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第一章
【一】僕の夏休み①
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「……であるから、仙台城周辺の開発は…………」
エアコンの効いた講議室では五十人余りの学生が教授の間延びした口調に耐えられず、こっくりと船を漕いでいた。窓の外では灼熱の太陽がケヤキ並木を照らし、日傘を差した女子学生が足早に校舎へと向かっている。東北の政令都市にも都会と変わらない酷暑が到来していた。
この講義が終わると、大学生活初めての夏休みが始まる。
僕のスケジュールは気の置けない友人達とのキャンプや旅行、釣りやドライブで埋まっていた。軍資金は引っ越し屋のアルバイトを頑張って貯めたし、運転免許も無事にゲット。逸る気持ちを落ち着かせようと、眼鏡のレンズを拭いてみた。
さあ冒険よ、カモーン!
キーンコーン。カーンコーン。
鐘が鳴ると、僕は友人たちの座る席に駆け寄った。
「なあ。キャンプの集合場所はどこにする?」
僕の問いかけに、鈴木が歯切れの悪い口調で告げた。
「あー、それがさぁ。サークルの女子が一緒に行きたいって言っててさ……」
彼の視線がドアの近くに立つ女子学生へと向いた。名前はよく覚えてないけど、鈴木が入っているサークルの女子学生達だった。遠目にもカラフルな爪が髪を梳いているのがわかる。果たして、あの爪でテントを設営できるのか?
「だからさー、ヤローだけのは今度にしようぜ」
「今度っていつ? 『カモシカコース・スイカ割り大会』は? 記録にチャレンジするって言ったじゃん!」
『カモシカコース・スイカ割り大会』とは、我が街の癒しスポット、泉が岳のめっちゃキツい登山コース(カモシカもビックリ)を、スイカを背負って駆け上がり、頂上で食べるイベントだ。高一、高二と二回チャレンジした僕らの友情イベントでもある。なお、高三は受験生なので休止していた。 僕が松下に噛みつくと、まあまあ、と佐藤が場を取りなそうとした。
「俺らサークルの行事で忙しくてさ~。男女混合のビーチバレー大会もあるんだよ」
「じゃあ今夜の花火大会は?」
仙台七夕まつりは八月の六日から三日間開催され、五日の夜は花火が打ち上げられる。ドンドン焼きを食べながら友人たちと夜空の祭典を楽しんでから、一年が経っていた。
「去年は夏期講習の帰りに見ただけだべ」
「やっぱ彼女と花火がみたいっしょ」
「みんな、もしかして彼女できたの?」
「うんにゃ。だからサークル女子との花火合コンに命をかけてるのさ!」
佐藤、命を花火と一緒に燃やし尽くしていいのか?
「永樹はそういうの苦手だろ?」
「うん。まあ……」
そう。僕は女の子と手を繋いだり、キスをしたいと思ったことがない。佐藤も鈴木も髪の毛をオリーブや金色に染め、駅ビルでお洒落な服を揃えて『雰囲気イケメン』に変身していた。
「ごめんな、永樹。お前も参加したくなったら連絡くれよ」
佐藤がポンポンと僕の肩を叩く。
「わかった……」
高校時代の同級生は皆、揃いも揃って受験解放からの恋愛イベントへまっしぐら。僕が再三にわたる合コンへの誘いを断っていたら、お子ちゃま思考認定されてしまった。異性は腕を組んで胸を押しつけてこなくなったけれど、同時に遊び友達も失ってしまったのか。
心待ちにしていた夏休みのスケジュールは、真っ白になった――。
エアコンの効いた講議室では五十人余りの学生が教授の間延びした口調に耐えられず、こっくりと船を漕いでいた。窓の外では灼熱の太陽がケヤキ並木を照らし、日傘を差した女子学生が足早に校舎へと向かっている。東北の政令都市にも都会と変わらない酷暑が到来していた。
この講義が終わると、大学生活初めての夏休みが始まる。
僕のスケジュールは気の置けない友人達とのキャンプや旅行、釣りやドライブで埋まっていた。軍資金は引っ越し屋のアルバイトを頑張って貯めたし、運転免許も無事にゲット。逸る気持ちを落ち着かせようと、眼鏡のレンズを拭いてみた。
さあ冒険よ、カモーン!
キーンコーン。カーンコーン。
鐘が鳴ると、僕は友人たちの座る席に駆け寄った。
「なあ。キャンプの集合場所はどこにする?」
僕の問いかけに、鈴木が歯切れの悪い口調で告げた。
「あー、それがさぁ。サークルの女子が一緒に行きたいって言っててさ……」
彼の視線がドアの近くに立つ女子学生へと向いた。名前はよく覚えてないけど、鈴木が入っているサークルの女子学生達だった。遠目にもカラフルな爪が髪を梳いているのがわかる。果たして、あの爪でテントを設営できるのか?
「だからさー、ヤローだけのは今度にしようぜ」
「今度っていつ? 『カモシカコース・スイカ割り大会』は? 記録にチャレンジするって言ったじゃん!」
『カモシカコース・スイカ割り大会』とは、我が街の癒しスポット、泉が岳のめっちゃキツい登山コース(カモシカもビックリ)を、スイカを背負って駆け上がり、頂上で食べるイベントだ。高一、高二と二回チャレンジした僕らの友情イベントでもある。なお、高三は受験生なので休止していた。 僕が松下に噛みつくと、まあまあ、と佐藤が場を取りなそうとした。
「俺らサークルの行事で忙しくてさ~。男女混合のビーチバレー大会もあるんだよ」
「じゃあ今夜の花火大会は?」
仙台七夕まつりは八月の六日から三日間開催され、五日の夜は花火が打ち上げられる。ドンドン焼きを食べながら友人たちと夜空の祭典を楽しんでから、一年が経っていた。
「去年は夏期講習の帰りに見ただけだべ」
「やっぱ彼女と花火がみたいっしょ」
「みんな、もしかして彼女できたの?」
「うんにゃ。だからサークル女子との花火合コンに命をかけてるのさ!」
佐藤、命を花火と一緒に燃やし尽くしていいのか?
「永樹はそういうの苦手だろ?」
「うん。まあ……」
そう。僕は女の子と手を繋いだり、キスをしたいと思ったことがない。佐藤も鈴木も髪の毛をオリーブや金色に染め、駅ビルでお洒落な服を揃えて『雰囲気イケメン』に変身していた。
「ごめんな、永樹。お前も参加したくなったら連絡くれよ」
佐藤がポンポンと僕の肩を叩く。
「わかった……」
高校時代の同級生は皆、揃いも揃って受験解放からの恋愛イベントへまっしぐら。僕が再三にわたる合コンへの誘いを断っていたら、お子ちゃま思考認定されてしまった。異性は腕を組んで胸を押しつけてこなくなったけれど、同時に遊び友達も失ってしまったのか。
心待ちにしていた夏休みのスケジュールは、真っ白になった――。
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