花嫁召喚 〜異世界で始まる一妻多夫の婚活記〜

文月・F・アキオ

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第二章 適性診断と公開準備

第7話「申請殺到とプロフ確認」

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 朝食を終えて部屋に戻ると、すぐにカレン婦長が現れた。両腕には分厚い束の書類を抱えている。

「美琴さん、今朝になって申請がどっと届きました。こちらが面談希望者のプロフィールです」

 そう言って差し出された羊皮紙の山を見て、思わず息をのむ。

「こんなに……?」

 机の上に広げられた紙束は百枚以上はあるように見える。昨日の夕方に公開されたばかりなのに、もうこれほどとは。
 カレンはにこやかに微笑んだ。

「実はこれでも少ない方なのです。他の候補者様には倍以上の申請が殺到していますから」

 言葉は柔らかいのに、現実の差をそっと突きつけられたようで、胸が少しざわついた。

(やっぱり、不妊って書いたことが影響してるんだろうな)

 でも、それでいいのだ。子を望むことが第一条件の相手とは、最初から合わない。
 むしろ、ここに届いているのは条件を承知で申し込んでくれた人たち。そう思えば、この百枚という数は決して少なくはない。

「では、まずはプロフィールを確認して、気になった方を選び出していきましょう。それから、王都近郊に住んでいて日程調整がしやすそうな方から予定を組んで、実際にお会いしていくとよいですよ」

 カレンが段取りを示してくれる。私は深く頷き、書類に手を伸ばした。


 最初に目に入ったのは、雑貨商の若主人・二十六歳。黒髪をきちんと撫でつけて、落ち着いた笑顔で写っている。
 商売柄か、文章からも社交的で軽快な気質が伝わってくる。自己紹介には「新しい品を仕入れるたびに、誰かに早く見せたいと思ってしまう」と書かれていて、目の前で楽しげに語っている姿が容易に想像できた。
 楽しそうだけれど、軽さばかりが先に立たないだろうか。大勢を相手に商売をしてきた人なら、裏と表を使い分けることも得意そうだ。そう考えると、安易に信じてはいけない気もする。

 次に手に取ったのは、革細工職人・二十四歳。
 自己紹介文は簡潔で、「祖父から工房を継ぎ、日用品から装飾品まで幅広く手がけています」とあるだけだった。
 写真には、シンプルな革の前掛けを着けた姿が映っている。両手の甲には細かな傷が点々と残っており、日々の仕事の厳しさがそのまま刻まれていた。
 仕事に真面目に取り組んでいる人なのだろう。けれど、寡黙そうな雰囲気は、会話が続かない沈黙に繋がるのか、それとも実直さの証なのか――判断はまだつかなかった。
 同じ沈黙でも、心地よいものと重苦しいものがある。私は館の人々と過ごす中でもそれを感じていた。この青年の沈黙がどちらに傾くのかは、会ってみなければ分からない。

 さらに目にしたのは、助教を務める青年・二十八歳。
 王立学院で教鞭をとりつつ、論文執筆に励んでいると記されている。ローブに身を包んだ写真は、どこか肩に力が入っているように見えた。文面は丁寧で模範的。
 だが、最後に小さく「子どもが好きで、休日は甥たちと過ごすことが多い」と添えられていた。
 子ども好き。温かい人柄なのかもしれない。けれど、不妊を承知で申し込んできたのなら、その「好き」の感情とどう折り合いをつけるつもりなのだろう。気になって仕方がなかった。

 そして、書記官見習い・十八歳。
 他の候補者と比べると、だいぶ若い。プロフィールには「緊張しやすい」「失敗も多い」と自らの弱点を素直に書き連ねていた。
 強みを並べる自己紹介が多い中で、自ら弱さを隠さず記す勇気は、誠実さの表れでもある。正直な人柄が垣間見える気がした。
 けれど同時に、彼が本当に対等な立場で家庭を築けるのか、不安も残った。写真の表情も硬く、緊張が滲み出ていた。……それでも、勇気を出して申請してくれたのだと思うと、なんとも言えない気分になった。



「ふう……」

 気づけば、何枚ものプロフィールをめくっていた。
 写真と文字から伝わるものは限られている。けれど、その限られた情報の中でも、にじみ出るものは確かにある。
 会ってみなければ分からないことばかりだと分かっているのに、私はつい、言葉の端や表情の陰影から、相手の輪郭を探ろうとしてしまう。

 カレンは私の横で控えていたが、決して急かさず、ただ必要に応じて説明を添えてくれる。

「本日は候補者の確認を進め、明日から順に面談を組んでまいります。無理にすべてに目を通そうとせず、まずは気になった方からで大丈夫です」

 その穏やかな声に支えられながら、私は再び手を伸ばす。

 面談は、明日から。
 この百枚の中に、私の未来を共に歩む人がいるのだろうか。

 ページを捲るたびに、その思いが少しずつ重みを増していくのを感じていた。

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