人形と呼ばれた僕は、黒狼殿下に溺愛される

yahagi

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収穫祭とピクニック

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 翌日、朝食後に宮廷画家がやってきた。
 僕は応接間で椅子に座り、よそ行きの笑顔を浮かべていた。
 
「あごをもう少し引いて下さい。はい、大変美しいです。シェラヘザード様はお顔立ちが整っておいでだが、やはりそのオッドアイの美しさは特別ですね」

 じっとしていること、3時間。
 僕はやっと解放されて、お昼ご飯。
 お昼ご飯後は、読書をして過ごした。
 艶本を買うついでに貰った冒険の書は、10の刻にかぐわしきパンの匂いに誘われて進む、とか、4の刻に南に向かって海の幸を背にし、影を踏む、とか時間指定がある。
 よっぽど時間のある時しか宝探しに行けないな。





 それから4日経ち、今日は収穫祭である。
 ダンティスが見てきてくれたところによると、収穫祭は第三王子妃シェラヘザード様歓迎の意もあるそうだ。
 僕とザイルは結婚式の時も乗った、屋根のない馬車に乗り、大通りをゆっくり通る。
 
「シェラヘザード様、万歳!」

「黒狼殿下、ご結婚おめでとうございます!」

「シェラヘザード様、歓迎致します!」

 僕とザイルは笑顔で手を振る。
 町にはたくさん屋台が立ち並んでいて、どこからか笛の音と、太鼓の音が聞こえてくる。

「あっ、今の屋台に栗ご飯があったよ。美味しそうだなぁ」

「今日は買い食いは無理だな。しっかし、屋台の数が例年より多い気がするな。シェラヘザードが歓迎されているからかもな」

「えへへ。僕はとっても嬉しいよ。ザイルのお嫁さんになれて幸せ」

 ザイルは公衆の面前で僕にチュッとキスをした。
 わああっと民が歓声を上げ、拍手が起きる。

「俺のシェラヘザードは世界一可愛い。ああ、ヤりてえな」

「パレード中に何言ってるの。よ、夜なら僕もその……大歓迎だよ」

 ザイルは僕を抱き締めて、深いキスをした。
 舌を絡め合い、唾液を飲み込む。
 民も大いに盛り上がり、拍手をくれる。

 口笛が鳴り響き、拍手が鳴り響く。
 太鼓と笛の音が、力強く聞こえた。

 ぐるっと大通りを回り、帰路につく。
 ああ、パン屋さんの良い匂い。
 もうすぐお昼時だ。

「夜は花火も上がるんだぜ。7の刻位から上がるから、バルコニーから見ようぜ」

「うん、楽しみっ」

 あっちに行くと市場だ。
 きっと凄く混み合っていることだろう。
 あっちは武器屋で、あっちは服屋。
 冒険者の姿も結構見かける。

 僕達はゆったりと馬を歩かせながら、大通りを進んだ。
 王宮に戻ってきて、僕達は昼食だ。
 食堂へ行き、昼食を食べる。
 
「シェラヘザードは、馬に乗れるのか?」

「うん、一応ね。でも、ダンティスが手綱を持つ方が多かったよ」

「俺の後ろに乗れりゃあいい。三日もすれば街道も落ち着くだろうから、丘へ行こうか。湖で釣りして、魚を食べる。その後丘に行って、ピクニックだ」

「うわぁい、楽しみ! ダンティスとハロルドも一緒でいい?」

「ああ、勿論だ。荷物は馬に乗せて、馬2頭で走って行こう。景色も綺麗だし、きっと気に入るぞ」

「うんっ、すっごく楽しみ!」

 昼食後は、読書をして過ごした。
 静かな時間を過ごすのは、実家と同じ。
 でも今は冒険が待っているから、悲壮感はない。

 7の刻、バルコニーから空を見上げる。

「あっ、上がった! 今のは赤かったよ。あっ、青いのも上がった!」

「綺麗だな。ほら、そろそろ……」

「あっ、紫色と橙色が同時に上がった! これは僕……だよね」

「そうだ。シェラヘザードが受け入れられた証だな。民の気持ちに応えてやれ。この国を好きになって欲しいんだよ」

「僕はエイザー国が大好きだよ。ああ、花火って綺麗だね……。僕、本物を初めて見たよ」

 空には色とりどりの花が咲いている。
 僕のオッドアイの色の紫色と橙色の花火も多数打ち上がる。
 僕は美しい花火を、いつまでも眺めていた。




 収穫祭から三日経ち、街道も落ち着いたとのことで、今日は丘にピクニックに出掛ける。
 朝食後に準備をして、身軽な格好に着替える。
 髪も三つ編みにして貰い、準備万端だ。

