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平和に向けて?あるいは新たな戦いの幕間
まずは平和を、なんだが。
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再洗礼派教会の信徒達は、上は貴族から小作農まで、多少の妥協、それが一方的譲歩であっても、信仰を侵されることがなければ、ツチイが呆れるほど、平和という言葉を求める傾向があった。とにかく、自分に向けられた十字軍の大軍を退け、意気軒高なところで、譲歩しても、平和を求めて、交渉しようなどとは、人間達にとっても非常識ではないかと、彼女を呆れさせたことを平気で実行した。ウスイが始めることを指示したわけだけれど、だれも反対していないし、もともとウスイはそうした臣下、臣民の要請を受けて指示をだしたわけであるから。一方で、既にツチイ以下が再洗礼したということで、タイカーン国魔族も同じ信徒であると驚くほど簡単に、受け入れて、その擁護、支援、提携にはほとんど抵抗がなかったし、魔族だから見捨てようというような発想をするものは、あまりにも少数であったことも、ツチイには驚きだった。すでにもう二重王国は、再洗礼派教会信徒達にとっては、二重王国の同じ国民だと魔族を認識してしまっているらしい、再洗礼派教会信徒となったのだからと。
こういうところを見ると、ツチイは人間達の信仰への評価を一変させた。夫の信ずるものであるからと、再洗礼派教会の思想がどういうものか、という事などを聞いたり、書物で読んでみたが、分かるようでわからない面が多かった。だから、ウスイ達を見ていると、ツチイには、元は同じ信仰をもっていた三位一体教会その他に目の仇のようにされるのかが、また、分からなくなってしまう。
だから、聖女が遠回しに、時にははっきりと、三位一体教会信徒への復帰をウスイに迫る理由もわからなくなる。彼女に幼少期からずっと優しくされて過ごしていたと聞かされると、そのことを指摘され、昔を懐かしく思う素振りのウスイを見ると嫉妬に駆られ、つい抓らざるを得ない自分の気持ちがわからない、ツチイだった。ウスイも、再洗礼派教会も三位一体教会信徒に宗旨替えを求めようとしないだけに、聖女ケイの態度は、ツチイには理解しかねることだった。彼女は、聖女ケイはあくまで、三位一体教会こそ正統であり、それ以外は異端であり、寛容な態度をとることはやぶさかではないが、あくまで許されない者であり、その誤った異端の教えを捨てさせなければならないと考えて、全くブレがない。その時には、彼女の寛容さも、人間愛も、優しさも、博愛精神も、全く関係ないのである。その姿は、ツチイには理解できなかった。同時に、彼女は絶対ウスイの気持ちは分からない、彼の苦しみも分からない、彼を助けることはできない、彼を支えることができない、彼と共に歩めないと確信した。彼女には悪意はない、そのことにツチイは同情しつつも、優越感も感じてならなかった。
「ウスイには、私しかいない、私が支えなければならない。」
と強く思った。
「それでも、神木、聖樹などは衰え、小麦などの収穫は落ちました・・・雑穀の生産が増えたとか偽聖樹などの効能があっても・・・貧しく、苦労が増えただけではありませんか?」
「聖典の使徒達のご苦労と同様に、教えを守ることに苦労することは、かえって使徒達とともに歩んでいるということで喜びではありませんか?私達、再洗礼派の者達は皆そのように思っております。それに、労力の削減、収量増加なども進んでいますよ。」
「その言葉は矛盾していますわ。」
ケイは、再洗礼派教会の聖女達との論争を行った。もちろん彼女達は何人もいたが、ケイにはるかに劣る者達しかいなかった。
ケイの耳には、彼女が来たということで集まった敬虔な三位一体教会信徒達に癒しと加護を与えていたが、彼らから、彼女が去ってからの聖樹の衰退、小麦などの生産減と労働がきつくなったこと、肩身を小さくして正当な教えを守っている日常の苦労の声が入ってきていた。
追放前、自分は再洗礼派教会信徒達にすら、分け隔てなく加護も癒しも与えていたという自負があった。それに比べて、今の正しい信徒達への扱いは、その恩を仇で返すものでしかなかった、彼女にとっては。三位一体教会信徒が優先され、ケイ以外の聖女を排除していたことも、ケイは知っていたが、そのことは問題視はしようとはしなかった。それは、彼女にとっては当然のことだったから。
こういうところを見ると、ツチイは人間達の信仰への評価を一変させた。夫の信ずるものであるからと、再洗礼派教会の思想がどういうものか、という事などを聞いたり、書物で読んでみたが、分かるようでわからない面が多かった。だから、ウスイ達を見ていると、ツチイには、元は同じ信仰をもっていた三位一体教会その他に目の仇のようにされるのかが、また、分からなくなってしまう。
だから、聖女が遠回しに、時にははっきりと、三位一体教会信徒への復帰をウスイに迫る理由もわからなくなる。彼女に幼少期からずっと優しくされて過ごしていたと聞かされると、そのことを指摘され、昔を懐かしく思う素振りのウスイを見ると嫉妬に駆られ、つい抓らざるを得ない自分の気持ちがわからない、ツチイだった。ウスイも、再洗礼派教会も三位一体教会信徒に宗旨替えを求めようとしないだけに、聖女ケイの態度は、ツチイには理解しかねることだった。彼女は、聖女ケイはあくまで、三位一体教会こそ正統であり、それ以外は異端であり、寛容な態度をとることはやぶさかではないが、あくまで許されない者であり、その誤った異端の教えを捨てさせなければならないと考えて、全くブレがない。その時には、彼女の寛容さも、人間愛も、優しさも、博愛精神も、全く関係ないのである。その姿は、ツチイには理解できなかった。同時に、彼女は絶対ウスイの気持ちは分からない、彼の苦しみも分からない、彼を助けることはできない、彼を支えることができない、彼と共に歩めないと確信した。彼女には悪意はない、そのことにツチイは同情しつつも、優越感も感じてならなかった。
「ウスイには、私しかいない、私が支えなければならない。」
と強く思った。
「それでも、神木、聖樹などは衰え、小麦などの収穫は落ちました・・・雑穀の生産が増えたとか偽聖樹などの効能があっても・・・貧しく、苦労が増えただけではありませんか?」
「聖典の使徒達のご苦労と同様に、教えを守ることに苦労することは、かえって使徒達とともに歩んでいるということで喜びではありませんか?私達、再洗礼派の者達は皆そのように思っております。それに、労力の削減、収量増加なども進んでいますよ。」
「その言葉は矛盾していますわ。」
ケイは、再洗礼派教会の聖女達との論争を行った。もちろん彼女達は何人もいたが、ケイにはるかに劣る者達しかいなかった。
ケイの耳には、彼女が来たということで集まった敬虔な三位一体教会信徒達に癒しと加護を与えていたが、彼らから、彼女が去ってからの聖樹の衰退、小麦などの生産減と労働がきつくなったこと、肩身を小さくして正当な教えを守っている日常の苦労の声が入ってきていた。
追放前、自分は再洗礼派教会信徒達にすら、分け隔てなく加護も癒しも与えていたという自負があった。それに比べて、今の正しい信徒達への扱いは、その恩を仇で返すものでしかなかった、彼女にとっては。三位一体教会信徒が優先され、ケイ以外の聖女を排除していたことも、ケイは知っていたが、そのことは問題視はしようとはしなかった。それは、彼女にとっては当然のことだったから。
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