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第一章
【三】エルフの寿命
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「エイジュ、俺は250歳だよ」
見た目は二十五歳、中身はその十倍生きてるエルフ、リオンさんが花嫁を求めて日本にやって来たのを機に、一族の秘密が明かされた――。
僕の母親、凜々花は310歳のハーフエルフだった!
生粋の日本人である僕の父親はそれを承知で結婚した。そんでもって姉の真凜花と僕、永樹が生まれたまでは分かった。
分かったけど、分からないことが九十九%すぎる~!
「永樹からみたら、俺は年寄りかな?」
見目麗しい男がシュンとしてるので、僕はブンブンと首を横に振った。
「えーと、エルフの寿命って何歳なのかな?」
「エルフの平均寿命は1000~1500歳。狼人は500歳、龍人は2000歳と言われてるわ。ドワーフや獣人は300歳よ」
姉さんが助け船を出した。
「じゃあ、リオンさんは若者だね!」
2000歳に比べればだけど。ていうか、ドワーフや龍人までいるの?
「ありがとう」
嬉しそうに微笑む彼の頭上に小さな光がホワホワ飛んでいた。んん、目の錯覚かな。イケメンの幻エフェクト?
「……てことは、母さんのようなハーフエルフって500歳くらい?」
「はいはい、成人まえの質問はそれまで。まずは長への挨拶をクリアしないと、謎は一生解けないのよ」
「ええ~」
母さんの無慈悲な宣告に僕が肩を落とすと、リオンさんが背中を撫でて慰めてくれた。ドキドキしたけれど、これはラッキーな思い出として心の小箱にしまっておこう。
「永樹、俺と一緒に勉強を頑張ろう」
「はい。よろしくお願いします」
リオンさんが客室に消えたのを見計らって、姉が両親にねだった。
「ねえ、リオンさんの釣り書を見せてよ」
「僕も見たい!」
謎のエルフに興味津々だ。だってエルフについて理解が進むかもしれないからね。なあんて嘘。純粋に彼のことが知りたかっただけ。
「もしかして、姉さんはリオンさんに惚れちゃったの?」
だとしたら、僕の恋は膨らむ前に土に埋めないと。
「まさか。イケメンは二次元オンリー派よ。現実は大富豪で寛容な男が理想ね」
「要するに、農夫はいやなのね」
母さんがため息をつきながら風呂敷を開く。そこには五冊の写真と五枚の封筒が入っていた。リオンさんは五人とお見合いを予定してるのか。
はい、と手渡された釣書を姉の肩ごしに覗いた。
【釣書
エルサリオン
二月二十八日生まれ(250歳)
本籍地 エルフ国
現住所 エルフ国エルフ村
学歴 ケンブーリッジ大学卒業(自然科学専攻)
職歴 農夫。調理師。鍛治師。大道芸師。吟遊詩人。狩人。精霊術師
資格 各国運転免許。各国船舶免許。
趣味 旅行
特技 園芸、木彫り、狩猟、料理、乗馬、精霊術
宗教 精霊教
身長 185センチ
体重 75キロ
既往症 なし】
「吟遊詩人って……ツッコミどころが満載だね、姉さん」
住所もザッパ過ぎるし、精霊術師って怪しすぎやしないか。
「永樹、エルフ語で歌ってもらうといい」
「お父さん、ナイスアイデアね♡ 永樹、勉強にいいかもよ~」
母さんが無責任すぎるぞ。まあ、もちろんスマホに録画するけど。
「ケンブーリッジだなんて、リオンさんは優秀なのね」
姉さんの言葉に、母さんがうなずく。
「一族の中でも天才の部類よ。なのに二回も婚約破棄になっちゃって……」
「「二回も⁉」」
僕より十五センチもデカいイケメンは見かけより苦い経験をしていたらしい。
「リオンさんて、エルサリオンが本名だったのか」
「故郷の言葉で、強き星って意味よ」
改めて母親と姉を見比べると、年齢差がないように思えてきた。
「エルフって年を取るのがゆっくりなんだね……僕も二十歳を過ぎたらそうなるのかな」
待てよ。じゃあ父さんは?