「さて、馬に乗るぞ、シェラヘザード。俺につかまっていてくれ」

 ザイルとハロルドが手綱を持ち、馬を駆けさせる。
 あっと言う間に王宮の庭を抜けて、町に出る。
 雑多な町ではスピードを緩めて進み、検問所を出たら、一気に加速だ。

「湖が見えてきたよ。いい匂いもする!」

「今日も屋台がたくさん出ているな」

 馬を雑木林に留めて、一人一本、釣り竿を持つ。
 餌やバケツは、ダンティスが持ってくれた。

 湖の縁に腰掛けて、竿の準備だ。
 本でしか読んだことのない釣り。
 ザイルはスイスイと餌をつけて、えいっと投げた。
 
「餌はこうやってつけるんだ。ミミズは平気か?」

「うん。こうやって……こう?」

「うまいぞ。それで針に気を付けながら、投げてみろ」

「えいっ」

 ポチャンと落ちる針。
 ダンティスとハロルドも、次々に針を投げ入れる。

「それでこう、引っ張られる感覚があったらアタリだ。そしたら竿を引く。なるべく魚を走らせろ。左右に竿を振るんだ」

 しばらく待っていたら、ザイルにアタリが来た。
 ばしゃばしゃと跳ねる魚を泳がせ、左右に振る。
 そして、ザイルはひょいと、大きな魚を釣り上げた。

「凄い、ザイル。大きな魚だね」

「ああ。美味そうだ。一人三匹釣れば十分なんだが、どうかな」

 しばらく待つと、僕にもアタリがきた。
 ぐっと引くと、結構重い。
 ザイルの真似をして、左右に泳がせた。
 そして、湖の縁に寄せて、ザイルが網ですくってくれた。

「初めてにしちゃあ、上手だったぞ。まあまあの大きさだな」

 それから、ダンティスやハロルドも魚を釣り上げた。
 僕はなかなかアタリが来なくて、ぼんやりと湖を眺めていた。
 あっ、アタリだ!
 僕は竿を引き、魚を左右に振る。
 ううーん、重い!
 僕はよたよたと、立ち上がった。
 すぐにザイルが僕を支えてくれる。
 
「シェラヘザード、一緒に竿を持とう」

 僕はザイルと一緒に竿を持ち、魚を左右に走らせた。
 ようやく抵抗が弱まってきて、湖の縁に寄せる。
 網はダンティスが持ってくれて、魚をすくい取った。

「大きな魚ですね、シェラヘザード様。お疲れ様でした。魚もこれで15匹釣れましたので、十分かと存じます」

「うんっ、魚は塩焼きにするの?」

「塩焼きとスープにします。バケットはありますが、おにぎりも買ってきましょうか?」

「バケットで良いよ。僕もお手伝いする!」

「では、魚に串を刺して頂けますか。今、内臓を抜きますね」

 煮炊き場に移動して、ダンティスが包丁を握る。
 僕は必死で魚に串を刺した。
 それをザイルが火元に並べて刺していく。
 魚は炙り焼きにされ、脂がじゅわりと落ちる。
 既にとっても美味しそうだ。

 ダンティスの作っているスープも、野菜と煮込まれて、すごく良い匂いだ。

「ザイルは冒険の時に、こんな事してた?」

「してたぞ。冒険はとにかく腹がすくし、弁当じゃ足りねえ。ここみてえに屋台がありゃあいいが、大抵は自炊しなきゃならねえ。俺は肉と焼き飯を焼いてばっかりで、ウェインにレパートリーを増やせって、どやされたりしたな」

「へええ。ザイルはご飯作れるんだね。僕は目玉焼きが精一杯。全然作れないよ」

「ダンティスとハロルドは、自炊出来んのか?」

「家庭料理ならば作れます。ハロルドは、肉料理が得意です」

「いいじゃねえか。アメジストダンジョンでは野営してみようか。これから冬だけど、ダンジョンの中は暖かい。申請が降りたら4人で行こう」

「すっごく嬉しい。すっごく楽しみ! 本物のダンジョンなんて、夢みたいだ」

 スープが煮えたので、お椀にすくって貰う。
 スープは味噌味で、魚はほろりと崩れるし、香草がきいていて美味しい。
 
「塩焼きも焼けたぞ。がぶっと噛み付いて食え」

 僕は串の魚を持って、がぶりと噛み付いた。
 魚は淡白な味で、塩味が美味しい。
 僕はバケットをスープにつけて食べた。

「デザートに梨を買ってきたぞ。一人一本な」

 梨はシャリッとしていて、みずみずしい。
 僕はスープを二度おかわりして飲み、串焼きも二本食べた。
 お腹いっぱい。

 後片付けをして、丘に向かう。
 馬に乗れば、どんどん景色が変わっていく。
 小高い丘に登ると、人は誰もいなくて、遠くに湖が見えた。

 見渡す限り、平原が広がっている。
 僕達は良さげなところに馬を留めて、厚手の布を敷いた。
 布の上に腰を落ち着けて、景色を見る。

「なんか、空が近い気がする。雲がすごい、いっぱい浮かんでるね。見渡す限り平原しかないなんて、なんか贅沢!」

「良い景色だろう。遠くに湖も見えるし、あっちには町も見える。ここで寝転んでいると気分が良いんだ」

 そう言ってザイルは布の上に寝転んだ。
 僕も真似して、横に寝転ぶ。
 とても良い景色で、気分が安らぐ。
 僕は丘でのピクニックを思う存分楽しんだ。
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