記憶探しの旅に出ます

あか りくこ

文字の大きさ
43 / 46

大団円~眠りから覚めた市井

しおりを挟む
 横たわる民衆を踏まないように避けながらようやくシェリアルのもとに着いたダキア。



 改めて間近に見る観察者のその姿。巨大な黒い瞳。小さな口。か細い四肢。異様な外見だ。なによりも、有り得ない事だけれどもマナが無い。

 そんな得体の知れない気味の悪い存在に、シチフサは、この上ない歓喜に溢れた様子で飛びつき抱き着き、頬ずりして全身で喜びを表しているのだ。それが演技で無い証拠に、最後に残っていたくすんだ色が、さぁっと雲散霧消して、今のシチフサは白く光り輝くマナと化している。



「殿下」

 少し目尻が濡れた目でダキアを制止する。

「シチフサは、真実私に礼を述べたかっただけでした」

 そうして、シェリアルは全てが行き違いの齟齬で起きた偶発的な事故だったとダキアに語った。

 ダキアはシチフサ、エンキの記憶を通じて既に一連の経緯は分かっていたが、今初めて婚礼当日から起きた諸々のあらましと全容を知ったふりをした。そのうえで「……姫が赦すのなら、俺に是非はありません」そう答えるだけに留めた。

 シチフサの件はシェリアルに委ねたのだ。シチフサに対する処罰の最終決定権はシェリアルにある。そのシェリアルが怒りを堪えて赦したものを蒸し返すのは無粋の極みだ。

 それに、彼らにふりまわされたのは事実だけれども、あんな過去と死後の交々を垣間見て尚、処罰を要求するほどダキアも無慈悲でも冷酷でも無い。







 そこに、カインがマルス、ネルガルを両脇に抱え、ミザル、アルコーがフルリ、シャルマをそれぞれ担ぎ上げてやってきた。

 一度、ダキアの許に参じたのだが、サピエンスたちも控えの間から出てこちらに向かってくるのを見て戻ったのだ。

「すいません、カイン竜騎士」

「助かります」

「ったく、ふらふらと頼りない足運びで見ちゃいられねぇ」

 ミザルがふざけた口調で憎まれ口をたたく。

「ありがとう、ミザル、アルコー」

「かっこよかったよ」

 サピエンスが口々に礼を述べ、そんな中、カインが「殿下、マルスが伝えたいことがあると」進言した。

「申せ」

「はい」

 マルスは、地上のミアキスヒューマン達が観察者と呼ぶ異形の存在は、天人と呼ばれる存在であること、ルプスを連れて空に昇った伝承が残っていること、を手短に話した。

「だから、おそらくですけど、シチフサは天人と空に昇ったルプスの末裔なんじゃないかって」

 ネルガルが補足する。

「あの天人は…信じられないことですが、使っているのは旧アシル語です」

 旧アシル語。大陸にアシルしかなかった時代の、初代が生きていた時代の言葉。今は神殿のルプスが使う祝詞として残されている言語だ。





「彼等の会話が分かるか?」

「ええ」

 ダキアが切り出すと、ルプス神官三人とエガルマハのサピエンス四人が頷く。

「彼らの会話を訳してくれ」



 そして、シチフサの言葉をソリルが、観察者の言葉をナルが訳し、口語で伝え始める。



 《エンキ様から、100年前の話を聞いた。彼は、ティアマト様、その愛禽のアンズーと融合した》



 エンキの名前にソリル、ナラン、ナルの三神官が項垂れる。

「あの子は息を引き取った後、エンキ様と共に奥の院にいたようですね」

 複雑な思いがあるのかもしれない。垣間見たエンキの記憶の中、奥の院でエンキのマナを覗き込む彼らの瞳には、慈愛の色が滲んでいたのをダキアは思いだした。

 制御できない恐ろしい力を持つ故に孤独に晒さねばならない存在。それでも彼らにとっては世界を滅亡の危機から救った、サピエンスとミアキスヒューマンの親愛の象徴だったのだ。







 一方、エンキが消えたことで、広間のあちこちで、人々が目覚め始めた。寝ぼけているわけではないが、皆一様に幸福に満ちた表情を浮かべて余韻に浸っている。

 そんな様子に辺りを見渡して、アシル王アルハラッドとシュクル妃が目を覚ました事に気付いたシェリアルが、ダキアに「報告してきますね」そう耳打ちしてきた。

「ああ」

 頷いて送り出すダキア。



「父様、母様」

 小走りに駆け寄るシェリアル。髪は短くズタズタで、一兵卒の防具を纏った姿に、アシル王アルハラッドとシュクル妃が驚きの声をあげる。

「どうしたんだその格好は」

「シェリアルいったい何が会ったの」

 玉座の傍らに膝をついて、笑顔を浮かべて王夫妻を見上げるシェリアル。

「話すと長くなるの」

 その一言だけで、二人はシェリアルの記憶が戻ったと察したようだ。

「良かった、ああ、シェリアル」

「何があったのか聞かせてくれ」





 事態が片付いた後、城下町の住民、駐屯地の兵士たち市井の話を聞くと、いい夢を見た。懐かしい人と遊んだ。そういった幸せに満ちた時期の思い出を見ていたらしい。

 ラタキアとジウスドラも、ぼんやりと空を見つめて物思いに耽っていたが、そのうち意識がはっきりしてくると、ここは何処だアシル城の広間ではないか行幸はどうした何故こんなことになっていると慌てふためき、周囲を見渡す。

