【完結】探偵屋の恋女房〜ヤクザのお抱え探偵と下町娘の、昭和チックな幼なじみLOVE

桐乃乱

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閑話休題③

【閑話】千佳―天才対オタク

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 屋代亭が閉店して、ひと月半余りが経過した――。

 張り紙を発見した商店街の店主たちは大騒ぎ。だって『絶品親子丼』は商店街の名物トップテンに入る人気商品だったもんね。常連たちや口コミ客の落胆ぶりはひどかったなぁ。仙台には『牛タン定食』があるけれど、なんせ価格までキングなもんだから、若人や庶民が気軽に食することはない。屋代亭の『絶品親子丼』は、一杯八百五十円と万人に優しい、庶民のB級グルメだった。

 小春ちゃんはシンデレラも顔負けの健気な働き者だ。大体さ、パチンカスで飲んだくれの親父が作った借金を、なんで小春ちゃんが払わなきゃならんのよ。彼女はまだ十八歳なのに、朝から晩まで絶品親子丼を作って、休日は薬局でアルバイトもしていた。理由は『城下町プロジェクトの改装費用を稼ぐため』。屋代亭の店主はソープやキャバクラで散財してたって、近藤印刷のじいさんが茶飲みがてらに暴露してた。

 小春ちゃんが不憫すぎる……。私なら高校卒業と同時に、都会へトンズラこく所だよ。小春ちゃんの夢は『屋代亭』を城下町仕様にリニューアルさせて、お店を繁盛させることだったのに……。



 テケテケテ~ン。

「こんばんは。マダムユキコはいるかな?」

 キラキラ星人が来店……と思ったら、繁華街一のイケメンだった。金髪に1.5センチ強のまつ毛、眠たげな瞳はブラウンダイヤモンドの輝き。長身の半分を占める足に、魅惑の唇はまさに目の保養。好みじゃないけど……。私の好みは、ドSを気取った天才系イケメンよ。頭脳明晰で全てを見通す男が、私にだけ溺愛ダーリンでした! ってのが、乙女心をくすぐるわけ。しかーし、完璧な美しさって罪だわ。こんな美丈夫が三百六十五日横にいたら、女は自尊心HPが削られて落ち込んじゃうよね。セフレが百人いるって本当かな。

「足なっが……。淫魔店長、こんばんは」
「やあ、千佳ちゃん。ポーチの売れ行きはどうかな?」
「バッチリ。一週間で平均十個も売れてます!」

 それを確かめに来たのかな? さすが店長さんだ。

「あら、佐々木さん。いらっしゃい」
「ふふふ。マダムと千佳ちゃんに、これを渡しにきました。返事を今すぐもらえるかな?」

 金ピカマークが印字された封筒を受け取った私とマダムは、顔を見合わせてから中身を取りだした。

「これって……小春ちゃんの結婚式の招待状?」
「千佳ちゃんにブライズメイドをお願いしたいんだ。それと、マダムにも商店街の皆さんと一緒に、テツさんと小春ちゃんの門出を祝ってもらいたい」
「日時は……明日じゃん!」

 それも早朝七時開始って、十二時間を切ってるし。

「急で申し訳ないね。組長や会長も出席するから、極々内輪の式になる。セキュリティー上、口外は禁止だよ。それで、どうかな?」
「もちろんやります。ブライズメイド!」
「私も、喜んで出席しますわ」
「ありがとう、千佳ちゃん、マダム。それでは、招待状の内容通りにお願いします。じゃあ、明日」
「「うっ、まぶしい!」」

 テケテケテ~ン。
 イケメンのアパタイト光線を浴びて、マダムユキコはよろめいた。
 マダムと私の招待状は内容が違っていた。それよりも、気になったのは封筒だ。

「マダム、この金ピカは何のマーク?」
「この街を仕切る『龍青会』……ヤクザの代紋よ。受け取って断れる人なんて、そうそういないわね」
 なんだってー?

「ひえ……。じゃあ、小春ちゃんはヤクザと結婚するの?」
「正確には、組専属の探偵よ」

「え、じゃあ、この花京院かきょういん鉄矢てつやって大層な名前は、あのマッチョ探偵?」
 小春ちゃんのセフレじゃないのか?

「テツさんはお父さんの後を継いだ二代目なの。この商店街が平和なのは、テツさんがいるからなのよ」
「平和って、警察がいるからじゃないの?」
「警察は事件が起こらないと駆けつけないでしょ。最近じゃオレオレ詐欺や闇バイト事件で、てんてこ舞いよ」
「テレビじゃ麻薬捜査やカーチェイスしまくりだったよ。分(ぶん)町(ちょう)のポン引きや無銭飲食野郎を逮捕してたし!」
「千佳ちゃん。犯罪って未然に防ぎたいでしょ。テツさんは火消し役に近いのよ」
「それって消防士じゃん」
「そうね。それか、必殺仕事人よね。危険人物を排除するのが、とっても上手なのよ。じつはね……」

 数ヶ月前に商店街の職人さんがストーカー被害に遭い、テツさんが加害者を街から追い出したとか。まさか、時代劇みたいに消してないよね?

