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第1章 二人の婚約
空からの便り(The young lovers)
しおりを挟む体は比較的小さくとも、強靭な翼を持ったその鳥は、古来より早文を届ける役目を担っていた。
今時代は個人で所有している者も少なくないが、最も歴史が長く有能なことで知られているのは王宮の管理下にある尾の長い品種の速便鳥であり、時代を追うごとに優れた血統が引き継がれ、磨かれた飛翔力や探索力、危機管理能力や帰巣能力は特に優れたものであった。
彼らは時として国家間の問題に関わる重要な知らせを運ぶこともあれば、労働者階級の個人的な近況を知らせる便りを運ぶことも間々あった。
太めでやや短い脚には小さな筒が取り付けられており、往々にして要件のみの短い手紙のやり取りに遣わされていた。
そんな優秀な彼らの中から一羽。今日もまた個人的な手紙を託されて、晴れ渡る空をのびやかに翔ける。
茶色い羽毛に白い斑のあるその鳥は、もはや通い慣れた空路を淀みなく滑空するのだった。
――――――――――――――――――
僕の可愛いセリーナへ
この手紙は君と会った翌日の朝に書いている。
僕は昨日のことを思い返すたびに幸せな気持ちになるよ。
いつも僕のことを全身で受け止めて安らぎを与えてくれる君に、
心からの感謝を捧げたい。
そろそろここでの研修期間も終わりが近づいている。
自分が一体どこに配属されるのか、正直検討もつかないが……
どこへ行ってもやるべきことは同じだと教官は言っていた。
まさにその通りなのだと思う。
配属先がどこであれ、国に仕えることには変わりないのだから。
僕はそこで出来ることを精一杯やっていくつもりだ。
正式に着任したところで、当分は見習い官吏であることには変わりないが……
一日でも早く仕事に慣れて、君を迎えに行きたい。
君がこちらに来る時には、今までよりも公休日が増えているはずだ。
王都にいる役人の半分は貴族出身だからな。
次に会えるのはその時だと思うと、今からとても待ち遠しいよ。
W.A.スタンレー
――――――――――――――――――
親愛なるウィリアム様
あなたが無事に着いたと知って安心しました。
いつも思うことだけれど、怪鳥の背中は本当に安全なのかしら?
支え損ねてしまったり、強風に煽られて振り落とされてしまうことは?
彼を信用してないみたいで申し訳ないけれど……
どんなに安全と言い聞かされていても、あなたを心配せずにはいられません。許してね。
あなたに会えた日の夜は、なかなか眠りにつくことができなくて少し困ります。
目を閉じるとあなたが私に微笑んで、私の名前を愛しげに呼ぶから……
何処ででも寝られると自負している私を眠らせないなんて、
あなたはなんて罪作りな人なんでしょう。
正式に官位を戴いた暁には、陛下御立会いのもと就任式が執り行われると聞いています。
とても名誉なことよね。それに、正装したあなたの姿はさぞ立派でしょうね。
この目で見られないのが残念です。
できれば私が王都に行った時にもう一度その衣装を身に付けて、
その時の様子を再現して見せてくれないかしら?
あなたのセリーナより
愛を込めて
――――――――――――――――――
心配性のセリーナへ
君も一度アベルに乗ってみるかい?
そしたらきっと、その不安も無くなると思う。
彼がどんなに安全かは、実際に乗ってみればすぐに分かるはずだ。
それにしても、君はときどき面白いことを言うな。
僕の正装した姿なんて見飽きる程に見てきただろう?
今更そんな姿を見たがるなんて。
もちろん君が望むなら、着てみせるのは構わない。
ただし、似合わなくても笑ったりするのは無しだからな。
王都はまだまだ暖かい日が続いている。
そちらはもう朝晩が冷え込む時期だろうか。
そろそろこの速便鳥での手紙のやり取りも限界かもしれない。
窓を開けておくのも辛いだろう?
時間はかかるけど、次からは普通の方法を使おうと思う。
君の手紙を一日おきに読む事が、
ここでの僕の一番の楽しみだったのだが……
ウィリアム.A.スタンレー
――――――――――――――――――
親愛なるウィリアム様
彼は私を乗せてくれるかしら?
いつだったか、アベルはあなたにしか懐かないと言っていなかった?
でも可能なら私も乗せてもらいたいわ。
大空を自由に飛ぶなんて、夢みたいで想像できないけれど……
あなたがいつも見ている景色を眺められたなら、どんなにか素敵でしょうね。
私はいつだってあなたを見つめていたいと思うけれど、
あなたと同じ景色を眺めていたいとも思うのよ。
その両方を同時にできないことが残念ね。
速便鳥のことは心配しないでください。
実は専用の出入り口を用意したの。
今日、初めて誘導したのだけれど……
王宮のポストバードは賢いわね。
一度でその使い方を覚えてくれたわ。
届け先に専用の止まり木があるのが珍しいのかしら?
なんだかとても楽しそうに踏みしめています。
ちゃんと毒性の無い樹木を選んできたので安心してね。
あなたからの手紙を
心待ちにしているセリーナより
――――――――――――――――――
最愛のセリーナへ
アベルは他者の匂いに敏感ではあるが……
君と僕は一緒にいることが多いだろう?
