理はしないよ。でも、午後からはお茶会に参加出来そうだね」
「いいんじゃないか。第二王子妃はお前と同じ男だから、親身になってくれると思うぞ。色々話して来いよ」
「うん、ありがとう」
僕は第一王子妃と、第二王子妃にお茶会の打診をすると、ザイルに手を引かれて食堂へ行った。
ベーコンエッグとクロワッサンを食べて、コーヒーを飲む。
いつもの食事を終えて、食堂を出ると、僕はザイルに手を引かれて、第三王子妃の私室に行った。
ソファに腰を落ち着けると、ダンティスとハロルドが、僕のお気に入りの本を運んできた。
黒狼少年の冒険の3巻もある。
「お部屋のお引っ越しは我らが行いますので、シェラヘザード様は読書でもどうぞ」
ダンティスにそう言われ、僕は黒狼少年の冒険の3巻を開いた。
「わかった。午前中は読書することにするよ。ザイルもついててくれてありがとう」
「どっか行きたくなったら声かけろよ。俺も自室にいるからな」
ザイルは自室に下がり、僕は読書を開始した。
蜘蛛のモンスターと戦い、傷付く黒狼少年。
糸でぐるぐる巻きにされ、いざ食われる! と思いきや、助けてくれたのは上位冒険者だった。
相変わらず黒狼少年の冒険は面白い。
食い入るように読んでいると、ダンティスが紅茶を入れてくれた。
ジャムの乗ったクッキーも添えられ、一つぱくりと口に放り込む。
優しい甘さが口一杯に広がり、僕は頬を緩めた。
お部屋の引っ越しは午前中で終わり、安静にしていたせいか、腰の調子も良い。
でも一応、ザイルに手を引かれて食堂へ行った。
「腰の調子はどうだ?」
「ずいぶん良いよ。この調子なら明日は探検に出掛けられるよ」
「行きたがってた町に連れて行ってやろうか。お忍びでな」
「うわあ、行きたい。連れて行って」
「良いぞ。じゃあ、明日な」
ザイルは侍従に合図すると、スープをすすった。
「僕、変装してもオッドアイが目立つから、すぐにバレちゃうんじゃない?」
「俺が側にいれば大丈夫だ。まあ、せっかくだからサングラスもかけよう。ダンティス、シェラヘザードの変装に足りないものはあるか?」
「特にございません。しっかり町娘風の変装をしてご覧に入れましょう」
「じゃあ、頼んだ。俺も冒険者の格好して行くから、デートしよう。明日は町の探検だな」
「うんっ! すっごく楽しみ。実家にいたときは、お買い物は家で選ぶものだったから、何か買ってみたい。ダンティス、お金はある?」
「勿論両替済みでございます。何でもお買い求めください」
頼もしいダンティスを見ながら、食事を進める。
次はメインのステーキ。
「明日はハロルドも一緒に町に出よう。ダンティスもデートすりゃあいい」
「それはありがとうございます」
えへへ。
ダンティスとハロルドは仲良しだから、嬉しい提案だね。
僕はステーキを口に運びながら、明日を夢見た。
昼食が終わり、ザイルに手を引かれて自室に戻る。
引っ越しは終わっているので、僕の私物がいっぱいだ。
僕はソファに座ると、黒狼少年の冒険を手に取った。
「それ、お気に入りなんだな」
「うん! 黒狼少年がどうやって強くなっていくのか、細かく書かれていて楽しいよ。まるで僕が冒険しているみたい!」
「そりゃあ良かった。書いてるウェインも満足だろうぜ。俺もシェラヘザードがそんなに喜んでいて嬉しい」
ザイルは朗らかな笑顔で言った。
「そのうち、黒狼夫妻の冒険って本が出るぜ。ウェインはエロありの冒険活劇にするって言ってる。鏡の間の事件と、結婚式がメインだな」
「それは光栄な話だね。とっても嬉しいよ」
「俺はウェインに会ってくる。シェラヘザードはゆっくり本でも読んで、お茶会楽しんできてくれ」
