Birds

遠野

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ツバメと一緒に走り続け、体力の限界を感じ始めた頃、やっと大学が見えてきた。
ホッとして、つい速度を緩めたその時、
横から腕を掴まれた。
掴まれた腕の先には、灰色の髪の、眼帯をした少女。
「捕まえた」
淡々とそう言われ、ヒュッと息を飲む。
「先生!」
ツバメが間に入って、少女を突き飛ばした。
掴んでいた手は呆気なく離れ、少女はよろめいてたたらを踏んだ。
その目は、何故そうされたかわからないとでも言うように、驚きに見開かれている。
それに違和感を感じたが、すぐにツバメに手を引かれまた逃げる。
彼女は追いかけてくることもせず、ただ呆気にとられたように私達を見つめたまま、そこに立ち尽くしていた。


部屋に入った途端、2人してソファに倒れこんだ。
緊張が解け、体がドクドクと脈打つ。
ツバメも浅い息を繰り返し、辛そうだ。
しっかりしなければいけない。
深呼吸を繰り返して息を整えると、ツバメに微笑んだ。
「お茶入れるね」
「・・・ありがとうございます」
お湯を沸かし、茶葉を入れる。
出来上がるのを待つ間、思考は冴え、頭が回り始める。
自分達のことがばれた。
それは想定内だ。
覚悟はしていた。
問題は、相手が人間になって接触してきたということだ。
人並みの知能を持っても、彼らの姿は馴染みのある鳥のままだった。
それが人型になったということは、その方が有利だと判断したということ。
恐れていたことが、起きてしまった。

出来上がったお茶を、ツバメに渡す。
余程喉が渇いていたのか、お礼を言った後一気に飲み干した。
「・・・カラスさんは大丈夫でしょうか」
大丈夫、とは返せなかった。
彼は強い。
いつもならもう帰ってきて、一緒に談笑しているぐらいだ。
そんな彼にしては、随分と長引いている。
苦戦しているのか、それとももう・・・。
頭をよぎった最悪を隅に追いやる。
こんなことを考えても何もならない。
彼を信じて、今自分にできることをしなければ。
私はツバメにお茶を注ぎ足してやってから聞いた。
「・・・あの2人を、どう感じた?」
「・・・灰色の髪の人の方は、驚きはしましたが、特に何も。でもあの目の鋭い人には・・・本能的な、恐怖を感じました。カラスさんと会った時、いえ、それ以上に・・・」
「・・・猛禽類」
「そうでしょうね」
待ち望んだ声が聞こえた。
戻ってきたカラスは、大きな怪我も見当たらず、微笑んでみせた。
パッと顔を輝かせたツバメの頭を撫で、敵に気付き、私を連れて逃げた事を褒める。
「よくやったな」
「はい!」
「・・・無事で良かった」
「すいません。撒くのに時間がかかってしまって」
「・・・そんなに強いんですか?」
撒いたということは、倒せなかったということだ。
カラスの顔が歪んだ。
「・・・ええ、情けないことに。私だけでは難しかった」
苦々しく言いながら、カラスは一枚の羽根を見せた。
受け取って、記憶と照らし合わせる。
「・・・オオタカ、ですね」
現在、私達の敵となっている鳥であり、襲撃の際に何度か目にしている。
カラスはその名前に納得したように頷いた。
「何十羽といる私達カラスを、一羽で追い払うような奴です」
以前カラスと話した会話を思い出す。
人間になることによって、本来の鳥の力関係は変わるのか。
答えはノーだ。
あのオオタカは、あくまで人間の女性体のままで、成人男性であるカラスを力で圧倒したのだ。
「・・・力関係は、変わらないんですね」
「ええ。残念ながら」
忌々しげにカラスは言った。

敵の正体が1人判明した所で、話は2人目の少女に移る。
色素の薄い灰色の髪に眼帯という浮世離れした姿。
特定はできないが、おそらくあの少女も鳥で、オオタカの仲間なのだろう。
ただ、敵意が無いように見えたのが気になる。
「こちらに害を加える様子が無かったんです。追ってくる事も無く、驚いていましたし」
「そうだとしても、奴らは我々が今回の件に関わる人間だとわかって接触してきた。これだけは確かです」
悠長にはしていられませんね。
そう呟くと、カラスは目を閉じる。
そうして少し思案した後、顔を上げた。
「・・・こちらから攻めましょう」
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