彼にとって、君は既に他人ではなくなっているだろうと思う。
僕の大事な人だと理解しているはずだ。
そういうことを嗅ぎ取ることも、彼らはとても得意なんだ。
だがもしかしたらアデレは拗ねるかもしれない。
彼女は僕に対しても、時々嫉妬してみせるから。
そういえば君が嫉妬しているのは見たことが無いな。
僕の知らないところでは、君もそういう気持ちになったりするのだろうか。
一度くらい見てみたいものだ。
速便鳥の事、色々と配慮してくれて助かった。ありがとう。
これまで通りに手紙が読めるのはやはり嬉しい。
これはいつも言っている事だが……
何かあったら直ぐに知らせて欲しい。
君が呼べば、僕はすぐに飛んで行くから。
ウィリアム.A.スタンレー
――――――――――――――――――
親愛なるウィリアム様
アベルが私に気を許してくれているなんて、とても光栄だわ。
彼とあなたは、見えない力で繋がっていて
とても信頼し合っているから……
その仲間に入れてもらえることは、家族になれたみたいで嬉しいです。
アデレではないけれど、私も嫉妬していたのかもしれないわ。
あなたと彼の息の合ったやり取りを見るたびに、羨ましいと思っていたのだもの。
案外、私と彼女は仲良くなれるかもしれないわね。
同じ気持ちを抱える女同士としてね。
周辺の田畑が次々と収穫の時期をむかえています。
これから街への出荷に向けて、農村のみんなは忙しくなるわね。
秋の実りは美しく、豊かな匂いに溢れています。
私も早く、誰かの役に立てるような仕事がしたいわ。
今はまだ小さなことしかできないけれど……
お飾りの貴族としてではなく。
女性としての義務を果たすだけでなく。
ごめんなさい。上手く言えないわ。
あなたを愛する
セリーナ.R.デュボワ
――――――――――――――――――
愛するセリーナ
君は僕にいつも勇気を与えてくれる。
なにも知らなかった幼い日の僕に、
沢山の楽しみと、生きる喜びを教えてくれた。
君と出会う前の僕はひどく無気力で、
何かを成し遂げようと奮い立つこともなく、
何かを特別に欲しがることも無かったと思う。
父と兄に従って、ただ無難に生きていた。
それを変えてくれた君との出会いの日を
僕は一生忘れないよ。
君は昔から人の役に立つ仕事をしたがっていたよな。
そんな君に影響されて将来を決めた男の一人が僕だ。
君は僕を通して国につくしている。
今はまだなにかと制限があって苦しいだろうが……
君は君が正しいと思うことをすればいい。
ゆっくり考えて。自ずと答えは出てくるはずだ。
そして、やるべき事が見つかって
日々の仕事をやり遂げたあとに君が帰る場所は
僕の隣であって欲しいと思う。
君が何かを始めるなら、僕はそれを支えたい。
もちろん何もない時でも共にいたい思っている。
できれば終生の伴侶として、
同じ道を並んで歩きたいと願っているからだ。
ウィリアム.アーサー.S
――――――――――――――――――
ただ一人のあなたへ
私の尊敬するウィリアム様。
あなたにこうして理解を示してもらえることが、
私にとって何よりも強い心の支えとなっています。
ありがとう。いつも味方でいてくれて。
私を選んでくれて ありがとう。
心からそう思います。
あなたはこんなに素敵な人なのに、
私ひとりが独占してしまって良いのかしら。
そう思う一方で、あなたは私にとって
欠けてはならない大切な存在だから……
他の人には少しも分け与えられないと知っています。
これから先、どんな時も共にいたい。
それは、私の心からの願いでもあります。
あなたが進むべき道を見つけて勝ち取ったこと、
何よりも嬉しく思います。
とても誇らしくて……私も見習いたいと考えてます。
いつか私も自分の道を切り開き、
何かを為し得る事ができるかしら。
私は昔から口だけが達者で、実行するには
いつもあなたの手を借りていました。
でも、これからはそんな事ばかりじゃダメよね。
私もあなたを支えることができるような人間に
一日も早くなりたいと思います。
いつもより長くなりました。
文字が小さくて ごめんなさい。読めるかしら?
昨日ようやく、仕上がったドレスを試着できました。
型は予想外だったけれど、とても綺麗な翠玉色です。
詳しくは当日のお楽しみに。
あなたと踊れることを楽しみにしています。
急ですが、明後日にはここを発つことになりました。
叔母様と一緒に色々と寄る場所があるみたいなの。
王都に着いたら真っ先に連絡を入れるわね。
それまでどうか、ご健勝で。
無理をするのは程々にね?
あなたに恋する
セリーナ.ロッテ.Dより
――――――――――――――――――
僕のセリーナへ
この手紙が着く頃には出立しているだろうが
王宮の鳥は優秀なので、きっと君の手元に届くことと思う。
いろいろ言いたいことはあるけれど、
それを伝えるのは直接君に会ってからにするよ。
早く君に会いたいな。
僕はいちはやく君の到着を知ることができるだろう。
だからきっと僕から君に会いに行く。
君からの一報よりも早いはずだ。
期待しててくれ。
君だけの
ウィリアム.Aより
――――――――――――――――――
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