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第2章
第1話
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結局、第二王子ルダードは見つからなかった。
三番目の側妃の姿も見当たらなかったから、共に逃げたものとみられていた。
ルダードがジュリエンヌだけに声をかけていたとは思えない。
三番目の側妃もまたロクサーヌには勝てず、正妃になれるわけではなく鬱屈としており、ルダードにつくことを選んだのだろう。
火事が起こる前にルダード一派にあやしい動きがあったこともわかり、追手がかけられている。
残っていた側妃たちも、「もう頑張れません」と王宮を去って行った。
家のため、国のため、どんな理由をつけても留まることはもうできなかったのだろう。
ロクサーヌにいいように使われ、ストレスのはけ口にされ、次々に消える側妃を見送る中でこの火事に遭えば、いろいろなものが限界に達したのだろうと想像することは難くない。
残ったロクサーヌはジュリエンヌが近づくのも気づかぬ様子で、茫然自失といったように燃え落ちる王宮を眺めていた。
「まさか、こんなことまでするなんて……。ジュリエンヌを殺すだけだって言っていたのに。協力していたことがバレたら、私は」
「打ち首ね」
「ひっ!! いつの間にそこに!?」
「『まさか、こんなことまでするなんて……。ジュリエンヌを殺すだけだって』」
「繰り返さなくていいわ!! わかった、何でもするから見逃して!」
「見逃す……。見逃す、ねえ」
「ひいいいごめんなさいごめんなさい! でもあなた死ななかったじゃない! 殺そうとしたって全然死なないじゃない! だから怒ることなんてないでしょ? ね?」
「愚かね。私の王宮をこんなことにしておいて何をおっしゃるのかしら」
「あなたの王宮じゃないでしょ?!」
「あなたの王宮でもないでしょう。ひとの物をこんなふうにしてはいけないって教わらなかったのかしら。この国の道徳教育はざるね」
「あんたに……言われたくない……っ。だけど! 私はこの火事については何もしてはいないわ」
「ロクサーヌ様がルダード殿下と繋がっていた証拠はあがっておりましてよ」
「火事だけは違う!」
「だ、そうですよ、ダズバーン殿下」
そう声をかければ、背後の暗がりからぬっと人影が現れた。
「ひっ……! 殿下、いつからそこに……」
「『まさか、こんなことまでするなんて……。ジュリエンヌを殺すだけだって』」
「殿下。声真似をしても似ておりませんし気色が悪いです」
表情を崩しもしないジュリエンヌの指摘に、ダズバーンはキリッとした顔を向けた。
「練習しておこう」
「何の役に立ちますか?」
「ちょっと笑っただろう?」
「いいえ。口の端を微塵も動かしておりませんでしたが?」
「笑っただろう?」
「……。そういうわけで殿下。ロクサーヌ様は殿下と私に変わらぬ忠誠を誓い、これから何でも役に立つ覚悟を決めていらっしゃるそうですわ」
その言葉にロクサーヌは目を剥いたが、くっと唇を噛みしめたまま、訂正しようとはしなかった。
その顔にジュリエンヌは満足そうにほくそ笑む。
「他愛もないこと。ぶんぶんと羽音がうるさいわりに小さな小さな小虫でしたわね」
「小さいを三個! あああ!! 右目が!! イライラするとまつ毛が右目に刺さった時の痛みがぶり返す!!」
「後で仕事をさしあげますから、それまで大人しくしていらっしゃい」
「右目が疼く!!」
顔を抑え足を踏み鳴らすロクサーヌにくるりと背を向けると、ぽつりと声が返った。
「どうせ正妃にはなれないくせに」
ジュリエンヌは振り返らなかった。
「正妃様はもうこの王宮にはいないわ」
どう受け取ったのか、ロクサーヌはすたすたと歩き去るジュリエンヌにそれ以上声をかけなかった。
三番目の側妃の姿も見当たらなかったから、共に逃げたものとみられていた。
ルダードがジュリエンヌだけに声をかけていたとは思えない。
三番目の側妃もまたロクサーヌには勝てず、正妃になれるわけではなく鬱屈としており、ルダードにつくことを選んだのだろう。
火事が起こる前にルダード一派にあやしい動きがあったこともわかり、追手がかけられている。
残っていた側妃たちも、「もう頑張れません」と王宮を去って行った。
家のため、国のため、どんな理由をつけても留まることはもうできなかったのだろう。
ロクサーヌにいいように使われ、ストレスのはけ口にされ、次々に消える側妃を見送る中でこの火事に遭えば、いろいろなものが限界に達したのだろうと想像することは難くない。
残ったロクサーヌはジュリエンヌが近づくのも気づかぬ様子で、茫然自失といったように燃え落ちる王宮を眺めていた。
「まさか、こんなことまでするなんて……。ジュリエンヌを殺すだけだって言っていたのに。協力していたことがバレたら、私は」
「打ち首ね」
「ひっ!! いつの間にそこに!?」
「『まさか、こんなことまでするなんて……。ジュリエンヌを殺すだけだって』」
「繰り返さなくていいわ!! わかった、何でもするから見逃して!」
「見逃す……。見逃す、ねえ」
「ひいいいごめんなさいごめんなさい! でもあなた死ななかったじゃない! 殺そうとしたって全然死なないじゃない! だから怒ることなんてないでしょ? ね?」
「愚かね。私の王宮をこんなことにしておいて何をおっしゃるのかしら」
「あなたの王宮じゃないでしょ?!」
「あなたの王宮でもないでしょう。ひとの物をこんなふうにしてはいけないって教わらなかったのかしら。この国の道徳教育はざるね」
「あんたに……言われたくない……っ。だけど! 私はこの火事については何もしてはいないわ」
「ロクサーヌ様がルダード殿下と繋がっていた証拠はあがっておりましてよ」
「火事だけは違う!」
「だ、そうですよ、ダズバーン殿下」
そう声をかければ、背後の暗がりからぬっと人影が現れた。
「ひっ……! 殿下、いつからそこに……」
「『まさか、こんなことまでするなんて……。ジュリエンヌを殺すだけだって』」
「殿下。声真似をしても似ておりませんし気色が悪いです」
表情を崩しもしないジュリエンヌの指摘に、ダズバーンはキリッとした顔を向けた。
「練習しておこう」
「何の役に立ちますか?」
「ちょっと笑っただろう?」
「いいえ。口の端を微塵も動かしておりませんでしたが?」
「笑っただろう?」
「……。そういうわけで殿下。ロクサーヌ様は殿下と私に変わらぬ忠誠を誓い、これから何でも役に立つ覚悟を決めていらっしゃるそうですわ」
その言葉にロクサーヌは目を剥いたが、くっと唇を噛みしめたまま、訂正しようとはしなかった。
その顔にジュリエンヌは満足そうにほくそ笑む。
「他愛もないこと。ぶんぶんと羽音がうるさいわりに小さな小さな小虫でしたわね」
「小さいを三個! あああ!! 右目が!! イライラするとまつ毛が右目に刺さった時の痛みがぶり返す!!」
「後で仕事をさしあげますから、それまで大人しくしていらっしゃい」
「右目が疼く!!」
顔を抑え足を踏み鳴らすロクサーヌにくるりと背を向けると、ぽつりと声が返った。
「どうせ正妃にはなれないくせに」
ジュリエンヌは振り返らなかった。
「正妃様はもうこの王宮にはいないわ」
どう受け取ったのか、ロクサーヌはすたすたと歩き去るジュリエンヌにそれ以上声をかけなかった。
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