「わかった」
ザイルは僕にチュッとキスをして、部屋を出て行った。
僕は黒狼少年の冒険をぱらぱらとめくり、読み始めた。
狐のモンスターと戦った黒狼少年は、見事勝利する。
しかし、次に狼と戦った時は遠吠え一つで群れが集結し、たちまちピンチに陥ってしまう。
助けも期待できず、黒狼少年は剣を握り締めた。
「ごくり。この後、どうなるんだろう。大怪我して神官に治療して貰うとか?」
黒狼少年は、なんと力業で狼の群れをやっつけた。
襲ってくる狼を、次から次へと斬り捨てる黒狼少年。
流石に無傷とはいかなかったが、24匹の狼を倒し、自信を持った黒狼少年。
町で静養した後、また冒険に出掛けていく。
「はぁ、さすが黒狼少年。流石強い!」
次はストーンゴーレムに挑む黒狼少年。
ストーンゴーレムは物理じゃ無理だと言われている。
しかし黒狼少年は、剣一本で立ち向かった。
いつまでも読んでいたいが、そろそろ時間だ。
僕は立ち上がって、部屋を出た。
3の刻、お茶会の時間。
僕は第一王子妃の私室にお邪魔した。
「お招きいただき、ありがとうございます。初めまして、シェラヘザードです」
「丁寧にありがとう。私は第一王子妃、ミレトリアよ。うちの旦那様、顔が怖いでしょう。シェラヘザードは大丈夫だった?」
「俺は第二王子妃ファーゼスだ。うちの夫は軽い所もあるが、思いやりのある良い奴だ。シェラヘザードとは、まだあまり交流を持てていないと嘆いていた」
「この国に来て、皆さんの優しさにとても感謝しています。第一王子殿下は勇ましいお顔立ちですが、僕を心配してくださった。第二王子殿下は僕に妃だけのお茶会を勧めてくださった。お二人とも、お優しい方ですね」
「シェラヘザードの印象が悪くないなら良かったよ。今日は色々ケーキも用意したし、楽しんでいって」
「ザイルは君にほとんど一目惚れだろう? 無駄に体力も有り余っているから、初夜も大変だったろう。腰が立たなかったと聞いたけれど、大丈夫かい?」
お優しい妃達が僕を心配してくれる。
僕はふわりと微笑んで、言葉を続けた。
「どれも美味しそうなケーキですね。僕はレモンタルトをお願いします。腰はもう大丈夫です。ザイルにたくさん愛されて、幸せでした」
僕の前にレモンタルトが配膳され、紅茶が入れられる。
「まずはケーキを頂きましょうか。どうぞ召し上がれ」
「俺はモンブランが好きなんだ。この季節だけしか食べられないのが、とても残念でならないよ」
「あら、あなたの為に旦那様が大量に栗を買い付けているそうよ? 流石愛されているわね」
「ミレトリア様だって、今も熱々らしいじゃないですか。子供がお二人いらっしゃるのに、閨は毎日だと聞き及んでますよ」
「あなたの所だって閨は毎日でしょう。獣人の愛の深さは言葉では語り尽くせないわ。愛して愛して、それでも足りなくて身体を求めるの」
「俺は惚れられて妃にされた男なんだけど、初めは断ってたんだよ? でもどうしても俺がいいって言うからさぁ、絆されて結婚して、初夜で愛し尽くされて、ぐっちゃぐちゃにされてさぁ。寝てないし腰は立たないしお腹は減ったしで、初夜があけるまでは大変だったな」
僕はレモンタルトを食べながら、ありがたいお話を聞いていた。
「獣人の愛は深いものだと案内の冊子にも書いてありました。その分、閨も激しくなりがちだとか。僕は獣人の初夜が一週間続くことを忘れていて、一日中抱き潰されて思い出しました」
「ザイルはあなたに首ったけよ。いつでもあなたを見ているわ。冒険にばかり熱を上げていたと思ったら、戦争が始まって、敵国の兵士を殺しに行ったわ。優しい子なのに、辛い役目を負わせてしまったわね」
