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序章
女魔王?そうですが、私の妻です。
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聖女の叫びに流石に、ジュン王国の面々は国王を背にして、女魔王の前に立ちはだかり、サラギ王子は聖女の前に立った、盾になろうとして。聖女も、すかさず、迷うことなく、
「魔よ消滅せよ!」
局地的な聖結界を二重に張り、その一つを魔王の方に飛ばした。
「え?」
魔王が力づくでそれを破壊するかもしれない、それでもかなりのダメージを与えられるはずと聖女ケイは考えた。が、それは強い力がぶつかったわけでも、魔王をすりぬけていってしまったのだ。気が付くと、魔王を守るようにリツシウン王国国王ウスイが、その前に立っていた。
「失礼。紹介が遅れましたが、彼女が私の妻、王妃ツチイです。そして、女魔王として、私と協力して、リツシウン・ターイカン二重王国を統治しております。」
整った顔立ちで優し気な風貌だが、少し地味な顔の、長身で黒髪のウスイは、笑顔を浮かべながら、女魔王の肩を抱きながら紹介すると、妻という段で彼女は嬉しそうに真っ赤になっていた。それが、聖女ケイにはひどく腹立たしかった。何か言ってやろうとしたものの、口も頭も、その思いに追い付かないうちに、
「陛下、な、な・・・・そこまで堕ちておられたとは・・・情けない・・・なにがあったいうのですか?異端に心を売っただけでなく・・・。」
三位一体教会の司祭が、聖女の脇に立って涙を流さんばかりに非難した。彼は、聖女と共にリツシウン王国で過ごし、ウスイとの関係は悪くなく、ウスイは彼の学識を高く評価していた。
「ああ、民が、正当な教えを守っている心清い多くの信徒たちが、魔族や異端視野達に迫害され虐待されている・・・それをあなたが。」
とそこまで言った時、ウスイの脇から一人の、着古した平修道士服を着た老人が姿を現した。
「お待ちください。しばし私の話をお聞きください。」
「ああ、これは老師様。ご無事だったのですね。」
聖女は、彼の無事を知ってうれし涙が流れた。それは、感情を滅多にあらわさない謹厳実直な司祭も同様だった。老人は、一介の修道士以上は望まず、ひたすら神への敬虔な態度と生活、研究と人々の救済に努めていた人だった。それ故に、一介の修道士ではあるが、多くの人々の尊敬を受け、教皇ですら敬意を示し、他の異端の宗徒ですら心ある人は敬意を示していた。聖女追放後も、信徒達を守りたいと、残留を希望したのである。誰もが彼の身の上を心配していたのである。
「国王陛下が邪悪な異端である再洗礼派の教えを受け入れ、多くの敬虔な信徒達は悲しんでおります。公に再洗礼派が認められ、大手を振って我が物顔で活動しており、正しき礼拝を遠慮気味にしなければなりません。国外からよそ者の再洗礼派の徒が次々に移り住んでおりますが、彼らには国外に逃れた正しき信徒の領地、農地が、一時離れただけであるのに、与えられる始末です。女魔王が王宮に入っただけでなく、国中に魔族達が闊歩するようになりました。まことに嘆かわしい、神を恐れぬ所業、神の怒りに触れないか、人々は不安におののいております。されど、正しき信者に抑圧や弾圧はなされてはおりませんし、魔族達が人々を略奪、虐殺、乱暴狼藉を働くことはしておりません。協力して、より魔獣を狩り、魔獣の体から有用なものをより多く取り出し、加工して、利用、そして国外に輸出することができるようになりました。また、魔族の地で人間が田畑を耕し、鉱山を発掘し、作業場所で加工品をつくることで産物は前より増え、国は豊かになってさえおります。この嘆かわしい、異端に迷わされている国の状況を何とかしたいと思い努力しておりますが、決して悲惨な状況にはなっておりません。」
彼が嘘をつくはずはない、と思われた。それだけに、聖女以下は唖然とせざるを得なかった。老師は、ひどく悩んでいたが、強制されても、それが命に係わることであっても、そして人質を取られていても、嘘をつく人では
