Birds

遠野

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「車というものは、本当にいいものですね」
助手席に座り、流れる景色を眺めながら、カラスが言う。
「そうですね。文明の利器です」
「疲れることなく、どこまでも行ける。素晴らしい」
「飛ぶということは、かなりエネルギーを使いますからね」
「ええ。できることなら飛ばずにいたいものですが、なかなか、」
ふいにカラスは言葉を切った。
「・・・丁度良い」
止めてください。
面を被り直したカラスに言われ、私は車を路肩に寄せた。
どうしたのかと聞こうとして、バックミラーに見えたものに緊張が走る。
鳥の群れだ。
後方から無数の鳴き声、羽ばたき。
こちらに接近しながら数を増やし、群れは大きくなっていく。
「これから襲撃に向かうのでしょう」
そう言うと、カラスはシートベルトを外した。
「1人で行くんですか!?」
「ええ、あの程度なら私だけで充分です」
車から出ないように、と彼は言い含めて微笑む。
「このカラスの力。とくとご覧あれ」
ドアを開け、1人群れに向かって飛び立った。
ガラス越しにその姿を見守る。
今の私にはそれしかできなかった。

単身で現れた敵に、鳥達は一瞬ためらうが、
すぐに周りを取り囲むように旋回する。
大群に囲まれ威嚇されても、カラスは動じずに、ゆっくりと武器を構えた。
鳥を落とす、狩猟用の散弾銃だ。
ガシャンと装填してみせると、何羽かの鳥が甲高い声を上げ、逃げていく。
残った鳥達もうろたえていたが、1羽が一声鳴くと、それに鼓舞されるように、
次々とけたたましく鳴きながら、一斉に襲い掛かってきた。
カラスは素早く上昇し、上から群れ目掛けて1発撃つ。
命中した1羽が仲間を巻き込みながら落ちる。
乱れた隊列を狙って突進し、敵に襲い掛かった。
銃で殴りつけ、足で蹴散らし、敵を蹂躙していく。
バタバタと、血まみれの鳥達が地面に叩きつけられ、数はどんどん減っていく。
フロントガラスに1羽がぶつかり、羽と血が窓に飛び散った。
ベッタリと鮮血と羽毛を貼り付けながら、ズルズルとそれは落ちていく。

呆然とそれを見ている間に、気付けば敵は1羽になっていた。
捨て身で突進してくる敵に向かって、カラスは弾丸を放つ。
音が響き渡り、最後の鳥が落ちた。
ゆっくりと下降して、カラスは地面に足をつける。
そして自分が作った無数の鳥の死骸を満足そうに見ると、
無造作に数羽を掴み、袋に投げ入れた。
汚れをふき取りながら、車に戻ってくる。
「ただいま戻りました」
面を被った状態で、口元だけがニイ、と弧を描く。
言葉が詰まって、本能的に仰け反りそうになるのをなんとか耐えた。
「・・・お疲れ様です」
そう、返事をするのが精一杯。
「何羽かサンプルとして持っていって、後は処分してもらいましょう」
「そう、ですね・・・」
「・・・大丈夫ですか?」
カラスが気遣わしげにこちらを見るが、頷く事しかできなかった。

帰りの車内。
カラスから時々視線を感じたが、彼が話しかけてくる事はなかった。
なんとか運転をしながら、さっきまでの光景が、頭から離れない。
何十羽もの断末魔、血塗れた羽毛。
そして無残に形を変え、血溜まりに転がった鳥達の姿が。
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