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Office06・ピアス
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昨日は、あまり快眠できなかった。
一番の原因は、真吾君だと思う。三輪さんのことだけじゃなくて、真吾君の事でも悩みが増えたんだ。弱みを握られ、脅迫されてるんだもん。もう、キャパオーバーだよ。
眠れないから早く起きて、支度も整え、昨日、三輪さんにプレゼントしてもらったピアスを、耳に付けた。
お気に入りのパールのピアスを外して、ブルームーンストーンのピアスに取り換える。
何故か緊張で手が震えて、上手くピアスを付けられなかった。
苦戦して両方にピアスを付けると、自分で言うのもなんだけど、良く似合っていた。
小さくて可愛い宝石が、耳元でその存在を誇張するように、キラリと光っているから、パールのピアスよりも、ずっと大人っぽく見えた。
今日もまたデートに行くし、いいよね。着けていっても。もしかしたら三輪さん、喜んでくれるかもしれないし。
でも、喜んでもらって、どうするのよ、和歌子。
親密度上げて、どうしたいのよ。
三輪さんは、もう、桃香さんっていう奥様がいるのに。
桃香さんを裏切れないって思っているクセに、三輪さんの一挙一動に振り回されて、ときめいて、何しているのよ、私。
自分が最低な事しているの、ちゃんと理解しているの――?
もし、逆の立場だったら、と考えてみた。
部下の女が自分の夫に近づいてきて、親密な雰囲気を出して、デートなんかして・・・・身体の関係はなくても、立派な浮気のような気がしてきた。夫と部下の女が二人きりで、夜、自分に黙って食事に行くだけで、とても嫌な気持ちになる。想像でこれだけ嫌な気分になるんだ。実際、桃香さんが知ったら、どんな気分になるだろう。
今、自分のやっている行為は、桃香さんにとって、犯罪に値すると思う。
本当に申し訳ない。
でも、いつまでも諦められない気持ちに、どうしてもピリオドを打ちたい。
絶対に間違いは起こしません。だから、あと少しだけ、どんな結果になるか、この目で見届けさせて下さい――
私は、ひたすら桃香さんへの謝罪の言葉を胸に、オフィスへ向かった。
ブルームーンのピアスが私の罪の証なのだと思うと、耳が痛んだ。でも、外すとその痛みを忘れてしまいそうだったから、私はこのまま付けておくことにした。
限定の一週間が終わったら、自分の気持ちと一緒に、このピアスは外して、ずっとずっと心の奥底に大切にしまってしまおう――そんな風に思った。
そうだ。今日は、取引先に商品を納品しなくちゃいけないんだった。
最近コンビを組むことが多いから、どうせまた真吾君と一緒だろーなぁ。はあぁ。車に二人きりとか、嫌だなぁ。何されるかわかんないもん。
誰か一緒についてきてくれないかな。
早めに出社したから、私の課はまだ誰も来ていなかった。納品する商品の準備の前に珈琲でも飲もうと思って、給湯室に向かった。給湯室は、エレベーターホールを過ぎたところにある。
そこへ向かう途中のエレベーターホールに差し掛かったところで、チーン、とエレベーターが到着する音がして、中から下りて来た三輪さんと会った。
「あ、お、おはようございますっ!」
まさか今、三輪さんに会えるとは思っていなかった。心の準備してなかったから、声、うわずっちゃったよ。恥ずかしいなぁ。
「あ、おはよう。今日は出社、早いな」
三輪さんが会釈してくれた。朝から三輪さんに会えるなんて、テンション上がるわ。
ホールを移動して私とすれ違う時、耳元で囁かれた。「和香ちゃん、昨日はありがとう。早速使ってくれてるんだね。ピアス、よく似合っているよ」
慌てて顔を上げると、三輪さんと目が合った。彼は優しく微笑むと、そのまま私の課の方へ歩いて行った。
一番の原因は、真吾君だと思う。三輪さんのことだけじゃなくて、真吾君の事でも悩みが増えたんだ。弱みを握られ、脅迫されてるんだもん。もう、キャパオーバーだよ。
眠れないから早く起きて、支度も整え、昨日、三輪さんにプレゼントしてもらったピアスを、耳に付けた。
お気に入りのパールのピアスを外して、ブルームーンストーンのピアスに取り換える。
何故か緊張で手が震えて、上手くピアスを付けられなかった。
苦戦して両方にピアスを付けると、自分で言うのもなんだけど、良く似合っていた。
小さくて可愛い宝石が、耳元でその存在を誇張するように、キラリと光っているから、パールのピアスよりも、ずっと大人っぽく見えた。
今日もまたデートに行くし、いいよね。着けていっても。もしかしたら三輪さん、喜んでくれるかもしれないし。
でも、喜んでもらって、どうするのよ、和歌子。
親密度上げて、どうしたいのよ。
三輪さんは、もう、桃香さんっていう奥様がいるのに。
桃香さんを裏切れないって思っているクセに、三輪さんの一挙一動に振り回されて、ときめいて、何しているのよ、私。
自分が最低な事しているの、ちゃんと理解しているの――?
もし、逆の立場だったら、と考えてみた。
部下の女が自分の夫に近づいてきて、親密な雰囲気を出して、デートなんかして・・・・身体の関係はなくても、立派な浮気のような気がしてきた。夫と部下の女が二人きりで、夜、自分に黙って食事に行くだけで、とても嫌な気持ちになる。想像でこれだけ嫌な気分になるんだ。実際、桃香さんが知ったら、どんな気分になるだろう。
今、自分のやっている行為は、桃香さんにとって、犯罪に値すると思う。
本当に申し訳ない。
でも、いつまでも諦められない気持ちに、どうしてもピリオドを打ちたい。
絶対に間違いは起こしません。だから、あと少しだけ、どんな結果になるか、この目で見届けさせて下さい――
私は、ひたすら桃香さんへの謝罪の言葉を胸に、オフィスへ向かった。
ブルームーンのピアスが私の罪の証なのだと思うと、耳が痛んだ。でも、外すとその痛みを忘れてしまいそうだったから、私はこのまま付けておくことにした。
限定の一週間が終わったら、自分の気持ちと一緒に、このピアスは外して、ずっとずっと心の奥底に大切にしまってしまおう――そんな風に思った。
そうだ。今日は、取引先に商品を納品しなくちゃいけないんだった。
最近コンビを組むことが多いから、どうせまた真吾君と一緒だろーなぁ。はあぁ。車に二人きりとか、嫌だなぁ。何されるかわかんないもん。
誰か一緒についてきてくれないかな。
早めに出社したから、私の課はまだ誰も来ていなかった。納品する商品の準備の前に珈琲でも飲もうと思って、給湯室に向かった。給湯室は、エレベーターホールを過ぎたところにある。
そこへ向かう途中のエレベーターホールに差し掛かったところで、チーン、とエレベーターが到着する音がして、中から下りて来た三輪さんと会った。
「あ、お、おはようございますっ!」
まさか今、三輪さんに会えるとは思っていなかった。心の準備してなかったから、声、うわずっちゃったよ。恥ずかしいなぁ。
「あ、おはよう。今日は出社、早いな」
三輪さんが会釈してくれた。朝から三輪さんに会えるなんて、テンション上がるわ。
ホールを移動して私とすれ違う時、耳元で囁かれた。「和香ちゃん、昨日はありがとう。早速使ってくれてるんだね。ピアス、よく似合っているよ」
慌てて顔を上げると、三輪さんと目が合った。彼は優しく微笑むと、そのまま私の課の方へ歩いて行った。
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