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第2章 二人の誤算
コードネームはF調査(Fores)
しおりを挟む背後の気配に嵌められたのだと気付いた時、身体は反射的に飛び退いていた――
一瞬にしてこの身を襲った感情は、焦りや驚きなどでは無く、少しの安堵と感心だった。
フォレスは己の存在感を希薄にして尾行や盗聴や聞き込みなどによる情報収集を専門としており、それなりの腕であると自負していた。なので官吏として歩み始めたばかりの若輩と呼べる者たちに後ろを捕られるなど極めて不名誉なことだったが、それで苛立つようなこともなかった。
むしろ不審な行動が自分を誘い込むための演技であったと知って、やはり間違いはなかったのだと確信を強めてしまう程だった。
「私になにか用だろうか」
振り向いた先にいる男は毅然と佇んでおり、見るからに若いが、礼を尽くして対話をするに値すると判断する。
思っていた以上の男かもしれない……そう感じると、主の喜び様が目に浮かんだ。
情報として知ってはいたが、いつの間にか彼が使役していると思われる動物たちに空も地も包囲されている状況にやや驚く。
街で見慣れた鳥たちが整然と並び、犬や猫や鼠などの大小様々な獣が警戒の目を光らせ、彼のそばでじっとこちらを凝視している……常人なら逃げ出したくなるに違いない、異様な光景だった。
まるで軍隊に囲まれているかのような統率具合いと隙の無さから、彼一人を取り込むだけで小隊の一団が付いてくると言っても過言ではないかもしれない。
ここまでの道で見かけた覚えのある鳥や猫は見張り役だったのだろう……おそらく他の動物にも斥候や前衛などの役割がすでに与えられているように見える。その動物たちのどれもが、まるで言葉を理解しているかのように彼に追従しているのだ。
なんと有意義な能力だろうか――これは嬉しい誤算だ。
話し合った末、彼を主の元へ連れていくことにした。これは本来予定していた時期を待つことなく早々に手に入れておきたい。
同時期の候補に上がっていたもう一人の彼といい、今回の新人はなかなか手応えがある……
数年来の豊作の予感に心躍らせながら、外向きは努めて冷静に彼を王宮の深部へと連れ立った。
考え得る対応の中から敢えて真っ向から立ち向かうことを選んだ彼……そこに若さゆえの無謀な勢いの片鱗を感じなくもないが、勝機の無い行動には移らない 最低限の判断力は備わっていると思われる。
あとは読み違えをしない慎重さや正確性を高めて、想定外の問題が起きてもそれを勝機に変えられる柔軟な適応力を身に付けさえすれば……
正直なところ、指南者を選びさえすれば今すぐにでも現場に出せそうである。
フォレスの数歩うしろを歩いて付いてくる男は、配属されたばかりの新人官吏にありがちな不安や緊張で挙動不審になったりカチコチに固まってしまうようなこともなく、極めて落ち着いた風情で悠々と歩いている。
先の男――彼は終始うきうきと面白そうに周囲を見回していたが、それはそれで珍しい反応だった――とは正反対であるが、このような場所に案内されても全く萎縮せずに自然体であるという点では同じだった。
裏付けなどの調査段階で我々の存在に気が付く者がでるなど近年では珍しい。それなのに今期の査定対象の中では二人も現れた。
それだけでも見込みのある二人だと思われた。
*
その者があっさり辞退を申し出た時は少々驚いたが、殿下が逃すはずもなく。流石の巻き舌で有無を言わさぬよう取り込んでしまわれた。
いざ研修が始まれば、遠慮していたのが嘘のような成果を上げて、みるみる力を付けていく。その若さとしなやかな吸収力に、組織の伸び代すら期待してしまう。
殿下も同じように思われたのか、ちょくちょく監視に訪れては実地で検分――手応えを確認されていた。
予想通りと言うべきか……突出した二人の若者は、異例の早さで研修を終えることとなるのだった。
この時ばかりは自分の初期判定の正確さに鼻が高くなる思いだった。
後にそれは大きな穴のある認識であったことが判明し、突出していたはずの強靭な戦力が、意外なところからの横槍で呆気ないほど簡単に崩されて、脆い戦力と成り果ててしまうのだが……
その発覚と同時に、組み合わせかた次第では如何様にも増力する手段を講じることのできる強力な助っ人を手に入れたので、結果的に組織を支える構成員の質は増したと言えるだろう。
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