ミレトリア様は一度言葉を切って、僕を見つめた。
「ザイルのおかげで、エイザー国は存続していられるの。ザイルにみんな感謝しているのよ。和平が結ばれて、半年。でもね、ザイルの婚約者は決まらなかったの。あまりにも強すぎて、自国の雌ですら怯えてしまったの」
「男も候補に上がったけれど、ザイルと添おうって気概のある男はいなくて、結局他国に婚約者を求めることになった。それでやってきたのが君さ。前評判は人形みたいで薄気味悪いとか、笑わないから暗いとか、悪い印象ばかり。本当に大事なザイルと添わせて良いか、俺達も悩んだよ」
ファーゼス様は紅茶を一口飲んで、言葉を続けた。
「結局ザイルが惚れて、シェラヘザードを第三王子妃にしたんだけどね。ザイルが幸せなら、それがエイザー国の幸せさ。それぐらい、ザイルが大事なんだよ。シェラヘザードはただ愛されてればいいんだけどさ、こういう話もしといた方がいいかなと思ってさ」
「僕は戦争の英雄であるザイルの嫁が男の僕でいいのか、子供は作らないのか、疑問に思っていたんです。まさか自国でそんな事になっていたなんて、思いもしませんでした」
「一部の権力に群がる雌達は論外だからね。ザイルには知的で物静かな美人が合うと思ってたんだよ。まんまシェラヘザードだね。おまけに好奇心旺盛ときている」
「ザイルも冒険好きだし、ぴったりね。シェラヘザードは柔らかく微笑んでいるのがわかるし、ちっとも人形みたいとか、思わないわ。あなたがいると、ぱっと王宮が明るくなるの」
僕はレモンタルトを食べきり、フォークを置いて紅茶を飲んだ。
「僕は自国で出来なかった冒険が出来て、心から喜んでるんです。人形のように暗い僕を、こんなにワクワクさせてくれるエイザー国が大好きです。そして、ザイルを愛しています。僕はもう、ザイルなしでは生きていけません。人族でも一生一人を愛し続けるってことを、これから証明していきます」
「ザイルも、きっと同じ気持ちね。ザイルを愛してくれて、ありがとう。ケーキは2個目をいかが?」
「じゃあ、モンブランをお願いします」
僕の前にモンブランが配膳され、紅茶が入れ直される。
僕はモンブランを食べながら、ありがたいお話を聞いていた。
ミレトリア様はお見合い結婚で、あの勇ましいお顔に一目惚れなさったそうだ。
「顔は怖いけど、優しいのよ。子供が大きくなっても愛情の熱烈さは変わらないわね」
「ミレトリア様の所は7歳と3歳でしたよね。男の子と女の子」
「ええ。上の子はもう王子教育が始まっているわ。ザイルの黒狼少年の冒険が大好きで、ある程度実力をつけたら、冒険者になるって言い張っているわ」
「うちの王族の場合、実力があれば許可が出るんだよ。エメラルドダンジョン位までは、行けるんじゃないかな」
聞いてみると、弱いのはアメジストダンジョン。
次に強いのがエメラルドダンジョンだそうだ。
強さもそこそこで宝も良いものを落とすから、冒険者に人気らしい。
その他にも、一階の玄関に飾ってある花は、ミレトリア様が切ったブーケであるとか、ファーゼス様は日中に盛る第二王子殿下にやや困惑中であるとか、様々な話をした。
僕はザイルと明日町を見に行く話をした。
ミレトリア様もファーゼス様も、僕をあたたかく受け入れてくださって、お優しい。
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またお茶会を定期的に開きましょうとお約束してくださり、僕はとても嬉しかった。
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