ハッとして頭を上げたら、父さんが母さんのプリンをアーンしてるところだった。四十半ばなのに、十歳は若く見えるかも。母さんがエルフの秘薬でも飲ませたのか?
我が家の秘密って、一体いくつあるんだ?
婚約破棄の理由が気になったけれど、傷口を抉る真似はしたくないので、夕食後の話題は僕のエルフ語取得カリキュラムとリオンさんの観光に終始した。
「お見合いと勉強の合間に、蔵王や日本三景の松島を回るといいわね。それに温泉かしら……」
「秋保温泉は日帰りでもいいけど、鳴子は旅館に泊まってゆっくり温泉に浸かるのがおすすめね」
母さんと姉さんがガイドブックを開いて緑茶をすするリオンさんに見せていた。
「いまは『なるこ』って言うらしいわよ」
「仙台民は、なるごだべ」
「父さん、リオンさんがなまっちゃうでしょ」
「なんだべ。真凜花は厳しいなぁ」
父さんが頭を掻いた。
やはり成人の儀式まで謎が明かされないのは生殺し状態だよなぁ~。
ハーフの母さんが500歳の寿命と仮定して、平均寿命80歳ちょっとの父さんとの子供(つまりは姉さんと僕)は200歳ぐらいまで生きるのかな。少なくとも日本人にとっては、とてつもなく長い、長い時間だ。いや待てよ。日本人の遺伝子を強く受け継げば、80歳代で人生が終わる。あ~、僕はどっちなのか、それだけ教えてくれ~。
「大丈夫だよ、永樹。君がエルフ族の一員と認められるよう、俺がサポートするからね」
僕が悶えていると、麗人がアパタイト光線を浴びせた。
「リオンさん……」
顔だけじゃなく心もイケメンだね。僕は本気で惚れちゃいそうだよ……。
「【望むところさ】」
「へ?」
聞きなれないフレーズが僕の耳をくすぐった。
「いや、なんでもない」
リオンさんは水ようかんを口に運んで頬を緩ませた。
スムーズにエルフ語を習得出来るといいな――。
見た目は二十五歳、中身はその十倍生きてるエルフ、リオンさんが花嫁を求めて日本にやって来たのを機に、一族の秘密が明かされた――。
僕の母親、凜々花は310歳のハーフエルフだった!
生粋の日本人である僕の父親はそれを承知で結婚した。そんでもって姉の真凜花と僕、永樹が生まれたまでは分かった。
分かったけど、分からないことが九十九%すぎる~!
「永樹からみたら、俺は年寄りかな?」
見目麗しい男がシュンとしてるので、僕はブンブンと首を横に振った。
「えーと、エルフの寿命って何歳なのかな?」
「エルフの平均寿命は1000~1500歳。狼人は500歳、龍人は2000歳と言われてるわ。ドワーフや獣人は300歳よ」
姉さんが助け船を出した。
「じゃあ、リオンさんは若者だね!」
2000歳に比べればだけど。ていうか、ドワーフや龍人までいるの?
「ありがとう」
嬉しそうに微笑む彼の頭上に小さな光がホワホワ飛んでいた。んん、目の錯覚かな。イケメンの幻エフェクト?
