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怯える悪役令嬢を守る・・・ことはできなかったのかもしれない(サムロの後悔)

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「パパイ大公妃様。私は、サムロと幸せで別れようなどとは思ってはおりません。信じて下さい。」
 懇願せんばかりに、ゼハンプリュはパパイ大公妃であるデュナを前にした言った。彼女も、困惑していた。これも、ゼハンプリュのサロンでのことだった。パパイ大公妃デュナは、一人でやってきた。夫婦同伴でというわけではない、サロンの行き来は。隣り合った椅子に座った時、ゼハンプリュは囁くように言ったのである、周囲に気が付かれないように。

 ゼハンプリュのサロンは、コリアンダー家の叔母達のサロンと同様に、コリアンター公爵家の尚武の、質実剛健の家風を前面に立てて、雑多だが進歩的な思想家、哲学者から芸術家を招いいるが、王都の洗練された飾りつけを調和するように、それは文武両道の騎士、戦士を思わせる演出となっている。彼女が我が家の家風と進歩的な流れを、俺同様に尊重して、努力して作り上げた結果だ。議論で騒がしく、躍動的な音楽が奏でられ、新しい絵画が並べられ、革新的ともいえる機器も並べられながらも、洗練と、落ち着きが奇妙に同居して、調和している
 王太子妃ガマリアの穏健な進歩派の人士が集められ、派手すぎるような感じもするが、華やかなサロンと北方の文化とピール家の伝統、両方を演出しているパパイ大公妃デュナのサロン、保守派。伝統派が多いが、とは異なった様相である。

 パパイ大公夫妻の仲は悪くない、少なくともそういう噂だ。そして、彼女にとっても夫が自分以外の女と結婚しようなどを許したくはなかった。だから、力強く頷いた。そのパパイ大公夫人のデュナの姿を見て、聞いて、複雑な思いを感じてしまうのが、不思議だった。ほとんど知らない女なのに。

 だが、パパイ大公はゼハンプリュとの結婚を実行しようと、強引のことを進めてきていた。
 彼は、ピール公爵家出身のデュナと結婚している。が、三位一体教会信徒の彼は、再洗礼派の彼女との結婚を三位一体教会が認めていないため有効ではないと主張している。彼女は移籍をしてるのであるが、最近になって三位一体教会は彼女が心から正統な信仰に戻っていない、心は今でも異端である再洗礼派にあると宣告している。どちらとも、強引に飴と鞭でのやらせなのだが、大公による。
 この手の理屈は、離婚の手法としてよく使われる。屁理屈ではあるが、屁理屈とは分かった上で使われている。庶民から王族まで。しかし、流石にまともな理屈ではないと多くの人が考えてはいるものの、金でその見解を出させて、離婚する輩はいる。その手を、パパイ大公は使ってきたのだ。
 多分、この後、再洗礼派教会とはデュナの結婚が認められているが、ゼハンプリュとは運命論教会からは認められているが、三位一体教会からはどちらの結婚も認められていないということで、この重婚を事実上認めさせるのだろう。すると一つ空きが?多分、どこかの王侯出身の妃を娶るための深謀遠慮なのだろう、その日に向けての、と俺は
悪意も込めて想像した。

 彼は、ゼハンプリュとの結婚を求めてきているのである。彼の真意が、国内第一の貴族カーキ公爵家を取り込むこと、それ自体で大きな力を取り込めるだけでなく、国際的に姻戚関係などで王侯貴族の関係が深く、保守派の巨魁であるカーキ公爵家の影響力はかなり魅力的である。さらに、ゼハンプリュの母は王族の娘である。王家に跡継ぎがない場合、国王の座につくとされている、法的な根拠などはないのだが、特別な家柄であるパパイ大公家だが、王家の血が入るということで、さらに重みが加わる。数少ない軍事貴族であり、コリアンター公爵家に次ぐピール公爵家のデュナを妻とし、進歩派に属するピール家の影響力で穏健な、進歩派貴族、市民の富裕層の取り込みも可能だった。

 あらゆる手段を使って、俺達の離婚を要求してきている。コリアンダー公爵家謀反の訴えをださせたり、高等法院に、ゼハンプリュの名で虐待による離婚の訴えがだされたりしている、もちろん彼女のあずかり知らぬことだ。国の議会でも、政府の幹部からもだ、俺への非難が出ている。続く天候不良による不作、それによる不況、長く続いた戦争の後遺症である財政難、社会の変動による新旧勢力の色々な面での対立で国内が混乱している中、パパイ大公を怒らせては、国内の混乱は大きいから、俺やコリアンター公爵家を犠牲にした方が被害が少ない、ということで声を大にする奴らが大手を振るう有様だった。カーキ公爵をはじめとして、俺達に、色々な理屈をつけて離婚を勧めてくる連中が多かった。中には、
「一時的に、あくまで一時的に離婚してもらう。その上、あらためて考えるのがよいのではないでしょうか?」
などと馬鹿話しい理屈を得意げに俺達や、さらには国王にまで言上する奴まででる始末だ。俺達は孤立しつつあった、完全に。 

「わ、私のせいで・・・。」
と泣き、怯えるように震えるゼハンプリュを、
「君を苦しめてすまない。謝るのは私の方だ。」
と俺が抱きしめると、
「私と結婚したことを後悔しているの?そうよね、私なんか・・・。」
「違う。後悔なんかしていない。君を手放したくないんだ。」
「わ、私もあなたなしではいきていけない!」
 涙を流しながら、俺達は唇を貪るように吸いあい、立ったまま体をまさぐりあい、そして俺は彼女を持ち上げた。二人は着衣のまま、着衣をはだけて、激しく動いていたが、それはどこだったのか?
「どんなことがあっても、一緒だ。」
「死ぬまで二人で。」
と叫ぶように言った、二人は。彼女の幸せそうに喘ぐ顔が、美しく、妖艶でいて、可愛かった。なんとしても、彼女から離れない、手放さない、守るんだと心に誓っていた。

・・・誓っていたはずだったが、彼女は俺とむすぱれなかった方が良かったのではないかと、心のどこかで思っていたのかもしれない。
 再びあの夜にもどってしまっていた。そして、彼女にパパイ大公が、
「私の領地に来てください。」
と婚約者のピール公爵家令嬢デュナ嬢が腕にしがみついていたにもかかわらず誘いかけた時、声がでなかった、それは躊躇してとかではなく、本当にでなかった。その言葉が存在することが、許されていなかったとしか思えない。彼女は行ってしまった、パパイ大公とともに、デュナ嬢が困惑した顔で腕にしがみついているパパイ大公に手を取られて。

 俺は、全てを失ってしまったのだった。
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