ないことが、彼を知る者全てが知っていたからだった。
だから、戦争などしてくれるな、と彼は言いたかったし、その意は聖女達ジュン王国の者たちにもわかった。
「魔よ消滅せよ!」
局地的な聖結界を二重に張り、その一つを魔王の方に飛ばした。
「え?」
魔王が力づくでそれを破壊するかもしれない、それでもかなりのダメージを与えられるはずと聖女ケイは考えた。が、それは強い力がぶつかったわけでも、魔王をすりぬけていってしまったのだ。気が付くと、魔王を守るようにリツシウン王国国王ウスイが、その前に立っていた。
「失礼。紹介が遅れましたが、彼女が私の妻、王妃ツチイです。そして、女魔王として、私と協力して、リツシウン・ターイカン二重王国を統治しております。」
整った顔立ちで優し気な風貌だが、少し地味な顔の、長身で黒髪のウスイは、笑顔を浮かべながら、女魔王の肩を抱きながら紹介すると、妻という段で彼女は嬉しそうに真っ赤になっていた。それが、聖女ケイにはひどく腹立たしかった。何か言ってやろうとしたものの、口も頭も、その思いに追い付かないうちに、
「陛下、な、な・・・・そこまで堕ちておられたとは・・・情けない・・・なにがあったいうのですか?異端に心を売っただけでなく・・・。」
三位一体教会の司祭が、聖女の脇に立って涙を流さんばかりに非難した。彼は、聖女と共にリツシウン王国で過ごし、ウスイとの関係は悪くなく、ウスイは彼の学識を高く評価していた。
「ああ、民が、正当な教えを守っている心清い多くの信徒たちが、魔族や異端視野達に迫害され虐待されている・・・それをあなたが。」
とそこまで言った時、ウスイの脇から一人の、着古した平修道士服を着た老人が姿を現した。
「お待ちください。しばし私の話をお聞きください。」
「ああ、これは老師様。ご無事だったのですね。」
聖女は、彼の無事を知ってうれし涙が流れた。それは、感情を滅多にあらわさない謹厳実直な司祭も同様だった。老人は、一介の修道士以上は望まず、ひたすら神への敬虔な態度と生活、研究と人々の救済に努めていた人だった。それ故に、一介の修道士ではあるが、多くの人々の尊敬を受け、教皇ですら敬意を示し、他の異端の宗徒ですら心ある人は敬意を示していた。聖女追放後も、信徒達を守りたいと、残留を希望したのである。誰もが彼の身の上を心配していたのである。
「国王陛下が邪悪な異端である再洗礼派の教えを受け入れ、多くの敬虔な信徒達は悲しんでおります。公に再洗礼派が認められ、大手を振って我が物顔で活動しており、正しき礼拝を遠慮気味にしなければなりません。国外からよそ者の再洗礼派の徒が次々に移り住んでおりますが、彼らには国外に逃れた正しき信徒の領地、農地が、一時離れただけであるのに、与えられる始末です。女魔王が王宮に入っただけでなく、国中に魔族達が闊歩するようになりました。まことに嘆かわしい、神を恐れぬ所業、神の怒りに触れないか、人々は不安におののいております。されど、正しき信者に抑圧や弾圧はなされてはおりませんし、魔族達が人々を略奪、虐殺、乱暴狼藉を働くことはしておりません。協力して、より魔獣を狩り、魔獣の体から有用なものをより多く取り出し、加工して、利用、そして国外に輸出することができるようになりました。また、魔族の地で人間が田畑を耕し、鉱山を発掘し、作業場所で加工品をつくることで産物は前より増え、国は豊かになってさえおります。この嘆かわしい、異端に迷わされている国の状況を何とかしたいと思い努力しておりますが、決して悲惨な状況にはなっておりません。」
彼が嘘をつくはずはない、と思われた。それだけに、聖女以下は唖然とせざるを得なかった。老師は、ひどく悩んでいたが、強制されても、それが命に係わることであっても、そして人質を取られていても、嘘をつく人では
ないことが、彼を知る者全てが知っていたからだった。
だから、戦争などしてくれるな、と彼は言いたかったし、その意は聖女達ジュン王国の者たちにもわかった。
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