 玉座では、涙を流して喜ぶ王夫妻と、シェリアルがいた。

 そして、少し離れた辺りでは、様相の変わり果てたダキアと見知らぬサピエンスが四人と三人の神官が一塊になって、何かを見守るように一塊になっている。ダキアたちが様子を窺い見つめているのは観察者のようで、ますます何が起こっているのか。

 更にサージャル大帝が帝位を退いて以降、ダキアと袂を分かち、ずっと山の砦に引きこもったままだったウルススのミザル、アルコーがダキアたちを護衛するように背後に付き従っていることに気付いた。



「ミザル?アルコー?お前たちなんでここに」

 ラタキアが声をかけると

「ああ?なんだ」

「文句あんのか」

 とぶっきらぼうに返す。

 それから、ミザル、アルコーの二人はジウスドラの方に向き直ると、「あんときゃ悪かったな」と頭を一つ下げた。

 ウルスス二人の豹変ぶりに、ジウスドラも流石に理解の範疇を越えたようで、「まだ夢を見ているのか?」と何が起きたのか計りかねている。



しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

転移先で日本語を読めるというだけで最強の男に囚われました

桜あずみ
恋愛
異世界に転移して2年。 言葉も話せなかったこの国で、必死に努力して、やっとこの世界に馴染んできた。 しかし、ただ一つ、抜けなかった癖がある。 ──ふとした瞬間に、日本語でメモを取ってしまうこと。 その一行が、彼の目に留まった。 「この文字を書いたのは、あなたですか?」 美しく、完璧で、どこか現実離れした男。 日本語という未知の文字に強い関心を示した彼は、やがて、少しずつ距離を詰めてくる。 最初はただの好奇心だと思っていた。 けれど、気づけば私は彼の手の中にいた。 彼の正体も、本当の目的も知らないまま。すべてを知ったときには、もう逃げられなかった。 毎日19時に更新予定です。

ゴミスキルと追放された【万物鑑定】の俺、実は最強でした。Sランクパーティが崩壊する頃、俺は伝説の仲間と辺境で幸せに暮らしています

黒崎隼人
ファンタジー
Sランク勇者パーティのお荷物扱いされ、「ゴミスキル」と罵られて追放された鑑定士のアッシュ。 失意の彼が覚醒させたのは、森羅万象を見通し未来さえも予知する超チートスキル【万物鑑定】だった! この力を使い、アッシュはエルフの少女や凄腕の鍛冶師、そして伝説の魔獣フェンリル(もふもふ)といった最強の仲間たちを集め、辺境の町を大発展させていく。 一方、彼を追放した勇者たちは、アッシュのサポートを失い、ダンジョンで全滅の危機に瀕していた――。 「今さら戻ってこい? お断りだ。俺はこっちで幸せにやってるから」 底辺から駆け上がる痛快逆転ファンタジー、ここに開幕!

こわいかおの獣人騎士が、仕事大好きトリマーに秒で堕とされた結果

てへぺろ
恋愛
仕事大好きトリマーである黒木優子(クロキ)が召喚されたのは、毛並みの手入れが行き届いていない、犬系獣人たちの国だった。 とりあえず、護衛兼監視役として来たのは、ハスキー系獣人であるルーサー。不機嫌そうににらんでくるものの、ハスキー大好きなクロキにはそんなの関係なかった。 「とりあえずブラッシングさせてくれません?」 毎日、獣人たちのお手入れに精を出しては、ルーサーを(犬的に)愛でる日々。 そのうち、ルーサーはクロキを女性として意識するようになるものの、クロキは彼を犬としかみていなくて……。 ※獣人のケモ度が高い世界での恋愛話ですが、ケモナー向けではないです。ズーフィリア向けでもないです。

