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Scene.3 - 梅雨の虚構
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しおりを挟む完全に降りた緞帳を舞台袖から見つめる。ただ拍手だけが響いていて、それだけで終わったのだと実感する。
「行くよ」
部長に付いて行き、降ろされた緞帳前に一列に並ぶ。全員が並び終えると、息を合わせたかのように拍手の音が小さくなり、やがて止む。
「本日はご来場いただき、ありがとうございました!」
部長がマイクを使い簡単に挨拶をしたあと、マイクの電源を落とし声を届ける。それに続いてみんなで「ありがとうございました」と言い、深く頭を下げると再び拍手が響き出す。
舞台裏に戻ると終演のアナウンスが流れ始めた。音だけで人が動いているのが認識できる。
いつの間にか緊張なんて感じなくなり、気がつけば終わっていた。ただ、今はほっとしたの一言だ。
お客さんを見送ったあと会場の片付けを始めれば、解散時間は十八時になっていた。
降り止む気配のない雨空を見上げ、少しでも落ち着くのを待つ。親が迎えに来た他の部員たちは既に帰っており、残っているのは私と高瀬先輩だけだ。「送ろうか?」と気にかける声を断ったものの、これほどまでに弱まらないのならばその言葉に甘えるべきだっただろうか。
雨音がうるさい空間で、スマホの通知が鳴る音が何度か聞こえてくる。高瀬先輩の方を見れば、彼はその通知を確認するだけでまたポケットに戻してしまう。
「芽依は、雨好き?」
ゆっくりと過ぎていく時間の中、高瀬先輩に問われる。
「……雨は嫌いじゃないです。前に進めない理由にちょうどいいですから。太陽は眩しすぎて、影ばかりが目立ってしまうんです」
「そっか。俺は……嫌いかな。ほら、今だって、止むことを期待しちゃうでしょ?」
言葉とは裏腹に、その顔は笑っていた。
「それに、雨は自分をもっと隠してしまう気がするんだ」
隣に立つ高瀬先輩は、どこか遠くを見つめている。雨音に溶けるように呟かれた彼の言葉。はっきりと聞こえたのに、聞こえなかったふりをしなければならない気がした。
結局雨が弱まることはなく、傘を差しても濡れる雨の中駅まで歩いた。時刻はもうすぐ十九時になる。改札を抜ける前、また少しだけ話をしていると、反対側から駆け寄ってきた足音に目を向ける。
「しゅん! こんな時間まで何してるの!」
雫の滴る傘を持ちながら乱れた様子の高瀬先輩のお母さんは、彼に縋るように強く腕を握っている。その異様な姿に、何事かとこちら盗み見る人もいるくらいだ。
「お母さん、落ち着いて」
高瀬先輩はそんな姿に動揺することもなく、慣れた様子でお母さんの背中をさすっている。それでもお母さんは落ち着く様子がない
「あなたはもっと受験勉強に集中しなさい! 亡くなった千隼だって、しゅんがこんな風にしてたら心配するでしょう」
その言葉に高瀬先輩が固まる。私もこの状況に理解が追いつかず、時間が止まったような感覚だった。
お母さんを支えて去っていく高瀬先輩の背中を見送ってから改札を抜ける。いつもは振り返れば手を振る姿が、今日はない。先ほどよりも激しくなった雨音が、胸の奥のざわめきを洗い流すように鳴っていた。
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