【完結】俺のばあちゃんがBL小説家なんだが ライト文芸大賞【奨励賞】

桐乃乱

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第一章

【二】星夜ー教えて、ルカおばさん!③

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「そうだよ、ラン祖母ちゃん。俺も感想見たよ。同人誌を出すべきだよ。ほら、ルカ叔母さんていう力強い経験者がいるし、楽勝だよ!」
「星夜、私は漫画しか出したことないよ」
「漫画と小説って、作り方は同じじゃないの?」

 印刷会社が印刷するだけでしょ?


「まずは、そこから勉強しようか……」
 叔母さんがため息をついている。何の違いがあるんだろう。味噌汁を置いた祖母ちゃんが向かい側に座ると、三人で手を合わせた。

「「いただきます」」

 しばし箸を進めて朝餉を堪能した。仙台味噌の味噌汁は久々だ。

 ジャガイモとタマネギの甘さが赤味噌と合わさって舌を喜ばせた。東京出身の母さんは合わせ味噌派だが、俺は赤味噌と仙台牛タンと、かまぼこが大好き人間だ。
 
心地よい沈黙と窓辺から聞こえる雀のさえずりに澄み切った空。ここからも裾野に広がる市内が一望できる。

 祖父ちゃんは窓辺の鉢植えに水をあげながら、海に客船が浮かんでいるか望遠鏡で俺に確認させていたっけ。この家には優しい思い出の欠片が、そこかしこに転がっていた。無機質な高層マンションでは味わえない土の匂いが換気孔から入ってくる。

「私の話が、本にする価値があるとは思えないんだけど」
「母さん、自己評価低っ!」
「そうだよ。本を作ってみたくないの?」

 コメントには三冊買って、布教するって書いている人がいたのに。もったいない。

「そ、それじゃ、自分用に作ってみようかな」
「うん。それがいいよ!」
「よし、決まりね。私が色々調べてみるから、待ってて。母さんは何を同人誌にしたいのか考えておいてね」
「わかったわ。ねえ、ルカ。ラジオをつけてちょうだい」
「え、ええ……」
「俺がやるよ」

 祖父ちゃんが庭いじりの際に愛用していた小型ラジオがキッチンの飾り棚にちょこんと置かれていた。スイッチを押すと、地元FM曲の周波数が少しずれていたので調整した。

「よし、これでバッチリ」

 聞き覚えのある英語の歌が聞こえてきた。

「これ、祖父ちゃんが好きなビリー・ジョエルだよね」
「そうよ。星夜は記憶力がいいね」

 祖母ちゃんが嬉しそうに笑った。

「まだ電池が残ってたんだ……」

 ルカ叔母さんがタクアンを咀嚼しながら呟く。

「え、切れそうなの? 祖母ちゃん、新しい電池ある?」
「充電式が、そこの引き出しにあるよ」
「あとで替えておくよ」
「ふふふ。星夜は流星に似てきたね」
「ホント、頼もしいわ。星夜が来てくれてよかった。女所帯じゃ不安なところがあるから……」

 父さんが空港で俺に告げた言葉は『母さんとルカをよろしく頼む』だった。仕事人間の父さんは口には出さなかったけれど、ずっと離れて暮らす家族を心配していたのだ。

「そうだよ。俺がいれば安心だからね」

 まずはお腹いっぱい食べてエネルギーを補給せねば。男子高生は新陳代謝が激しいのですよ、ご婦人方。焼き鮭でお茶碗二杯を平らげた。

 よし。荷物を片付けたら、友人達へ引っ越し完了の連絡をしよう。

 
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