「キワさんがホッとしてたわ……ゴホゴホッ。とにかく、頼りになる男性だから、小春ちゃんも幸せになるわよ!」

 キワさん……『パンセン』の女将さんじゃん。てことは、ストーカーに遭ったのは店長か秋さんだな。秋さんは六月にパン修行で渡独していた。

「秋さんの帰国は来年だよね。ストーカーが戻ってこないといいね」
「そうね。旦那さんもいるし、もう大丈夫よ~って、あっ!」

 目で咎められたけど、親戚の強みで受け流した。

「本場仕込みのライ麦パン、楽しみだな~。マダムの招待状みせて」
「小春ちゃんが風俗に売られたって話を作ったのは、乾物屋のババアよ」

 マダムユキコが眉間に皺を寄せた。

「そば屋の並びにある店?」
「そう。いつも沼沢靴店に入り浸ってるのよ。おしゃべりで場の空気を腐らせるから、歩く大気汚染って言われてるわ」
「げえっ」
 恐ろしい二つ名だな……。
「でも、これで悪い噂も消えるわね」
「うん。靴屋のバカ息子と乾物ババアをギャフンといわせてやる~」
「千佳ちゃんたら……」

 ペポリン。
 布団に潜った途端にラインがきた。

【小春: 千佳ちゃん、ブライズメイドを引き受けてくれて、ありがとう! 急でごめんね】
【千佳: ううん。私を選んでくれて嬉しいよ。明日は頑張ってね!】

 夜逃げしたと思ってた親友が、マッチョな殺人マシーンと結婚してました!

 ……いや、正確には筋肉隆々×20な探偵屋と結婚する。旦那はバリバリのヤクザじゃん……。小春ちゃん、どうしてヤクザ探偵に惚れちゃったんだー?
 BL同人漫画家じゃなかったら、TL漫画にしちゃうところだよ。

『定食屋の娘はマッチョなヤクザ探偵に監禁されちゃいました!』

 うーん。溺愛される、かなぁ?
 ふあぁ。明日は五時起きだ。晴れるといいなあ……。





 ※ ※




 結婚式当日は、五時半に指定場所まで出向いた。式場の係が私にメイクしてる間にウエディングプランナーから介添人の説明を受けた。

 コンコンコン。ガチャリ。

「おはようございます。花京院鉄矢の母です。今日はブライズメイドを引き受けてくれて、ありがとうございます。早起きさせてしまって、ごめんなさいね」

 金色の華やかな文様が描かれている黒留袖姿の女性が、殺人マシーンの母親⁉ 品のある面差しは有名女優もビックリだ。

「おはようございます。とんでもない、小春ちゃんの門出ですもん。指名いただいて嬉しいです!」
「マダムユキコから聞いていたとおりの、愛らしいお嬢さんね。これからも娘と仲良くしてくださいね」

 義理母ではなく、生みの親みたいな発言だ。

「はい、もちろんです!」

 メイク係は私をエロ同人漫画家からフェアリーもどきな女性へと変身させた。おおお、毛先がクルンクルンだぁ。我ながら可愛いじゃない?
 ドレスに袖を通すとロビーに放り出された。礼服や留め袖、ドレスやスーツの老若男女が歓談している。両家の親族だろうか。

「君が花嫁のブライズメイド?」

「はい。小春ちゃんの友人の大崎千佳です。あなたは介添人?」
 スタイリッシュなスーツの若者がシニカルな笑いを浮かべている。探偵屋の友人にしては若いが、場にそぐわない表情にカチンときた。

「アッシャーの茂山晃成しげやまこうせいです。今日はよろしく」

 嫌なら、引き受けなきゃいいのに。苦労してきた友人の門出に水を差さないで欲しいわー。

「ばれたか。君は観察眼があるね。ブライズメイドとバランスが取れるようにって、駆り出されたんだ」

 ぎゃあ、心の声が漏れてたー。

「独身の男性なら、組にたくさんいるでしょ。どうして選ばれたの?」
「兄が組長の右腕だから。俺はまだ学生だよ」
「へえ、お兄さん孝行だね。小春ちゃんは苦労してきたから、幸せになって欲しいんだ。今日はよろしくね!」

 そこんとこ空気読めよスマイルで念を押した。

「花嫁のブーケは君がゲットできそうだね」
「どうして?」
「出席者で若い独身女性は君だけだよ」
「結婚に年齢制限はダメでしょ。それに、私は夢があるから結婚したくないの」
「彼氏がかわいそうだな」
「彼氏も彼女もいないわよ。私の恋人は……失礼します」

 すたこら逃げた。危ない、危ない、BL漫画だってバラすとこだった。



 

 
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