落ちこぼれの【無属性】魔術師、実は属性そのものを定義する「概念魔法」の創始者だった

風船色
ファンタジー
「魔法とは才能(血筋)ではなく、記述されるべき論理(ロジック)である」 王立魔導学院で「万年最下位」の烙印を押された少年、アリスティア・レイロード。属性至上主義のこの世界で、火すら出せない彼は「無属性のゴミ」と蔑まれ、ついに卒業試験で不合格となり国外追放を言い渡される。 しかし、彼を嘲笑う者たちは知らなかった。アリスティアが、既存の属性魔法など比較にならないほど高次の真理――世界の現象を数式として捉え、前提条件から書き換える『概念魔法(コンセプト・マジック)』の使い手であることを。 追放の道中、彼は石ころに「硬度:無限」の概念を付与し、デコピン一つで武装集団を粉砕。呪われた最果ての森を「快適な居住空間」へと再定義し、封印されていた銀嶺竜の少女・ルナを助手にして、悠々自適な研究生活をスタートさせる。 一方、彼を捨てた王国は、属性魔法が通用しない未知の兵器を操る帝国の侵攻に直面していた。「助けてくれ」と膝をつくかつての同級生や国王たちに対し、アリスティアは冷淡に告げる。 「君たちの誇りは、僕の昼寝より価値があるのか?」 これは、感情に流されない徹底した合理主義者が、己の知的好奇心のために世界の理を再構築していく、痛快な魔導ファンタジー。

娘を返せ〜誘拐された娘を取り返すため、父は異世界に渡る

ほりとくち
ファンタジー
突然現れた魔法陣が、あの日娘を連れ去った。 異世界に誘拐されてしまったらしい娘を取り戻すため、父は自ら異世界へ渡ることを決意する。 一体誰が、何の目的で娘を連れ去ったのか。 娘とともに再び日本へ戻ることはできるのか。 そもそも父は、異世界へ足を運ぶことができるのか。 異世界召喚の秘密を知る謎多き少年。 娘を失ったショックで、精神が幼児化してしまった妻。 そして父にまったく懐かず、娘と母にだけ甘えるペットの黒猫。 3人と1匹の冒険が、今始まる。 ※小説家になろうでも投稿しています ※フォロー・感想・いいね等頂けると歓喜します!  よろしくお願いします!

異世界転生~チート魔法でスローライフ

玲央
ファンタジー
【あらすじ⠀】都会で産まれ育ち、学生時代を過ごし 社会人になって早20年。 43歳になった主人公。趣味はアニメや漫画、スポーツ等 多岐に渡る。 その中でも最近嵌ってるのは「ソロキャンプ」 大型連休を利用して、 穴場スポットへやってきた! テントを建て、BBQコンロに テーブル等用意して……。 近くの川まで散歩しに来たら、 何やら動物か?の気配が…… 木の影からこっそり覗くとそこには…… キラキラと光注ぐように発光した 「え!オオカミ!」 3メートルはありそうな巨大なオオカミが!! 急いでテントまで戻ってくると 「え!ここどこだ??」 都会の生活に疲れた主人公が、 異世界へ転生して 冒険者になって 魔物を倒したり、現代知識で商売したり…… 。 恋愛は多分ありません。 基本スローライフを目指してます(笑) ※挿絵有りますが、自作です。 無断転載はしてません。 イラストは、あくまで私のイメージです ※当初恋愛無しで進めようと書いていましたが 少し趣向を変えて、 若干ですが恋愛有りになります。 ※カクヨム、なろうでも公開しています

神々の愛し子って何したらいいの?とりあえずのんびり過ごします

夜明シスカ
ファンタジー
アリュールという世界の中にある一国。 アール国で国の端っこの海に面した田舎領地に神々の寵愛を受けし者として生を受けた子。 いわゆる"神々の愛し子"というもの。 神々の寵愛を受けているというからには、大事にしましょうね。 そういうことだ。 そう、大事にしていれば国も繁栄するだけ。 簡単でしょう? えぇ、なんなら周りも巻き込んでみーんな幸せになりませんか?? −−−−−− 新連載始まりました。 私としては初の挑戦になる内容のため、至らぬところもあると思いますが、温めで見守って下さいませ。 会話の「」前に人物の名称入れてみることにしました。 余計読みにくいかなぁ?と思いつつ。 会話がわからない!となるよりは・・ 試みですね。 誤字・脱字・文章修正 随時行います。 短編タグが長編に変更になることがございます。 *タイトルの「神々の寵愛者」→「神々の愛し子」に変更しました。

『辺境伯一家の領地繁栄記』スキル育成記~最強双子、成長中~

鈴白理人
ファンタジー
ラザナキア王国の国民は【スキルツリー】という女神の加護を持つ。 そんな国の北に住むアクアオッジ辺境伯一家も例外ではなく、父は【掴みスキル】母は【育成スキル】の持ち主。 母のスキルのせいか、一家の子供たちは生まれたころから、派生スキルがポコポコ枝分かれし、スキルレベルもぐんぐん上がっていった。 双子で生まれた末っ子、兄のウィルフレッドの【精霊スキル】、妹のメリルの【魔法スキル】も例外なくレベルアップし、十五歳となった今、学園入学の秒読み段階を迎えていた── 前作→『辺境伯一家の領地繁栄記』序章:【動物スキル?】を持った辺境伯長男の場合

処理中です...