「……てことは、母さんのようなハーフエルフって500歳くらい?」
「はいはい、成人まえの質問はそれまで。まずは長への挨拶をクリアしないと、謎は一生解けないのよ」
「ええ~」
母さんの無慈悲な宣告に僕が肩を落とすと、リオンさんが背中を撫でて慰めてくれた。ドキドキしたけれど、これはラッキーな思い出として心の小箱にしまっておこう。
「永樹、俺と一緒に勉強を頑張ろう」
「はい。よろしくお願いします」
リオンさんが客室に消えたのを見計らって、姉が両親にねだった。
「ねえ、リオンさんの釣り書を見せてよ」
「僕も見たい!」
謎のエルフに興味津々だ。だってエルフについて理解が進むかもしれないからね。なあんて嘘。純粋に彼のことが知りたかっただけ。
「もしかして、姉さんはリオンさんに惚れちゃったの?」
だとしたら、僕の恋は膨らむ前に土に埋めないと。
「まさか。イケメンは二次元オンリー派よ。現実は大富豪で寛容な男が理想ね」
「要するに、農夫はいやなのね」
母さんがため息をつきながら風呂敷を開く。そこには五冊の写真と五枚の封筒が入っていた。リオンさんは五人とお見合いを予定してるのか。
はい、と手渡された釣書を姉の肩ごしに覗いた。
【釣書
エルサリオン
二月二十八日生まれ(250歳)
本籍地 エルフ国
現住所 エルフ国エルフ村
学歴 ケンブーリッジ大学卒業(自然科学専攻)
職歴 農夫。調理師。鍛治師。大道芸師。吟遊詩人。狩人。精霊術師
資格 各国運転免許。各国船舶免許。
趣味 旅行
特技 園芸、木彫り、狩猟、料理、乗馬、精霊術
宗教 精霊教
身長 185センチ
体重 75キロ
既往症 なし】
「吟遊詩人って……ツッコミどころが満載だね、姉さん」
住所もザッパ過ぎるし、精霊術師って怪しすぎやしないか。
「永樹、エルフ語で歌ってもらうといい」
「お父さん、ナイスアイデアね♡ 永樹、勉強にいいかもよ~」
母さんが無責任すぎるぞ。まあ、もちろんスマホに録画するけど。
「ケンブーリッジだなんて、リオンさんは優秀なのね」
姉さんの言葉に、母さんがうなずく。
「一族の中でも天才の部類よ。なのに二回も婚約破棄になっちゃって……」
「「二回も⁉」」
僕より十五センチもデカいイケメンは見かけより苦い経験をしていたらしい。
「リオンさんて、エルサリオンが本名だったのか」
「故郷の言葉で、強き星って意味よ」
改めて母親と姉を見比べると、年齢差がないように思えてきた。
「エルフって年を取るのがゆっくりなんだね……僕も二十歳を過ぎたらそうなるのかな」
待てよ。じゃあ父さんは?
ハッとして頭を上げたら、父さんが母さんのプリンをアーンしてるところだった。四十半ばなのに、十歳は若く見えるかも。母さんがエルフの秘薬でも飲ませたのか?
我が家の秘密って、一体いくつあるんだ?
婚約破棄の理由が気になったけれど、傷口を抉る真似はしたくないので、夕食後の話題は僕のエルフ語取得カリキュラムとリオンさんの観光に終始した。
「お見合いと勉強の合間に、蔵王や日本三景の松島を回るといいわね。それに温泉かしら……」
「秋保温泉は日帰りでもいいけど、鳴子は旅館に泊まってゆっくり温泉に浸かるのがおすすめね」
母さんと姉さんがガイドブックを開いて緑茶をすするリオンさんに見せていた。
「いまは『なるこ』って言うらしいわよ」
「仙台民は、なるごだべ」
「父さん、リオンさんがなまっちゃうでしょ」
「なんだべ。真凜花は厳しいなぁ」
父さんが頭を掻いた。
やはり成人の儀式まで謎が明かされないのは生殺し状態だよなぁ~。
ハーフの母さんが500歳の寿命と仮定して、平均寿命80歳ちょっとの父さんとの子供(つまりは姉さんと僕)は200歳ぐらいまで生きるのかな。少なくとも日本人にとっては、とてつもなく長い、長い時間だ。いや待てよ。日本人の遺伝子を強く受け継げば、80歳代で人生が終わる。あ~、僕はどっちなのか、それだけ教えてくれ~。
「大丈夫だよ、永樹。君がエルフ族の一員と認められるよう、俺がサポートするからね」
僕が悶えていると、麗人がアパタイト光線を浴びせた。
「リオンさん……」
顔だけじゃなく心もイケメンだね。僕は本気で惚れちゃいそうだよ……。
「【望むところさ】」
「へ?」
聞きなれないフレーズが僕の耳をくすぐった。
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