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「この家の方です!」
はやる気持ちを抑えながら、ツバメは私の手を引く。
呼び鈴を鳴らすと、年配の女性が扉を開けた。
「どちら様?」
私達はあらかじめ打ち合わせをした通りに話を進める。
「突然すみません、私の甥が、こちらの家の方にお世話になったというものですから・・・」
私の言葉を引き継いで、ツバメが続ける。
「昔、この家のおじいさんが、道に迷った僕を助けてくれました。遅くなってしまいましたが、その時のお礼がしたくて」
ツバメは菓子折りを差し出す。
「まあ、そうだったんですか・・・ご丁寧にありがとうございます」
女性は顔を綻ばせたが、すぐに眉を下げる。
「主人が生きていたら喜んだでしょうに」
案内された仏壇に、私達は手を合わせた。
「庭で転んで・・・打ち所が悪くて、そのまま・・・。葬儀を済ませて、やっと一息つけた所なの」
出されたお茶を飲みながら、仏壇に置かれた遺影を見る。
目元の優しい、柔らかな顔の老人が、こちらに微笑みかけている。
「もうお互い年だったから、いつかは、と思っていたけれど・・・あっけないものね」
夫人はそう言いながら、窓越しに庭を眺めた。
眩しそうに目を細めて眺めるその表情は、今まで夫と過ごした日々を思い出しているようだった。
私達もそれに倣って、しばらく庭を眺める。
「・・・僕を、」
ツバメは呟いた。
「・・・あの日、僕を助けて、撫でてくれた手の温かさを、今でも覚えています。大きくて、優しかった。僕よりずっと大きかったあの人は、強くて、絶対で・・・永遠だと思っていました」
その言葉に、夫人は少し驚いたようだったが、すぐに頷いた。
「・・・そうね。あの人と2人、ずっとここで暮らしてきて・・・毎日何事もなく過ぎてゆくと、それに終わりがある事を忘れてしまっていた」
「・・・皆、終わってしまうんですね」
「ええ、いつかは。だからその日まで、毎日を大切に生きなければいけないのよね」
はい。
ツバメはギュッと両手を握り締める。
「おじいさんに助けてもらった命を無駄にしないよう、精一杯生きていきます」
夫人は目をパチクリとさせたが、すぐにニッコリとする。
「あまりがんばり過ぎないようにね」
夫人に見送られ玄関から出ると、ツバメは何かを見つけたのか、上を見た。
「ツバメ、来てたんですね」
見上げると、巣自体は既に無いが、巣があったと思われる土の跡が残っていた。
「ええ、ここ数年来てなくて、あの人は残念そうにしていたわ」
「・・・また来たら、嬉しいですか?」
夫人は笑った。
「そうね。雛が育っていくのを見るのは、とても楽しみだわ」
俯きがちに歩くツバメの手を、今度は私が引いて進む。
そうしてしばらく歩いた後、私はツバメに声を掛けた。
「・・・あの家に作るの?」
「はい・・・、楽しみだと、言ってくれましたから」
「・・・うん、良いと思う」
立ち止まって、ツバメの頭をそっと撫でた。
しばらくそうしていると、少年は顔を上げる。
目元が赤くなっていたが、涙に濡れた瞳は澄んでいた。
「・・・僕、頑張ります。恩を返すために・・・、ここに、戻って来るために」
「・・・ありがとう。がんばろうね」
「はい!」
繋いだ手を、ツバメはしっかりと握り直す。
私達は並んで歩いて、見張りをしてくれているカラスの元へ向かった。
はやる気持ちを抑えながら、ツバメは私の手を引く。
呼び鈴を鳴らすと、年配の女性が扉を開けた。
「どちら様?」
私達はあらかじめ打ち合わせをした通りに話を進める。
「突然すみません、私の甥が、こちらの家の方にお世話になったというものですから・・・」
私の言葉を引き継いで、ツバメが続ける。
「昔、この家のおじいさんが、道に迷った僕を助けてくれました。遅くなってしまいましたが、その時のお礼がしたくて」
ツバメは菓子折りを差し出す。
「まあ、そうだったんですか・・・ご丁寧にありがとうございます」
女性は顔を綻ばせたが、すぐに眉を下げる。
「主人が生きていたら喜んだでしょうに」
案内された仏壇に、私達は手を合わせた。
「庭で転んで・・・打ち所が悪くて、そのまま・・・。葬儀を済ませて、やっと一息つけた所なの」
出されたお茶を飲みながら、仏壇に置かれた遺影を見る。
目元の優しい、柔らかな顔の老人が、こちらに微笑みかけている。
「もうお互い年だったから、いつかは、と思っていたけれど・・・あっけないものね」
夫人はそう言いながら、窓越しに庭を眺めた。
眩しそうに目を細めて眺めるその表情は、今まで夫と過ごした日々を思い出しているようだった。
私達もそれに倣って、しばらく庭を眺める。
「・・・僕を、」
ツバメは呟いた。
「・・・あの日、僕を助けて、撫でてくれた手の温かさを、今でも覚えています。大きくて、優しかった。僕よりずっと大きかったあの人は、強くて、絶対で・・・永遠だと思っていました」
その言葉に、夫人は少し驚いたようだったが、すぐに頷いた。
「・・・そうね。あの人と2人、ずっとここで暮らしてきて・・・毎日何事もなく過ぎてゆくと、それに終わりがある事を忘れてしまっていた」
「・・・皆、終わってしまうんですね」
「ええ、いつかは。だからその日まで、毎日を大切に生きなければいけないのよね」
はい。
ツバメはギュッと両手を握り締める。
「おじいさんに助けてもらった命を無駄にしないよう、精一杯生きていきます」
夫人は目をパチクリとさせたが、すぐにニッコリとする。
「あまりがんばり過ぎないようにね」
夫人に見送られ玄関から出ると、ツバメは何かを見つけたのか、上を見た。
「ツバメ、来てたんですね」
見上げると、巣自体は既に無いが、巣があったと思われる土の跡が残っていた。
「ええ、ここ数年来てなくて、あの人は残念そうにしていたわ」
「・・・また来たら、嬉しいですか?」
夫人は笑った。
「そうね。雛が育っていくのを見るのは、とても楽しみだわ」
俯きがちに歩くツバメの手を、今度は私が引いて進む。
そうしてしばらく歩いた後、私はツバメに声を掛けた。
「・・・あの家に作るの?」
「はい・・・、楽しみだと、言ってくれましたから」
「・・・うん、良いと思う」
立ち止まって、ツバメの頭をそっと撫でた。
しばらくそうしていると、少年は顔を上げる。
目元が赤くなっていたが、涙に濡れた瞳は澄んでいた。
「・・・僕、頑張ります。恩を返すために・・・、ここに、戻って来るために」
「・・・ありがとう。がんばろうね」
「はい!」
繋いだ手を、ツバメはしっかりと握り直す。
私達は並んで歩いて、見張りをしてくれているカラスの元へ向かった。
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